世界を終わらせるもの【完結】   作:畑渚

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遅れて本当に申し訳ない


storm coming

「45君、いまどのあたりだい?」

 

「あと街を2つすぎれば目的地のある街よ」

 

「そうかい、もう終盤だね」

 

 男たちの歩く街道には、ポツポツと店が並ぶようになってきていた。住宅街と商店街との中間点といったような場所だった。

 

「なあ、45君」

 

「何かしら?」

 

「そろそろ時間なんだが……」

 

「そう」

 

 45は立ち止まり、ゆっくりと振り返る。

 

「やめる気はないのね?」

 

「ああ、すまない」

 

「わかったわ」

 

 45の了承を得たあと、男は端末を開く。メールを打ち込み送信すると、完了のメッセージダイアログが表示される。

 

「やってることの意味がわかっているの?」

 

「もちろんだよ。だけど、僕はこれしかできないからね」

 

 男は笑顔を見せるが、明らかに無理をしている。

 

「そんなに……奥さんの遺体がほしいの?」

 

「あたりまえだろう?」

 

 男はそう即答する。彼はその行動に迷いはない。

 

「でも、もう話すこともできないのよ?」

 

「ときに45君。君もたしか大切な人を失っているだろう?」

 

 

 45はしばらく返答に困り沈黙する。彼にそのことは知られているのはわかっていた。しかし、実際に自身の口から話すのは、すこしためいがあった。

 

「ええ」

 

 少し時間をおいたあと、45は絞り出すような声でそう答えた。

 

「その人の遺体と会えるなら会いたいと思うかい?」

 

「……いいえ、思わないわ」

 

「そうだろうね。君たちにはその機能はないと確信していたよ」

 

 男は自分だけ納得したかのような表情を浮かべる。彼にはその答えが推測できていた。

 

「どういうことかしら?」

 

「君たち人形には死亡した人への感情が設定されていないんだよ」

 

「そんなことないわ!だって私はこんなにも!」

 

「それは死人に関する感情かい?」

 

「……!それは」

 

 45は思い返してみる。大切な彼女のことではない。いままで見てきた死体のことだ。例え話したことがある人間や人形であっても、彼や彼女らの死体に何かしらの感情を抱いたことがあっただろうか、と自分に問いかける。

 

「45君の持っている感情は死人に対してじゃない。生きている、また会える、そんな人への感情だね。いや、人形に対して感情という言葉はおかしいのかもしれないけどね」

 

「生きている?でも彼女はたしかに私が……私が!」

 

 急な動悸、息切れ、手足の震えが45におそいかかる。エラーを示すメッセージは表示されていない。だが、確実に人間でいうパニック症状を引き起こしている。

 

「45君、落ち着くんだ。ほら、僕の目を見て。深呼吸をしよう。すって……はいて……」

 

「はぁ……はぁ……私、私が引き金を……。私が弱かったから……」

 

「落ち着くんだ。落ち着いて。まずはそれからだ」

 

 男は45の背中に手をあてる。今の45は見た目相応の気弱な少女のようだった。ストレスに弱く、自責の念で自分の首を絞め続けている、そのように男には見えた。

 

「……よし、落ち着いたかい?」

 

「え、ええ。その、ごめんなさい」

 

「いや、いいんだ。どうやら僕がトリガーを引いてしまったみたいだからね」

 

「さっきのはいったい」

 

「45君、この際だからはっきり言っておくよ。君は自身が異常であることを自覚するべきだ」

 

「なによ、人を異常者扱い?」

 

「自分でもうすうす気づいているんだろう?」

 

 45はじっと男の目を見つめる。そこには確信を持った男の瞳があった。

 

「……ええ、異常だわ。だってこれは閉ざされた記憶のはずだもの。そう簡単に表に出てくることなんてないわ」

 

「僕としては、人形のメンタルに詳しい人物に話を聞いてもらうべきだと思うね。紹介しようか?」

 

「そういった知り合いが居るの?」

 

「もちろん。彼もまた研究所時代の同期なんだが……これまた彼自身も随分と精神的に弱くてね」

 

「あなたの研究所って変な人しか居なかったのね」

 

「僕も含めてね!」

 

「ははっ、ちがいないわね」

 

 男は珍しく声をあげて、45はクスクスと”普段どおり”に笑う。

 

「……ありがと」

 

「何か言ったかい?」

 

「気のせいじゃないかしら?」

 

「だろうね。でなきゃ僕は鼓膜を破られるか記憶を飛ばされているはずだからね」

 

「あら、そんなことがお望みだったの?」

 

「勘弁してくれ。僕は弱いからまともな抵抗すらできないんだ」

 

「そうね、いざというときは力で訴えることにするわ」

 

「それじゃあ僕も体を鍛えて置かないとね」

 

「焼け石に水ね」

 

「あれ?45姉、随分と楽しそうだね」

 

「9?どうかしたの?」

 

「それはこっちのセリフだよ?交代の時間になっても来ないから様子見に来たんだよ」

 

 45は急いで時間を確認する。

 

「それじゃあ今先頭には誰がいるの?」

 

「416が代わってくれたよ」

 

「……あとでネチネチ言われそうね。急いで代わってくるわ」

 

「いってらっしゃ~い」

 

 9は温厚そうな笑みを浮かべながら45を送り出した。

 

「随分と45姉と仲良くなったみたいだね」

 

「そうかい?」

 

「うん、あんなに楽しそうな45は初めて見たかも!」

 

「なら良かったよ」

 

「でも……パニックを起こさせたのは許さないから」

 

 9は男の耳元でそう呟いた。

 

「9君……君ってやつは」

 

「何かな?」

 

 9はいつもどおり笑顔だ。

 

「いつかその化けの皮を剥がしてみたいね」

 

「化けの皮なんてかぶってないよ、もうひどいな~」

 

「君もまた、随分と変わった人形だね。開発者の顔が見てみたいよ」

 

「……いつか見られるといいね」

 

「ん?その口ぶりからすると、会える可能性がある存在なのかい?」

 

「うん。会えると思うよ。私の記憶が確かならね」

 

「それは、随分と楽しみだね。きっと僕くらい、いや僕以上にひねくれたやつなんだろう?」

 

「さあね~ワタシは話したことないし」

 

「そうかい、そりゃ残念だね」

 

「別に、残念だと感じたことはないよ?」

 

「……それもそうだね。最近やたら娘から粘着されているみたいで感覚が狂っていたよ」

 

「アーキテクトだっけ?本当にあなたの娘なの?」

 

「まあそうだね。彼女の言い分が正しければ、僕が彼女を作ったといって良いだろうね」

 

「ふ~ん」

 

 9は口を尖らせる。

 

「どうしたんだい?」

 

「ううん、なんでもないよ。それよりも45姉と何を話していたの?」

 

「世間話さ」

 

「……40の話?」

 

「40?それが45君のいう大事な人なのかい?」

 

「あっ……今のは忘れてくれない」

 

「わかったよ。僕は何も聞いていない」

 

「うん、ありがとう。それでね、実をいうと私もその話に興味があるの。知ってること全部聞かせてくれない?」

 

「9君なら45君も話してくれるんじゃないかい?」

 

「う~ん。多分話してくれるんだろうけどね。私だと傷つけちゃうからさ。ほら、私って少しおかしいでしょ?」

 

 そう言って9はエヘヘと笑ってみせる。

 

「まったく、404小隊にはまともな人形はいないのかい?」

 

「まともな人形ならこんな部隊に入ってないよ」

 

「まあ、そうだろうね。君たちの任務は危険すぎる。まるで人形を消耗品か何かと勘違いしてるんじゃないかい?」

 

「……消耗品だよ、私たちはさ」

 

「そんなことはないだろう?君個人は何ものにも変えられないしっかりとした1人だよ」

 

 9は一度うつむいて、それから男の方へと振り向いた。

 

「この話はやめよう!ほら、少し遅れてるから急ごうよ」

 

「9君、きみは……いや、そうだね。急がないとG11君が道端で寝始めかねないからね」

 

「そのときはきっと416が叩き起こしてくれるよ」

 

「ははっ、そうだね」

 

「っと、雨だ」

 

 先程から曇り空ではあったが、どうやらとうとう降り出しきたようだ。

 

「ちょっと45姉に指示を受けてくるね」

 

「ああ、頼むよ」

 

 9の背中を見送り、男は風上へと目を向ける。ずいぶんと黒い雲が、ゆっくりとこちら側に迫ってきていた。




頑張って明日の夜にも投稿します……
ついでにEIPの方も近日投稿予定
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