草をかき分けて45が9の元に戻ると、9は護衛対象の男と仲良さそうに話しているところであった。男の研究について質問してみたり、的確にあいづちをうったりと9の会話スキルで話が途切れることはなかった。
「いつの間にそんなに打ち解けたのよ」
「あっおかえり~」
9が満面の笑みで45を迎え入れたのを見て、男も軽く会釈をしてくる。とりあえずは45を味方だと認識しているようだった。
「はじめまして、護衛対象さん」
「はじめまして。護衛対象、てことは君たちの任務は僕の護送かい?」
「ご名答。私たちの任務はあなたを送り届けることよ」
「コレだけじゃなくてかい?」
男は鞄を持ち上げてそう言った。
「ええ、不思議なことにあなたが生存していることも条件のうちよ」
男は首をかしげる。目的がプログラムの確保であれば、男まで保護する必要はない。敵への漏洩を恐れるのであれば、男を殺したほうが確実である。何か目的があるのだろうかと男は思考を巡らすも、答えは出てきそうになかった。
「まあとりあえず、僕は守られてれば良いんだね?」
「……私たちの正体や目的は気にならないの?」
「気にならないと言えば嘘になる。だが重要ではないと思うね」
「そう……指揮官の言う通りね」
「えっなんて言ったんだい?」
「いえ、何でも無いわ。それよりさすがに自己紹介はしておきましょうか」
45はたき火に火を着けて男の側に座った。
「私たちは404小隊、とある組織の指示で動いているわ。私はUMP45」
「UMP45?ああ、I.O.P製かい?」
「ご想像の通りこの銃の名前と同じよ」
45はそういって銃を男に見せる。男は興味津々といった様子で銃を眺める。
「確か銃とのリンクシステムがあるんだろう?興味深いな」
「あとでいくらでも見ると良いわ。壊さなければね」
「本当かい!?ぜひ見させてもらうよ。45君か……ということはそっちの君はUMP9かな?」
火の様子を見ていた9は驚いた様子で男の方へと振り向いた。
「私のことも知っているの?」
「こう見えて銃には詳しいのさ」
「こう見えてって、見た目通りな気もするけど……まあいいか。私はUMP9、45姉の妹だよ」
「姉妹?確かに似ているな」
似たような服装に似たような顔、それに加え左右の目の傷である。似せて作られたということがはっきりと分かる。
「UMPシリーズはもう一つあったかな。その子も部隊に?」
「UMP40なら部隊にはいないわよ」
45の声は嫌に冷たかった。
「じゃあ他の部隊員は誰なんだい?」
「そうね、見張りを変わってくるから本人の口から聞いて」
そういって45は森の方へと消えていき、9も立ち上がる。
「45姉以上に扱いづらい二人だけど頑張ってね」
最後にそれだけ言うと、9は45の逆方向の川方面へと消えていった。
=*=*=*=*=
しばらく待っていると、45の消えた方向から草木をかき分ける音がした。
「ああ、起きていたのね」
「君は45君の部隊員かい?」
「ええ、私はHK416よ」
「ほう……ふむ……」
「なによジロジロと」
「いやぁ、洗練された銃だ。技術の結晶とでもいうべき傑作銃じゃないか」
「ふ、ふーん。あんたわかるじゃない」
「ずいぶんとホロサイトが前にある。何か理由が?」
「こっちのほうがサイティングが早いのよ」
「なるほど……実に戦術人形らしい回答だ」
男はじっくりと416を見ると、ふと呟いた。
「綺麗だ……」
「えっ?何を言っているの?」
「洗練されたボディがしっかりと手入れされている」
男は416へと手をのばす。
「や、やめっ」
そして男は416へと触れた。
「ひっひぃ!」
「素晴らしい。このラインはまさに芸術だ」
416は羞恥で頬を染め、男は興奮で顔に熱がこもっていた。
「それ以上は……もう……」
「二人そろって何してるの?」
416が北方向とは逆、つまりは9の消えた方向から声がした。背の低いその人形は今までの三人とはまた随分と違った格好をしていた。
男は416の銃から手を離し、G11の方へと向き直った。
「君も45君の部隊員かい?」
「うん、私はG11。ふわぁ、寝てても良い?」
「ああ、かまわないが」
「それじゃ、おやすみ~」
たき火の側で横になったかと思うと、すぐに寝息をたてはじめた。
「はぁ、まったくG11ったら」
416は荷物から毛布を取り出し、G11へとかけた。
「優しいんだね」
「違うわよ。隊員に風邪をひかれると困るだけよ」
「人形でも風邪をひくのかい?」
「熱も出ないし咳や鼻水という症状もないけど、一応はひくわ」
「生体パーツゆえの欠点ということか」
「ええ。まったく人間は何を考えてこんな欠点を残したのかしら」
「いいじゃないか」
煩わしそうな表情を浮かべる416に対して、男がそう言葉を続ける。
「その人間らしさのおかげでこうやってコミュニケーションが取れているんだから」
「人間らしさがなければあなたは話してなかったってこと?」
「当たり前だろう?」
男は肩をすくめて見せた。
「いくらAIとは言ってもただの電子回路に話しかける趣味は持ち合わせていないんだ」
「なるほど、そういうことね」
416は薪を火に投げ入れた。弱まっていた火がパチパチと音を立てて勢いを取り戻した。
「ところでなんだけどさ……」
「どうしたんだい?改まって」
「あなたの持ってるその鞄、その中のプログラムは何なの?」
「これは人形の停止プログラムだよ」
「人形を停止?でも確かシミュレーターの結果は」
「あの画面を見たんだね……」
416は慌てて口をつぐむが、もう遅い。
「あれは……事実だ。人間はもう、人形なしでは存続できない」
「そ、そんなことはないでしょう?人間の状況判断力は人形にも勝るのに」
「足りないんだよ。人形が居なくなるという環境変化に耐えるにはね」
「でも人形がやっている仕事は元はといえば人間のやっていた仕事よ?」
「そうだね。だから足りないんだ。人形の担っている人類存続に必要な仕事量を補えるほどの人口はもういない」
「じゃあ人形が止まってしまえば……」
「間違いなく飢饉がおきるだろうね。暖房すらつかなくなって低体温症が続出するのが先かな?」
ケラケラと笑う男に416は掴みかかる。
「どうして!どうしてそんなもの作ったのよ!」
「おいおい、待ってくれよ。そんなに怒ることはないだろう?」
「うるさい!あんたそんなもののせいで命狙われて!私たちまで駆り出されて!」
「……偶然だったんだ」
「えっ?」
「偶然、別の物を作ろうとした副産物で、できたんだ」
「副産物で?世界の滅ぼせるような代物を?」
「僕が作ろうとしたものは世界を滅ぼすプログラムじゃない。世界を平和にするプログラムさ」
416の腕を払いのけると男は襟を整えた。
「世界を……平和に?」
「簡単に言えば、とある条件を満たす人形の停止プログラムだよ」
「結局人形の停止じゃない!」
「世界が今平和ではないのはなぜか分かるかい?」
「それは……鉄血のヤツらが――」
「そう、大概は鉄血のせいにするんだ。だがそれは違う」
「いったい何を」
「人形が戦う、それが間違いなんだよ」
「……それは私たちの存在はいらないということ?」
「つまりはそうなるね。戦う人形はもはや人間の扱える道具じゃない」
「道具……?今道具っていったの!?」
「ああ、そうだ。人形はしょせん、道具だよ」
「呆れたわ!こんな人間!」
416が銃口を男に向ける。
「僕を殺すのかい?」
「あなたなんて居ないほうが平和になるわよ」
「そう……かもしれないね。僕は撃たれても構わないよ」
「あんたねぇ……!」
416の指が引き金に触れる。
しかし、いつまでたってもその引き金が引かれることはなかった。
「G11、どういうつもりかしら?仲間に銃を向けるなんて」
「それはこっちのセリフだよ416。護衛対象に銃を向けるって何を考えているの?」
416の銃口が男の額に向いているように、G11の銃口が416を捉えている。G11の練度は416もよく知っている。彼女の腕前なら、用意に416を行動不能にできるだろう。
「……ちょっとカッとなってしまっただけよ」
416が銃から手を離してから、G11は引き金にかけた指を離した。