小戦も楽しかったです。お疲れ様でした。
「アハハハハ、それで45姉に噛み付かれたんだ!」
食卓に9の笑い声が響く。
「まったく、どうしてくれるんだい。僕は既婚者だよ」
食卓で笑っているのは9だけだった。明確に言えば、男も笑顔は浮かべているが、何かを気にしているようだった。
「45、あんたねぇ」
「なに?問題でもあるのかしら」
「おおありよ!保護対象に噛み付くなんてどういうつもりよ」
「まあまあ416君、落ち着きなよ」
「あなたはそれでいいの?死んだ奥さんに申し訳ないと思わないの!?」
「たしかにそれはそうかもしれないね。でも君たちがいがみ合ってるのを見るのも嫌いだな」
「でもこの女は」
「416君」
身を乗り出している416の肩に、男は手を置いた。
「いいんだ。ただのイタズラだよ」
「なによ……私はあなたのためを思って……」
男の目があい、416は気圧される。
「その、わかったわ」
そう言って416は、うとうととしているG11の隣へと座り込んだ。
「よし、それじゃあ食べようか」
カチャリと食器のぶつかる音だけが部屋に響く。今夜も缶詰による食事だ。
「ねえ45姉、今後はどうするの?」
「……そうね、話をしておきましょうか」
45はスプーンを置くと、皆に見えるようにスクリーンをつけた。
「まず私たちがいるのはこの地点ね」
地図上の一点を指さしながらそういう。
「そしてこっちが目的地ね」
地図をスクロールさせて再び指差す。随分と大きい建物であった。
「もう少しだね45姉!」
「そうとも言ってられないわ。これを見て」
次にスクリーンに映ったのは、近辺の地図だ。しかし、そこには数時間後の雨量が表示されている。
「ここの設備を使って計算した今後の予測よ。まず間違いないと思っていいわ」
「45君、これってつまりは……」
「そのとおりよ。間もなくここは……暴風雨におそわれるわ」
「じゃあ明日以降でも足止めということ?」
「ええ。いつまでかはわからないわね」
416は悔しそうに顔を歪める。
「通信はとるの?」
G11が目をこすりながら
「ええ、この暴風雨にまぎれてメッセージを飛ばしてみるわ」
「ええ~通話はしないの?」
「無理よ。暴風雨だとノイズがひどくて短時間じゃ済まなくなるわ」
「え~」
「寝てていいから」
「えっいいの!」
「ええ、いいわよ」
「やったーそれじゃあおやすみー」
G11がウキウキ顔で仮眠室へと向かうのを4人は見送る。
「いいの?いかせても」
「明日の昼にキリキリ働いてもらいたいだけよ」
「ああ、そういういこと」
416は納得した表情を浮かべる。
「それで、通話は無理だとしても、どうにかならないの?メッセージなんて届くかわからないわ」
「だってそれ以外の方法が無いもの」
「待ってくれ45君」
あっけらかんとする45の言葉に、男が待ったをかける。
「何か案があるの?」
「ああ、多分これが一番早く、それに確実だ」
男は45を手招きする。
「なによ」
「ここは気象センターだと言っただろう?」
「ええ、そうね」
「実はアレは嘘なんだ」
「でも地図の表記も、実際の建物も気象センターだと」
「だったら何故僕がここをハッキングしたと思う?」
「……まさか本当に、ここは気象センターじゃないの?」
「45君はこの施設が生きていた頃の天気予報をしっているかい?」
「ええ、気象衛星の画像を用いて……まさか衛星との通信?」
「そう、実はここは軍事衛星の通信も管理していたんだよ」
45はここに入る時を思い出す。確かに、無駄に大きいアンテナが、各種センサーに埋もれるように設置されていた。
「そして通信の内容はここで処理され、下を通って基地まで運ばれていたんだ」
そう言って男は足で地面を叩く。
「それで有線ネットワーク……ね。たしかに納得はできるわ」
「でも疑問があるんだろう?」
「ええ。だってそれだけじゃあなたのハッキングする意味が思い浮かばないもの」
「そうだね。そこで……こんなものをお見せしよう」
端末の画面に、設計図が映し出される。それはどうやら戦術人形の設計図のようだった。
「僕の完成させたかった人形さ。まあ随分と昔に思いついたものだけどね」
45にはその設計図が読み解けてしまった。彼女は優秀すぎた。
「全通信を掌握する……人形?」
「ああ、そうだよ。全てだ。もちろん無線も、有線もね」
「そんなこと、不可能だわ」
「ところがどっこい、それが可能なんだ」
「まさか……実現しているの?」
「だと良かったんだがねぇ」
男は苦い顔をする。
「これはもう捨てたプロジェクトなんだ。だからこんな人形はいないと考えていいよ」
「全通信……ということはダミーも?」
「ああ、もちろん。すくなくとも片手では足りないくらいの数は操れるさ。もちろん敵味方問わずにね」
「戦闘中にそんな芸当、不可能よ」
「まあそういうことにしておこう。大事なのはソコじゃないんだ」
「……通信の方法に話を戻すわ。それで、どうする気?」
「まずはここのシステムで有線ネットワークを支配する。そこから君たちがG&Kの通信網までたどり着き、メッセージを直接渡す。それが一番はやいだろう?」
「たしかに私たちは電子戦も可能よ。だけど、これは私1人にまかせてもらうわ」
「45君1人でかい?危険すぎる」
「大丈夫よ。私がいなくてもみんなはしっかりと任務をこなすわ。それに、他の隊員は足手まといになりかねないし」
「そこまで言うかい?まあいいよ。僕がモニタリングをしよう。サポートは任せてくれ」
「期待しているわ。それじゃ準備をしてくるわ」
そういって45は走って部屋を出ていく。
「あれだけやる気の45姉は初めて見たかも……」
「9君でもかい?」
「うん。……ほら416、拗ねてないで警備に戻って」
「あなたから指図されなくともすぐ行くわよ」
416は文句を呟きながら、入り口の警備へと戻っていった。
「9君はどうするんだい?」
「私?じゃあここに居てもいい?」
「構わないが……。てっきり9君なら、45君と一緒に行くと言うと思っていたんだ」
「一緒にいけるなら……行きたいよ?でも45姉がここを任せるって言ったんだから、私は命令に従うまでだよ」
「結局は45君に言われたからなんだね……」
「なに?おかしい?」
「いや、いずれは9君の本音が聞きたいなとね」
「やだなあ、45姉の命令に従うのは当たり前でしょ?なんたって私の45姉なんだから」
9は笑顔でそう笑ってみせた。
9はいつも笑顔を浮かべている。暗い顔を見せたことはない。しかし、ずっと笑うだけの感情欠如を起こしているわけでもない。これだけ一緒に過ごしていれば、様々な感情を持った笑顔があることはわかっていた。
「ねえ、これって」
「……ああ、これかい?さっきの設計図だね」
「もしかしてこれ、正規軍に見られてる?」
「そんなことは無いと思うけどね……」
そういいながらも男は端末を動かし、ファイルの内部情報を開いていく。
「これは……このIPは……」
「どうしたの?」
「9君の言うとおりだ。どうやら僕のデータを抜き出されていたみたいだ」
「それじゃあそういった人形が出てくるかもしれないってこと?」
「いや、それはないと思うよ?」
「どうして?」
「あの研究所のメンバーが集まっても出来なかったんだ。世界に1人ってレベルの天才でも居ない限り、アレを完成させるのは不可能だ」
「断言できるの?」
「ああ、もちろん。自分の研究の不毛さは、自分が一番自覚していたからね」
「そう、よかった。勝手にダミーを乗っ取られたりはないんだね」
「ああでも、物理的なハッキングにはどうしようもないからね」
「そこらへんは大丈夫。油断しないから」
「そうかい。9君がそういうなら、本当に大丈夫なんだろうね」
2人の笑い声が部屋を満たした。