インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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88話

『皆聞こえてるかしら?』

 

学園中のスピーカーから楯無の声が響く。生徒たちは静かにその時を待つ。

 

『今日まで放課後遅くまで残って作業をしたわね。時にはクラスメイトと方向性をぶつけ合い殺伐としたでしょう。時には他のクラスとの出し物被りで殺伐としたことでしょう』

 

殺伐とし過ぎではないだろうか。

そう思っても実際にメイドとチャイナがポスターの場所を奪い合っていた姿を思い出すと嘘ではないというのがなんとも言えない。

翔介が到着した時点ではそれぞれが獲物を構えて、抗争一歩手前だった。ちなみに一日目はご奉仕喫茶、二日目は中華喫茶が使用するということで収まった。

 

『でもその苦労も報われるわ』

 

ざわっと学園全体の空気が徐々に沸き立ち始めているのを感じる。

 

『さあ、準備は良いかしら? この二日間の主役はあなたたちよ』

 

スピーカーの奥で楯無が息を吸い込む。

 

 

 

 

『IS学園文化祭の開催を! 今、ここに宣言するわ!』

 

 

 

 

楯無の言葉に学園全体から歓声が上がる。

 

 

遂に文化祭が始まった。

 

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「野球部です! ストラックアウトやってまーす!」

 

「二年A組! 本格お化け屋敷です! 怖いもの知らずの挑戦待ってますよー!」

 

文化祭開会の宣言から校門付近では各クラス、部活の呼び込みで賑わっている。

校門に作られたゲートからは続々と人が入ってくる。

IS学園の文化祭は学園の特性上とても注目度が高いが、誰でも入れるという訳ではない。文化祭を見学する方法は二通りの方法がある。

一つは生徒一人につき三枚配布される招待券で入場する方法。招待券一枚で一人入場ができるようになっている。

もう一つは企業枠での招待。こちらは学園から関連企業に対する招待だ。IS学園は在籍中はいかなる企業にも属さないと定められているものの、将来的な進路として事前に学園の生徒を見学の機会としての招待だ。

つまり今ゲートを通っているのは生徒からの招待客か、学園側からの招待客なのだ。

 

ゲートでは虚や他の女生徒が招待券を確認して入場の手続き関連の仕事をしている。生徒会はこういった行事の時に率先して働くことになっている。

翔介は裏方でパンフレットの補充などが主な役目だ。ここが終われば、校内の見回りや案内が仕事になってくる。

 

「結構お客さん来るんだなぁ」

 

初めは招待制と聞いて、それほど集まらないのではと思っていたのだが想像以上の人だかり驚いていた。

ちなみに翔介も勿論招待券は貰っていたが、故郷の義姉や祖母、知り合いは残念ながら来るのが難しいという事で断念。科特研の人々は学園側からの招待客。北登夫妻や坂田夫妻も用事がありこちらも断念。

最後はレコー堂のマスターにも尋ねてみたが、当日用事あり。

ことごとく知り合いが来れず、今年の招待はゼロ人だった。

 

それでも翔介はこの文化祭で浮き立つ空気にワクワクしていた。知り合いは誰も来れないが、その分他の招待客や生徒たちが楽しめるように仕事を頑張ろうと改めて気合を入れる。

 

「あの、道野翔介さんですか?」

 

気合を入れ直した矢先に名前を呼ばれる。

振り返るとそこにはビジネススーツ姿の女性がいた。見た目からして企業枠の招待客だろうか。

 

「はい、そうですけど」

 

手に持ったパンフレットの入った段ボールを持ちながら答える。

迂闊に答えてしまった。

 

「ああ! やっぱり! 申し遅れました私、こういう者で!」

 

女性がバッと名刺を差し出してくる。

それが呼び水となって。

 

「え、道野?」「もう一人の男性操縦者!?」「先を越された!」

 

続々と企業枠の招待客が翔介の下へ集まり、名刺を差し出してくる。

 

「へっ!? いや、あの!?」

 

「早速なのですが当社のスラスターを見ていただけませんか!? 今の状態より数段上の出力が!」

 

「いや! こちらのライフルなんていかがですか!? 精度はやや落ちますが、速射性は他社にも負けませんよ!」

 

「何を!?」

 

「何ですか!?」

 

目の前で繰り広げられるプレゼン合戦。

それに目を白黒させて困惑する翔介。

 

以前、楯無に忠告された言葉を思い出す。

個人戦績も芳しくなく、専用機も持たない翔介ではあるが、『世界でもう一人の男性IS操縦者』という肩書はそれを別にしても非常に魅力的なブランドだ。

勿論良い結果があることに越したことはないが、広告塔としてこれほどの人物もいない。

企業からしたら何としても自社製品を売り込みたいのだろう。

 

実はこうなることも予想して、出来るだけ楯無たちは翔介を裏方に回したのだがやはり隠しきれるものでもなかった。

 

翔介を囲むようにやいのやいのと声を上げる様子を他の招待客たちも野次馬根性で視線を向けてくる。あまり注目されることに慣れていない彼としてはあまり嬉しくない状況だった。

 

「あ、あの! すみません! 今日は文化祭なのでそう言った勧誘は…!」

 

翔介が沈静化させようと声をかけるも逆効果。

話を聞いてもらえていると受け取ったのか、更にヒートアップさせてしまう。

白熱していくセールストークに目を白黒させる。

流石にその騒ぎが聞こえたようでゲートにいた虚が止めに入ろうと動く。

 

 

 

 

「あ~、少しいいかな?」

 

 

 

詰め寄られる翔介の肩がポンと叩かれる。

そこには長い黒髪に野球帽をかぶり、目元には黒のサングラスをかけた女性がいた。

 

「このご奉仕喫茶というところに行きたいのだけどどこになるかな?」

 

「え…?」

 

「ご奉仕喫茶。一年生の教室みたいなんだけど広くてよくわからなくて」

 

唐突な問いかけに先程まで騒がしかった周囲が静まり返る。そんな場の空気も何の苑と言った様子で女性は翔介に問い掛けてくる。

 

「地図はあるんだけど、実はあまり地図を見るのは得意ではなくて。良ければ案内してしてほしいんだ。いいかな?」

 

いいかな、と言いながらも既に翔介の手を取り校舎へ向かおうとする。

 

「あ、いや! ちょっと待ってください!」

 

あまりにも自然な流れで連れて行こうとしたため、思わずそのまま見過ごしになりそうだったがはたと気づいた企業の招待客が止めに入ってくる。

 

「はい?」

 

「勝手に連れていかれては困ります! 今私たちはビジネスの途中なんですよ」

 

「おや、そうだったのですか。てっきり彼の校舎の案内がとても上手で皆聞いてるのかと思ってしまった」

 

いくらなんでそんな訳はない。だが、黒髪の女性は悪びれることもなく翔介の手を取ったままいけしゃあしゃあと言ってのける。

 

「と、とにかくビジネスの邪魔は…」

 

「ビジネス。彼はまだ学生でしょう。ビジネスの話なんてすることはないでしょう。今日は文化祭。私たちは招待を受けた身だけど主役は学園の生徒。その主役を怯えさせてするのがビジネスではないでしょう。それに、ほら」

 

黒髪の女性が周りに視線を向ける。それに合わせて視線を向ければ一般の招待客や生徒たちが遠巻きに見ている。ゲートの方からは虚の姿も見える。

 

「入り口でこれだけ集まっていれば嫌でも目についてしまう。傍から見て大勢の大人が学生一人に群がる様子はあまり良くは見えないでしょう」

 

企業の招待客がウッと言葉に詰まる。

こういった公の場所で企業の名前で招待された人物が騒ぎを起こせば、それは巡って

企業そのものの評判にもつながる。今このまま翔介を引き入れたとしても世間からの評判や今後のIS学園からの就職先として避けられるようなことになれば将来的に痛手になるのは目に見えている。企業代表の招待とはそう言った責任もあるのだ。

 

「企業の都合も分かりますが、今は学生たちの出し物を楽しみましょう。それでは」

 

黒髪の女性はそれだけ伝えると、翔介と共に校舎の方へと歩いていくのだった。

 

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黒髪の女性に連れられて翔介は校舎内の階段の隅に来ていた。

校舎内はゲート以上に賑わっている。当然ながら手を引かれているところを数名の女生徒に見られて、先程とは別の意味で恥ずかしい。

 

「よし、ここなら大丈夫かな」

 

「あ、あの、手を…」

 

「ああ、ごめんごめん」

 

気恥ずかしそうに呟く翔介にパッと解放する。

 

「その、ありがとうございました。助けてもらったみたいで」

 

「いや、気にしないで。案内が欲しかったのも事実だし」

 

あのままでもいずれは虚や教師陣が止めに入っていただろうが、第三者だからこそ角の立たないやり方になったのだろう。

それにあの様子なら他の生徒たちに同じような勧誘もしないだろう。

 

「それに囲まれる大変さもよくわかってるつもりだからね」

 

「え?」

 

「ああ、そうだ。まだ名乗っていなかったね。生憎と立場上大っぴらに姿は見せられないから…」

 

そう言いながら黒髪の女性が帽子とサングラスを少しだけ動かす。隠されていた素顔が露になる。

 

 

 

 

 

「初めまして、かな。詩月梢だ。よろしく道野翔介君」

 

 

 

 

 

魅力的な笑みを浮かべる女性。日本中を席巻する歌姫であった。

 

「はひょ…!?」

 

「おっと、声を上げるのはライブの時にしてほしいかな」

 

歌姫の細い指が変な叫び声をあげそうになった口をふさぐ。

辞めてほしい、そんなことをされれば熱烈なファンが壊れてしまう。

 

「なななななななんで僕の名前ををを!?」

 

「IS学園の制服を着た男子生徒となれば自ずと限られるよ。それにもう一人の織斑一夏君はメディア露出もしてるからね」

 

梢の言う通り、夏休み以降一夏はモデルさながらに雑誌の取材や写真が掲載されている。元々代表候補生はそう言った話題性もあるようでセシリアや鈴など他の代表候補生たちも同様だ。

 

そして肝心の翔介であるが、彼はメディアの露出は断っている。それは楯無や千冬も承知している。それは本人の意向もあるが同時に彼が不用意に目立たないようにするためでもあった。彼が持つウルトラマンの力。それが下手に知れ渡れば、彼を別な意味で狙う者も現れる可能性があるからだった。

 

 

まあ、今の彼はそんなことを考えている余裕などあるわけもなく。

 

 

「それに君には前々から会ってみたかったからね」

 

「ほひゅ…!?」

 

世の中、推しに認識されたい者と推しの物語に介入したくない者の二つに分かれている。

かくいう翔介も認識されることなく、推しを見ていたい派閥の人間だ。

だが、いざその推しに名前を憶えられている上に会ってみたかったなどと言われて心臓が止まらない者などいるだろうか。いや、いない。

 

「さて、色々と話したいことはあるけど折角だからどこか休めるところにしたいね」

 

梢はそう言いながら帽子とサングラスを掛け直し、翔介の頬に細い指を添える。

 

 

「それじゃあ案内してくれるかな?」

 

 

「ふへぇ…!?」

 

 

今日、自分はここで死ぬのだろうか。

あまりの出来事に翔介の脳内がぐるぐると回転していく。

 

「さあ、行こうか」

 

またも手を取り、階段を上り始める。

さながらドラマや演劇の男役のようなイケメン具合。

 

 

 

翔介が乙女墜ちするのも時間の問題やもしれない。

 

 

 




本日はここまで。

文化祭も開催され、文化祭編の本筋に入った感じですね。
次回も限界オタクな主人公の姿をお送りしたいと思います。


ウルトラマンデッカー、始まりましたね。
ティガと同様に超古代の神秘さを纏ったトリガーと同じように、ダイナの快活で熱い姿がまさしく令和のダイナそのものですね。
物語も次回からドンドンと動き出しそうですし、目が離せませんね。
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