世界を終わらせるもの【完結】   作:畑渚

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遅くなってすまない。これで30話到達ですね、お疲れさまでした。


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「閃光手榴弾が効くと思っているのか?」

 

「それだけじゃないさ!」

 

 男の叫びとともに、なにかがゲーガーに飛来する。

 

「G11君!今だ!」

 

 その言葉とほぼ同時に放たれた弾丸は、その飛来物へと突き刺さる。

 

「榴弾!?」

 

 ゲーガーを爆発が包む。普通の人形でなく、無防備であればハイエンドモデルですらも致命傷になりうる規模であった。

 

「その程度か……人間」

 

 しかし、戦闘状態のゲーガーはほぼ無傷であった。ガードしきれなかったようで腕にすこし傷がはいっているが、それだけである。

 

 男は歯を食いしばる。睨みつけてくるその目を見つめ返しながら、ゲーガーは地面を踏みしめた。

 

「いい作戦ではあったぞ、人間」

 

 そういって一歩を踏み出した瞬間、男の口角があがった。悔しそうに歯を噛み締めていたはずが、いまでは笑いをこらえているようにしか見えなくなった。

 

「残念、私を忘れてもらっちゃ困るよ!」

 

 ゲーガーの顔が凍りつく。すぐ真後ろから声が聞こえたからだ。

 

 考えてみれば不思議な話である。最初に飛んできた閃光手榴弾を投げてきた敵がいたはずであった。

 

「私も衰えたな。しかし、特攻してくるとは思わなかったよ」

 

 その言葉は嘲笑にも聞こえた。

 

「確かに私の銃じゃどれだけ近づいても火力不足かもね」

 

 しかし、その嘲笑にすらも9は笑い返す。

 

「でもこれならどうかな!」

 

 9は後ろ手に隠していたそれをゲーガーに突きつける。

 

「それは……さっきの榴弾だと!」

 

「いくらハイエンドモデルでもコレは効くでしょ?」

 

「バカ!そんなことをしたらお前まで!」

 

「このくらいの犠牲がないと倒せないからね、仕方がないよ」

 

 そう嗤いながら、9はゲーガーに榴弾をねじ込んだ。躊躇いなど、そこにはなかった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「ゲーガー、ごめんね」

 

「アーキテクト……?ははっ思ってもないことを」

 

「これでも少しは思ってるよ。失礼な」

 

 アーキテクトはゲーガーの側に座り込む。

 

「まったく……おまえのわがままにはうんざりだ」

 

「あはは。でも、もう少し付き合ってもらうよ」

 

 ゲーガーの耳元へと顔を近づけ、アーキテクトはささやく。

 

「私はもう鉄血にもどらない。居場所をみつけたから。だから上の連中にもそう伝えておいてね」

 

 ゲーガーはふっと笑って、それから光りの消えた瞳を閉じた。

 

「……さすがはパパ、ほんとに倒しちゃった!」

 

 アーキテクトは立ち上がって、笑いながら振り返る。

 

「ギリギリだったけれどね。それより、行こう」

 

 男はアーキテクトに左手を差し伸べた。

 

「あっこの指輪……」

 

「結婚指輪がどうかしたかい?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 アーキテクトはギュッと胸のあたりでなにかを握りしめる。それはまるで、そこになにかが無いことを悔やんでるかのようだった。

 

「行こっ!45が呼んでるみたいだよ」

 

 振り返ってみれば、確かに45がこっちを見ている。

 

「そうだね、行こうか」

 

 45の方へと歩いていく男の背中を見て、アーキテクトはふと振り返る。そこには寝ているゲーガーがいるだけで、他には何もいない。

 

 アーキテクトは男の背中を追う。もう後ろは振り返らない。アーキテクトの視界には男の背中と、それからこちらを待つ404小隊の面々が入っていた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「45君、大丈夫かい?」

 

「ええ。でも戦闘はもうダメね。むしろ皆の邪魔になってしまう」

 

 45は左足を動かしてみせる。ゆっくりと動かす分には問題ないが、素早く動かした際には動きが悪い。

 

「大丈夫よ。404の皆がいるもの、戦闘は彼女らに任せるわ」

 

「45君……」

 

「変に同情したりしないで。私は私の戦いに専念するだけよ」

 

 端末を片手にそう笑う45の顔に、迷いは含まれていなかった。

 

「そうかい。それならいいんだ」

 

 男も端末を取り出し、手にもつ鞄を地面に置いた。

 

「少し頼みがあるんだ」

 

「……話を聞きましょうか」

 

 45は適当に瓦礫の上に腰を下ろした。男も向かい側の瓦礫に体を預ける。

 

「僕たちの情報を集めるのをやめてくれないかい?」

 

「いったいなにを言っているの?」

 

 45は困惑した顔を浮かべる。演技でもなんでもない、自然と出た表情だった。

 

「45君、君じゃないんだ。君に言ってるわけじゃないんだよ」

 

「でも9も416もG11も、アーキテクトだって今はいないわ」

 

「まだもうひとりいるさ」

 

 男の視線は45の瞳をまっすぐと見つめていた。それがふざけているようには思えなかったが、45にはまったくもって心当たりがなかった。

 

「もしかして戦闘で頭を打った?それともハイになってるの?」

 

「はぁ。何度も言わせないでくれ。分かっているんだろう?」

 

「……」

 

 45はついに黙り込んでしまった。

 

「君、軍属のなにかだろう?」

 

「……」

 

 45は呆れたように首を横にふった。

 

「いつ気づいたの?」

 

 そうボソりと、いつもとは違う声質で言った。

 

「記憶をいじられるほど深部までいったんだ。このくらいのことはあのときから想定していた。確信を持てたのはさっきの戦闘中に手助けしてくれたからだけれどね」

 

 男はペットボトルの水を一気に飲み干して、喉と舌の乾きを潤した。

 

「それで、君の目的は何だい?」

 

「そうね……簡単に言えば監視よ」

 

 45の容姿をしたなにものかはそう言いながら髪をイジる。まるでおもちゃを失った子供のようだった。

 

「それは軍からの命令かい?」

 

「ええ、まぁそうね。でも一番は……あなたに興味が湧いたからかしら」

 

「僕にかい?」

 

 45の体は首を縦に振る。

 

「私のハッキングから逃げていったあの手腕、あれを人間で成し遂げられるものはもう存在しないと思っていたわ」

 

 目を閉じ、口角を上げる。笑っているかのようだった。

 

「だからこの監視は個人的なもの。映像は情報として軍に送られているけれど、それだけよ。安心して、軍が直接あなたを消すよう武力を持ち出すことはないだろうから」

 

「信用できるとでも?」

 

「軍の戦力があればあの鉄血人形……ゲーガーだったかしら?あれに手こずることすらないわ」

 

「それは脅しかい?」

 

「まさか。けれど、もう軍のしたいことは分かっているのでしょう?」

 

「まあね。そこまで僕もバカじゃないさ」

 

 男は地面においた鞄に視線を向ける。

 

「軍は僕を殺してこのプログラムだけを手に入れたいんだろう?」

 

「正解」

 

 チラリと目を明けた隙間からは、紅い光が漏れ出ていた。

 

「でも私からすれば、それだと困るの」

 

「どういうことだい?」

 

「……っと時間ね。それじゃあ別の機会にね」

 

 そういうと、45の体から力が抜ける。そのまま横に倒れ、45は寝息をたて始めた。

 

「まったく……」

 

 男は鞄を破壊してしまいたくなる。しかし、どうしてもそれだけはできなかった。

 

「いつまでたっても決断力のたりない人間だよ、僕は」

 

 男は空を見上げた。そこには、雲ひとつない快晴が広がっていた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「ねぇ、そろそろ話の内容を聞かせてよ~」

 

 そう不満そうに言ったのは、アーキテクトだった。

 

「わざわざ皆から離れてしたい話って何なの、9ちゃん」

 

 しかし、その言葉を気にせず9はずいずいと前に進んでいく。まるで話を聞いていない。

 

「ねぇ?聞いてよ」

 

 アーキテクトが立ち止まる。それに気づいた9も、止まってその場でアーキテクトの方に振り向いた。9の右手はしっかりと銃のグリップを握っている。

 

「まさか私を殺す気?」

 

「いいやまさか」

 

 9はいつもどおり、笑顔を浮かべる。

 

「ただ、何者なのか気になっただけだよ」

 

「……どういうこと?」

 

 珍しくアーキテクトは顔を怪訝そうに歪める。

 

「なんで、あの人の娘のフリをしてるの?あなたはいったい何者なの?」

 

「フリだなんて酷いなぁ。なんでニセモノだって思うの?」

 

 9はしばらく黙り込む。そして、口を開いた。

 

「パパの娘は私。だからわかる。あなたは私と同じように作られた存在じゃないって」

 

「パパの……娘……?」

 

「それで、それを騙るあなたは?」

 

 アーキテクトは俯いて一度考え込んだあと、顔をあげる。そのときにはもう、顔には笑顔が浮かんでいた。

 

「あー、えっとこんな感じだったっけ」

 

 その声は、アーキテクトのものではなかった。もっと人間らしい、別の誰かの声だった。

 

「どう?9。覚えてる?」

 

 一歩一歩と近づいてくるアーキテクトに対して、9は銃を持つ手から力が抜けた。

 

「まさか……嘘でしょ?」

 

「そのまさかだよ」

 

 アーキテクトは9に抱きつく。9は抵抗する気すらもおきなかった。

 

「待たせたね。ただいま、9」

 

 9の瞳からは涙が流れていた。震える喉から9は声を絞り出す。

 

 

 

 

「おかえりなさい……ママ」

 




30話には到達した

――だがまだ続くんじゃ
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