インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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75話

継実により謎の男の襲撃から助けられた鈴、セシリア、シャルロットは彼女に連れられて四季家の屋敷まで戻ってきた。

屋敷には既に翔介たちが待機しており、他にも弾や源之助など町の住人たちが集まっている。

三人が戻ってきたのを見つけると翔介たちが駆け寄る。

 

「三人とも大丈夫だった!?」

 

「う、うん。継実さんに助けられたから」

 

翔介たちの話を聞けば彼らもまた盆童の最中に継実により集められたのだ。

詳しい話は聞いていなかったが何か危険なことが起きていることは従姉の様子から理解することができた。

 

「全員集まったね」

 

そうしていると屋敷の中から統子が現れる。その隣には長歌も随伴している。

町の住人や翔介たちも注目する。

 

「継実、もう一度説明してくれるかい」

 

「うむ」

 

継実は首肯すると改めて今回の事件の詳細を語り始める。

そして先程、一戦交えたことも付け加える。

 

「墓石を壊すなど…」

 

「何と罰当たりな」

 

住人たちの顔色が曇る。

名も知れぬ人物の眠る墓ではあるが町全体で見守ってきた墓だ。それを足蹴にされて良い顔などできる訳もないだろう。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。何、それじゃあさっきあたしたちを襲ったのは幽霊だっていう訳?」

 

しかし継実の説明を受けて鈴が割って入ってくる。

 

「うむ、そうなるだろうな」

 

「ほ、本気? いくら何でも幽霊なんて…」

 

非科学的と言いたいのだろう。

だが。

 

「ではお前の鎧に刀で傷をつけることなんて可能なのか? それにお前の一撃を受けて無傷で立ち上がることも」

 

「うっ…」

 

日本刀は世界的に見ても屈指の強度を誇る刀剣だ。しかし、それはISを傷つける程の強度は持ちえない。

それに手加減をしたとはいえ甲龍の拳で殴り飛ばされたにもかかわらず立ち上がり再度自分たちに襲い掛かってきた。鍛えたとしても生身でISの攻撃を受けて平然としていられる人間などいない。

 

そう、普通の人間ならば。

 

「それに対峙してわかった。奴からは生者の気が感じられなかった」

 

継実は刀を受け止めた拳を見つめながらそう告げる。

恐らくは彼女ほどの熟達した武芸者だからこそわかるものがあるのだろう。

そして、今度は長歌が口を開く。

 

「依然として相手の目的や行方が分からない以上、皆さんには警戒をお願いします。けして一人にはならず複数名で行動。もし見かけたならば四季家へご報告ください」

 

「今は手の打ちようがない以上、警戒だけでもしなければならない。間違っても手を出そうなどとは思わないことだ」

 

統子がいいね?と住人たちを見まわして付け加える。

この町の代表者である彼女の言葉に首を横に振る者はいなかった。

それを見届けると統子は解散を命じ、住人たちもそれぞれに自宅へと戻っていく。

 

「なんだか大変なことになってきたわね」

 

「はい…」

 

「翔介」

 

声をかけられた方に振り向くと長歌が呼んでいる。その近くには統子、継実、弾、源之助と街の主要人物たちが集まっている。

 

「どうしたの、長姉さん」

 

 

 

「あなた達はすぐに荷物をまとめなさい」

 

 

 

長歌の言葉に耳を疑う翔介。

 

「え、ど、どういうこと?」

 

「そのままの意味です。すぐに学園に帰る準備をしなさい。今日は電車がないからこれから継実と弾さんに頼んで街の方まで送ってもらいます」

 

「学園に戻るってどうして!?」

 

長歌に詰め寄る翔介。すると横から継実が続ける。

 

「刀を持った危険人物がいる。今回は退いたとはいえ今やこの町全体が危険区域だ。そんなところに子供を置いておくわけにはいかんじゃろ」

 

それに鈴、セシリア、シャルロットの三名は実際に襲われている。それを鑑みてもこの町に滞在を続けるのは得策ではないと判断したのだ。

 

「わかったらすぐに荷物を…」

 

 

 

 

「嫌だ…」

 

 

 

 

「何…?」

 

統子の目がスッと細まる。

 

「嫌だ。この町が危ないのに学園に戻るなんて…絶対にやだ!」

 

町の大人たちを前にして翔介が言い放つ。

その肩は細かく震えている。

 

「もう一度だけ言う。すぐに帰る準備をして学園に戻りな」

 

「い、嫌だ」

 

再度統子が告げるも、それに抗う翔介。

 

「翔介、今の状況が分からない訳ではないですよね?」

 

険悪な空気が流れ始める中、長歌が問い質す。

 

「わかってるよ、今はこの町が危ないってことは。だから帰りたくないだ」

 

「だがお前が残って何ができる? これは遊びではないんだぞ」

 

「何かできるかもしれない! 小さい事しかできないかもしれないけどそれでも何かしたい。この町は僕を育ててくれた場所なんだ。その町が危ないっていうのに何もしないなんて絶対に嫌だ!」

 

正直な話、この場にいる街の住人たちは驚いていた。

彼らの知る道野翔介は穏やかではあるが気弱で大人しい少年だったはずだった。いつだって従姉や大人たちに着いて歩き回っていた。

それがこの町から離れて数か月。いつの間にかここまで自分を強く出せるほどまでに成長していた。

 

「…統子さん」

 

するとそれまで腕を組んで黙っていた弾が口を開く。

 

「任せてみても良いんじゃないかい?」

 

「なっ、弾さん!?」

 

「弾、理由は?」

 

統子が弾に問い掛ける。

 

「翔介は私たちが思いもしないほど大きくなっている。確かに子どもたちをこのまま残すのは危険があるかもしれないが、この子の想いを汲んであげてもいいはずだ」

 

「ですが…」

 

「翔介」

 

今度は源之助が翔介に問い掛ける。

 

「今がその時か?」

 

「…はい」

 

誰かが立たねばならぬ時、誰かが行かねばならぬ時、それはきっと自分のはず。

源之助の教えを今こそ守る時なのだ。

 

「それならば俺から言うことは何もない」

 

二人の大人からの援護。

全員の視線が統子に注がれる。後は長である統子の判断にすべてがかかっている。

 

「…一つ条件だ」

 

統子が静かに語る。

 

「自分の命を投げることだけはしないことだ」

 

「…はい!」

 

「話は以上だよ」

 

そう言って統子は席を立ち、屋敷の奥へ戻っていく。

そして誰が漏らしたかため息と一緒に場の空気が一気に弛緩していく。

それだけ統子の迫力が凄かったというべきか。

 

「はあ…まさかあの翔介がここまで言うようになるとはのぅ」

 

継実がやれやれと言った様子で苦笑する。

先程は否定したものの実を言えば従弟が逃げることなく立ち向かうことを選んだことが嬉しかった。

 

「それでも。危険なことは変わらんぞ?」

 

「お、男に二言なし…!」

 

若干震え気味な声だがその眼に闘志は消えていない。

これは良い傾向ととってもいいだろうか。

 

「それじゃあ皆は…」

 

 

 

『当然残る』

 

 

 

「ええ…」

 

即答で残留を決意され困惑する翔介。

 

「やっぱり帰れって言うと思ったぜ」

 

「で、でも今回は本当に…」

 

「今まで危険じゃない事なんてなかったでしょ。それにあたしたちならいざってときにはISがあるし身を守るくらいできるわ」

 

「今日まで世話になったのだからな。何といったか…そう、イッシュクイッパンというやつだ」

 

「それに翔介君。あなた、今ISを持ってきてないでしょう? 私たちがいたほうが安全じゃない?」

 

うっと詰まる翔介。

現在、翔介の打鉄は修理中。それに一夏たちと違い携帯していないため、安全面からすれば友人たちと一緒にいる方が何倍も安全なのだ。

 

それでも相手はそのISすらも切り裂いたという。必ずしも安全とは限らない。

 

「翔介、言ったろ。俺たちを頼ってくれって。俺たちはいつでも力になるからさ」

 

一夏の言葉に全員が頷く。

 

「皆…」

 

そうしていると翔介の肩を弾が叩く。

 

「良い仲間を持ったな、翔介」

 

「…はい」

 

「よし、こうなったら早速作戦会議といきましょうか」

 

楯無の号令で一同が円になり作戦会議を始める。

その姿を大人たちは見守っていた。

 

 

 

「そもそもその幽霊って何が目的なんだろう?」

 

「そういえばわたくしたちの前に現れた時、何かを探しているようにも見えましたわ」

 

「そうなるとその『何か』を探ることが鍵になりそうね」

 

「でもどうやって?」

 

「悩んでても仕方ないだろ。まずは行動しようぜ」

 

「まずはどこから調べる?」

 

「こう言うものはゲンバヒャッカイというやつだ」

 

「それならその壊されたっていうお墓と鈴ちゃんたちが襲われたっていう場所の二つを調べてみましょうか」

 

楯無の提案に全員が頷く。

これで方針は決まった。

相手の招待も目的も不明。だけどきっとこの仲間たちと一緒なら何とかなる。

翔介の心の中には不思議な安心感に包まれていた。

 

 




本日はここまで。

謎の侍幽霊の正体と目的を探るために動き出した主人公たち。

果たして侍の正体は、そしてその目的は?
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