世界を終わらせるもの【完結】   作:畑渚

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ちょいと話数調整に時間がかかりましたが元気です。


Comp_EndTheWorld

 脇に乗り捨てられた車が散乱するハイウェイを、男たちは駆け抜けていた。手に入れた車はしっかりと整備されていたらしく、不調をきたすことはない。心配だったガソリンも、乗り捨てられた車から回収すれば十分に足りていた。

 

「随分と快適な旅だね」

 

 助手席に座って地図を広げながら、男はそうつぶやいた。今までずっと徒歩で移動だったことを考えれば、たしかにそのとおりである。現に後部座席に座る4人も、寝息をたてていた。

 しかし、完全に快適な旅とも言えなかった。

 

「ちょっと~私はまったく休憩してないんだけど!」

 

 運転席に座る9は口を尖らせる。まともに運転できるのは9くらいで、他は満場一致でハンドルを握らせたくないという結論が出ていた。よってここまでずっと運転してきた9には、今後もアクセルを踏み続ける未来が待っている。

 

「本当にすまない、9君」

 

 男は付近の地図を開く。しばらく道を指でたどり、一つのポイントで止める。そこには、ガスのマークが印刷されていた。

 

「もう少ししたらガソリンスタンドがあるはずだ。そこで一旦休憩しようか」

 

「やった!やっと休めるよ」

 

 9は一層笑顔を明るめながら、アクセルを思いきり踏んだ。エンジンの回転数が高まる音をBGMに、男は少しの間目を閉じて体を休めることにした。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「45姉、おはよ!」

 

「う……ん?ああ、9。おはよう」

 

 45は瞬きを繰り返して目のピントを調整する。車の外がガソリンスタンドであることを理解するのに、さほど時間はかからなかった。

 

「休憩?」

 

「うん、さすがに私も疲れたよ」

 

「そう。それじゃあしっかり休んで。見張りは私たちがするから安心してね」

 

「ありがとう45姉!」

 

 45が荷物を纏めて車を出ると、9は助手席の椅子を倒して本格的に寝息を立て始めた。寝ている間の警戒モジュールすらも切っており、今の9はすべての機能のメンテナンスを始めている。

 

「45君、どうかしたのかい?」

 

 たまたま近くにいた男に話しかけられて、45は少し動きが止まる。

 

「……いいえ、なんでもないわ」

 

 45は眠る9の頬を撫で、それから右目の傷に指を添わせた。自分とは違う傷の感触をその指先に感じながら、フッと優しく笑う。

 

「さて、私たちは周囲の警戒をしておくわ。あなたは?」

 

「僕かい?僕は少し作業でもしているよ」

 

 男は近くの箱を椅子代わりにして、端末を開く。そして例の鞄と端末とを線でつなぎ、キーボードを叩き始めた。

 45はヤレヤレと首を横に振ると、ショップの方へと向かう。

 

 中では、アーキテクトが残っていた商品を物色していた。カウンターには壊されたレジと、現金の束がある。

 

「あれ、45じゃん。起きたの?」

 

「ええ、9を休ませないといけないからね」

 

「なるほどね。そういや、パパはどこ?」

 

「あっちでプログラムをいじってるわ」

 

「ほんと?じゃあ私も行ってこよ!」

 

 アーキテクトは埃を手にとった缶コーヒーの埃を振り払って、ショップの出口へと向かおうとする。しかし、外に出るには45が邪魔だった。

 

「……45?どいてくれない?」

 

「あなた、あの人の何なの?」

 

「言ってるでしょ?娘だって」

 

 しばらく黙り込んでいた45はすっと体をそらして道を開けた。アーキテクトは怪訝な表情を浮かべながらも、45の前を通って外に出ていく。

 その背中が見えなくなるまで眺めた後、45はショップの中を見回す。めぼしいものはないが、近辺の地図や少し残っている食料をかきあつめた。

 

「仲良くしていることだし、9だったら本当のことを知っているかしら……」

 

 そう独り言をぼやきながら、端末で416とG11の場所を確認する。45は二人のために缶コーヒーを両手に持って、地図を見ながらショップの扉を開いた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「パパ、何してるの?」

 

「ああ、アーキテクトかい」

 

 一瞬で画面を切り替えた男は、ようやくキーボードから手を離した。

 

「どうしたんだい?」

 

「これ、差し入れ」

 

 そう言って差し出されたコーヒーを、男はありがとうと言って快く受け取る。中のガスが抜ける音が立ち、開いた缶から黒い液体を喉に流し込む。

 

「美味しいや。ありがとう、アーキテクト」

 

「パパの口に合ったようで何よりだよ」

 

「これはね、僕が良く飲んでた缶コーヒーだよ。しばらく飲めてなかったから懐かしいや」

 

 男は飲み干した缶のパッケージを見る。有名なメーカーの、定番の微糖のコーヒー。常に彼の研究室にストックしてあったものだ。

 

「そういえばプログラムをいじってたんでしょう?私にも見せて?」

 

「君、プログラムができるのかい?」

 

「うん、少しだけね。これでも鉄血の新施設の立ち上げなんかもやってたんだよ!」

 

 アーキテクトはそう言いながら、これまで作ったプログラムに関わることをいくつかあげていく。その中には、鉄血側にとって最重要機密であるものも当然含まれていた。

 

「アーキテクト、君が抜けたことで鉄血は随分と痛手だろうね」

 

「そうかも」

 

 男の言葉に返ってきたのは、気の抜けた返事だった。

 

「でも今更戻る気もないかな。もともとはとりあえずで歩調をあわせてたに過ぎないし」

 

「そうかい。ならいいんだ」

 

 男は端末を操作して画面を戻す。

 

「それで、プログラムを見たいんだったかな?」

 

「うん!」

 

 画面を覗き込んだアーキテクトは、驚いたり感心したりとコロコロと表情を変える。

 

「へえ、ここで書き換えて、ここでフラグを。それでこうして……ああ、こうやって処理したんだ」

 

「本当に分かるんだね」

 

「あれ、疑ってたの?」

 

「そりゃ、自分でも難しいと感じるプログラムを書いているからね。すぐに理解されてしまうようではまだまだかな」

 

「そんなことないよ」

 

 乾いた笑いを浮かべる男に、アーキテクトは詰めよる。

 

「パパのプログラムはホントにすごいよ!私じゃなかったら誰もわからないんじゃないかな」

 

「そ、そうかい?そこまで言ってもらえるのは嬉しいよ」

 

「お世辞でも何でもないからね!」

 

 念を押すかのようにアーキテクトは男の瞳を見つめる。

 

「でもさ……ここは別の書き方をしたほうがいいよ思うよ」

 

 その一言で、男の表情が変わる。研究所ではよく見られた、集中したときの真面目な顔だ。

 

「アーキテクト、他にもあるんだろう?」

 

「えっ?まあそうだけど」

 

「……全部教えてくれるかい?」

 

 彼にも研究者としてのプライドはある。しかしそれ以上に、このアーキテクトがどのようなプログラムを書くのかが気になっていた。

 

 端末を渡されたアーキテクトは、慣れた手付きでプログラムを書き換えていく。それはより高速で、効率の良いものへと進化していく。

 男は食い入るように画面を見つめていた。

 

「驚いた。ここまで気づかないものなんだね」

 

 男はアーキテクトの肩に手を置いて手を止めさせる。

 

「ここはこうしたほうがいいんじゃないかい?」

 

「ああ、そうか。パパもなかなかやるね」

 

 鼻歌まじりにアーキテクトはプログラムを書き換えていく。完成度が男一人のときとは段違いなスピードで上がっていく。

 アーキテクトが書き直し、男がそれを訂正し、さらにアーキテクトが追加していく。男では解決できず後回しになっていた部分でも、アーキテクトの一声で作業が進んでいく。

 

 

 そしてついには、世界を終わらせるプログラムは完成してしまった。

 




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