インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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89話

何故。

なぜこんなことになってしまったんだ。

 

それぞれのクラスの出し物の呼び込みで賑わう廊下。

その中を翔介が内心混乱しながらガッチガチで歩く。その姿はまるでゼンマイ仕掛けの玩具。それかISに乗り始めて歩くことすらままならない頃の彼自身。

 

その原因は分かっている。

チラリと自分の横を見る。

 

「ほ~、学生の文化祭とは思えないクオリティだね。流石はIS学園」

 

物珍しそうに周囲を見渡す黒髪の女性。

今をときめく歌姫。詩月梢その人である。

突如として目の前に現れ、どうしてか文化祭を一緒に回ることになった訳だが。

普通のファンとして突然こんな状況になって落ち着いていられるファンとしているだろうか。いや、いない。

一息入れるため入った模擬喫茶でも緊張しっぱなしだった。

 

「それで今度はどこを紹介してくれるのかな?」

 

にゅっと急に歌姫が顔を寄せてくる。

ヒュッと翔介の息が止まる。

大ファンに対して軽々しく顔を近づけないでほしい。心臓が止まってしまう。比喩でもなく本当に。

 

「そ、それじゃあ友達のクラスの出し物に行きましょう」

 

気を抜けば変な声を上げてしまいそうなのを堪えながらパンフレットを開く。

次に向かうのは一年四組。ルームメイトの更識簪のクラスだ。

 

「へえ、お友達か。どんな出し物なのかな?」

 

「えっと、ゲームセンターらしいです」

 

文化祭前に簪本人から聞いていた話によればクラス内でもシステム面に特化した生徒たちが主体となって本気で作り上げたゲームを展示しているらしい。最新的なゲームはもちろんアナログなゲームも最新技術を咥えてアレンジしたとか。

 

翔介の説明を聞くとどうやら興味を持ってもらえたようだ。

 

「それじゃあそこに行こうか」

 

そう言って翔介の腰に手を添える梢。息が止まる翔介。

何故、どうして、この歌姫はこんなにもフレンドリーなのか。元よりそういう人柄なのだろうか。

 

梢のエスコートを受けながら二人は一年四組へと向かうことになった。

 

------------------------------------------

 

廊下をやや歩き、たどり着いたのは一年四組。

教室の入り口にはお手製とは思えないようなネオン管のゲームセンターの看板が故郷の駅前を思い出し、懐かしい気分になる。

そんなノスタルジー溢れる作りな割には生徒に限らず、招待客なども次々と教室前の列に並んでいくところを見るとなかなか好評の様だ。

 

「ここだね?」

 

「はい、結構並んでますね」

 

「これは期待大だね」

 

二人はゲームセンターの賑わいを見ながら、列に並ぶ。翔介としてはいつ周囲に梢の正体がバレないかとヒヤヒヤものだが、当の本人はそんな心配もどこ吹く風の様だ。

 

「は~い、こちらゲームの回数券になります~」

 

そうしていると教室の中からなかなか奇抜な衣装の生徒が出てくる。なんとなく昔のロールプレイングゲームのキャラクターの様だ。彼女は列の対応係らしい。女生徒はそのまま並んでいる人々にチケットを渡していき、翔介たちの前まで来る。

 

「おや? 道野君じゃない? 生徒会の見回り?」

 

「うぅん、えっと、この方の案内で…」

 

そう言うと女生徒が梢の方を見る。幾ら変装をしているからとはいえ、こんな間近ではバレてしまうのではないか。

 

「へぇ~。道野君のお姉さん?」

 

「え、あ、いや、そういう訳じゃないんだけど…」

 

どう返事をすればいいのかと苦慮していると、梢がなにやら閃いたようで。

 

 

 

「ああ、私はこの子の恋人だよ」

 

 

 

そう言いながら翔介の頭にポンと手を乗せる。

 

「ほがっ!?」

 

手を乗せられた衝撃なんてないに等しいのに、とんでもない衝撃が翔介の全身を襲う。

目の前の女性との視線も「マジか」と信じられないものを見ている表情だ。

 

「はははは、なんて冗談だよ。私が彼に学園の案内をお願いしたんだ。どうやら生徒会みたいでね。丁度良かったよ」

 

「あ、そう、なんですか」

 

すぐさま梢は訂正してくるが、女生徒の視線は未だに懐疑に満ちているように見える。

 

「あ、じゃあこちら回数券なので順番までお待ちください~」

 

回数券を半ば放るように渡すと、女生徒はすたこらさっさと教室へと戻っていく。

その中であらぬ噂が立つのではないだろうか。

 

「な、何を…!?」

 

言っているんですか、と視線で投げかける。

 

「ははは、君はからかい甲斐があるね」

 

それに対してカラカラと笑う梢。

そんなにファンの心をいじって楽しいか。勘弁してほしいものである。

何故だかドッと疲れながらも自分たちの順番を待つことにした。

 

-------------------------------------------

 

「おめでとうございます! ゲームクリアです!」

 

女生徒がそう告げると招待客の子供は嬉しそうに親と一緒に次の出店に向かっていく。それを簪は視線で見送る。

 

「いやぁ~、大盛況大盛況!」

 

「飲食店で出店が被ってるからあえて外してみたけど、これは上手い事ハマったねぇ」

 

「これで最優秀賞取れたら…」

 

「織斑君が…」

 

そう言ってニマニマコソコソするクラスメイト達。

文化祭裏で密かに語られている噂の事だろう。

恐らくは生徒会、もっと言えば姉である更識楯無の差し金だろう。

またとんでもない思い付きに巻き込まれてしまった一夏が哀れである。

 

「ちょっとちょっと! ニュースニュース!」

 

そうしていると入り口の方から列の対応係だった女生徒が慌てた様子で入ってくる。

なにやら興奮した様子だが、簪は気に留めずにゲームの準備をしていく。

 

「何、どうしたの?」

 

「今さっきね! そこで道野君がいたんだけどね!」

 

ピクリ。女生徒の口から翔介の名前が出てきたところで反応する。

どうやら翔介が自分のクラスに遊びに来ているようだ。

始まる前に暇があれば遊びに来いと伝えていたが、割とすぐに来るとは義理堅いものだ。

本当はルール違反だが少しゲームのコツでも教えてあげてもいいかもしれない。

 

 

 

 

「それでね! なんか綺麗な女の人と一緒にいて『恋人だよ』って!」

 

 

 

「………………………」

 

 

-------------------------------------

 

列に並んで待つこと十数分。

翔介たちは案内係に促され、一年四組の教室に入室する。

教室内は様々なゲームが用意されている。いずれも招待客たちの反応から見る限り完成度は高いようだ。

 

「いやぁ、すごいねぇ」

 

隣にいる梢が感嘆の声をあげる。

 

「本当に。想像以上だ」

 

翔介もその盛況具合に感心している。何故だが周りの女子生徒たちが静かにキャーキャー言っているのが気になるが。

 

「それでどれをやってみようか?」

 

「えっと~…」

 

キョロキョロとゲームを眺めていくと。

 

「あ、更識さんだ」

 

見知った顔を見つけて顔をほころばせる。

二人で彼女が担当しているゲームの前に行く。

 

「いらっしゃい」

 

翔介たちに気付いた簪が出迎える。

 

「お疲れ様、更識さん。これはどんなゲームなの?」

 

目の前にあるのは六つの穴があり、玩具のハンマーが添えられている。

 

「モグラ叩き」

 

ゲームセンターの定番だ。

 

「ただのモグラ叩きじゃないよ」

 

そう言って簪が空間ディスプレイを表示させると、コンソールを操作する。

すると目の前にある穴からサングラスを掛けたモグラが現れ、意地悪そうに笑っている。どこか昔のアニメ調だ。

 

「立体映像か。これはハイテクだね」

 

「モグラは私が操作する。私とプレイヤーでの勝負」

 

「それじゃあ翔介君。君のお手並み拝見と行こうか」

 

「え、良いんですか?」

 

「ああ、私は見ているだけで十分だよ」

 

そう言ってニコッと笑う。

だから不用意に笑顔を向けないでいただきたい。心臓がびっくりする。

 

「……………それじゃあやるならそのハンマー持って」

 

簪に促されるままにハンマーを手にする。

 

「よーし、頑張るよ」

 

意気込んでハンマーを構える。

簪がコンソールを操作する。空中にカウントが表示される。

そしてゲーム開始のカウントダウンが始まる。

 

身構える翔介。

 

 

『GAME START!』

 

 

その表記と同時に穴の中からモグラが現れる。

翔介は出てきたモグラにハンマーを振り下ろす。しかし、ハンマーが当たる直前でモグラが引っ込む。

 

「あら、惜しい」

 

「も、もう一度…!」

 

気を取り直して、もう一度構える。

ひょこッと次のモグラが現れる。すかさずもう一度ハンマーを振り下ろす。

すぐに引っ込むモグラ。

 

「………」

 

出てくるモグラ。ハンマーを振り下ろす。引っ込むモグラ。

モグラ、ハンマー、逃げるモグラ。モグラ、ハンマー、逃げるモグラ……。

 

そして無常なる『GAME SET』の表示。

 

翔介のスコアは『ゼロ』

 

「………………」

 

「………………」

 

簪をジッと見つめる翔介。

フイっと視線を背ける簪。

 

明らかな…明らかな作意を感じる。

 

「アッハッハッハ! 残念だったね」

 

梢が心底楽しそうに笑っている。

ゲストが楽しんでくれているのは良い事だが、かなりみっともないところを見せてしまった。

 

「ほらほら、切り替えて次のゲームに行こう」

 

「う~…」

 

梢に促されてトボトボと次なるゲームへと移動していった。

去り際に梢がチラリと簪に笑みを浮かべた。

 

 

 

少し、いやかなり大人気なかっただろうか。

だが悪いのは翔介だ。確かに文化祭が始まったら自分のクラスの出し物に遊びに来てほしいとは言った。

言いはしたが女性連れで、とは一言も言っていない。

いや、別に翔介が誰と来ても簪には関係ないのだが。うん、関係ない。

 

 

関係ない、はずだが。

 

 

どうにも釈然と、すっきりとしない。

翔介と一緒にいた女性。知らない人物だった。彼の従姉たちとも違う全く知らない人間。

何故だか妙に彼と仲が良く、距離が近い。

どうにもモヤモヤする。

それに去り際に自分をチラリと見て笑っていた。その笑みは簪を揶揄っている訳でも、嘲笑している訳でもないように見えた。

こちらの心の内を見透かすような、それでいて微笑ましいものを見るような。どこか姉である楯無を思い起こさせる。

 

それが逆に心をモヤモヤさせる。

どうしてこんな気持ちになるのかさっぱりわからない。

 

わからないが、どうにも切ない気持ちになる簪だった。

 

 

 




本日はここまで。

ウルトラマンデッカー、5話まで毎週楽しみに見てます。
毎回1話完結でとても見やすく、面白いですね。
最近では何かと不幸な目に遭いがちなエレキングも今回ではしっかりと幸せな結末で良かったです。
今後の展開がとても楽しみですね。
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