翌日。
現在、放課後のホームルームの真っ最中だ。
今日は文化祭でのクラスの出し物を決めているところだ。
教壇ではクラス代表である一夏が進行係を務めている。
「あ~…一通り希望が出たわけだが…」
出し物はまずはそれぞれ何をやりたいかとにかく意見を出していこうという事でどんどん案が出た。
のだが。
「却下」
『ええええええええっ!?』
クラス中に響くブーイング。
「当たり前だろう! できるか、こんなの!」
「こらーっ! ブレインストーミングは相手の意見を否定しないのが鉄則だぞー!」
「発言、発案は自由であるべきだー!」
非難轟々のクラス。
一夏が却下するのもわかる。
というのもクラスで提案された出し物というのが。
『織斑一夏のホストクラブ』『織斑一夏とポッキー遊び』『織斑一夏と王様ゲーム』等々。
大体、というか全て一夏絡みである。
本人からしたら溜まったものではない。
「織斑一夏は学園の共有財産だ!」
「織斑一夏は女子を喜ばせる義務を真っ当せよ!」
「アホか! そもそもなんで俺だけなんだよ! 翔介もいるだろ!?」
そうしていると矛先が翔介に向けられる。
このクラスには一夏以外にも翔介がいるのだからそうなるのも当然ではある。
「あ~…その事なんだけど…僕当日は生徒会の仕事があるからクラスの出し物に出られなくて。準備は手伝えるんだけど」
「なっ!? う、裏切り者ぉ!」
「ごめんねぇ」
悲痛な声を上げる一夏。
それに対して申し訳ない表情の翔介。だが、こればかりは仕方ない。文化祭当日は生徒会としての仕事が非常に多いためクラスの出し物を手伝うことができないのだ。
「だ、駄目ですよね、山田先生?」
今度は副担任である山田真耶に助けを求める。
「へ? 私ですか!?」
自分に振られるとは思っていなかったのか慌てた様子で眼鏡をクイッと上げる。尚、千冬は長くなりそうだからと早々に職員室に戻ってしまった。出し物の内容が決まり次第報告に来るようにとのことらしい。
「そ、そうですね~…」
考え込む真耶に救いを求める一夏。
「私はポッキーのなんかいいと思います…よ?」
誰が出し物に投票しろと言ったか。
絶望の表情を浮かべる一夏。この世に神はいないのか、と言いたげだ。
流石に孤立無援も可哀想なので翔介は助け舟を出すことにした。
「生徒会としては公序良俗に反しないようなものにしてほしいな、とは思うだけど」
「しょ、翔介…!」
神はここにいた、と顔を輝かせる一夏。
「ふむ、ならばメイド喫茶はどうだ?」
するとラウラがスッと席を立ちあがり提案してきた。
一夏だけでなくクラスメイト達もポカンとしている。
「喫茶店なら客受けもいいだろう? 収益も得られるし休憩所としても需要はあるだろう」
いつもと変わらず淡々とそう告げるラウラ。
クラス内はまだどうする?と顔を見合わせている様子だ。
「僕は良いと思うよ。食べ物とかは事前に保健所に申請したり準備は必要だと思うけど色んな人に楽しんでもらえると思うよ」
「僕も賛成かな。一夏には厨房か執事を担当してもらえばいいよね?」
と、シャルロットも追従する。
するとその一言でクラスメイト達の意志が固まる。
「織斑君の執事! 良いんじゃない!? これはウケる!」
「イケる! イケるわ! 後は織斑君の執事ブロマイドの販売を…」
クラスの出し物はすっかりメイド喫茶で決まりの方向になってきた。
実を言うとラウラのメイド喫茶の提案を翔介は事前に聞いていた。
夏休みの終わり頃、どういう訳かラウラが文化祭でやってみたいと言ってきたのだ。理由は深く聞かなかったが、彼女のやる気も強かったため翔介はそれに協力することにしたのだ。翔介以外にもシャルロットに協力を依頼してこの流れになるように仕組んだのだ。
ちなみに敢えてこのタイミングで提案したのはシャルロットの考えだ。恐らく出し物は一夏に関連したものとなり本人は間違いなく嫌がる。膠着状態となったところで案を出せば一夏もこちら寄りになる。そして、更に一夏にも執事として働いてもらうと提案すればクラスメイト達の賛同も得られるだろうとのことだった。
果たしてシャルロットの目論見通りクラスの意見はメイド喫茶に傾いていった。
シャルロット・デュノア、なかなかの策士である。
「ところでメイド喫茶って確か服が必要なんだよね? 今から人数分作るのって大変じゃない?」
賑わうクラスの中で翔介がラウラに問い掛ける。
メイド喫茶がどういったものかは相談を受けた際に聞いたが準備が結構必要なはずだ。
「そ、それなら当てがある」
「当て?」
「シャルロットが、な…」
少し照れたようにそっぽを向いてしまうラウラ。シャルロットは大体見当がついているようでアハハと笑い頷く。
「それじゃあクラスの出し物はメイド喫茶で良いか?」
『異議なし!』
クラス全員一致で声を上げる。
これにより一年一組の出し物はメイド喫茶改め『ご奉仕喫茶』に相成ったわけである。
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クラスの話し合いも終わり、今日は生徒会の仕事もないとのことで翔介は寮に戻ってきていた。
ルームメイトである簪はまだ戻ってきていないところを見るとまだ学園の方にいるのだろう。
翔介はすぐさま制服を脱ぎ、体操着へと着替える。
着替えが終わると翔介は部屋を後にする。そのまま寮の玄関に用意されていたリードとビニール袋の入ったバッグを手に取る。
「わん太郎、行くよ~」
「わふ」
翔介がそう声をかけたのは玄関横に設置された犬小屋の主・わん太郎だ。夏休み前に翔介と簪が拾ってきた子犬だ。あれから一カ月過ぎ、身体もやや大きくなっている。
寮で犬を飼う条件として朝と放課後の散歩は彼の役目となっていた。
今から放課後の散歩兼ランニングに向かうのだ。
散歩コースは学園の周囲をぐるりと一周するものだ。敷地の広い学園なら一周するだけでも十分な運動になる。
「いっち、に、さん、し…!」
入念に準備体操をしてわん太郎のリードを握り駆け出す。
夏も終わり、季節はだんだんと秋に移り変わり始めているがいまだに残暑は厳しい。
このランニングもISに乗り始めた頃から楯無にやるようにと言われたものだ。初めの頃は半周するまでにバテてしまっていたが一周くらいは問題ない程度に体力がついていた。
最近ではわん太郎というランニング仲間もいるため寂しくもない。
たったったったっ!
小気味良く地面を蹴り、学園周囲を駆けていく。
わん太郎も四本の足を使って翔介の横に着いて来る。
夏休みの帰省中は十蔵に世話を任せてしまっていたため元気がだいぶ有り余っているようだ。
夏休みの間構ってあげられなかった分しっかり遊んであげるべきだろう。幸いにも今日はまだ門限まで時間がある。
「わん太郎、今日はもうちょっと遠くまで行ってみようか?」
「わふ!」
翔介の言葉を理解しているかのようにわん太郎が返事をする。
それを聞き、翔介は学園の周辺から離れて駅近くまでランニングコースを伸ばすことにした。
引き続きランニングを続けて行く翔介とわん太郎。駅への道中には通学している生徒たちがチラホラと見える。
普段は街に出かけるくらいしにか使わないため、改めて散歩として通ってみると今までにない発見があるものだ。
やがて翔介は駅から少し離れた公園へとたどり着く。
「ふぅ…少し休もうか」
翔介は公園のベンチに座る。わん太郎もハカハカと息を吐きながらペタンと座り込む。
公園は時間も時間なだけに人はほとんどいない。
公園内は静かな空気が流れており、ゆったりとするにはちょうど良かった。
中学時代の放課後はいつもこんな感じだったが、IS学園に来てからはいつだって賑やかだった。
それはそれで楽しいのは間違いないのだが、時折何もなくボーっとする時間があってもいいのかもしれない。
まだ昼間は残暑が残っているが、夕方になると涼しい風が吹いてくる。ランニングで火照った身体が冷やされていく。
翔介が一息をついていると、足元で伏せていたわん太郎が急に顔を上げる。
「わふ!」
一吠えすると急に走り出す。気を抜いていた翔介の手からリードが手から離れてしまう。
「わん太郎! 待って!」
翔介は慌ててわん太郎を追いかける。
今までこんなことは一度もなかったはずなのだが、急にどうしたのだろうか。
わん太郎を追いかけていくが、さほど労せず見つけることができた。
見ればわん太郎はまだ公園の敷地内におり、誰かにじゃれついていた。
その少女は赤銅色の髪をしており、瞳の色は黄色と珍しい容姿をしていた。足元にじゃれつくわん太郎を見下ろしている。
その様子は能面のように無表情だがじゃれつくわん太郎をどうしたものかと困っているようにも見える。
「ごめんなさい! 大丈夫でしたか?」
少女はじゃれつくわん太郎を抱き上げ、じっと見つめた後翔介に手渡す。
そして今度は何も言わずじっと翔介を見ている。
「あ、あの…?」
「あなた、道野翔介?」
何を言い出すのかと思えば自分の名前を問い掛けられるとは思わなかった。
「え、はい、そうですけど…あなたは?」
今度は翔介が問い掛ける。
「そう」
少女はそれだけを告げると少女はくるりと背を向ける。
「あ、ちょっと…」
「…紐は絶対離してはダメ」
「は、はい…」
結局、少女はそのまま公園を後にした。
翔介はポカンとした様子でそれを見つめていた。
「道野翔介…。光の力を継いだ人…」
公園を後にした少女は一人静かにそう呟いた。
本日はここまで。
クラスの出し物も決まり、いよいよ文化祭も間近になってきた。
そんな時に出会った謎の少女。
彼女は一体何者なのか。
次回もよろしくお願いします。