「うう、揺れが傷に響く……」
「パパ、大丈夫?」
「なんとかね。あまり長持ちはしないけれど」
ヘリコプター内の席で、男は呻いていた。ヘリの振動と轟音が傷口に響き、寝ていることすらできなかった。
「416くんのおかげで命に別状はないんだ。感謝しないとね」
「別に私は任務に従ったまでよ」
「ああ、そういえば聞いておきたいことがあるんだった」
男は外を眺めている45の方へと視線を向ける。
「銀髪の糸目の人形、知り合いかい?」
「ああ、あいつだったのね……。糸目じゃないんだけどね」
「知り合いみたいで良かったよ。それで、その人形があの基地の中にいたのはそっちの計画の内かい?」
「いえ?少なくとも私たちは関わってないわ」
「なるほど、それじゃあ後でお礼を言っておかないとね」
男はポケットから拳銃を取り出して、それから9に手渡す。
「えっ?私?」
「お守り代わりにどうだい?」
「う~ん、確かにこれのおかげで生き残れたんだもんね。縁起がいいしもらっておくね」
「僕には銃は似合わないからね。銃も9君に使ってもらえるほうが本望だろう」
9は受け取った銃の回転弾倉を回して遊ぶ。
「ねえ」
「なんだい9君」
「後で二人で話できる?」
「ああ、僕は構わないが」
男はチラリとアーキテクトの方を見た。
「ん、なに?」
アーキテクトは、首をかしげていた。特に何も気にしていないようである。
「いいや、なんでもない。それより45君、9君が空いてる時間ってあるのかい?」
「あまりないけれど……、到着したあと5分以内ならなんとかなるわ」
「わかった。それでいいかい?」
「うんありがとう!」
笑顔で礼を言う9であったが、男は直感的になにか悩みを抱えているのだと感づいていた。
=*=*=*=*=
「それじゃあお先に」
45たちが先にヘリコプターを降りていく。パイロット達も察してくれているようで、手早く荷物を片付けて降りていった。
「それで、大事な話ってなんなんだい?」
「……」
「おいおい、いったいどうしたんだい」
9は、何も言わずに男の腰に手を回す。
「9君」
「待って……、もうすこしだけ」
まるで甘えてくる子供のようだと男はため息をついた。目の前にある9の頭を、優しく撫でる。
「ねえ、パパ」
「パパ?アーキテクトの口が感染ったのかい?」
「違うの。聞いて、パパ」
男は、ヘラヘラと笑っていた顔を引き締める。
「せっかく、せっかく会えたの。パパにも、そしてママにも」
「ママ……、もしかしてアーキテクトのことかい?」
「最初に会ったときからママのことはわかっていたんでしょ?」
「それはどうかな。それで、9君の悩んでいることは?」
「……、せっかく家族に再会できたの。もう二度目は今後ない、私にとっての本物の家族にようやく会えたの」
「ああ、そうだね。9君……、君は僕とあの人で作った人形なんだね」
「身体は違うけど、中身はそう。だからパパのプログラムを初めて見たとき、ほんとに……ほんとに嬉しかったの」
男から9の顔は見えない。しかし、いつもの裏の見えない笑顔ではないだろうとは察していた。
「でも……、私は45姉……、45姉たち404小隊ともお別れなんて嫌なの」
「なるほど。9君は今、どっちに着いていけばいいか悩んでいると」
9は首を縦に振る。
「わかったよ。だったら父親である僕が言えることは一つだけだ」
男は優しく9の手を振りほどき、そして立ち上がる。
「僕はアーキテクトと一緒に郊外にでも住むよ。このご時世だ。きっとフリーランスでも働き口はたくさんあるだろう」
男は9の方を振り返らなかった。振り返ったら手を差し伸べてしまいそうだった。
「だから、9君はたまに帰っておいで。きっと45君あたりがすぐに住所を特定するだろうから、迷うことはないだろう」
「えへへ」
9は涙を拭って、笑顔を浮かべる。いままでにないほど、精一杯の笑顔を。
「わかった。じゃあ帰るまで待っててよ!」
「帰ってきたときはまた、3人で食卓でも囲もう」
「いいね!じゃあお土産にコーヒー豆とか買ってきてあげる」
「気にしなくていいのに。でも楽しみだね」
「うん……、ありがとう」
「ん?何がだい?」
「きっと、きっと一緒にいてくれって言われたら、手を差し伸べられてたら、パパたちと一緒にいる方を取ってた」
「……」
未だに9の方へと向かない男に、こんどは後ろから抱きつく。
「だからありがとう」
「45君たちだって、君にとってはもう家族だろう?」
「うん!」
9は手を離して、男の正面にたつ。
「ありがとう!じゃあ早くみんなのとこに行こ?」
「ああ、そうだね」
皆の待ってる方へと走っていく9の背中を見ながら、男はフッと軽く笑う。
「まさかこの歳であの大きさの娘ができるなんてね。それに嫁も同じくらいに幼くなっているし」
まるで呆れたかのように口からそう溢れる。しかし、顔からはどうにも隠しようのない嬉しさがにじみでていた。
=*=*=*=*=
バラバラと大きな音を立てて、ヘリコプターが飛び立つ。
「ねえ、これで良かったの?」
「何が?」
45の質問に、9は頭の上に疑問符を浮かべる。
「私たちの方でほんとに良かったの?」
「聞いてたの?」
「ええ、まあね」
悪びれもしない45に、9はもうと口を尖らせる。
「45姉はすぐそういうことするんだから~」
「仕方ないでしょ」
ぷいとあちら側を向いてしまった45の背中に、9は抱きついた。
「私だって45姉みたいにこの小隊が好きだよ」
「わ、私は小隊のことなんて……」
ぷっと後ろで見ていた416が吹き出す。
「ちょっと何よ」
「いやぁだっておかしいんだもの」
お腹を抑えながら笑う416に、45は不満顔を浮かべる。
「ツンデレじゃあるまいし、ああおかしい」
416につられて、9も笑いはじめる。船を漕いでいたG11も、その笑い声で起きて困惑したかのようにキョロキョロする。
「9まで……」
「安心してよ45姉!みんな、この小隊が大好きだよ!」
416は肩を竦め、G11も眠りながら何度も首を縦に振る。
「あーもう、はいはい。私も404が大好きですよ~。これで満足?」
「もう、45姉は素直じゃないな~」
「ほら、早くわよ。次の任務が詰まってるんだから」
「ああ、待ってよ45姉~!」
急いで装備を持って45を後を追いかける。今日も404小隊は任務へと向かう。これまでのように、これからも。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。1年弱と長引いた連載でしたが、ようやく幕を下ろすことができました。オリジナル要素の本当に強い小説でしたが、たくさんの方が開いてくれて嬉しかったです。
感想や評価をくださった方、感謝してもしきれません。ここまで走りきれたのも応援の声あってこそです。
最後になりますが、前日譚としてもう一話予定しています。大陸版のネタバレまみれのものになりそうですので、大丈夫な方だけ、楽しんでいただけたらなと思います。