エンジンの騒音でうるさい機内の中、各々がそれぞれの時間を楽しんでいた。
45は本を読み、9はタブレットで映像を見ている。416は揺れる中でもメンテナンスを続行し、G11はいつものように寝息をたてていた。
機内のランプが青から赤に変わる。作戦開始を告げる合図だ。
45はクローバーの栞を本にはさむと、機内に取り付けてあるボックスの中へとしまう。他の隊員も任務に関係のないものをボックスへと詰め込み、ロープで機体に固定した。
「準備はできてるかしら?」
「もちろん!」
「ええ、完璧よ」
「大丈夫~」
後部ハッチが開いていく。呼吸管理システムが切り替わり、高高度に順応する。
「システムチェック」
「「「オールグリーン」」」
「装備」
「「「良し」」」
「じゃあ行きましょうか」
その声にうなずき、9が後部ハッチから飛び出す。続いて416とG11も飛び出した。
最後に機内を振り返った45は、重装備な警備兵が冷たい目でこちらを見ていることに気がつく。
「まったく、これだから嫌いだわ」
そう呟いて、45は背中から空に身を投げだした。
=*=*=*=*=
「各員状況報告」
降下した45は指示を飛ばす。今日は風が強く、降下位置が作戦とはズレてしまった。
「こちら9。ポイントからブロック一つ分東に落ちたよ」
「こちら416。私はポイントぴったりに降りられたわ」
「こちらG11。場所ロスト……ここどこ?」
45の降下位置はポイントの西側だ。
「9、降下中にG11はどの方向にいたか覚えている?」
「待って、今マップをだすから……この煙突が見えた方向だから西だよ!」
「私からだと東に見えたということは……G11がいるのはポイント近くの入り組んだところね」
「はぁ、私がG11を捜索するわ。45と9は任務を優先して」
「ありがとう416~!」
通信回線から416とG11が抜け、9と45の二人になる。
「45姉、私はどうすれば良い?」
「東から建物に突入して。私は西から行くわ」
「了解だよ!」
9の快い返事を聞いて45は通信機のスイッチを切った。
マップを開けば現在地の研究所が表示される。間取り図を開き、スクロールしていく。
「ん?ここの構造、違和感があるわね……」
この規模の研究所に隠し部屋や隠し通路があっても不思議ではない。
接続ケーブルを扉の側の端末に接続する。比較的簡単なセキュリティを難なく突破し、施設管理システムへと侵入する。
「あった、隠し通路ね。ということは……」
マップ上に線を書き込んでいく。それは追い込み漁のように隠し通路へと誘導する作戦地図となった。
全員にそれを送ると、銃を構え直して扉に向き合う。
扉の認証システムが45を認識し、ロックが解除された。
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「45姉!やっと合流できたね」
「9、お疲れさま。でもすぐに働いてもらうわ」
「うん、作戦はしっかり把握できてるよ」
9は銃のチェックを始める。
「ごめんなさい、少し遅れたわ」
「十分想定内の時間よ416。それよりG11は」
「ちゃんと命令どおり狙撃ポイントに付いてるわ」
「よし、準備できてるみたいだね!じゃあ私は行くね!」
9が合流地点の部屋から出ていく。部屋の中には45と416だけになる。
「なにか用があるのかしら?」
「45、本当に今回の依頼内容は正しいの?」
「どういうことかしら?」
「本当に”対象の保護”が任務なのと聞いているのよ」
「ええ、そうよ。対象を確保し、生存している状態で連れ帰ることが任務よ」
「いったいその対象はなにをしたのよ」
「……それが知りたければここに行くといいわ」
416のマップに点が表示される。そこは普通の研究室のようだった。
じっと45を見つめた後、416はマップを片手に部屋を出ていった。
「まったく……真面目そうに見えて一番わがままなんだから」
やれやれと首を振り、45も作戦位置へと移動した。
作戦はすぐに開始した。
ダミーを激しく損耗をしつつ、鉄血の大群をなんとか足止めする。
「45姉!416はまだ!?」
「知らないわ!9、グレネード!」
「わっあぶなっ!」
いそいで物陰に隠れた9の近くで爆発音がする。敵の投げたグレネードが炸裂したのだ。
「ありがとう45ね――」
9の言葉をかき消すように、遠くから爆発音がする。先程のとは比べ物にならない規模である。
「45姉今のは!?」
「たぶん爆弾よ!416とG11も聞こえたわね!撤退よ!」
「了解」
「りょーかい」
合流地点をマップに書き込むと、ダミーも含めて全員にリアルタイムで表示される。
その場所は、隠し通路の入り口だった。
=*=*=*=*=
男は暗い通路を歩いていた。手元にある非常用の懐中電灯だけが頼りである。
「おっとまた爆発か。お願いだから崩れないでくれよ」
今の所は大丈夫そうな通路だが、築年数からしてあと何度耐えられるのかは男にはわからない。
そんな男にさらなる絶望をしらせる音が耳に届く。
金属の音だ。錆びた金属同士が擦れあい出てくるとても不快な音だ。
それは隠し通路の扉が開かれたことに他ならなかった。
男は走り始める。荷物をしっかりと握りしめて先へと急ぐ。
「早すぎる……セキュリティプログラムを仕込んできたのに!」
一つの仮説が頭に浮かぶ。それは男が考える中で最悪の状況だ。もしそうであったのならば、ここまでに仕掛けてきた足止め用の秘策がパーである。
「まさか……敵の方に電子戦特化型が紛れ込んでいるのか?」
一度侵入されてしまえば、男に勝ち目はない。どれだけ複雑なセキュリティでも、人間の考えたものでは限度がある。
この世に破りにくいセキュリティはあっても、破れないセキュリティはないのだ。
「はっ……光?もう出口か?」
視界の先には光が見えた。急ぐ足に力が入る。もうすぐそこまで追っ手が来てしまっているような、そんな嫌な予感が男の背筋を撫でた。
=*=*=*=*=
「45姉、これ見て!」
地面に転がっている自律人形の残骸を、9は足で蹴って仰向けにした。
「これは……死因は狙撃じゃないわね。活動停止したのは銃撃戦の後かしら」
人形がまとっているメイド服は穴だらけで、至近距離からほぼ一方的に撃たれたということが見て取れる。
しかし、その自律人形は銃を持っていた。まだマガジンに弾が残っているところを見るに、交戦して死んだと45は察した。
「そうじゃなくてほら!メイド服!」
「ええ、そうね」
「45姉テンション低い~。メイドだよメイド!きっといろいろな奉仕をさせられた揚げ句にできもしない戦闘に手を染めて最期には主人のことを想いながら死んでいっただろう悲劇のメイドだよ!」
「そんなバカな話があるもんですか……。ほら、銃だけ拝借していきましょう」
アサルトライフルは残弾が少なく使い物にならないが、拳銃はサブアームとして十分だった。弾数も申し分ない。
「急ぐわよ。まだ薬莢は暖かいわ」
「了解だよ!」
「416、G11と一緒に後ろを警戒しつつ援護。できるかしら?」
「ええ、もちろんよ」
頼もしい返事が返ってくる。それを信用するかはさておき、45は先導する9をカバーする。
この先にはほぼ確実に保護対象と鉄血兵がいると45は考えていた。任務が対象の”生存状態”での保護である以上、無傷に越したことはない。
「無事でいてくれると助かるのだけど……」
発砲音が通路の奥から聞こえる。まだ9に発砲許可を出していない45は、これが鉄血のものだとすぐに分かった。
「そうはいかないみたいね。みんな、計画変更。急行突撃よ」
その声と共に、ダミー全員が全速力で通路の奥へと走っていった。他の隊員も、それに続いて奥へと走り出した。
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