世界を終わらせるもの【完結】   作:畑渚

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お待たせ(誰も待ってない)
シリアス長編、頑張っていきます!


prog_EndTheWorld

「はは……はははっできた……」

 

 暗い研究所内で男は笑う。

 

「いや、できてしまったと言ったほうがいいな」

 

 男の目の前に広がるディスプレイには、膨大な量のシミュレート結果が表示されている。

 

「こうしてはいられない。おい、アレをもってこい」

 

「はい、かしこまりました」

 

 メイド服を着た自律人形がかばんを一つ持ってくる。男が慎重に中を開くと、補助記憶装置が顔を見せる。

 

「接続は……良し、コピー開始……」

 

 エンターキーを押すと進捗状況を表すダイアログが現れる。データ量が重く、数百時間はかかりそうだった。

 

「ご主人様、データの完成が三方向からのハッキングにて察知されました」

 

「早いな……」

 

 男は冷めたコーヒーを飲み干して、緊急用と書かれたナップザックをからう。

 

「ご主人様、無線信号帯に動きがあります。通信規格は軍と鉄血と……」

 

「なんだ、どうした」

 

「いえ。もう一つはグリフィン&クルーガーという民間軍事会社のものです」

 

「PMC?調べてくれ」

 

「はい。該当データを表示します」

 

 壁を埋め尽くすほどの画面の一つが、企業の情報を表示する。

 

「なるほど、鉄血と戦ってるところか。引き続き無線を監視しておけ」

 

「了解しました」

 

 デスク上の端末とにらめっこし始めた人形を横目に、部屋の荷物を片っ端から袋へと詰め込んでいく。

 それは誰がどう見ても、夜逃げの準備だった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 データ移行の進捗を示すバーはようやく半分を超えた頃だった。メイド服の自律人形が静寂を破った。

 

「ご主人様、鉄血の通信規格での無線の動きが活発になってきました」

 

「さすがに早いな。予測ではあと数時間はかかると思っていたが」

 

「どうなさいますか?」

 

「偵察ドローンを出せ。それと軍と件のPMCに救難信号もだ」

 

「了解しました」

 

 画面にドローンからの空撮映像が映し出される。監視網は十分だった。カメラのハッキング対策も万全で、いつ襲撃が来ても察知することが可能だ。

 

「ところでなんだが……」

 

「なんでしょう?」

 

「君は戦闘用のコアを積んでいたりするかな?」

 

「いえ。私は雑務専門の自律人形ですので」

 

「だよねえ……困ったな」

 

「……ご主人様、まさかとは思いますが戦闘用の自律人形がいないのですか?」

 

「ああ、そのまさかだよ。他の連中がここを抜けていくときに全部引き抜いていったからね」

 

「私……がんばります」

 

「そうしてくれるとありがたいね」

 

 自律人形は机の裏のボタンを押す。すると壁の一部が裏返り、たくさんの銃器が出てくる。

 それは自分のご主人様が平時から集めていた”コレクション”だった。何度も自慢してくるので存在だけは覚えていた。

 

「ご主人様は銃の心得は?」

 

「あると思うかい?僕は根っからの技術者さ。運動が特別に苦手な……ね」

 

「期待した私が愚かでした」

 

「君さっきから辛辣じゃない?」

 

「気の所為でしょう。それより私はバリケードを作ってきますので」

 

「ああ、頼んだよ」

 

 自律人形が部屋を出ていってから、男は椅子に深く腰掛ける。軋む音は部屋のPCのファンの音でかき消された。

 

「まったく、非力すぎるのも考えものだな。機会があれば銃の訓練だけでもしておくべきかな」

 

 答える者は居ない。この研究所には、彼と自律人形の一人と一体しか、もういない。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 ようやく進捗が9割を超えた頃、ドローンが一機破壊された。最後に映った映像を解析し、それが鉄血によるものだと判明するのにそう時間はかからなかった。

 

「ご主人様、逃げましょう!」

 

「ああわかっているさ!だけどこのままにしていくのはもっとダメなんだよ!」

 

 シミュレート結果がフラッシュバックする。

 

「もしこれが流出すれば世界は終わる!これは人間のための最後の切り札なんだ!」

 

「いったい何を作ったんですか!?」

 

 そう会話している間にも、鉄血の部隊が研究所へと突入してくる。銃声や爆発音がすぐ近くから聞こえる。

 

「全人形が動かなくなるプログラム」

 

「すみません、銃撃音でよく聞こえなかったみたいです。ご主人様もう一度言っていただけますか?」

 

「だから全人形の動作を止めるプログラム!」

 

「はー!?ご主人様そんなことしたら人間滅びちゃいますよ!?」

 

 現代社会は人手不足を人形に依存してなんとかごまかしている。そんな人形が使い物にならなくなれば、食料供給さえままならなくなってしまう。

 

「だから流出させちゃいけないんだよ!」

 

「てか怖い!ご主人様怖い!私も動かなくなっちゃうじゃないですか!」

 

「そうだよ!そうならないためにも命がけで僕のこと守って!」

 

「こんなところで脅迫されるなんてほんとついてない人生でした」

 

「君は人形だけどね」

 

「ついてない人形生でした!」

 

 扉を勢いよく開けてクリアリングをする。幸いまだ目の前までは迫っていないようだ。

 

「ご主人様!あと何%ですか!?」

 

「あと3秒!2……1……0……」

 

 カウント後も男が動く気配はない。

 

「ご、ご主人様?」

 

「終了処理に時間がかかっているみたいだ」

 

「早くしてください!」

 

「よし、終わった。あとはこれを仕掛けて……」

 

「何を仕掛けてるんですか!?」

 

「何って爆弾だよ。データは物理破壊に限るからね」

 

「もう急いでください!目の前まで来てるんです!」

 

 通路の曲がり角から鉄血兵のものだろう影が迫ってくる。

 

「よし終わった!行こう!」

 

「援護します!」

 

 自律人形は銃を乱射して牽制する。こちらが銃を撃ってくるとは想定外だったのか、鉄血らしき影は少しの間停止した。

 

「さすがだな!」

 

「てきとうに撃っただけです!ほら行きますよ!」

 

 完璧なカバーリングをしながら進む自律人形を見て男は首をかしげる。

 

「……やけに手慣れてる気がするんだけど?」

 

「マニュアルを読んだんです!頭にインプットしてしまえばその動きを真似ることなんて簡単です!」

 

 身体は完璧な動きをしていても、顔の表情は険しい。

 自律人形は悟っていた。こんな付け焼刃の技術で戦術人形には勝てない。だから本格的に接敵した時が自分の最期である。

 

「ご主人様!ここの隠し通路から逃げてください!」

 

「わかった。いや待て、地下じゃ電波が届かないかもしれない」

 

 入り口で立ち止まって手元のスイッチを入れる。

 

 遠くから爆発音が聞こえる。大気が揺れるほどの爆音が男の鼓膜を震わせた。

 

 爆発音は徐々に大きくなっていく。それは爆発の規模が大きく、そして距離が近くなってきているからだ。

 

「よし!成功だ!」

 

 爆発を見届けながら男は通路の入り口をくぐった。

 

「ご主人様!危ない!」

 

 その声に男が振り向くと、自律人形が男を通路へと押してきた。

 

 次の瞬間、自律人形は頭を撃ち抜かれた。先程まで男の心臓があった位置に不運にも頭が来てしまった。

 それ故に、自律人形は男をかばって頭を撃たれた。

 

 男は通路へ人形を引きずりこむと、扉を閉めた。鉄製の重い扉はもうしばらくの間、男のことを守ってくれるだろう。

 

「ガガガ……ピー」

 

「おいしっかりしろ!」

 

 言語系がやられたのか、人間の理解できる言葉が自律人形の口から出てくることはなかった。

 

「はぁ、ここまでか」

 

 男が座り込むと、自律人形が服の裾をつまむ。

 

「ん?」

 

 自律人形はなにも発さなかった。ただ、その目は真っすぐに男を見ていた。

 

 自律人形は地面を指でなぞった。

 

「"生きろ"ねぇ。全く難しいことを言ってくれるなぁ」

 

 男は天井を見上げる。低い天井は圧迫感があった。

 

「"逃げて"じゃないあたり。僕は好きだよ」

 

 暗い通路の中にもかわらず、目には生気が宿っていた。

 男は立ち上がり、荷物を抱えて通路の奥へと走っていく。

 

 

 自律人形は伸ばしかけた手をもう片方の手で押さえつけ、側に落ちた銃を手に取った。

 

 本当に運が良かった。言語系と下半身の制御系は持っていかれたが、まだ上半身が動く。

 彼女にはそれで十分だった。上半身さえ動けば、銃を撃てる。銃さえ撃てれば、奴らに一矢報いる可能性がある。

 

 「ガーガーピー」

 

 声にならない声で、誰にも聞こえない言葉を叫ぶ。

 それがこの世の理不尽への叫びなのか、それとも敵への怒りか、はたまた最愛の人への告白なのか、知るものは彼女を除いて誰もいない。

 

 そしてその日、それを知るものは誰もいなくなった。




モチベーションにふかーく関わるので面白いと思っていただけたら是非反応下さい。投稿頻度が上がります。よろしくお願いします。
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