世界を終わらせるもの【完結】   作:畑渚

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さあ、30話が見えてきたぞ……?


mystery

「……っと、どうやらぼーっとしてたみたい」

 

「ほんと?大丈夫?私が誰だかわかる?」

 

「あたりまえでしょう、9」

 

 そう言って45は笑ってみせる。

 

「よ、よかった……」

 

「ちょっと9、急に抱きつかないで……」

 

 9が思いきり抱きつく。45は笑顔を浮かべながら、そっと男に目配せをした。

 

「……よし、9君。45君のために何か飲み物をとってきてくれるかい?」

 

「うん、わかった!」

 

 そういって9は部屋を飛び出していった。

 

 いつの間にかアーキテクトも部屋からいなくなっている。

 

「それで、45君。どこまで侵入されたんだい?」

 

「……結構深部まで」

 

 45は静かにそう言った。

 

「すまない、僕の采配ミスだ。あそこで強く止めておくべきだった」

 

「いいえ、提案した私の方が責任があるわ」

 

「いいや、防御面は僕の担当だったんだ。これは僕のミスだよ」

 

「……まあ、そういうことにしておくわ」

 

 

 しばらく2人の間を沈黙が包む。

 

 

「それで、実際のところどうなんだい?」

 

「どうって?」

 

「記憶のことだよ。45君、いったいどこまで忘れたんだい?」

 

「なんのことかしら?」

 

「……、45君。これは”指揮官命令”だよ。どこまで記憶に被害がでたんだい?」

 

「結構……持っていかれたわ。9のことですら思い出すのが精一杯だったくらい」

 

「それを聞いて安心したよ」

 

「それはどういうこと?」

 

「いや、ここでごまかすようだったり、嘘を暴いていたらどうしようかと思ったよ」

 

「言ってる意味がわからないのだけど?」

 

 45は怪訝そうな顔をして男を見る。45は本心から疑問を抱いているようだった。

 

「まず、これだけは言っておこう。僕は君の”指揮官”ではないよ」

 

「……っ!そんな」

 

「あらかたわかるよ。目の前で9君が指示に従っているところを見たんだ。人形ならそう思ってもおかしくない」

 

「でも人形は指揮官がいないと」

 

「じゃあここはどこに見える?基地に見えるかい」

 

「いいえ……だってここは人気がなさすぎる」

 

「正解だよ。ここは捨てられた街で、ここは施設の中だよ」

 

「そう……」

 

「そしてもう一つ朗報だよ」

 

「なにかしら?」

 

 45の疑問の声に、男は立ち上がる。

 

「僕は君たちの指揮官じゃない。だけどね、人形のシステムを専門分野にしてる、いわば人形にとっての医者なのさ。記憶を戻すぞ45君」

 

 そういって男は部屋の入り口へと歩いていく。

 

「だから、9君も手伝ってくれるかい?」

 

 そこには、扉に身体を隠すようにして9がいた。その手には水のはいったペットボトルを持っている。目の周りは、ついさっきまで泣いていたかのように赤くなっていた。

 

 気づかない訳がなかった。404の中で誰よりも45のことを見てきたのだ。例え表向きの表情で隠していても、ある程度は考えが読めた。

 だから、目を覚ました45に9と呼ばれた瞬間、自分のことをほとんど覚えていないことくらいすぐに理解した。部屋から出て一歩一歩進むにつれて、その足は早く、目は湿り気を帯びていった。

 水を取ってくるだけでそんなに時間はかからない。部屋に戻ってきても、45は記憶を取り戻していない。

 

 

 記憶を失った人形は、二度とその記憶を取り戻せない。

 

 

 9はどこかで聞いたその言葉を思い出していた。システムである以上、取り返しのつかないことというのは存在する。完全に消えてしまったファイルをゼロから取り戻す術なんてものは、存在しない。

 

「私が手伝えば……45姉の記憶は取り戻せるの?」

 

「すまないが確約はできない……。でも、可能性はある」

 

「どういうこと?」

 

「詳しくはあとで話そう。少なからず9君にも危険があるから、ここではっきりと聞いておきたい。手伝ってくれるかい?」

 

「……もちろんだよ!45姉のためなら私!」

 

「待って!

 

 9の言葉を遮ったのは、意外にも45だった。

 

「私の記憶のために犠牲になる必要なんて――」

 

「あるよ。必要だよ。45姉は私に……それに私たちに必要だよ」

 

「そうね、45がいないと困るわ。私のタスクが多すぎよ」

 

「私も45がいなくなるのは嫌だよ……」

 

 416とG11までが、部屋に入ってくる。

 

「416に……G11まで」

 

「ちょうどよかった。君たちにも声をかけようと思っていたんだよ」

 

「私たちにも?」

 

「ああ。まずは聞いておこう。記憶を取り戻す作業を手伝ってくれるかい?」

 

「まあ、あなたがそういうなら」

 

「私でも手伝えるの?」

 

 G11は首をかしげながらそういった。

 

「ああ、もちろん。なにより、45君に親しかった人形を総当たりしなければいけないからね」

 

「……あなたいったい何をしようとしているの?」

 

 45の疑問に男は笑顔でこたえる。

 

「まさか45君ともあろう人物が、こういったことのリスク管理を怠っているとは思えないんだ。つまり僕は、近しい人形の誰か1人もしくは複数人に、そういった時のためのバックアップを残していると考えている」

 

「でも、どうやってそれを見つけるのよ。私たちにそんなものを埋め込まれた記憶はないわよ?」

 

「当たり前さ。その痕跡を消すことくらい朝飯前……そうだろう45君?」

 

「ええ、私のスペックなら間違いなくそうするでしょうね」

 

「本人からの確認もとれたところで、詳しい話を始めようか」

 

 ただの端末の置いてある部屋が、作戦のブリーフィングルームへと変わった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「それじゃあ、頼んだよ」

 

「任せて!絶対、45姉の記憶は絶対に私が取り戻してみせる!」

 

 そう意気揚々と言う9の側には、416とG11もいる。それぞれの首からは接続コードが出ており、その先端は45へとつながっている。

 

「再確認するよ。まず君たちの中から僕が45君の痕跡を見つける。そしてその該当ファイルを45君の本来あるべき場所まで、君たちが運ぶ。いいね?」

 

 三人はコクリとうなずく。

 

「そして忠告もしておくね。もし45君の中に入って身動きが取れなくなったとしたら……そのときは覚悟を決めることだ。それでも行くかい?」

 

 拒否する者はそこにはいなかった。

 

「よし、準備はできているね。それじゃあ、いってらっしゃい」

 

 3体の人形が横たわり、電脳世界へと意識を飛ばす。部屋は再び静まり返った。

 

 

「ねえ、パパ?」

 

 しかし、静寂はそんなに長くは続かなかった。

 

「どうしたんだい?」

 

「このまま私と2人で逃げよう?」

 

「……それに僕が頷くとでも?」

 

「そうだよね、パパはそういう人間だもんね」

 

 男は、せっかくの画面をほとんど見ない。今頃、男からの指示を心待ちにしている頃だろうというのに、男は端末に向き合うことすらしない。

 

「わかってるの?たとえこのままG&Kに保護されたとしても、幸せに暮らせないよ?」

 

「わかっているよ。僕の人生は僕自身が一番ね」

 

「じゃあどうして従うの?」

 

「もう……いいんだよ。僕はあのプログラムを完成させられない」

 

「どうして?」

 

「無駄話はここまでだよ、アーキテクト」

 

「ちぇっ、もう少しパパと2人きりで話したかったのに」

 

「45君たちが帰ってきたらね」

 

 ようやく男は端末に向かうと、数分操作してエンターキーを押し込む。すると、三人の位置が移動を開始した。うまく伝達できたようだった。

 

「まったく、パパは素直じゃないな~」

 

 手を頭の後ろにまわしてそういうアーキテクトを、男はチラリと見てから目をそらす。

 

「それじゃあ私、喉乾いたから~」

 

 アーキテクトが部屋を出ていく、男はその後姿を見ていた。

 

「アーキテクト、君はもしや……」

 

 そのつぶやきは、誰にも聞かれることはなかった。

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