インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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90話

「うぅぅ……」

 

翔介が一年四組のゲームセンターから出てくる。

あのモグラ叩き以降、他のゲームに挑戦するもその度に簪が立ちはだかりことごとく跳ね返されてしまった。

 

あの子はどうして文化祭の出し物であそこまで本気を出してきたのか。

いや、そもそもあの難易度だったのは自分だけだったような? 他の招待客は割とソコソコな難易度で楽しんでいたような?

 

「あっはっはっは! 最高難度だったね!」

 

同行者である梢本人は凄く楽しそうである。

楽しんでもらえたなら何よりではあるのだが格好が付かなすぎる。

 

「すいません…」

 

「いやいや、見てて本当に楽しかったよ」

 

目に涙を浮かべるほどに笑っている梢。

推している歌姫にこんなに笑ってもらえて良かったような、悪かったような。

 

「あ~、笑った笑った。さて、次はどこに行こうか?」

 

「次ですか。それじゃあ…」

 

次の目的地を探すためにパンフレットを開いていると。

 

「あ、いたわね。翔介君」

 

「お師匠さま?」

 

廊下の先から楯無がこちらに向かってくる。

 

「探したわよ。携帯にも電話したのよ?」

 

そう言われて翔介は自分の携帯を取り出す。確かに楯無から何度か着信があったようだ。

 

「ごめんなさい、気付かなく…何か用事がありましたか?」

 

「虚ちゃんから連絡があったのよ。企業の人たちに囲まれたって聞いたのよ。しかもその後連れられて行っちゃったていうから」

 

それでわざわざ探しに来てくれたようだ。

普段はからかってくるが、こういうところは面倒見がいいのだ。

そして楯無は翔介の隣に立つ女性に目を向ける。やや警戒してるように見えるのは虚からの報告のこともあるからだろう。

 

「翔介君、彼女が生徒会長の?」

 

「はい、更識楯無会長です」

 

「そうか、それならいいかな」

 

そう言って梢は楯無の前で帽子とサングラスを少しだけずらす。

現れたのは歌姫の素顔。

 

「なっ…!」

 

流石の楯無も驚きの表情を見せる。まさかサプライズゲストが校内を変装して見学しているとは思わなかったのだろう。

翔介も想定もしていなかった。

 

「連絡もなしに来てごめんね。だけどIS学園の文化祭なんて見学する機会もほとんどないからどうしても見てみたくて。あ、招待状に関してはちゃんと正規で貰ってるから心配しないで」

 

そう言いながらすぐにサングラスと帽子を戻す。素顔を見せたのも本当に一瞬のため周りにバレることはなさそうだ。

楯無が驚きの表情のまま翔介に視線を向ける。

 

「ど、どういう事なの?」

 

「僕もさっぱりです。でも助けてくれて、そのまま案内することに…」

 

「あっはっは、お陰で楽しく回れたよ」

 

そう言ってにこやかに答える梢。その自由度はもはや楯無を越えている可能性がある。

 

「そうだったのね…それならこのまま案内をって思ったけど。翔介君はそろそろ生徒会の仕事の時間だったから」

 

「あ…そうですか…」

 

どうやら夢のような時間も終わりのようだ。

色々と気が休まらないことも多かったが、いざ終わりの時間が来るとなれば物寂しい気持ちになる。

それでも生徒会の仕事があるのであれば仕方ない。楯無や虚、それに他の生徒たちもそれぞれ文化祭でやるべき仕事をしているのだ。自分もずっと遊んでいるわけにもいかないだろう。

 

「そうだったんだね。それなら私も見学はここまでにしようか」

 

「すいません。もっとゆっくり観て行っていただきたかったのですが」

 

楯無が謝る。それに対して梢も手を振る。

 

「いいよ、十分楽しめたから。ああ、その代わり最後に少しだけ彼の時間をもらってもいいかな?」

 

そう言いながら梢が翔介を見る。翔介は楯無に視線で確認を取ると、首肯で答えてくる。どうやらそれくらいの時間は貰えるようだ。

 

「それじゃあゲートまでお願いしていいかな?」

 

「は、はい!」

 

「それじゃあ終わったら生徒会室まで来てね」

 

楯無に見送られながら二人はゲートへと向かっていった。

 

-------------------------------------------

 

今だ賑わいを見せている文化祭中の学園内を抜けて、翔介と梢は最初に出会ったゲート前へと戻ってきた。

初めはまた囲まれるのではと警戒もしていたが今は企業関係の招待客はいないようだ。元々この学園には一夏や翔介以外にも注目するべき生徒は多い。今はそちらに行っているのだろう。

 

「ここまででいいよ」

 

少しゲートから離れた場所で梢がくるりと翔介の方へと振り返る。

 

「今日はありがとうね。お陰で楽しかったよ」

 

「いえ、もっと案内したかったですけど」

 

かなり情けない姿を見せたので正直忘れてほしいところもあるが、一人のファンとしてはご褒美以外の何物でもないが。

 

「本当にIS学園は楽しい場所だね。私にはISの適性はなかったからこんな形で来れるとは思わなかった」

 

そう言いながらどこか羨ましそうな視線で学園を見渡している。

すっかり忘れていたが、男性は言わずもがなとして全ての女性にISの適性があるわけではない。適正者ばかり、それも実力者ばかりに囲まれているから忘れがちではあったが。

ISが普及するようになってから全国的にも適性検査が行われたが、当然ながら適性がある者もいれば適性のない者もいる。ちなみに従姉二人は適性が合ったもののIS学園の試験は受けなかった。二人ともISには興味は示さなかったのと他に目標があったためのようだ。それと、単純に可愛い従弟を放っておけなかったというのもあるようだがそれは当の翔介は与り知らないところである。

 

「若いとは素晴らしいね」

 

若いと言っても梢本人も十分若者に値する年齢ではあるが、それでも高校生という年齢は十分若いといえるのだろう。

 

「さて、道野翔介君」

 

改めて名前を呼ばれる。

 

 

 

「君はこの学園生活は楽しいかい?」

 

 

 

この質問をされるのは何度目だろうか。

問い質されるたびに思い返されるのはこれまでの思い出。楽しい思い出も、苦しい思い出もたくさんあった。大半は大変な思い出しかないが。

 

「はい!」

 

何度問われてもそれだけは胸を張って言える。

 

「そっか。それなら良かった」

 

サングラスの奥の目が優し気な表情を浮かべる。

 

「君は多くの人と繋がりを持っている。その繋がりは絶対に守る事だよ」

 

「…僕に出来るかな…僕一人の力なんかで…」

 

どんな時も誰かに助けられてきた。これまでの半年間いつだって誰かに助けられながらどうにか今日までやってこれたのだ。友達を救うことができたのもいつだってウルトラマンの力があったからだ。

言ってしまえば周囲に、そして運に恵まれていたに過ぎない。

 

「そんなことはないさ。例えか弱い力だったとしても、君がいたから変えられたこと、動かせたことだってあるはずだよ」

 

梢の手が翔介の頭に置かれる。

まるで母親が子供をあやす様な仕草だ。

 

「あの…梢さんはどうして僕にそんなに…?」

 

優しくしてくれるのだろうか。

ファンに対する優しさや彼女の人の良さとも違う、何か別のものを感じる。

お世辞でもなく、心からそう思っているのも彼女の言葉から感じられる。

 

「…若い子には助言をしたくなるのさ、大人はね」

 

そう言いながら手を下ろす。

何かはぐらかされているようにも思えるが。

ふと梢の携帯に着信が入る。それをチラリと見ると。

 

「どうやら迎えが来たみたいだね。それじゃあ私は行くよ。明日のライブ楽しみにしていてくれ」

 

歌姫は最後に彼の肩をポンと励ますように叩くと、ゲートを抜けていくのだった。

 

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ゲートを抜けて、IS学園前駅まで歩いていく。多くの人々と行き交う中、堂々と往来の真ん中を歩いていく詩月梢。

一度正体がバレればたちまち囲まれてしまうだろうが、変にコソコソする方がバレる確率は多いため、いっそ堂々とした方が身バレしないというのは彼女の長年の芸能生活で学んだものだ。

正直梢としては身バレしてもいくらでもファンサービスは断らない派ではあるが、今ここでバレれば学園側に迷惑がかかるだろうし、何より次の日のサプライズゲストの件が台無しになってしまう可能性もある。

ファンの期待を裏切らない。それが彼女のモットーだ。

 

細心の注意を払いながら駅前に到着すると、駅前の駐車場に車が一台止まっている。梢はそのまま車に近づき、その後部座席に乗車する。

 

「お待たせ、丸さん。急にわがまま言ってごめんね」

 

「やれやれ、いくら変装しているからと言って大勢の人がいる中に一人で行くのはあまり感心しないですよ」

 

運転席に座る中年の男性。丸さんこと、丸山浩二。詩月梢がデビュー前から二人三脚で芸能界の荒波を潜り抜けてきたマネージャーだ。

何かと型破りなことをしがちな梢の行動に毎回肝を冷やしながらも助力してくれる彼女の頼れるパートナーだ。

今日の文化祭へのお忍び訪問も彼が抑えていてくれた関係者用の招待状を使用してきたものだ。

 

「あっはっは、ごめんごめん。はい、お土産」

 

ごめんと言いながらもあまり反省の色がない梢は笑いながら文化祭での出店で買ったたこ焼きを差し入れる。

 

「もう…それでどうでした?」

 

「どうって?」

 

「楽しめましたか?」

 

呆れながらも問い掛ける丸山に梢は二ッと笑う。

 

「ああ、楽しめたよ。会いたい子にも会えたからね」

 

「会いたい子…確か道野翔介君、でしたっけ? もう一人のIS男性操縦者の。珍しいですね、梢さんがそこまで特定の人に入れ込むの」

 

「そうかな?」

 

「ええ、梢さんはファンやお偉方への対応は完璧ですけど、そこまで特定の誰かに対して興味を示すことはあまりなかったじゃないですか」

 

「その言い方だとまるで私が人に興味がないみたいな言い方じゃないか」

 

丸山の言葉にやや不機嫌な表情を浮かべる。彼女としては全てのファンも業界人も一律に大切にしているつもりなのだが。

 

「いえいえ、悪いという意味ではないですよ。でもほら、あなたは今まで大勢の歌姫であることを是としていましたから」

 

自分のファンに貴賤も上下もなし。自分を応援してくれる人たちは誰もが大切な存在である。それは詩月梢の揺るがない信念だった。

だが、だからこそ全ての人を同様に扱うことはあっても誰か特定の人に興味を向けることがなかったのも確かではあった。

 

「やはり世界に二人しかいないとなると気になりますか?」

 

「あっはっは、そんなんじゃないですよ」

 

梢はそう言いながら車窓から遠くに見えるIS学園を見つめる。今頃、生徒会の仕事で慌ただしく働いている頃だろうか。

 

「強いて言うなら…彼に背中を押してもらったんですよ」

 

「背中を? どういうことです?」

 

タコ焼きを頬張りながらバッグミラーからこちらを見てくる丸山。

 

 

 

「…………秘密」

 

 

 

梢はそう言って悪戯っ子のように笑みを浮かべた。

 

歌姫として歩み続けていた自分が初めて足を止めてしまったあの時。自分の可能性を試したいと思いながらも、及び腰になってしまっていたあの時。

彼の一言が背中を押してくれた。

 

 

『やりたいことに真正面から向かっていくカッコいい大人』

 

 

あの少年は自分に自信がまだ持てていないのだろう。でもあの少年は知らない。間違いなくここに一人。彼に力を、勇気をもらった者がいることを。

 

 

「あの子は良い男になるよ、きっと」

 

 

詩月梢、改め木ノ崎奏は頬杖を着きながらそう呟いた。

 

 




本日はここまで。

次回からは文化祭編クライマックスに向かっていきます。


前回の更新からお気に入り登録やしおり、そして評価が信じられない伸びをしてウルトラびっくりしております。
お盆休みの時期で丁度よかったのだろうかぁ。

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