「パパ!今の爆発はいったい!?」
「逃げるよ、アーキテクト!」
男はアーキテクトの手をとって廊下を走る。プログラムに爆弾を仕込んでいたことについて、説明している暇はなかった。
「どういうこと!?」
「逃げてから説明するよ!」
後ろから兵士たちが追ってくるが、装備の重さもあり差は開くばかりだ。なにより男にとって幸運だったのは、射撃を迷ってくれたことだった。防具もなにもない男ならば、撃ってくればすぐに足が止まっていただろう。
「よくわかんないけど逃げればいいんだね!」
アーキテクトは足を早め、今度は逆に男を引っ張っていく。
「止まれ!止まらないと撃つぞ!これは警告だ!」
後ろから聞こえる声は、気にしている余裕もなかった。
「ちくしょう!こんなときにHQは何をしているんだ!」
「監視カメラが動かない?こんなときに限って!」
荒々しい言葉が、途切れる。そして、4発の銃声が聞こえた。
「止まれ、さもなくば撃つ」
「誰がとまるもんですか!」
新手の言葉に、アーキテクトはベーと舌を突き出して威嚇する。
「そうか」
新手の兵士は、何のためらいもなく引き金を引いた。
アーキテクトがグッと力強く男を引き寄せる。
「はは、人形でよかった。人形じゃなかったら私死んでたよ」
「アーキテクト!」
「大丈夫、早く先に進もう?」
肩から流血するアーキテクトは、防火扉を作動させた。射線が途切れて、一息つく。
しかし、またどこからともなく足音が近づいてくる。
「ほら!行くよ!」
男を引っ張って、アーキテクトは走る。
「今度こそ、今度こそ君を守りきって見せる」
「アーキテクト……」
男は空いているもう片方の手で、ポケットの中の銃に触れる。
「……!敵!?」
鉢合わせという最悪の形で、一方的に銃を撃ってくる。
「アーキテクト、引いてくれ!」
男はアーキテクトの腕を引き寄せると、銃をぬく。無我夢中で撃ち込んだ弾の一つが、防火扉の装置を壊し、シャッターが降りる。
「はあ……大丈夫かい、アーキテクト」
「うん。パパも怪我がなくてよかった」
擦り傷程度ですんで幸運だったとしか言いようがない。男は銃を確認する。
「残弾一発。これはもう使いようがないかな」
「持ってたら?その一発で変わるかもしれないよ」
「だといいんだがね」
しかし、そうとも言えなかった。
『やあ、私だ』
館内放送用のスピーカーから、男性の声が聞こえる。
『随分と手間取らせてくれた。だがこれで終わりだ。もう、包囲は完成した』
開いている方向の通路には、既に兵士が銃を構えていた。
「アーキテクト」
「パパ?」
「愛してる」
男は、左手の指輪を外してアーキテクトの左手に握らせる。
「パパ!何を!」
抗議するアーキテクトを、男は一室に押し込める。そして扉を閉じ、決して開かぬように扉の前で座り込む。
「おねがいだアーキテクト、君はそのまま早く逃げてくれ」
「やだよ!せっかく、せっかく今度こそ守れるのに……!」
「大丈夫、僕はそう簡単に殺されないさ」
扉をドンドンと叩く音が、やがて止む。そうした合間にも、兵士たちはじりじりと距離をつめてきていた。
「それ以上近づくな!」
男はポケットから銃を取り出す。たった一発しか残っていないそれを、男は自分の額につきつける。
「カーター!聞こえているか!あのプログラムはもう破壊した!あれを作り出せるのは世界でも僕だけだ!」
『……、何が望みだ』
「僕たちを開放しろ。二度と僕に近づくな。そうすればプログラムだけは作ってやる」
『話にならんな』
兵士たちが、引き金に指をかけはじめていた。
『制圧しろ。間違っても殺すな』
兵士の一人が、引き金を引いた。弾丸はまるで吸い込まれるかのように、男の右足へと吸い込まれた。
しかし、男は歯をくいしばってその場から動かなかった。そして、銃を握る力をいっそうつよくする。
限界はとうに過ぎていた。もはや痛いのか暑いのか、それとも寒いのかすらもわからなくなっていた。しかし、右手に握るものの重さだけははっきりと認識していた。
人差し指に力が入っていく。引き金が、やけに重く感じていた。
突然、近くに爆風が吹き荒れる。先程閉じたシャッターが吹き飛び、爆風が男の手から銃を吹き飛ばす。
これまでかと、男は歯をくいしばる。しかし、そうではなかった。
「おまたせ!」
「まった~?」
「むしろ完璧なタイミングでしょう?」
聞き覚えのある声は、聞き間違えようもない。
「おまたせ。それじゃあ最後までよろしくね?」
「404小隊……?どうして君たちがここに」
「残念なところだけどね、旅の終着点はここじゃないの。もっと別の場所」
45はテキパキと止血処置を終わらせる。
「ほら、まだそこにいるんでしょう?」
9に肩を貸してもらって男がどいたことで、扉がきしみながら開く。
「……良かった。生きててよかった」
泣きじゃくるアーキテクトに言葉をかけれずにいると、後方を警戒していた416が耳打ちする。
「45、残念だけど追手がもうすぐそこよ」
「416は榴弾の準備をして。9、させたまま行ける?」
「ちょいと厳しいかも」
つらそうにする9を見かねてアーキテクトは手をあげる。
「じゃあ私が!」
「アーキテクトは怪我してるでしょう。銃は使える?」
「人並みならなんとか」
「じゃあこれ使ってよ!」
9は自らの銃を預ける。
「ママなら使えるでしょ?」
「まったく」
アーキテクトは銃を受け取ると、慣れた手付きで動作確認する。
「ねえ9」
「どうしたの45姉」
「ママってなに?」
「えっと……あとで話すね!」
9の言葉にかぶせて、416が叫ぶ。
「榴弾を撃つわよ!」
ぽんと気の抜けた音して通路の奥へと飛んでいく。そしてその何倍もの強烈な音が、衝撃波にのって戻ってくる。
「45君!どこにむかうんだい?」
「屋上まで走るわ!」
何度も接敵しては、416とG11の火力で押し切る。
「45!もう弾がないわ!」
「みんなそうでしょ!9、行ける?」
「任せて!ママ、パパをお願い!」
「パパ?」
男のマヌケな声は他所に、9はアーキテクトへと男を預けて前に飛び出す。
「そんなのあたらないよ!」
あっというまに前方の兵士に近づくと、首を一瞬でへし折る。そして流れるように次の兵士を投げ、その回転力のままもうひとりの兵士の顎に回し蹴りをくらわす。
「クリアだよ45姉!」
「たすかるわ!ほらはやく!」
屋上へと飛び出せば、ヘリコプターが今にも飛び立とうと待機していた。
9が先に乗り込み、続いてアーキテクトと男が乗り込む。45が操縦席のもう片方へと乗り込むと、後方を銃撃していた416とG11もこちらに駆け出す。
「ふたりとも!」
「捕まれ!」
男と9は、手をのばす。416もG11も、ふっと笑ってその手を握り返した。
飛び込むように全員のったヘリコプターは、急速に上昇していく。
「そういえば45君」
「なにかしら?」
「この基地は対空砲があったはずだけど、どうするつもりだい?」
「はあ……」
まるで言わせるのかと言わんばかりのため息をつく。
「ノープランよ」
「嘘だろう?45君」
「残念ながら本当よ。大丈夫、そんなに当たるものでもないわ」
「端末はあるかい?」
「あるけどどうするのよ」
「簡単さ」
男は45の端末を借りると、通信回線にハッキングを開始する。
「まさか対空砲を遠隔から?」
「当たり前だ!こんなところで落ちるなんて僕はごめんだよ!」
目にも留まらぬ速さで表示されては消えを繰り返すウィンドウを目で追いながら、男は手を動かし続ける。
「っ!45姉!ヘリの追手が!」
「まあ9君、そう慌てるな」
先程までこちらに対空砲火をしていた砲撃がピタリととまる。
「もう掌握済みさ」
あらたな目標として設定された追手のヘリは、対空砲火にあえなく爆散する。その爆風は男たちののるヘリコプターの機内を揺れらした。
「あっああ……」
「……?あれ?パパ?」
先程までドヤ顔を浮かべていた男の顔が、突然真っ青になっていく。アーキテクトは不思議そうに男の姿を見回して——
「あっ!傷口!」
——足から溢れんばかりの鮮血が流れ出ていることを思い出した。
「なんだか……痛いような眠いような……」
「はぁ……。ほら、どきなさい」
座席に身を預けていた416が、バッグから救急キットをとりだす。
「ちょっとチクリとするわ」
「ったぁ!416君!わざと痛くしないでくれ」
「あら、完璧な治療を遂行してるだけよ」
45は後ろから聞こえる会話にやれやれと肩を竦めながら、通信機のスイッチをいれる。
「こちら45、対象を確保。負傷あり。帰還するわ」
ヘリコプターは、そのまま無事に基地から離れていった。
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