インフィニット・ストラトス -光の約束-   作:メビネク

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91話

衝撃的な歌姫の訪問から一日が経った。

今日は文化祭二日目。前日と同じように今日も多くの招待客で賑わっている。

文化祭最後のステージでは詩月梢のサプライズライブが待っている。

詳細は他の生徒たちには伏せられており、それを知っているのは生徒会メンバーと教師陣のみだ。

生徒会メンバーである翔介からしたら前日の突撃訪問から既に心穏やかではないが。

 

「それじゃあ翔介君。あと一時間でゲストが到着するからエスコートお願いするわね」

 

「は、はい」

 

「そこまで緊張する必要はないでしょ? 昨日も会ったのだから」

 

「そ、それはそれなので…!」

 

前日にまさかのプライベートエスコートをした訳だが、それとこれとはまた別。相手が相手なだけに緊張するなという方が無理な話である。

一ファンとなれば尚更だ。そんな彼の心情を知ってか知らずか楯無は笑みを浮かべる。

 

「大丈夫よ。あなたは彼女のお気に入りみたいだし」

 

「お気に入りなんて…」

 

「大勢のファン中の一人であるあなたの名前を知ってて、しかもお忍びで文化祭に来てわざわざあなたを案内役にしたのに?」

 

そんな対応を任されるのにお気に入りでない訳がないだろう。なまじお気に入りとまではいかなくても好意的でなければそんなことは頼まない。

 

「それに当日のエスコートの立候補したのは翔介君でしょ? ソワソワしないで頑張りなさい」

 

「は、はい!」

 

楯無の叱咤にまだ緊張色濃い様子だが、気合を入れ直す翔介。

それにしても本当にどうして翔介だったのだろうか。楯無の脳裏に浮かぶ疑問。確かに翔介は世界でISを動かせるただ二人の男性だ。顔出しこそしていないものの、名前自体は広く知れ渡っている。

だとしても、あくまで一ファンである彼に対してそんなにも好意的に慣れる物だろうか。それともどこか別の場所で出会ったことがあるのだろうか。

 

「あ、お師匠さま」

 

ふと翔介に声を掛けられる。

 

「こず…ゲストが来るまで何か仕事でも…」

 

「駄目よ。ゲストが来た時に仕事が詰まってたら申し訳ないでしょ。それに昨日からもずっと今日の段取りで休んでないでしょ? 丁度いいから一時間だけゆっくり過ごしなさい」

 

手持ち無沙汰にならないように何か仕事をしようとする翔介に楯無がぴしゃりとストップをかける。

弟子がワーカーホリックになってしまわないようにするのも師匠の役目。

 

「で、でも…」

 

「やることは全部やった。準備も段取りも何度も見直した。急なトラブルが起きたらそれに落ち着いて対処すればいいの。だから今は休むこと」

 

何より、と続ける。

 

「あなたが頑張って走り回った文化祭なのだから。あなたも楽しまなきゃダメじゃない」

 

小さい子供に言って聞かせるような、普段から姉である楯無からすれば弟に言い聞かせるように語り掛ける。

それには翔介も納得したのかそれ以上何か仕事を、と続けることはなかった。

 

「………だったらお師匠さまもじゃないですか?」

 

「…………」

 

「シークレットライブとか、あのイベントとか、色々な手続きは全部お師匠さまが引き受けてくれたじゃないですか。一番働いてたのは間違いなくお師匠さまですよ。昨日はお師匠さまだってほとんど休みなかったし」

 

「私は~…ほら、この後のこともあるし」

 

まさかのカウンターに目を泳がせる楯無。

すると。

 

「良いじゃないですか。道野君の言うとおりですよ」

 

「虚ちゃん!?」

 

「会長。休みなく仕事をしているという事なら間違いなく会長がオーバーワークです。丁度いい機会ですから道野君と一緒に休憩してきてください」

 

そう言いながらタブレット端末を操作する姿は出来るキャリアウーマンのようだ。いや、学生ではあるが既にやり手なのは間違いない。

 

「で、でも虚ちゃん? この後の一夏君メインのイベントの最終確認を…!」

 

「準備も段取りも何度も見直しました。急なトラブルには落ち着いて対処すればいい、ですよね?」

 

「うぅ…!」

 

つい数分前の自分の発言がそのまま返ってきた。言った本人がそれを反故にするわけにはいかない。

 

「分かったわよ…」

 

「それではお二人とも一時間後には戻ってくるように」

 

「わかりました」

 

虚に見送られながら渋々と言った様子の楯無と一緒に翔介は今日も賑わう校舎に向かっていった。

 

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一時間の休憩をもらった二人はクラス出し物のカフェの中にいた。ちなみにここは和装を主体とした和風喫茶となっている。

文化祭の出し物の中でも競争率の高かった喫茶店の中でも人気の出し物だ。

 

ちなみにゲーム系の出し物は楯無が軒並み制覇してしまうため出禁になってしまったとか。そのクラスに入ろうとした瞬間にやんわりと追い返された。

その為は入れるのが喫茶店のような模擬店や展示系のものしかなかった。

それでも十分楽しめている辺りIS学園の文化祭のレベルの高さがよくわかる。

 

「お待たせしましたー! 抹茶フラペチーノお二つです」

 

そう言って持ってきたドリンクを和装をした生徒が置いていく。和風と言いながらもメニューは結構今時である。クリームもモリモリである。

それを二人で飲む。窓側の席から見える校門からは今日も大勢の人が訪れている。

 

「もう…虚ちゃんめ」

 

まだ納得していないのかブツブツと言いながら抹茶フラペチーノのストローを咥える。

それを宥める翔介。

 

「まあまあ」

 

「虚ちゃんも強引よ。私は生徒会長として文化祭が成功する様に気を付けないといけないのに…」

 

文化祭はIS学園の生徒全員で作り上げた文化祭。まかり間違っても問題が起こってはいけない。生徒たちの長として文化祭の成功のために気を張らなければならないのだ。それが彼女の責任なのだから。

 

「確かに僕たちは生徒会だから色々気を付けないといけないですけど…」

 

翔介も抹茶をくるくると混ぜながら一口。

 

「だけど、僕は楽しいですよ」

 

「楽しい?」

 

「こうやってお師匠さまと二人でゆっくり話すのってあまりなかったから」

 

入学当初から翔介の師匠としてISの指導を行ってきた楯無だが、よくよく思い出してみればISも何も関係なく二人きりで談笑するという経験はあまりなかったかもしれない。二人きりで出掛けたと言っても科特研だったりとやはりIS関連。良くて詩月梢のライブに出掛けた時くらいだろうか。

 

「……まあ、そうね」

 

ゆったりと抹茶フラペチーノクリーム盛を飲む翔介を見ながら、やがて諦めたように自身も飲み物に口を付けながら、窓の外を見る。

見渡す限りの人、人、人。どの人もみんな笑顔だ。それだけでも今年の文化祭を楽しんでもらっているのが分かる。

準備をしてきた文化祭が笑顔で包まれている様子を見れば楯無の苦労も報われる。

勿論、大変だったのは楯無だけではなく、自分以外の生徒会役員、そして生徒全員だ。だからこそ生徒も招待客全員も楽しんでいる光景は彼女にとって何よりの報酬だった。

 

そしてそんな時にふと目の前のフラペチーノのクリームに苦戦している少年に聞いてみたいことができた。

 

「翔介君」

 

「はい?」

 

「今、楽しい?」

 

唐突な質問にグラスを傾ける手が止まる翔介。

 

「今って文化祭ですか?」

 

「それもあるけど…今日までの学園生活よ」

 

つい先日も同じ質問をされた気がする。

そんなに自分は苦労しているように見えるのだろうか。

いや、苦労はしているのだろう。

 

何度聞かれても思い出される修羅場、修羅場、修羅場。

本当によくここまで五体満足でいられたものである。

 

それでも答えはいつも同じ。

 

「楽しいですよ。大変なこともあるけど、毎日色んなことがあって。一日一日出来ることが増えていくみたいな」

 

小さな事だとしてもできることが増える。それが翔介にとっては日々の彩りとなっていた。

 

何よりも。

 

「やっぱり初めて空を飛んだ時。あの時、本当に楽しいって思えました」

 

クラス代表決めの試合の土壇場で大空に飛び出したあの時の景色は今でもよく覚えている。

 

「……そう」

 

「お師匠さまのお陰ですよ?」

 

「え?」

 

「お師匠さまがいつだって真剣に訓練をしてくれたから僕は空も飛べるようになったんですよ」

 

少し手加減をしてほしい時もあるけど、と苦笑する翔介。

 

「だから」

 

 

 

「ありがとうございます。お師匠さま」

 

 

 

真っ直ぐな感謝が自分に向けられている。

何故だか文化祭の喧騒が聞こえなくなっていく。ただ目の前の少年の言葉だけが妙に耳に残る。

 

「……ねえ、しょうす…」

 

楯無が声を発する直前、翔介の携帯が鳴る。チラリとそれを確認する翔介。

 

「あ、布仏先輩からです。そろそろ時間みたいなので僕先に行きますね」

 

「え、ええ…」

 

そう言うと楯無に一礼して教室を出ていく。

その背中を見送る。姿が見えなくなると先程まで聞こえなかった文化祭の賑わいが戻ってくる。

 

やがて楯無は一人、抹茶を飲みながら頬杖を着いて窓の外を見る。

最近、どうにも突発的に思考が揺らぐ時がある。まるで自分の中にもう一人の自分がいてそのもう一人の自分が急にコントロールを奪ってくる。

 

「私、何を聞こうとしたのかしら」

 

誰に言うともなく、楯無の言葉は喧騒の中に消えていった。

 

 




本日はここまで。

またまた期間が開いてしまいましたが、こんな感じでちょこちょこと交信できればと思います。


ここ数年の円谷プロの快進撃が止まらず、嬉しい私。
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