インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

87 / 94
85話

文化祭の準備が着々と進む中。

翔介は朝のアリーナにてISの訓練を受けていた。

文化祭が待ち構えていると言っても訓練はいつも通りに行われている。夏休みの間は打鉄のオーバーホールのためほとんど触ることもなかったため少しでも遅れを取り戻したいという彼たっての希望でもある。

それに対して楯無は快く了承。そして妹である簪も訓練に付き合ってくれていた。

その甲斐もあってか操縦の感覚はだいぶ戻ってきた。

現在はそれぞれの飛び道具を使わない近接戦闘訓練の最中だ。

 

「たあっ!」

 

「なんの!」

 

簪が振りおろした薙刀『夢現』を近接ブレード『葵』で受け止める。

すぐさま簪はブレードを押し戻し、横薙ぎに払ってくる。それを飛びあがり避けると、今後は翔介が突きで反撃する。危なげなく薙刀の柄で受け流し、後ろに距離を取るといった攻防が続けられる。

 

そんな二人を指導役である楯無は少し離れたアリーナ上でその様子を見ている。

彼がISに乗るようになってからかれこれ半年。まだまだ粗が目立つし、同期の専用機持ちと比べればその実力は劣る。

しかし、その成長は目を見張るものだ。

だがそれも致し方ないことかもしれない。

入学早々のクラス代表決めの試合に始まり、無人機襲撃事件、VTシステム騒動、そして先の銀の福音事件。

入学してたった半年の間にこれだけの事件に巻き込まれるのは今までに例を見ない。習うより慣れよ、という言葉はあるがこれだけの実戦経験だ。否応なく彼らの実力は上がっているだろう。

 

「そう、あまりにも今年はイレギュラーが多すぎる。ただの偶然なのか…それとも…」

 

誰も知らない世界の裏側。そこにいる誰かの差し金か。

いずれにしても今年は何か異変が起こっている。それも学園に留まらず、世界に波紋を広げるような異変が。裏世界の番人としての筋から怪しい組織も動き出しているという情報も得ている。それらが何を意味するのか。

 

「ま、参りましたぁ…」

 

思案にふけっていた楯無の耳にそんな声が聞こえてくる。

見てみればブレードを取り落とした翔介の首筋に簪の薙刀が構えられている。どうやら決着がついたようだ。

 

「また私の勝ち」

 

「やっぱり更識さんは強いね」

 

そう言い合いながら二人がISを解除する。

ちなみに簪のISの待機状態は右手中指に填められたクリスタルの指輪。そして正式に翔介の専用機となった打鉄は流星のような形のバッチとなっており、彼の胸に輝いている。彼にとっての打鉄の存在をそのまま表したようなデザインで気に入っている。ただ着替える際に取り外しをする必要があるのが若干のネックである。

 

さて、そんなこんなで訓練も一段落の様だ。

これで翔介は二勝八敗。ほとんど負け越しているが、簪を交えての実戦形式の訓練を行うようになった頃は一勝もできなことの方がザラであった。その時からすれば毎回一勝は出来るくらいには実力を上げてきている。

一時期は伸び悩みでスランプ状態に陥っていたものの、頼りになる大人たちと出会ったことで自力で脱してきた。

大きな成長でなくても、小さく確かな成長を続けている。

 

そしてその相手である妹の簪。彼女もまた姉に追いつくために自らでISを作り上げてみせた。その知識量と技術力は姉の欲目かもしれないがトップクラスと言えるだろう。

 

「流石は私のお弟子と妹」

 

一人ニヤニヤする楯無。身内にはとことん激甘である。

 

「お姉ちゃん、なに怪しい顔してるの」

 

「簪ちゃん。本当に遠慮がなくなってきたわね」

 

仲直り出来て以降、妹はなかなかに辛辣である。姉はこんなにもラブを体現しているというのに。

 

「じゃあ気味が悪い顔」

 

「お姉ちゃん、泣いちゃうよ?」

 

姉のハート、妹しらず。

 

「お師匠さま、近接訓練十本終わりました」

 

そこに翔介が入ってくる。この姉妹のやり取りもすっかり見慣れたものだ。

 

「あ、そうね。それじゃあ…」

 

楯無が口を開いたと同時に電話がかかってくる。

 

「あら、虚ちゃんね。ちょっとごめんなさいね」

 

電話の相手を確認すると手を振って二人から離れる。虚からの電話となれば生徒会関連の電話だろうか。

 

「時間かかるだろうし先に片付けておこう?」

 

「そうだね」

 

時間的にも訓練はそろそろ片付けておかないと授業に間に合わなくなりそうだ。二人は楯無が電話をしている間にアリーナの片付けをすることにした。

訓練でえぐれた地面などを整地をしていく。今回は射撃訓練は行わなかったためあまり大変ではない。夏休み前はここに打鉄の片付けもあったが今は随分と楽になったものだ。

 

「そう言えばお師匠さまも代表候補生なんだよね?」

 

「うん、ロシアのだけど」

 

「専用機もあるんだよね?」

 

その問いにも首肯で返す簪。

 

「お師匠さまの専用機ってどんなの?」

 

「翔介、見たことなかったの?」

 

半年も訓練受けておいて?という疑問が顔に出ている。

恥ずかしながら一度も見たことがない。というのも楯無との訓練は主にISの基本動作の訓練からだった。歩く、走る、飛ぶ、武器の展開など本当に基礎中の基礎。戦闘訓練などが始まるころには簪との問題も解決したため、戦闘訓練の相手は主に簪と実を言えば楯無と手合わせをする機会が一度もなかったのだ。

せいぜい自分の専用機を自分で作り上げた、ということくらいしか知らない。

 

「まだ僕じゃお師匠さまに本気で相手してもらえるって訳じゃないみたいだしね」

 

師の背中は遠い。

IS学園の生徒会長とはつまり学園最強の証。そこに届こうと思えばどれだけの努力が必要になるだろうか。

 

「えっとね、お姉ちゃんのISはミステリアス・レイディ。霧纏の淑女なんて呼ばれてる機体。元々はロシアで開発されたISの機体データを基にお姉ちゃんがフルスクラッチで組み上げた機体。私たちの打鉄とかとは…なんだか色々と違う特殊な機体」

 

「特殊って?」

 

「それは…」

 

簪が口を開こうとしたその時。

 

「は~い、あんまり個人情報を話しちゃ駄目よ?」

 

いつの間にか電話を終えた楯無が後ろから簪に抱き着く。そこまでならまだいいが、あろうことかやや控えめなボディを撫であげる。

ブワッとまるで猫のように毛が逆立つ簪。それを真正面から見せられた翔介もギョッする。

 

「んん? 簪ちゃん、ちょっとお育ちになったかしら?」

 

「お、お姉ちゃん!」

 

バッと姉を振り払い、翔介の後ろに隠れる。

 

「簪ちゃんが悪いのよ? 女性の秘密を勝手に話そうとするから」

 

「ひ、秘密って程の事でもないでしょ。それとむね…身体を触る必要があったの…!?」

 

「そこは美しい姉妹のスキンシップじゃない」

 

まったく悪びれない姉と借りてきた猫のような警戒心マックスな妹。

かつてはこんな悪ふざけ、スキンシップすらもできるような関係ではなかったのだからそれだけ関係が改善したと思いたいが、やり過ぎてまた険悪になられても困る。

 

「そうそう、さっき虚ちゃんから連絡が来てね。詩月梢のステージスケジュールができたって」

 

話をそらすようにそう告げる楯無。すると翔介の目がキラキラと輝きだす。

 

「それでステージまでの彼女の案内なんかを誰かに任せ「はい! やります!」言うと思ったわ」

 

楯無が言い終わる前にビシッと空に向かって伸ばし食い気味に立候補する翔介。なんとなくそんな反応が返ってくるのを察していたのか苦笑する。

 

「わかったわ。じゃあ、当日の詩月梢の案内役は翔介君に任せるわよ」

 

「はい!」

 

ここ最近で一番いい返事だ。

 

「わぁ~…まさか本物に間近に会えるなんて…! サイン貰ってもいいのかな? あ、でもマナー違反かな?」

 

すっかり舞い上がる翔介。年相応のミーハーぶりである。

 

「ねぇ、どうだろう更識さん?」

 

くるりと後ろに隠れていた簪に尋ねる。

すると。

 

「…さあ」

 

返事は随分とあっさりしたものだった。心なしか視線が冷たい。

しかし、すぐにハッとすると首を振りながら。

 

「あ、うぅん、ごめん。仕事で来てるとはいえあまりそういう事はしない方が良いと思う」

 

「そっかぁ…そうだね。折角来てくれたのに失礼なことしちゃダメだしね」

 

「うん、ゲストには丁寧に失礼のないようにしないと」

 

簪は細い指を立てながら諭すような声音で語り、翔介はそれにうんうんと頷いている。同年代でありながらその様子はまるで姉弟のようだ。

 

「………あらら?」

 

しかし、そんな二人の様子を驚いた様子で見ている楯無。

今さっきの簪の態度。本当に一瞬ではあったが彼女の態度はおかしかった。

少し舞い上がっていた翔介に呆れているような感じではなく、どこか怒りのような感情を感じられた。

そう、あえて言うならばそれは。

 

「あ、そろそろ行かないと授業に間に合わなくなっちゃいますね」

 

翔介の言葉に時間を確認してみれば訓練を始めてから結構な時間が経っている。そろそろ寮に戻り、朝食などを済ませなければ学業に支障が出そうだ。

特に翔介のクラス担任はあの織斑千冬だ。一秒の遅刻にも厳しい事だろう。

 

「それじゃあ一旦解散しましょう。ISの訓練は勿論だけど、学生として学業もおろそかには出来ないわよ。再来週には授業も半日になるから教師陣も一気に詰め込んでくるつもりよ」

 

「うぅ…追いつくので精一杯なのに…」

 

それを聞いてさっきまでのテンションから急降下する。IS関連に関してトップクラスなのは当然として、通常科目もレベルが高い。元々のんびり思考の翔介からしてみれば目まぐるしいものだろう。

 

「ぼやかないぼやかない。ほら、急ぎなさい」

 

そう言って翔介を促す。情けない声を上げる彼の背中を簪が押していく。

アリーナから離れていく二人を見ながら再度先程の妹の異変に思いをはせる。

 

国内で大人気の歌姫に浮かれる少年に対して見せた静かな怒りにも似た感情。

それを言葉にするならば。

 

 

 

 

 

「『嫉妬』なのかしら…?」

 

 

 

 

 

口元を扇子で覆いながらぼそりと楯無は呟くのだった。




本日はここまで。


何気ない日常でありながらも少しの変化が見え始めてきました。
次回からもちょこちょこと幕間を挟みながら文化祭編は続きます。


シン・ウルトラマン。
私の好きな映画です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。