世界を終わらせるもの【完結】   作:畑渚

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新しいのもかいてます。よろしくおねがいします。
EIP―東諸国郡国際警察臨時特別捜査課―
https://syosetu.org/novel/193875/


Memory

「……遅いわね」

 

 45は時間を確認する。9と男の到着がずいぶんと遅いのだ。

 

 思わず通信機に手が伸びそうになる。しかし、今は探知されないように禁止令を45自身が出しているから意味はない。

 

「416?」

 

「私は無理よ」

 

 416はそう即答した。彼女は今、台所で夕食の準備をしていた。調味料や缶詰が豊富に蓄えており、416も張り切ってひさびさに料理に勤しんでいた。

 

「G11……はやめときましょう」

 

 今日の夜の見張り当番はG11だ。いまのうちに睡眠をとっておかないと、いつ見張り中に寝てしまうかわかったもんじゃない。

 

 

 45は重い腰を上げた。念のために装備と、それからホイッスルを持っていく。敵と遭遇したときに鳴らすためだ。

 

「いってらっしゃい45」

 

「はあ……いってくるわ」

 

 416に見送られて、45は家から出ていった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 そこには少女が倒れていた。服はボロボロに破け、装備もガタがきているようだった。

 

 その少女は、ピクリともしない。

 

 

 45はその交差点の真ん中で倒れる少女に近づいていく。

 

「まさか本当に接敵するとはね」

 

 ピクリとも動かない少女は、45と似ているパーカーを着ている。

 

「まったく、迂闊だった」

 

 45は頭を抱える。踵を返し、少女から離れていった。

 

 最高出力で走って先程の家へと戻る。G11を叩き起こしながら、荷物を詰め込む。

 

「45、どうしたのよ突然」

 

「416、またよ」

 

「また?」

 

「攫われたわ。それと9が殺られていたわ」

 

「9が!?」

 

「落ち着きなさい。殺られていたのはダミーよ」

 

「はぁ。それでオリジナルの9は?」

 

「通信封鎖中でわからないわ。でも9なら追ってるはずよ」

 

「つまりは私たちも行方を追って現地で合流ってことね」

 

「話が早くて助かるわ」

 

 416はエプロンを脱ぎ去り、瞬時に装備を整える。

 

「準備はいい?416」

 

「私を誰だと思っているの?当たり前よ」

 

 そこにG11もあるいてくる。

 

「……間に合うといいのだけど」

 

「間に合う?間に合わせるのよ」

 

 45の不安そうな声に、416は手の中の物を投げ渡した。

 

「これは……車のキー?」

 

「この家の持ち主に感謝ね。エコな電気自動車よ」

 

「電気なら……なんとかなりそうね」

 

 45はキーをぐっと握りしめて、車を見上げた。しっかりと整備されている車は、まるで誰かを乗せたがってるかのように見えた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「ねえパパ、起きてよ」

 

「ん……ここは……」

 

 男が目をさますと、手足を縛られた状態で椅子にくくりつけられていた。目の前にはテレビの画面がある。

 

「拷問かなにかかい?」

 

「ん~」

 

 アーキテクトはしばらく悩んだような声を出した。

 

「パパにとってはそうかもしれないね」

 

「僕にとっては?」

 

「蝶事件のときに私がどこにいたかわかる?」

 

「……しらないな」

 

「それ、嘘でしょ。本当は私がどこにいたのかも、そしてこれから私が何をするつもりかも見当がついてるんでしょう?」

 

 そう言ってアーキテクトはテレビの電源を入れる。そこにはどこかの監視カメラ映像が写り込んでいる。左上の日付は、蝶事件が起きたあの日ものである。

 

「なあ、やめてくれないかい」

 

「だ〜め。ほら目をそらしちゃだめだよ」

 

 アーキテクトは男の顔を両手ではさみ、顔をテレビに向かせる。

 

 男には見覚えがある光景だった。当たり前だ。つい先日まで彼は、この映像に映る施設の中にいたのだ。

 

 

 

 

『ねえ、私たちの子供の名前を考えましょうよ』

 

 カメラの向こうに映る女性はそう言った。しかし身ごもっている様子はない。彼女の目の先には、画面がある。男は、その画面に映るのが人形のフルスケールシステムであることを知っていた。

 

『それはきっと彼女の持ち主が決めてくれるさ』

 

『でも、私たちだけの秘密の名前があったら面白いと思わない?』

 

『それもそうかもしれないが』

 

 普通の会話だった。仲睦まじい夫婦が映っているだけだ。解像度が低くて判別できないが、二人が同じデザインの指輪を左手につけていることを男は知っていた。

 

「もうやめてくれ!これ以上は見たくない!」

 

 男の悲痛な叫びを、アーキテクトはダメの一言で打ち消す。

 

 映像が一瞬乱れる。その瞬間、爆発音が響き、音が割れる。

 

『ちょっと!なによ!』

 

『襲撃だ!』

 

 画面の向こうの男は女性の手を引き、廊下を駆ける。男の行く手を人形が遮るが、それを別の人形が撃ち抜く。

 目の前の人形を倒した次は、照準を男へと向ける。

 

『逃げろ!』

 

 男は女を突き飛ばし、人形にタックルする。アタリどころが良かったのか、人形は動かなくなった。

 

『こっちよ!』

 

 女性が男の手を引く。

 

『他のメンバーはどうしたのかな』

 

『きっと無事よ。それよりアレを見て』

 

 女性が窓の外を指差す。

 

『アレは……正規軍か!よかった助かった』

 

『……そうとも言えないみたいね』

 

『ん?どうしてだい』

 

『だってアレを見て。戦車の砲がこっちを向いて……伏せて!』

 

 女性が男を押し倒す。と同時にカメラの映像が爆音と共に途切れる。マイクだけは生きているようで、音声だけが流れる。

 

『おい!しっかりしてくれ!』

 

 しかし、コヒューという空気の漏れる音しか聞こえない。女性の返事はない。

 

『ちくしょう!血が止まらない!』

 

 バタバタという足音が近づいてきても、男はその場から離れなかったようだった。断続的に、女性に呼びかける悲痛な声がスピーカーから流れてくる。

 

『正規軍だ!IDを提示しろ!』

 

『それどころじゃない!衛生兵はいるか!』

 

 別の声に、男はそう怒鳴り返した。

 

『私が衛生兵だ』

 

『助けてくれ、彼女が怪我を負った!』

 

『見せてみろ……残念だがもう……』

 

『お願いだ!処置してくれ!』

 

『……無理だ』

 

 ガツンと何か硬いものを殴った音が聞こえる。

 

『あんたらの攻撃で彼女は怪我を負ったんだぞ!』

 

『きさま!今すぐ両手を上げて投降しろ!』

 

『そうやって銃を突きつければなんでも言うことを聞くと思っているのか!』

 

『落ち着け!両手を上げて頭の後ろに!』

 

『うるさい!どうせ……こんな世界!』

 

 男のその声を最後に、銃撃音が響き渡る。しばらくしてその音が止んでも、正規軍らしきものたちの音だけが残っている。

 

『逃げたか……。おい衛生兵、そこの女を連れて行くぞ』

 

『何をする気ですか』

 

『これは命令だ。内容を知る権利はない』

 

『……了解』

 

 

 

 

 突如、プツンとテレビが消える。

 

「さてパパに問題です。私はどこにいたでしょう?」

 

「もう……やめてくれ……」

 

 再生回数が二桁を超えたあたりから、男は数えるのを辞めた。限界だった。大切な者を失った瞬間を何度も見せられるのは、精神的な拷問だった。

 

「ねえ、そろそろこたえてよ~」

 

「……わかった。君は僕とあの人が作ったAIだろう?これで満足かい?」

 

「は~い大正解!」

 

 アーキテクトは無邪気に嗤う。

 

「いや~やっと正解だね。長かった~」

 

「それで、その言葉を聞いて何をしたいんだい」

 

「ん?何もないよ」

 

「どういうことだい」

 

「別に、娘が親と一緒の時間を過ごすのに理由なんていらないでしょ?」

 

「それだけかい?」

 

「うん」

 

 アーキテクトは笑顔を浮かべる。邪心なんてものはそこに含まれてない。

 

「っと長居しすぎちゃったか~」

 

 次の瞬間、扉が荒々しく開かれる。

 

「動かないで。この距離なら外さないわ」

 

「たしか……HK416だっけ」

 

「知られているなんて光栄ね」

 

「アーキテクトちゃん、油断は禁物だよ!」

 

 アーキテクトはその場から大きく飛んで離れる。先程までアーキテクトが居た位置に、上から銃弾が突き刺さる。

 

「う~ん素早いなぁ」

 

 天井裏からは9と、続いて45も降りてくる。

 

「さて、アーキテクト。チェックメイトよ」

 

 45は捕縛用のロープを取り出した。

 ジワリジワリと、距離を詰めていく。窓の外から伸びてきている赤外線は、アーキテクトの動きを制限する。赤外線の主は今頃、スコープ越しにアーキテクトの急所を捉えているはずだ。

 

「まあ詰みかな~」

 

 アーキテクトは嗤いながら両手を上げる。

 

「お手上げだよ。私はもうなんの抵抗もできない」

 

「そうね、物分りが良くて助かるわ」

 

 45の言葉に、アーキテクトはニヤリとわらった。

 

「言ったでしょ、”私は”って」

 

 次の瞬間、高速で何かが部屋の中に飛び込んでくる。

 

「待ってたよ~」

 

「アーキテクト、次やったら基地の椅子に縛り付けるから」

 

「許してくれるあたり優しいな、ゲーガーは!」

 

「うるさい、帰る」

 

 ゲーガーがアーキテクトの首根っこを捕まえて、窓を叩き割る。

 

「じゃあねパパ。また機会があったら会おうね!」

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

 416が急いで撃つが、何かに阻まれてダメージを与えられていない。ゲーガーに当たる前にナニカに弾かれている。

 

「416君!今すぐ横に飛べ!」

 

 反射的に416が飛ぶと、さっきまで416が居た場所をゲーガーは高速で通り過ぎていく。ブレードでえぐられた床は、もし416が居た場合の未来を予知させた。

 

 その勢いのまま、ゲーガーは窓から飛び出していった。

 

「逃しちゃったか……」

 

「45姉、奇襲失敗してごめんね」

 

「いいのよ、9のせいじゃないわ。敵が悪かったのよ」

 

 9を慰めながら、45は高速で遠ざかっていくゲーガーの背中を睨みつけた。

 

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