世界を終わらせるもの【完結】   作:畑渚

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俺は投稿を行う!
こちらも随分と伸びて嬉しい限りです。ありがとうございます。


hack_net_monitoring

「それじゃあ行ってくるわ」

 

「ああ、気をつけてくれよ45君」

 

「わかっているわ。あなたも私から目を離さないでね」

 

「ああ、それに今回はアーキテクトや9君も一緒だ。十分すぎる戦力だね」

 

「それを聞いて安心したわ」

 

 45は簡易ベッドに横になり、端末との接続を開始する。

 

「45姉、気をつけてね」

 

「わかっているわよ、9」

 

 最後にそう言って、45は目を瞑った。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「ねえねえパパ、いまはどんな感じ?」

 

「順調だよ。昨日到達したところまで無傷で行けたから、もう新しいルート探索に着手できている」

 

「そうなんだ」

 

「どうかしたのかい?」

 

「いや、暇だなーって」

 

「そうだね、私も暇だなー」

 

「9君までそんなことを」

 

 アーキテクトと9は「ねー」と顔合わせる。まだ数時間しか話していないはずだが、随分と仲良くなっているらしい。

 

「でも実際そうじゃん?」

 

「暇というのは良いことだよ。攻撃を受けてないということだからね」

 

「そりゃ私も45姉に危険な目にあってほしくないけどさ」

 

 9はやれやれと首を振る。

 

「ずっと流れる文字を見続けるなんて苦行だと思わない?」

 

「そうそう。まったくパパはよく耐えきれるね」

 

「そこらへんは……まあ人間と人形の差というのもあるのかもしれないね」

 

「どういうこと?」

 

「今はモニタリングに集中しないといけないからあとでね」

 

「ええ、気になる、今教えてよパパ」

 

「そうだよ、教えてよ~」

 

 アーキテクトと9がそれぞれ右と左から肩を揺すってくる。

 

「モニタリングを欠かすわけには行かないだろう?ああもう、45君からも何か言ってやってくれ」

 

『少し休憩にしましょうか。その話は私も気になるし』

 

「45君まで!?」

 

 はぁ、と大きなくため息をついて、男はカップに口をつける。

 そしてコトリと置いて、話し始めた。

 

「9君、5分前に一番上に表示されていた行を暗唱できるかい?」

 

「んーとね、できるよ」

 

「じゃあ30分前はどうだい?」

 

「無理だよ。そんなのログからもう消したよ」

 

「だろうね。アーキテクトも残ってないだろう?」

 

「うん。でもパパがそういう仕様にしたんでしょ?」

 

「そうだね。いつまでも見たものを記憶させてたらキリがないからね」

 

「うん。それで、人間とはどう違うの?」

 

「僕は5分前のログすら覚えてないよ。30分前なんてもってのほかだ」

 

「それが人間と人形との差なの?」

 

「まあまだそう結論付けるのは早いよ9君。もちろん記憶力の差というのも大きな差だけどね」

 

 男はそこで一息着くと、席を立った。コーヒーカップを片手に部屋を歩き回る。

 

「問題は、君たちはすべてを覚えているんだよ。情報の取捨選択が、情報を理解したあとに行われていると言った方が適切かな?」

 

『ちょっと待ちなさい。あなたちゃんと見てないの?』

 

「見ているさ。でも全文は見る必要はないんだよ」

 

『なるほど……そういうことだっのね』

 

 45は納得したかのようで、深くうなずいていた。

 

「ちょっとまってよパパ。それだけじゃ私、わかんないよ」

 

「……そうかい。そりゃすまない。まあ簡単にいうとだね」

 

 男は端末の前に戻り、カーソルを動かしてログの一部をコピーする。そして、ライターアプリへと貼り付けたかと思えば、文をどんどんと削除していく。

 

「僕が意識して見ているのはこれくらいだよ」

 

 そこには、ほぼ数単語しか残っていなかった。

 

「え?これだけ?」

 

 9が驚いた表情を浮かべて画面を覗き込んでくる。

 

「これだけでわかるの!?」

 

 アーキテクトも身を乗り出して画面にかじりつく。

 

「あのねえ君たち、もう少し女子として慎みを持ちなさい」

 

「え?もしかして1児の父にしてまだ女に興味があるの?」

 

「パパ、もしかして娘の私にも発情しちゃうような獣だったの?」

 

「あのねえ君たちねぇ」

 

「バカなこといってないでさっさと進めなさいよ」

 

 部屋の入り口には、416が立っている。416は見張りの休憩に行く途中、この部屋の惨状が

 

「416君!ちょうどよかった。この2人に淑女としての嗜みを教えてくれ!」

 

「いやよ。だって絶対2人とも言うこときかないもの」

 

「ちょっと416ひどーい」

 

「そうだそうだー」

 

「ほら、2人結託してるでしょう?無理よ。手のつけようがないわ」

 

「みたいだね……」

 

『あのさ……楽しそうなのはわかるのよ?でもそろそろここにとどまるのも危険なのだけれど?』

 

 45の少しこもった声が端末から聞こえる。

 

「45も怒っているし、私はこれで」

 

「ああ416君……お疲れ様」

 

「労われるようなことはしてないわ」

 

 背中を向けながらそう言い残し、416は給湯室の方へと歩いていった。

 

「さて、待たせてすまないね45君」

 

『待たせる男は嫌われるわよ?』

 

「それもそうだね。今度からは気をつけるよ」

 

『……まあ良いわ。それじゃあ進むわよ』

 

 再び45がネットワークの海を進みはじめる。膨大なログから必要な情報を抜き出しながら、男はカップに口をつけた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「……っ!止まってくれ45君!」

 

 男の声に反応して、45は足を止める。45には特に異常は感じられなかった。しかし、男がいうからには何かがあったのだろうと確信していた。

 

『どうしたの?』

 

「……いや、まさかな。気の所為みたいだ。すまない」

 

『ええ……それならいいけれど』

 

「いや待ってパパ!さっきの……ここのログ!」

 

 アーキテクトがカーソルを動かし、高速で流れていったログのいち部分を指差す。

 

「さすがだ!45君!急いで撤退だ!」

 

『そんな!あとほんの少しなのに』

 

「ハッキングされている。相手は何者なんだ……」

 

 男はタイピングをはじめる。

 

「人形かAIみたいだ!45君、僕では無理だ」

 

『……あと少しなの』

 

「45君!?」

 

『あとほんの少し、耐えてくれないかしら?』

 

「自分が何を言っているのかわかっているのかい?」

 

『大丈夫よ。そんな簡単にハッキングなんてされないわ』

 

「……わかった」

 

「ちょっと!45姉は!」

 

「確かにあと少しなんだ……。9君、アーキテクト、手伝ってくれるかい?」

 

「パパがそういうなら手伝うよ」

 

「うん、私も45姉のために!」

 

「助かるよ。さて、対応は任せてくれ。違和感のあったログを僕の方に飛ばしてくれればいい」

 

「「了解!」」

 

 2人は近くの端末でログとにらめっこをしはじめる。

 

「よし、対応だけに集中すればなんとかなりそうだ!」

 

 部屋にはタイピング音が響き渡る。それは途絶えることはない。

 

「くっしつこいな」

 

 男の額に汗がにじみはじめる。すでに手にすら疲労が回ってきていた。

 

「なんかさ……遊ばれてる?」

 

 そう声を漏らしたのは9だった。

 

「随分と酷いことを言うじゃないか9君」

 

「だってさ、さっきからアプローチを様々に変えて侵入してはまた変えてって繰り返してるよ」

 

「やっぱりか。まぁ実力差は実感しているところさ」

 

『通信を届け終わったわ!』

 

「よし、45君からの朗報だ。あとは帰り道だが……」

 

 45が踵を返した瞬間、いままでとは比べ物にならないレベルでログが流れはじめる。

 

「この量は……やはり相手は戦術人形か!」

 

「なんでわかるの?」

 

 アーキテクトの疑問に、男は声を絞り出してこたえる。

 

「人形、それも下位の演算能力まで持ち出してきているねこれは。今の世の中じゃこのハッキングが出来るスペックはそうしないと創り出せないからね」

 

「なるほどね!っとこの量……45姉!聞こえる!?」

 

『うう……頭が……』

 

「くそっ45君の頭に負荷がかかりすぎている!」

 

「私が中に入って助けてくる!」

 

「待ってくれ9君!君がいったところで犠牲が増えるだけだ!」

 

「そんな!じゃあ45姉は!」

 

『9……聞こえているんでしょう?』

 

「うん!聞こえてるよ!」

 

『あとは任せたわ……私はしばらく……眠る……』

 

 そう言って45の声は途切れた。

 

「そんな……45姉?」

 

「待て9君!45君はまだ死んだわけじゃない!」

 

 男のタイピングスピードはさらに早まる。キーボードが認識できる最速のスピードで、文字を打ち込んでいく。

 

「まだメンタルモデルを保守域に格納しただけだ!身体はこっちから強制で動かせる!」

 

 確かに画面内の45の身体は、目を閉じたまま高速で駆け抜けていっている。敵にあたっても即座に回避し、足をとめない。

 

「……よし、なんとか逃げ切れたか……?」

 

 画面に映るのは、SAFEと書かれたエリアに横たわる45だ。

 

「いまから45君を起こす。……起きた時のショックで暴れるかもしれない。9君は45君の側にいておいてほしい」

 

「っ!……わかったよ」

 

 9はこちらで横たわる45の側に座り込む。

 

「準備はできたよ」

 

「よし。それじゃあ……これで起動だ」

 

 9はゆっくりと45の目が開かれていくのを、間近で目の当たりにした。一度開ききった目はキョロキョロと辺りを見回し、それから9を捉えた。

 

「45姉!おかえり!」

 

 9は思わず45に抱きつく。暴れるなどと男が言っていたことも忘れてしまっていた。

 

 何も根拠もなしに男は暴れるなどと言ったはずがなかった。

 

「……あなた、誰?」

 

 45が起きて最初に発した言葉は、9にとっては一番残酷な一言だった。

 

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