長いようで短い夏休みが終わった。
夏休みボケも許さず、また座学と実技の慌ただしい日々が始まった。
翔介もまた夏休み明けのバタバタな日々を過ごしていた。
所は楯無特製の懺悔室…もとい相談室。
「あ、そろそろ時間かな?」
「え、もうそんな時間? じゃあ、ありがとうね、お母さん!」
「ははは…」
一学期にラウラの相談を受けて以降この相談室は口コミでどんどんと相談者が増えていた。
生徒の愚痴を何も言わず聞いたり、相談に一緒に悩んでとその親身さからいつの間にやら『IS学園の母』と呼ばれるようになっていた。
中身は男なのだが。
しかし、相談時はボイスチェンジャーで女性の声に変えているため中身を知らなければそう呼ばれるのも無理からぬ話ではある。
IS学園の母の正体を知っているのも生徒会メンバーとラウラくらいだ。
夏休み中は翔介の都合もありしばらく休みとしていたが、その間も相談事は増えていたようで夏休み明けからも相談室には引っ切り無しに生徒たちがやってきている。
翔介は次の相談客が来るまで小部屋に積まれた女性向けの雑誌を手に取る。
これも全て楯無から押し付け…もとい支給されたものだ。
このIS学園はいわゆる女の園。当然ながら相談者は女子ばかりだ。
そして当然ながら翔介に最近の女性のトレンドなど分かるわけもなく、その為に少しでも知識を付けるべきと渡されたものだった。
お陰様で今年話題のコスメやらなにやらの知識が付いた。
相談には役立っているが、実生活ではまず役に立つ気はしないのだが。
そうしていると相談室の戸を叩く音が聞こえる。どうやら次の相談者が来たようだ。
果たして次の相談はどんなものだろうか。
余談ではあるが先程の相談は『ところてん、黒蜜と酢醤油どちらが至上か』と言うものだった。
最終的にはその時の気分次第、と無難な答えになった。
「はい、どうぞ。今日はどうしました?」
翔介はボイスチェンジャー越しに問い掛ける。
「えっと、織斑君についてなんですけど」
「織斑君ですか?」
「はい、実は…」
相談者の少女が話し始める。
この時、この相談がちょっとした騒動の原因になるとは思いもしなかった。
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それから数十分後。
翔介は本日の全ての相談を終えて、生徒会室に戻ってきていた。
「ただいま戻りました」
「お疲れ様、翔介君」
「お疲れ様です、道野君」
出迎えてくれたのは楯無と虚の二人だった。
二人とも手元に大量の資料に目を通しては判を押したりと忙しない様子だ。
「すぐに手伝いますね」
「良いのよ。丁度休憩しようと思ってたところだから」
「今、お茶を淹れますね」
資料に手を伸ばそうとする翔介を制止する楯無。虚が翔介にお茶の入った湯飲みを差し出してくる。
「凄い量ですね」
翔介はお茶をすすりながら机に積まれた資料を眺める。
「もうすぐ文化祭だからね。色々と準備が必要なのよ」
「文化祭…ってどんなことするんですか?」
「あら、もしかして文化祭も初めてだったりするのかしら?」
恥ずかしながら翔介は文化祭も未経験であった。
「文化祭は各クラスや部活で展示や出店など行います。他にも外部からゲストなどをお呼びしたりします。当日は父兄なども参観に来られます」
「他にも企業の人間が来て今のうちに将来有望そうな生徒に声掛けに来たりとかもあるわよ」
「へぇ」
「翔介君、あなたも声かけられるかもしれないから気を付けなさい」
「え、僕もですか?」
まさか自分も対象になっているとは思わず問い返す。
「ええ、あなたはこの世で二人しかいないISの男性操縦者。どこの企業も喉から手が出るほど欲しい人材よ」
「でも僕はそんなに強くないですよ?」
現に翔介自身の戦績はそれほど良くない。これまでの戦いも友人たちと共に力を合わせて乗り越えてきたものだ。
そういった意味では翔介は同期の中でも目立つ存在とは言えない。
ウルトラマンの力という特別な力を持ってはいるが千冬より対人戦での使用は禁止されている。そもそも翔介自身、あの力を試合とは言え人間相手に使うことを避けたいという想いがあった。
「強い弱いというよりは希少性ね。たった二人の男性操縦者が自分たちの手元にいるというだけでも世間からの注目度は違うでしょうからね」
「う~ん…」
正直、そんなに嬉しくない。
結局のところ客寄せパンダのようなものである。元々目立つことは好まないという事もあるがそれでもあまり気分のいいものではない。
「まあ、この学生でいる間は気にすることはないわ。卒業しても必ず企業に所属しなきゃいけない訳でもないわ。あなたも一夏君もね」
翔介の心を見抜いたかのように楯無が付け加える。
大概の専用機持ちはどこかしかの企業や軍へ所属している。それでもその人の人生はその人が決めるもの。
定められた道の上を進む楯無だからこそ、心の底からそう思うのだろう。
「はい…あ、そういえばその織斑君の事なんですけど」
「ん? 一夏君? また女の子絡み?」
「えっと、まあ、中らずとも遠からずというか…」
一夏絡みで真っ先に出てくるのが女性関係というのがなんとも言えないが。
翔介はつい先程の相談室での出来事を話す。
「一夏君の部活所属?」
「はい、なんでも織斑君をどこの部活にも入ってないことが女子たちの中でちょっと問題になっているようで」
IS学園は基本的にどこかの部活に所属する必要がある。ISが特色であるこの学園だが
それとは別に部活動の参加にも積極的である。ISに関すること以外にも目を向け、将来に役立てるためにというのが目的らしい。
「そういえば一夏君はどこにも所属していなかったのね」
「どこにも所属しないなら自分の部活にって部活間で取り合いになってるらしくて」
「その状況をどうにかしてほしいという訳ですね」
最後にまとめる虚に首肯する翔介。
「なるほどねぇ、実を言うとそれと似たような要望も結構来てるのよね。一学期の間は無所属で通したけど流石にこのままという訳にはいかないわね」
「解決法はやっぱりどこかの部活に入ることでしょうか?」
単純ではあるがそれが一番の解決方法だろう。
「そうね、でもだから今すぐどこかに入ってっていうのもねぇ」
楯無がぐるりとリクライニングチェアをぐるぐると回転させる。
確かに一夏がどこかに入部すれば話は終わるがどうしたいのかは彼の意思も大事だ。それにIS学園の部活動は当然ながら女子ばかりである。文化部ならともかく運動部であれば入部しても活躍の機会はまずないだろう。
かといって文化部に所属するかと言うと一夏の性質上それもなさそうである。
そもそも一夏は姉である千冬の代わりに家事全般を行っていたため部活に入部する機会もなかったそうな。
どうしたものかとくるくる回っている楯無。
すると突然ピタリと動きを止める。
「ふっふっふ…我、天啓を得たり…」
そう呟きながらニヨニヨと笑みを浮かべている。
「あ、悪いこと考えてる」
「お嬢様、良からぬことをお考えですね」
「良からぬことって何よ、失敬な」
二人からの冷ややかな視線に唇を尖らせる。
「まあまあ、二人とも。ここは私に任せなさい。誰もが平等かつ後腐れのない秘策よ」
そして虚と翔介の二人を手招きする。
二人は訝し気な表情を浮かべながら楯無の言葉に耳を貸す。
「……え~…お師匠さま、それは……」
「お嬢様…」
楯無の言う秘策に微妙な表情を浮かべる二人。
「あら、別に何もやましいことはしてないのだからいいじゃない? それにこれなら誰にでも平等にチャンスがあるでしょ」
「それはそうですけど…これって…」
「おっと、そこまでよ翔介君。それじゃあ私はもうちょっと詰めておくわ。勿論、二人にも手伝ってもらうからね」
そう言ってパソコンを立ち上げ、ウキウキとタイピングしていく。
「道野君、面白いことを考え付いたお嬢様はもう止められません。だからせめて暴走しすぎないように注意しておきましょう」
「はい…。織斑君、ごめんねぇ…」
翔介は天井を仰ぎ、今は何も知らない一夏に対して呟いた。
「二人とも、私が面白いことなら何でもする享楽主義者扱いするの止めてもらえるかしら」
「違うのですか?」
「虚ちゃん、後でじっくり話し合いましょう」
主従関係になにやら深刻な危機が迫っているような気がするが楯無はタイピングをしながら「あ」と翔介に視線を向ける。
「そうだ、言い忘れてた。翔介君」
「はい?」
「『アレ』、直ったみたいよ。もう学園の整備科に持ってきてるって」
「ほ、本当ですか!?」
楯無の言葉に瞳を輝かせる翔介。待ちに待った時が来たのだ。
「行ってきていいわよ。早く見たくてしょうがないって顔してる」
「はい! 行ってきます!」
翔介は勢いよく椅子から立ち上がると生徒会室を後にする。
「やれやれ、子供みたいに目を輝かせちゃって」
「そういう割にはお嬢様も同じ顔をしてますよ」
「そう? まあ、二学期も騒がしくなりそうだと思う。それだけよ」
そう言いつつも楯無は楽しそうに笑うのだった。
本日はここまで。
長い間投稿をお休みして申し訳ありませんでした。
ここからある意味で第2部となります。
この辺からオリジナル展開も増えてきて、原作からかけ離れていくようにもなりますがどうぞよろしくお願いします。
ウルトラマンZ、面白かったですね。
ギャラファイも毎週楽しみです。