――――――――――待たせたな
「ねえ!どういうこと!」
男の眠りを妨げたのは、聞き覚えのある声だった。それは、アーキテクトの声だ。
「どうしたんだい?」
「あっ聞いてよパパ!この45ってやつ!私の通信を妨害するの!」
「そんなことしてないわ。それに、私以外にもそういう事が得意なのがいるじゃない」
「パパはこんな酷いことはしない!」
ムキになるアーキテクトに対して、45は冷静なままだ。彼女は彼女で、男がやったのだと確信を持っていた。
「すまない、アーキテクト……」
「パパ……?どうして謝るの?」
一瞬言いよどむが、男は決心を決めて口を開いた。
「それをしたのは僕だよ」
「……嘘でしょ?だって私の通信のおかげでゲーガーの位置がわかってたんだよ?どうしてこんなことをしたの?」
「それでもだよ。アーキテクト、君は自分の精神を犠牲にする気かい?」
「でも……それじゃあパパの横にいる意味が……」
その言葉に答えたのは、男ではなく9だった。
「アーキテクト、家族に一緒にいる理由なんていらないんだよ?」
「なにを……いってるの?」
「家族は家族だから一緒にいるんだよ。一緒にいるための理由なんて、家族だからで良いんだよ」
「9君のいうとおりだよ。君に通信機としての役割だけを求めてなんかいないさ」
「でも……でも……」
「まったく、メンタルまで母親譲りかい?」
「ママに?」
「あの人も……自分の存在意義を追い求めるような人だったよ」
「……へえ、そうなんだ」
アーキテクトは驚いた表情を浮かべる。
「ママも……か」
その言葉にどんな意味があるのかは、その場の誰も理解ができなかった。しかし、そこに単純な驚きという感情で言い表せない何かが潜んでいることに、気づくくらいのことはできた。
「とりあえず、いそごう。敵の居場所はこれから推定していくことになるから、余裕をもっていかないと」
「え~、もう行くの~?」
「あんたはサボりすぎよ!ほら早く起きなさい!」
「ちぇっ……ケチ」
G11を416が起こして、全員の準備が揃う。
「それじゃあいきましょうか」
45のその一声をきっかけに、部隊は動き始めた。
=*=*=*=*=
「ねえ45姉!あれってもしかして!」
男がそろそろ休憩を求めようとしたところ、9が何かを見つけたようではしゃぎたてる。
「やっと見えたわね……長かったわ」
さすがの45も、顔に疲労感を浮かべていた。その視線の先には、特徴的なタワーがある。
「なになに?あれが目的地?」
「そうなのかい45君」
「ええ、あれが指定されたTV局よ。あのタワーの屋上のヘリポートがあるわ」
「えっ?屋上かい?」
「ええ。もちろん電気等の設備はないわ」
「ということは歩きでアレを登るのかい?」
「そうね」
「ええ……嘘でしょ……」
「あんたは余力あるでしょうに」
G11の頭をコツンとたたいて、416は呆れたかのようにため息をついた。
「ほら、日が暮れる前に登りきりましょ」
そう言って416が一歩踏み出した瞬間だった。遠くの方から物音が聞こえる。
「これは……ヘリコプターの音かい?」
「みたいね。少し急がないと……」
45はそういって時刻を確認する。随分と余裕をもたせたというのに、ヘリコプターの位置が近い。
「45姉、近距離通信は?」
「まだ範囲外よ。9、確認を引き継いでくれる?」
「もちろんだよ、任せて」
「それじゃあG11と416で前方、私で後方を警戒するわ」
そういって陣形を少し変える。一刻も早く、ヘリとの連絡が必須だった。
「私はー?」
「アーキテクトは……保護対象の警護でもしていて」
「は~い」
少し困惑気味の声をだす45に対して、アーキテクトは嬉しそうに頷いてみせた。
「えらく上機嫌だね」
「だってパパのとなりだよ?」
男を挟むようにして、9とアーキテクトは話し始める。
「アーキテクトは本当に好きだね~」
「当たり前でしょ?9も……45姉のことは好きでしょ?それといっしょだよ」
「なるほどね~でもね、私も嫌いじゃないよ」
そういって9は男への距離をつめる。
「む~、私の方が好きなんだから!」
アーキテクトもそれを対抗するかのように男に近づいた。
「あのねぇ2人とも、暑いから離れてくれないかい?」
「「ヤダ~」」
「ほんと仲がいいね君たちは」
「こう他人って感じがしないんだよね~」
「わかる~」
「「ね~」」
9とアーキテクトが顔を見合わせる。まるで仲の良い姉妹が父親をはさんでいるかのようだった。
「……っ45姉!通信がつながったよ!」
「スピーカーにして流して」
「うん!」
9は迷わずに、通信機のスイッチを切り替えてスピーカーで音声を流し始めた。操作されたとおり、通信機はヘリのパイロットからの通信を受け取り、音声としてその場に流し始める。
『繰り返す!今すぐ照準を外せ!これは警告だ!照準を外せ!』
『ダメだ!回避行動を!』
ヘリコプターは変則的な機動を取り始める。アーキテクトはもちろん、小隊の全員がとっさに回避行動をとる。
しかし、男は別の方向の空を見上げて、立ち尽くしていた。
「パパ!危ないよ!」
「はやくこっちに!」
9とアーキテクトの言葉にも、微動だにしない。ただ呆然と、飛来してくる何かを眺めていた。
「ああもう!手間がかかる!」
416が物陰から飛び出し、男を建物の中へと引きずり込む。
その数秒後……着弾音で、辺りは満たされた。
何度も、何度も破裂する音が男の鼓膜を震わせる。そして何かが倒壊していく音や、爆発音も聞こえる。
「……全員、被害報告」
しばらくして静けさが戻ったあと、45の声が聞こえる。
「私は無事、保護対象も見たところ無傷よ」
「私も~」
「私も大丈夫だよ。45姉は?」
「私も大丈夫。アーキテクトは?」
「んー、平気だよ」
そういうアーキテクトも、土埃を払う程度で傷を負った様子はない。
「全員動けるわね、よしそれじゃあ――」
「待って45姉!アレ見て!」
そう言って9が指を差す。それは先程まで目的地にしていたTV局の方向だった。
「うそ……」
誰となくそう言葉を漏らした。
先程まであったTV局のタワーは、そこにはない。半ばで折れて倒壊した残骸だけが、そこに残っている。
「予定変更ね……またどこかで通信環境を整えることになるわね」
45がため息をつく。
「そうも言ってられないみたいだよ……アレを見て」
そう言ってアーキテクトは来た道の方向を指差す。
そこには、ゆっくりと歩いてくる者の姿があった。長い銀髪をたなびかせ、白い肌が強調される黒い服を身にまとっている。その手には、大きめのボウガンのようなシルエットをした何かを携えている。
「パパ、隠れて!」
「わかっているよ!」
アーキテクトに声をかけられるよりも前に、男は建物の奥へと身を潜める。男に出来ることなどない。彼には銃を撃つ腕も、疲れ知らずな鋼の肉体も、圧倒的な筋力によるパワーも持ち合わせていない。ただ邪魔にならないところで、縮こまっていることしかできない。
「アーキテクト、あなたはどうするの」
「私?どうしよっかな」
「ここで撃つわ」
ためらいもなく銃を向ける416に、アーキテクトはヘラヘラと笑う。
「冗談だよ。こっちにはパパがいるからね、私もどうにか頑張るよ」
「戦うとは言わないのね」
45の言葉にアーキテクトは首を振る。
「だって私、自分の武器を持ってきてないもん。それにあれがあったとしてもゲーガーには
勝てないし」
「そうなのかい?」
「うん。そもそも私って自ら戦場で戦うタイプでもないし」
「そうかい、それは困ったね……」
「いいえ、好都合よ」
男の言葉を45は否定してみせる。
「アーキテクトは彼の護衛を、あのゲーガーとかいうハイエンドは私たちだけでやるわ」
「できるのかい?」
その問に答えたのは416だった。
「当たり前でしょう?」
「そうだよ、私たちだって強いんだよ?」
9もそう言って笑う。明らかに無理がある笑いだった。
「……任せたよ」
そんなことに気がついても、男はそう言うしかなかった。彼にこの状況を変えられるような力は無かった。
「それじゃあいつもどおりでいくわ」
45のその言葉を皮切りに、404小隊は動き始めた。
「やっと……、やっと追いついた。やっと見つけたぞ」
ゲーガーのそのつぶやきと共に、戦闘が開始した。
あと2話……