『いいんじゃない?』
45の返答は意外にもあっさりとしていた。
「ちょっと45!相手は鉄血よ?」
「そうだよ~何をしでかすかわからないよ~?」
416とG11は交互に抗議する。
『今の小隊の隊長は9でしょう?9はどうするの?』
「……わかった。45姉のいうとおり何もしないよ」
「ちょっと9!あんた正気!?」
詰め寄る416に9は一歩も引かない。45の指示だとは言い張っているものの、そこには明らかに9の確固たる意思が存在している。
「これで私は無罪放免?」
「うん、そうだね」
9はアーキテクトの腕につけていた拘束具を外す。
「はー自由だー!」
アーキテクトは手首を回し、コリをほぐす。
「アーキテクト、君はどうやってここにきたんだい?」
「なに?娘を詮索するパパは嫌われるよ?」
ニシシとアーキテクトは笑った。男は呆れた顔をしながら頭を抱える。
「はあ、どうして君みたいなハイエンドモデルがそこまでボロボロになっているんだい?」
「そりゃあの嵐じゃボロボロにもなるよ」
「でも君たちにはフォースシールドがあるだろう?」
「ああ。だって……」
そういうとアーキテクトは腕を光らせる。身体全体ではなく、腕だけだ。本来は彼女の周囲に展開するはずのフォースシールドは、弱々しく発生源で淡く光るだけである。
「まさかエネルギー切れかい?」
「パパに追いつくために急いだから補給する暇がなくてね~」
人間が食べなければ死ぬように、人形のエネルギー切れも死活問題だ。動くことは可能でも、全ての機能に制限がかかる。人間で例えるなら、高熱で思考がまとまらないという症状に近い。
「……416君、食料をくれ」
「はあ?こいつは鉄血、人類の敵よ?」
呆れた顔をする416に男は頭を深くさげる。
「頼む。アーキテクトにここで死んでしまわれると困るんだ」
「……わかった、わかったわよ。ほら、これでも食ってなさい」
そういって416はアーキテクトの目の前の机に補給食を投げつける。
「あはは、まったく敵に餞別を与えるなんて頭おかしいんじゃないの?」
「……勝手に言ってなさい。それに私は完璧よ」
「完璧?ポンコツの間違いじゃなく?」
ピクリ、と少し動いたが、416は何も言わずに部屋を出ていった。確か416が向かった方向には給湯室があったはずである。彼女自身、給湯室の設備を気に入っていたので十中八九はいるだろう。
「アーキテクト、あまり416君をいじめてはいけない」
「ゴメンゴメン。つい反応が面白くてね?」
『そこのお二人さん。邪魔をして悪いんだけどそろそろ再開してもいいかしら?』
「ん?なにしてんの?」
「ああ、今は45君が有線ネットワークをたどって連絡をとろうとしているところだよ」
「ふ~ん、パパは何役?」
「45君の防御だね」
「なるほどね~。よし、私も手伝う!」
アーキテクトは男の隣へと座る。そこは先程まで9が座っていた場所だ。
「な、9君はどうするんだい?」
「私は……。そうだ、少し電源周りの点検をしてくるね」
「その……」
「古い発電機だから、どうせしなきゃならないことだよ。そうだよね45姉?」
『ええ、9が適任ね。電源は任せたわ。じゃないと私がこっちに取り残されちゃうから』
「任せといてよ!」
そう元気に答えて9は部屋を出ていった。G11もいつの間にかいなくなっていた。
=*=*=*=*=
「45君、調子はどうだい?」
『ええ、順調よ。戦闘もないし……』
男は端末を操作してダイアログボックスをだす。
「45君、進捗もいいし今日はこれくらいにしておかないかい?」
『あら?もう限界?』
クスクスと45は笑う。
「おじさんを酷使しないでくれよ」
『まだおじさんって年齢じゃないでしょうに』
「片足は突っ込んだかな」
『言えてる。さて、それじゃあ今から戻るわ』
「ああ、気をつけてくれ」
男の視界の中にはダイアログボックスがある。それを気にしながら、男は45のモニタリングもこなしていた。
「ただいま」
「さすが45君、早いね」
「これが取り柄だから当たり前でしょう?」
「それもそうだ。さてと……」
416はおそらく給湯室だろう。カレーの匂いが鼻腔を付く。今夜の晩ごはんとなるのだろう。
「私は先に休憩室にいるわ」
ご飯は休憩室でとることになっていた。机と椅子があり、それなりのスペースも確保されているからだ。電気はこわれているのかつかないが、部屋の広さからして、大きな懐中電灯がいくつかあれば十分だ。
「はい、今日はカレーよ」
416は丁寧に盛り付けられたカレーを持ってくる。しっかりとアーキテクトの分も用意されているあたり、彼女の性格がでていた。
「あはは、パパと一緒に食事するなんて夢みたい!」
「そうか、家族って言っても一方的だったってことだもんね」
アーキテクトの言葉に9も反応する。最初こそ緊張の糸が張り詰めていたが、9らしさを発揮してすぐに打ち解けている。
「45姉はどう?いままでの食卓にさらにもう1人増えてさ」
「う~ん、9はどうなの?」
「私?私は嬉しいよ?だって家族は多い方が良いもん」
「そうよね……。私も嬉しいわ、少なくとも今はね」
45はスプーンを手でいじりながらそう呟いた。
「あんたらコイツは鉄血の人形よ?正気とは思えないわね」
「でも416だってご飯準備してるじゃん」
呆れた表情をうかべる416にG11がボソリと突っ込む。
「はあ?当たり前でしょう?」
「もう、416も素直じゃないんだから」
9も笑いながらそういう。
「なによ?」
「べつにー?」
「はぁ、わけわかんないわ」
416は理解できないといいう表情を浮かべながら、音をたてて椅子に座った。アルミの椅子が軋む。
食卓は静かとは言えなかった。いつもは9が雰囲気を保つが、今日は違った。延々とアーキテクトが男に話し続け、それにたいして他の面々も反応を返している。
いつもとは違った会話のテンポに、和気あいあいとしていた。嵐の音で声は外には漏れ出ない。気にせずに話せるというのは、初めてだったかもしれないと男は考えていた。
「あはは、楽しいねパパ」
「そうかい?」
「うん!」
そこには無邪気な笑顔があった。男には、それがまるで人間の少女のような、自然な笑顔に見えた。それが他の人形にどう見えたかは、男にはどうでもよかった。ただ、アーキテクトがそういった表情をうかべたことに驚きつつも、顔をほころばせていた。