もう少ししたら落ち着く予定なので、それまではこの投稿頻度で許してクレメンス
強い雨音が屋根を打つ音が聞こえる。
「今日は雨か……」
男はボソリと呟いた。昨日の45の準備で徹夜していたため、今日の起床時間は昼を過ぎていた。
寝室には男の他にG11がいる。彼女は別のベッドで未だにスヤスヤと眠っている。
男は起き上がると、軽く伸びをする。ここ数日はベッドで寝ているおかげか、身体が痛むことはなかった。
下の階におりると、すでに45と416がダイニングにいた。45は端末をいじっており、416は銃の分解清掃をしていた。
「やあ45君に416君。おはよう」
「おはよう」
「おはようと言うには遅すぎるわ、こんにちはの時間よ」
45、416の順でそう挨拶を返した。
「ところで45君、今日は進むのかい?」
「いいえ。この悪天候じゃそんなに距離も稼げないでしょうし」
「すまないね」
「どうして謝るのよ」
45の問いに男は笑う。
「だって僕のせいだろう?君たちだけならどんな天候でも進めたはずだ」
「……否定はしないわ」
「すまないね」
「気にすることはないわ」
「そういえば9君はどこだい?」
男の問いには416が応えた。
「今見張りよ。次はG11なんだけど……」
「G11君ならまだ寝室で寝ていたよ」
「でしょうね、叩き起こしてくるわ」
416は機嫌を悪そうに階段を登っていった。
部屋には45と男の二人だけが残された。
「……その、昨日はごめんなさい。9から聞いたわ」
「ああ、その話かい」
男は椅子に腰を下ろした。顔がすこし強張っている。
「私、あなたがてっきり鉄血工造の人間だと思って」
「ははは、いやいいんだ。君の中をかき回すような真似をしたんだ」
「それに私、護衛対象に銃を向けたりなんて……」
「45君」
男が45の言葉を遮る。
「45君、こっちを見るんだ」
「いやよ……」
45は下を向いたままだ。
男は無理やり45の顔を上げさせる。その瞳はいつもより少し潤んでいるようだった。
「この際だから言おう。君の記憶を少し見させてもらったよ。確かに僕は鉄血工造形の人間じゃないが、君の大事な人を殺した原因にも関わっている」
「いったい何を――」
45の言葉を無視して男は話し続ける。
「だから僕を恨むのは見当違いでもないんだよ。君が姉を失ったのは僕のせいでもあるんだよ」
「どうして……なぜそれを?」
「言っただろう?記憶を見せてもらったと」
「そう……」
「いいお姉さんだったみたいだね」
「ええ、私にはもったいないくらいにね」
「……つらかっただろう」
「あなたに何がわかるっていうのよ」
「わかるさ」
男は立ち上がって窓から外を眺める。相変わらずの土砂降りの雨だ。
その左手にはめられた指輪が、照明をキラリと反射して45の瞳に映る。
「あなたも……?」
「ああ、僕が無力なあまりに、守りきれなかったのさ」
「もしかして人形に殺されたの?」
「そうだね」
「それでそのプログラムを?」
「それもあるね」
「それも?他にも理由が?」
「見たのさ。地獄をね」
「地獄?」
「これ以上は話したくないな」
「……わかったわ」
二人の間に沈黙が流れる。
「ただいま!っと、取り込み中?」
「おかえりなさい、9」
「9君、見張りお疲れ様。大丈夫、取り込み中というわけではないよ」
「そう、ならよかった。良い知らせと悪い知らせがあるけど、どっちから聞きたい?」
45は男の方を見る。男は視線に気づき、肩をすくめる。
「45君がリーダーなんだから、君が決めてくれよ」
「それじゃあ良い方からおねがい」
「うん、いい報告だね。あと数時間で雨が止みそうってことだよ」
「そりゃ良かった。雨さえ上がれば移動が再開できるね」
「ええ、そうね。それで悪い方は?」
「それがね、エリート級鉄血製人形の信号をキャッチしたよ。場所はわからないけど近づいてきてるみたい」
「……エリート級?たった一体で?」
45は不思議そうに首をかしげる。9の情報を疑っているわけではない。しかし、エリート級含む鉄血人形の集団であれば、9は集団だと報告するはずだった。
「それがすぐに通信を切られちゃってね。通信網の監視は続けてるけどアタリはいまのところなし」
「そう、引き続き監視をお願い」
「了解だよ!」
9が飛び出るようにして部屋を出ていったあと、45は深くため息をつく。
「どうしたんだい、幸せが逃げるよ」
「いいのよ。ため息で出ていってしまうくらいの幸せなんていらないわ」
45は通信機を起動して416とG11に指示をだす。
「移動するのかい?まだ雨は降り続いてるけれど」
「あなたを護衛するなら交戦は避けるべきよ。家の中を荒らした痕跡を消してないんだもの、いつここに現れるか知れたもんじゃないわ」
「そうだね、僕も荷物をまとめてくるとしよう」
男が寝室へと向かう寸前、45は男を呼び止めた。
「ちょっと待って」
「なんだい?」
「10分、いや5分で大丈夫かしら?」
「3分で準備してみせるさ」
その後、本当に3分で準備してみせた男のバッグは無駄に膨らんでいたのだった。
=*=*=*=*=
「おい、どうなっている!」
ゲーガーは怒っていた。指揮下にある人形たちはいつも以上にかしこまり、鉄血の犬ことダイナゲートですら機嫌を伺うほどにだ。
「くそっ、どうして私がこんな目に……」
机に拳をたたきつけても、誰も何も言わない。周りの人形たちはべつにゲーガーを癇癪をおこした面倒な上司とは見ていなかった。むしろ、同情すらしている。
「アーキテクト……帰ってきたら覚えておけよ……」
ゲーガーは拳を握り込む。上半身は怒りで小刻みにふるえている。
しかし下半身は、まるで電力が届いてないかのようにピクリともしていない。ゲーガーは今、司令室の椅子に腰掛けたまま身動きがとれずにいた。
それもこれもアーキテクトのせいだった。
数時間前、ゲーガーは通常命令よりも上の権限で下半身とのリンクを切られた。そして通信機能や指揮機能さえ無力化され、周りの部下には近寄れない上位命令が下された。
こうして怒る上半身人形が出来上がった。誰にも通信ができず、指揮下にあるはずの人形に助けを求めることすらできない。
そんな中、着信音が司令室に響く。
「はい、ゲーガーです」
「エージェントよ。……何をしているの?」
「実は……アーキテクトが」
「いえ、それ以上はいいわ。それよりアーキテクトの居場所をしってる?」
「はい、おそらくここから南西に進んだ方にある住宅地かと」
「わかっているならいいわ」
「このまま泳がせておけということですか?」
「ええ」
「そんな!アーキテクトは私にこんな仕打ちをしたんですよ!」
「うるさいわね、口まで動かなくされたいのかしら」
「うっ……すみません」
「とにかくアーキテクトはしばらく放置でいいわ、それよりアレの準備を進めておいて」
「承知しました」
一方的に通信が切られる。
部下からの生暖かい目を息苦しく思いながら、さっそく指示どおりに準備を進めようとする。
が、下半身は動かなかった。エージェントが命令を書き直してくれなかったのである。
その日の夜に散歩していたダイナゲートが司令室から泣く声が聞こえたという報告を、ゲーガーは翌朝にうけたのだった。
鉄血の中でゲーガーが一番好き
なのになぜ作品内ではひどい扱いをしてしまうのだろうか……