文化祭本番まで二日と迫ってきている。
授業は一週間前から半日のみとなり、午後からは準備に割り当てられるようになっていた。そして今日と明日で一日中文化祭の準備となっている。授業が削減される分、授業の内容は濃密となったが大半の生徒たちは目前となったイベントを糧として普段以上の集中力を見せている。
教師陣としては普段からその集中力を維持してほしいところではあるだろうが、折角の雰囲気をわざわざ水を差すことはないだろうと敢えて誰も注意していない。
文化祭の後にあるテストの結果も上がるのだから言う事はない。
今は文化祭の最後の準備が進められている。
学園は綺麗な飾り付けが施され、そこかしこには各クラスの出し物などのポスターが張られている。
そして翔介はというと生徒会という事で毎日あっちこっちと駆り出され、休む暇もない。本番も近いとなると尚更忙しさが増している。
今は自身のクラスへと向かっていた。文化祭は生徒会の仕事が非常に多く、なかなか手が空かないが少しでも手隙になった時はクラスの出し物の準備を手伝っていた。
ガラリと教室の扉を開くと、中は普段の風景からはガラリと変わっている。
丸いテーブルにクロスがかけられ、椅子も綺麗なものに交換されている。窓にはレースのカーテンに交換され教室全体から上品な空気が感じられる。
いつも授業を受けている教室とは思えないほど洗練された空間だ。
「おぉ~、凄いね」
「よお、翔介」
ご奉仕喫茶となった教室を感心して見ていると、一夏が声をかけてくる。その姿は制服ではなく黒を基調とした執事服。とことんまで裏方を希望した一夏であったが、結局多数決にはかなわずフロア係となった。そして接客担当となるなら見た目は大事とクラスの衣装担当が気合に気合を入れた渾身の衣装らしい。
「お疲れ様。時間ができたから手伝いに来たよ」
「お、サンキューな! それなら…」
一夏が翔介に仕事を割り振ろうと教室を見まわたすと。
「あ~、ミッチー発見~」
なんとも間延びした緩い声が聞こえてくる。
声の方を見てみると布仏本音がほわほわっと近づいてくる。その横には相川清香と高槻静寐といつもの三人組だ。そして三人とも衣装合わせなのかメイド服を着ている。清香と静寐はスタンダードなメイド服。そして本音はやはりというべきか普段通りのだぼだぼっとしたメイド服だ。果たしてその服で給仕ができるのだろうか。
「さささ、道野君はこっちこっち」
「へぇ?」
「まあまあまあまあ」
「さあさあさあさあ」
三人に促されるままに教室の一角のテーブルと椅子に座らされる。
「はい、こちらクッキーです」
「紅茶だよ」
「肩揉むよ~」
流水の如く流れるように接待が始まる。
正直、本音の肩もみは微妙な力加減でむしろくすぐったい。
「え、何これ?」
困惑気味に三人に問い掛ける。
ちなみにクッキーも紅茶も美味しい。
「ほら、喫茶店で出すメニューの味見だよ?」
「ええ、接客の仕方の確認ですよ?」
「うん、だから生徒会のミッチーを接待してクラス出し物の得点を融通してもらおうなんて思ってないよ~」
そういう事らしい。
「賄賂接待かよ」
一夏が呆れ気味に苦笑する。
「僕を接待しても文化祭の成績はどうこうできないよ?」
IS学園の文化祭最終日にそれぞれのクラスの出し物の最優秀賞を決める。選ばれたクラスには色々と特典が用意されており、それを目当てに俄然やる気を見せている。今年は特に、である。
ただそれを決めるのは出し物の人気投票によって決められる。いくら生徒会とはいえ個人間の感想まではどうこうできない。
出来ない、のではあるが。
とはいえ、翔介自身を接待してもどうこうできないのも事実である。
「そうですわ。そのような優雅ではないことはお止めなさい」
するとそこへセシリアが割って入ってくる。その横には箒もいる。二人とも例に漏れずメイド服を着ている。
セシリアは流石はメイドの本場出身なだけありヴィクトリアン調のメイド服。普段はむしろ使用人を使役する立場のはずなのだが非常によく似合っている。佇まいも美しい。そして隣にいる箒は和風で大正時代の女給のような服装だ。セシリアと違い、こちらはやや恥ずかしそうである。
「翔介さん、気にしなくていいですからね」
「ああ、そんなことをして勝っても意味がないからな」
そう告げる二人に接待三人組は「え~」と渋々と言いながら下がる。
「皆やる気だね」
「まあ、やるからには最優秀賞を目指したいしな」
翔介は出されたクッキーと紅茶をつまむ。文化祭の出し物としてはかなり美味しい。これだけでも十分集客は見込めるだろう。
「その通りだ」
そして今度はラウラとシャルロットが入ってくる。こちらもメイド服だ。
ラウラとシャルロットはどちらもオーソドックスなメイド服だ。ラウラには黒い兎のバッヂが付けられている。
「最優秀賞は必ず私たちが頂くぞ」
提案者でもあるラウラは特に意気揚々と宣言する。
「随分な自信じゃない」
今度は扉を開けて鈴が入ってきた。
こちらは真っ赤なチャイナドレスに頭をシニョンでまとめている。なんでも鈴のクラスは中華喫茶をするそうだ。
「お、鈴。それお前の衣装か? 似合ってるな」
シームレスに鈴の服装を褒める一夏。そして唐突に褒められた鈴は自分の髪をくるくると弄りながら頬を赤らめる。
「べ、別にぃ? そんなことはアタシがよく知ってるし?」
口ではそう言いながらも満更な様子でもない鈴。
だが気付いているだろうか、織斑一夏よ。メイド服の四名が怖い目で睨んでいることを。
「って違う違う。目的はあんたじゃないの」
鈴が翔介の方を見る。
「あんた、ちょっと顔貸しなさい」
「え、なんで僕ってわあああ~!?」
翔介が理由を聞く前に鈴に引っ張られていく。
教室を出る瞬間、鈴はチラリと箒たちに目配せをする。彼女たちはそれに気付いたのか止めることなく見送った。
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「よし、ここならいいわね」
連れてこられたのは校舎裏。文化祭でもこちらまでは飾りつけは行われない。人もいないため密談にはもってこいの場所だ。
「え、な、何?」
人気のない頃に連れてこられ警戒心マックス。
その様子はさながらカツアゲのワンシーンである。
「何ビクついてるのよ」
身構える翔介に詰め寄る鈴。
「あんたに頼みたいことがあるのよ」
「た、頼み事?」
「そう。ほら、あたしって二組じゃない? どうやっても一夏と同じクラスの箒たちとは少しハンデがあるわけよ」
腕組みをしながら語りだす鈴。
確かに鈴はよくいるメンバーと比べると唯一クラスが違うという相違点がある。
イベント事や休み時間では一緒にいることが多いが、それでもクラスが違うという事は実は意外なハンデになっているようだ。
「だから文化祭は数少ないチャンスな訳よ」
「えっと、つまり?」
翔介の背筋に冷たい汗が流れる。
「文化祭を一夏と回りたい。だからそれの手伝いを頼みたいのよ」
ああ、やっぱり。
「て、手伝いというと…?」
「そりゃあ文化祭でどこを回るかとか」
早い話が文化祭デートのプランを一緒に考えて欲しいという事らしい。
「な、なるほど~…」
「あ、そろそろ戻らないと。それじゃああたしも考えるからあんたも手伝ってよね」
言い淀む翔介を尻目に鈴が踵を返して校舎へと戻っていった。
それを見送り、姿が見えなくなると同時に。
「ど…どうしよう…」
がっくりと項垂れる翔介。
正直なところ、連れてこられた時点で何を言われるかはわかっていた。
普段であれば素直に手伝っているところなのだが…。
「マズい、マズいよぉ…」
頭を抱える。
人の頼み事は断れない。そんな翔介が頭を抱えている。
なにせ。
「これで四人目だね」
後ろから声がかかる。
「デュノアさん…」
「鈴に連れていかれたからもしかしてと思ったけど」
振り向くとメイド服を着たシャルロットがいた。どうやら一部始終を聞いていたようだ。
「箒、セシリア、ラウラ、そして鈴。皆同じこと頼んでいったね」
そう、文化祭デートの依頼を受けるのはこれで四人目であった。全員が全員、文化祭で一夏と二人きりというシチュエーションを狙っていた。
一夏に直接言ったとしてもどうせ最終的に全員で回ろう、などと言いだすに決まっていると読んだ彼女たちが頼るのは協力者たる翔介であった。
「大変だねぇ。文化祭は二日間あるとはいえ四人分の計画は難しいよ?」
一夏に好意を抱く少女たちの中で唯一翔介の事情を知っているシャルロットが笑いながらそう告げる。
翔介もそれは理解していた。
二日間の行程とはいえ、恐らく一夏はご奉仕喫茶で引っ張りだこだろう。休憩はもちろんあるだろうがそれを見計らって一人ずつデートをセッティングするのはなかなかに至難である。
うんうん、と悩む翔介。
「でも皆楽しみにしてるみたいだし。頑張って」
「うぅ~…」
励ますように背中を叩くシャルロット。
そして翔介の耳元に口を近づけ。
「それじゃあボクもよろしくね」
翔介は膝をついた。
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「あ、いたいた」
翔介が膝をついてから少し後。
校舎の屋上の扉を開けたシャルロットは先客たちを見つけると近づいていく。
ちなみにメイド服は脱いで着替えてきた。
「来たか、シャルロット」
「お疲れ~」
そこにいたのは箒、セシリア、鈴、ラウラといつものメンバー。
全員制服姿に戻っている。
「どうだった?」
「あはは、悩んでたよ」
「そりゃあ五人分となればねぇ」
五人の話題は一夏、ではなく。
「しかし、少し気が引けるぞ。マブを騙しているようで」
翔介だ。
「でもみんなにバレてるって知ったほうがもっとプレッシャーになると思うよ? 翔介は責任感強いから」
「そうだな。敢えて知らないふりをしているのが道野のためだろう」
そう、実は翔介が全員の恋愛相談に乗っていることは既に全員に周知の事実であった。
といってもシャルロットが喋ったわけではない。
ここにいる全員が一夏に好意を抱いているのはお互いから見ても一目瞭然だった。
そんな状況であれば当然翔介がそれぞれに協力していることはすぐにバレることだった。
「全員に良い格好してるのも悪いんだって」
「ですが、頼まれて断れないというのも翔介さんの良いところですわ」
性格故に大変な目に合うことは予想できたとしても断ることはできなかったのだろう。
それが翔介の長所であり、短所であった。
だが、それを疎ましく思うものは少なくともここにはいなかった。
騙すような形になってしまっているがその代わりに五人の間ではあるルールが決められた。
それは『誰が一夏とくっついたとしても文句を言わず納得すること』
あの朴念仁たる織斑一夏が誰を選ぼうとも、それが自分たち五人じゃなかったとしても最後は祝福する。それが彼女たちが決めたルールだった。
これは彼女たちだけではなく、なにより性格故に断れず全員に協力している翔介への思いやりでもあった。
この中の誰かが結ばれたとしても翔介は喜ぶと同時に結ばれなかった者に対して罪悪感を覚えるだろう。
そんな翔介にせめて自分たちが納得の上であることを伝えるための物だ。
「文化祭…楽しみだな…」
ラウラがそう呟く。
その言葉に誰ともなしに頷くのだった。
後日、それぞれに翔介から文化祭デートのプランが届いた。
見事に全員が顔を合わせずかつ平等なプランであった。
本日はここまで。
徐々に文化祭本番に近づきつつあります。
翔介にとって悩みの種でもある恋愛相談の件も彼の知らないところでしっかりバレているというオチも。
シン・ウルトラマンのベーターカプセル予約できました!
これで来年まで生きる理由ができた!
シン・ウルトラマンもいいけど、ギャラファイも見るたびに魂を持ってかれています。