世界を終わらせるもの【完結】   作:畑渚

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ひっ評価10!?ありがたや……ありがたや……


boy meets girls

 背後から足音が迫っていた。しかし、男が足を動かすことはできなかった。

 

 目の前には光が漏れ出ている場所がある。光の向こうからは濃厚な緑の匂いがした。何も不思議な事はない。元からこの研究所は森の中に作られているから、外側へと向かえば森に行き着くのは当たり前だ。

 

「参ったな……まさか崩落しているとは」

 

 目の前には光の漏れ出るスキマがあった。瓦礫の間から漏れ出ている光は暗い通路からすれば大きな光源に見えた。しかし、成人男性が通れる広さではない。

 

 手元には非常用の道具一式と件のプログラムの入った鞄があるのみで、ここを突破できるようなものはなかった。

 

「おとなしくワタクシの言うことに従ってくれませんか?」

 

 背後からそう声がかかる。男が振り返ると、鉄血製らしき人形がこちらを見てにっこりと微笑んでいた。

 

「君はエリート人形かい?さすがの指揮力だね。そんなに配下に人形を従えられるとは」

 

 男の言う通り、鉄血の人形の後ろには配下らしき人形たちが一斉に男に銃を突きつけていた。

 

「ええ、ワタクシはイントゥルーダーと申します。以後お見知りおきを」

 

「こんな美女に自己紹介される日がくるとは思わなかったよ」

 

「あら、ワタクシを口説こうというの?」

 

「僕だって男だからね。美女を前にして口説かずにはいられないのさ」

 

 そう言いながらも、男は左手をポケットの中へと入れた。

 手でふれたのは最後の手段の、カバンの中に仕込まれた爆弾の起爆スイッチだ。

 

「こんなワタクシを美女と言ってくれるなんて……ですが」

 

「ですが?やっぱり僕みたいな男じゃだめかな?」

 

「……いますぐ左手をポケットからだしなさい。さもなくば殺す……いえ、死なない程度に痛みを与え続けたほうが良さそうですね」

 

 イントゥルーダーの顔は相変わらず笑顔のままだった。

 男は考える。ここで自爆して死ぬというのは、できる限り避けたかった。しかし、どうせ死ぬならば痛みの少なく済む方が良いとも考えていた。

 

 

 少しの間考えたあと、男は左手を上げた。その手には、起爆スイッチがしっかりと握られている。

 

「このボタンを押せば君たちの欲しいデータは僕もろとも爆散する。文字通り世界に存在しなくなる。一歩でも近づいてみろ、すぐにドカンだ」

 

 男の額を汗が流れる。これはブラフでもなんでもない。文字通り、自分が死ぬスイッチを使って脅迫まがいのことをしている。

 

「……わかったわ。銃を下げなさい」

 

 イントゥルーダーの指示通り、人形たちは銃口を地面へと向けた。

 ため息をつき、これから交渉に移ろうとする。油断していたわけではないが、警戒意識が一瞬だけ弱まった。

 

 それ故に、その場の誰も、一体の人形の放った弾丸に気がつくことはなかった。

 

 

 通路内に反響する銃声の後、男の左手は弾け飛ぶ。

 

 いや、よくみれば男の手にはあたっておらず、その手の中の起爆スイッチだけを寸分たがわず撃ち抜いていた。男は無傷だ。

 

「ちっ邪魔者がはいったわね……」

 

 イントゥルーダー配下の人形たちが次々と倒れていく。相手はまだ闇に紛れ込んでおり、姿を見せることはなかった。

 

 男は急いで物陰へと隠れた。銃撃戦に巻き込まれては無事では済まないと男の頭の中で警鐘が鳴り響いていた。

 

 

 鳴り止まない銃撃音の中、男の耳は独特の音を聞き取った。それはガスの噴出音のようだった。

 

 一瞬の閃光の後、爆音が通路に響き渡る。爆風は男の隠れていた物ごと吹き飛ばし、崩落していた瓦礫もろとも外へと放り出された。

 

 外で男が目にしたのは、古い木製の吊橋だ。吊橋は吹き飛ばされてきた瓦礫によってどんどんと崩壊していき、男の身体を支えてくれることはなかった。ずいぶんと高さがあり、下には大きな川が流れていた。

 

 

 手を伸ばしても、もう遅かった。男は浮遊感を感じながら、目を閉じた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「416!何してるの!保護対象が落ちちゃったじゃん!どうしよう45姉!」

 

「おちつきなさい9。たしか下は大きな川よ、生きてる確率が高いわ」

 

「416~、もうちょっと考えてよ~」

 

「わ、私は悪くないわ!こんな狭いところでエリート人形と戦って勝つにはこれしかなかったでしょ!」

 

「だからってこれはないでしょ」

 

 9は辺りを見回す。鉄血の集団の中心に撃つこまれた榴弾は、鉄血をバラバラにして吹き飛ばしていた。エリート人形ですら、一発で行動不能である。

 

「9、それよりもすることがあるでしょう」

 

「回り道するには遠いよ?どうするの45姉」

 

「簡単よ」

 

 45は下を流れる川を眺めているG11を後ろから押した。

 

「え?わ、私なんにも~!助けて~!」

 

 G11の断末魔に416がピクリと反応した。

 

「ちっもう少し説明してからしなさいよ!」

 

 416は完璧なフォームで飛び降りG11の後を追う。

 

「さて45姉、私たちは回り道を探そうか」

 

 9の笑顔に45も笑顔で応えた。

 

 そして、9の方へと一歩近寄った。

 

「45姉?その手は何?まるであなたも落ちるのよって感じの笑顔は何!?」

 

 45は何も応えない。ただ笑顔で9の方へと詰め寄るだけである。

 

「45姉嘘だよね?嘘でした~って言うんだよね?」

 

 9の直ぐ側まで来た45は笑顔でこう言った。

 

「これが一番早いでしょう?」

 

「濡れるのイヤ~!」

 

 45に押された9は川へと落ちていった。

 

「さて、私も行かないとね」

 

 45は濡れてはいけない物を防水ポーチへと移し替える。

 

「……あら、こんなものが」

 

 いざ飛び込もうとしたとき、45は傍らにロープが落ちていることに気がついた。

 

「ごめんなさい9」

 

 45はロープを橋桁に結びつけ、ゆっくりと河原に降りていった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 男は自分が地面に寝転がっていることに気がついた。石や砂利の感触を確かめ、ここが河原であると見当をつけた。

 

 起き上がると、目の前で裸の女が下着を身につけているところだった。

 

「きゃあああああああ!」

 

 バシーンという軽快なビンタの音が、静かな森に響いた。

 

 

「さっきはごめん」

 

 しっかりと衣服を身につけた状態で謝罪をしてくる。

 

「いいんだ、あれは事故だったっんだ。お互いのためにも忘れよう」

 

「うん、そうだね」

 

「それで、君はどうして僕を見張っているんだい?」

 

「命令だからだよ。私の任務はあなたを見張っておくこと」

 

 少女は笑顔で笑う。綺麗な笑顔だが、そのせいで逆に右目に付いた傷が強調して見えてしまった。

 

 

 しばらく無言の時間が続いた。森の木々のざわめきが、心地よいBGMとなっていた。

 

「君は何者なんだい?」

 

「私?私は……ごめん、自己紹介の許可は出てないんだ」

 

「特殊な部隊にでも所属しているかの口ぶりだね」

 

「まあそんなとこかな」

 

 男は自分の直ぐ側にある荷物の無事を確かめる。データの入った鞄は開けられた様子もなく、非常用品の入ったナップザックも濡れてはいるが大体の品が無事であった。

 

「食べるかい?」

 

「えっいいの?」

 

 非常用品の中の栄養補給食を渡す。少女の舌に合ったようで、美味しそうに食べる少女を眺めながら男も補給食を口にした。

 

「なにこれ!練り物?すっごく甘くて美味しい」

 

「えっと……YOUKANって言うらしい。極東の国の食べ物って書いてるね」

 

「これならいくらでも食べられそう!」

 

「気に入ったようでなによりだよ」

 

「うん。あ、お礼ってわけではないけどこれあげる!」

 

 少女は胸ポケットから何かを取り出した。

 

「……これはネックレスかい?急にどうして」

 

「だってこれはあなたの物でしょう?」

 

「手持ち品にネックレスなんて――」

 

 男の言葉を少女は上塗りした。

 

「正確にはあなたの物の物だよ。大事にとっておいたほうがいいんじゃないの?」

 

 その一言で男は何も言えなくなった。察してしまった。これが誰のネックレスなのか、はっきりと分かってしまった。

 

 

『プレゼントですか?ご主人様らしくないですね。でも……ありがたく受け取っておきます』

 

 

 もう何年も前のことで、すっかりと忘れてしまっていた物だった。男にとっては長い人生のほんの一瞬の出来事だった。

 しかし、おそらく彼女にとっては短い数年という実働時間の中の、かけがえのない時間であったのだろう。

 

 

「すまない、少し外していいかな」

 

「う~ん、いいよって言いたいんだけど、それは無理なんだ」

 

「まあそうだよね……」

 

「でもね、忘れてあげる」

 

「えっ?」

 

「あなたが言ったんでしょう?事故だからお互いのために忘れようって」

 

 男は俯いていた顔を上げて少女の顔を見つめる。

 

「だから忘れてあげる。女々しく泣いていても、大声あげて泣いちゃったとしても、あなたが何も見ていないように、私は何も見なかったし聞かなかった。そういうことにしといてあげる」

 

「……ありがとう」

 

「ほら、早くしないと45姉……じゃなかった、他のメンバーも帰ってきちゃうよ。さすがにみんなにばれるのは嫌でしょ?」

 

 

 少女は特に中身の詰まっていないことをずっと語り続けてくれた。少女のトークスキルであれば何時間でも話すことができた。

 そして男は、少女の声の影でひっそりと、声を押し殺して泣いた。

 




9、俺だ。一緒に墓に入るのを前提に結婚してくれ
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