兄というのは苦労するが、やり甲斐はある   作:P&D

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-1話- 木組みと石畳の街にやってきた!(RE)

 

 

「ココア、着いたぞ。電車降りるぞ。」

 

「あ!待ってよ!お兄ちゃん!」

 

俺の名前は如月(きさらぎ)リョーマ。そして俺について来ようとトコトコ走っているこの子は保登心愛(ほとここあ)。俺のことをお兄ちゃんと呼んでいるが血の繋がった兄妹ではない。小さい頃からの馴染み。幼馴染というやつだ。俺の両親とココアの両親が俺たちを会わせたのが知り合ったきっかけだ。

 

何故ココアが俺のことをお兄ちゃんと呼ぶのかは特に理由はない。顔を合わせた直後にお兄ちゃんと呼んできて最初はちょっとびっくりしたが今ではそう呼ばれるのが当たり前になっていいる。というかそう呼ばれないと違和感を覚えるまである。

 

「そういえばお兄ちゃん、下宿先ってどこなの?」

 

「ん?ああ、まずはこの道をまっすぐだ。はぐれないようにちゃんとついて来いよ。」

 

「もう子供じゃないんだから迷子になんかならないよ。」

 

「そうか?方向音痴なのは今もそうだろ。」

 

「うぅ………ならないったらならない!」

 

「そうかそうか。ほら行くぞ。」

 

俺はココアを引き連れ、改札口を通り駅を出た。すると目に映ったのは木組みでできた家が並ぶ街並み、石畳でできた床、橋の下に流れる大きな川、街の中をを行き交う人々、雲一つない青空、そして街全体を照らす太陽、まるで目に映るもの全てが俺たちを歓迎してくれてるかのようだ。

 

「ふわぁ!すごく綺麗!昔と変わってないね!」

 

「ああ、全然変わってないな。」

 

「お兄ちゃん早くいこ!」

 

俺たちは幼い頃の記憶と照らし合わせながら懐かしむように街の中を歩いた。全体的には昔と変わってないが一部変わっているところもあった。空き地だったところには新しい建物が建っており、街灯が増え、公園には木やベンチ、新しい遊具が増えていた。以前より街っぽさが幾分増した感じだ。

 

小さい頃に一度この街に来たことがあったが、それはココアの母親が学生時代からの友人に会うためだった。最初はココアの母親、ココア、そしてココアの姉、3人で行く予定だったがココアが俺も一緒に来てほしいとお願いされ俺含め4人で行くことになった。

 

今思えばあの時この街に来れて本当に良かった。初めてこの街に来た時のことは今でもよく覚えている。昔と変わらないこの街、ここなら何か出来そうな気がする。当時小学生だった俺が何の根拠のない、しかし何故か確信じみた想いを抱いた。

 

だが中学生になった時にはあれは何の信憑性のないただの身勝手な考えだと自分に言い聞かせて高校一年生の時は地元の学校に通ったがこの街のことが何度も頭にチラついてモヤモヤした日々を送っていた。そして二年生への進級を機に両親にこの街の学校に通いたいということを話した。最初は驚いていたが理由を話すと少し悩んだ後、許可をもらうことができた。そしてその想いはココアも同じだったらしく、ココアの方は最初は年頃の女の子を遠くの街へは行かせれないと両親に反対されていたみたいだったが俺がその街の学校へ行くことを知るとすんなりと許可をくれたみたいだった。信頼されてるんだな。

 

”良い結果は良い環境から”と言うし、あの時の俺の決断は正しかったと思ってる。昔の俺を褒めたいくらいだ。

 

「ねえお兄ちゃん下宿先ここじゃない?」

 

ココアに呼び止められ指をさしている方を見てみると、うさぎとコーヒーカップの看板、英語で”RABBIT HOUSE”と書かれていた。事前に聞かされていた店の名前と地図の位置が一致している。ここで間違いない。

 

「確かにここだな。」

 

「ラビットハウスかー。ウサギとかいるのかな?」

 

「いや、多分店の名前がそうなだけでウサギはいないんじゃないか?」

 

「えぇ絶対いるよ!ラビットハウスなんだから絶対いる!」

 

どこからその自信が出てくるのか分からないがココアはすっかりこの店にウサギがいると思い込んでしまった。これでいなかったら落ち込むだろうな。

 

「そうか?まあいたらいいけど。とりあえず入ろう。」

 

「うん!」

 

ドアを開けるとカランカランとドアベルが鳴った。中の様相は天井にはシーリングファンがあり、アンティーク調の照明や椅子、テーブルなどが並べられており、コーヒーの香りが漂っている。如何にも喫茶店というのが伝わってくる。カウンターにワインが並べられているのは謎だが。

 

そして正面には薄い青髪で青色の制服、黒い長スカートを着た女の子が後ろ姿で立っていた。

 

「いらっしゃいませ………。」

 

振り向きと同時にその女の子はそう言ってきた。物静かで大人しそうな女の子だ。そして何故か頭に白い毛玉を乗せている。

 

「こんにちは。今日からここで下宿させていたたく如月といいま「あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

横にいたココアが突然大声をあげだした。あまりにも急だったからめちゃくちゃびっくりした。当の本人を見てみると女の子の頭に乗っている白い毛玉に指をさしている。あれがどうかしたのか?

 

「ウサギさんだぁ!」

 

え?あれウサギなの?てっきり大きめの毛玉か何かと思っていたけど。それともウサギがいると思い込みすぎてあれがウサギに見えているとかなのか?

 

「やっぱりウサギさんいたよ!ウサギさーん!」

 

「ふぇ!?ちょ、ちょっと返してください!」

 

ココアは親のもとへ駆け寄るかのように女の子に近づき頭に乗せてあった毛玉を手に取った。ココアは目を輝かせてウキウキ状態だ。対して制服を着た女の子は返して欲しそうな顔で慌てている。

 

「ほらお兄ちゃんウサギさんだよ!」

 

毛玉みたいなウサギを手に取ったココアは今度は俺の所に駆け寄り、バッと目の前へ見せてきた。遠くから見たら白い毛玉にしか見えなかったが近くで見てみると目と鼻と口が確かにある。毛が多かったせいで隠れて見えなかったんだな。

 

「かわいいーーー!もふもふだー!」

 

そう言ってココアはその毛玉ウサギを今度はギューッと抱きしめ始めた。毛玉ウサギはよほど嫌なのか眉間にしわを寄せ、しかめっ面になっている。

 

「あ、あの………ティッピー返してください。」

 

制服の女の子は返してほしそうな顔でココアに頼んできた。ティッピーというのはこの毛玉ウサギの名前か。かわいらしい名前だ。そしてココアはさっきからずっとティッピーに顔をうずめるようにもふもふ具合を堪能している。

 

「あの………。」

 

「はぁ~~~このもふもふの感じたまらないな~!今日からこの子を枕にして寝たら最高だろうなぁ~!」

 

そんなの嫌がられるに決まってる。というか人様のウサギで何てことしようとしてるんだ。

 

「か……返してください!」

 

いい加減返してほしいと思ったのか、今度は少し張った声で言ってきた。しかしココアはティッピーに夢中なのか聞こえている素振りは全くない。女の子は全然聞いてくれないと悟ったような顔で俯きだんだん目尻に涙が溜まってきたのが見えた。

 

「こら、いい加減離れろ。自分のじゃないのに勝手に人のウサギを取ったらダメだろ。」

 

「あぅ……うん。」

 

「ごめんな、勝手に取ったりして。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

ココアからティッピーを引き離した俺は軽く注意をし女の子にそっと返した。女の子は無事に取り戻せて安心したような顔で再びティッピーを頭に乗せた。頭にウサギを乗せるなんて器用なことをする女の子だ。バランス感覚が良いんだろうか。

 

「勝手に取っちゃってごめんね。私ウサギには目がなくて。」

 

「いえ、大丈夫です。お二人はお客さんでしょうか?」

 

一段落ついたと同時にすぐさま営業に取り掛かってきた。そっか、下宿の話をしようとした途端あんなことになってしまったんだった。

 

「まだ話してなかったね。俺たち今日からここで下宿させてもらうことになってるんだけど、その話はもう聞いてるかな?」

 

「ああ、お二人がそうだったんですね。父から話は聞いてます。私は香風智乃(かふうちの)といいます。ここのマスターの孫です。」

 

どうやらこの水色髪の女の子の名前はチノという名前みたいだ。第一印象は店に入った時と同じで大人しそうで礼儀正しい女の子といった印象だ。

 

「私は保登心愛だよ!ココアって呼んでね!」

 

「俺は如月リョーマ。リョーマでいいよ。」

 

「ココアさんとリョーマさんですね。この街の学校に通う間はここで働くと聞いてます。うちは見ての通りの喫茶店ですけど接客は大丈夫ですか?」

 

「うん大丈夫だよ!私お喋り大好きだから!」

 

「俺も大丈夫だよ。アルバイトはしたことないけど人と話すのはそれなりに多かったし。」

 

「でしたら大丈夫そうですね。更衣室に制服があるので案内しますね。」

 

「あ!ちょっと待って!」

 

一通り自己紹介を終え更衣室へ案内してもらおうとした時、ココアが何か思いついたような顔で呼び止めてきた。

 

「どうした?」

 

「この店のコーヒー飲みたい!」

 

「は?」

 

「だから、この店のコーヒー飲みたい!」

 

何を言い出すのかと思えば。今からここで働くというのに。

 

「いやダメだろ。今からここで働くんだぞ?」

 

「だって気になるんだもん!」

 

「仕事終わってからでもいいだろ。」

 

「今飲みたい!それにここのコーヒーの味も分からないのに働いてるなんて知られたら笑われるよ?」

 

「うっ………。」

 

中々痛いところを突かれた。考えてみればココアの言う通り、お客さんからこの店のコーヒーについて教えてほしいと聞かれて”飲んだことないので分かりません”なんて答えてしまったら”え?店員なのに?”と思われてしまうだろう。かといって今から仕事をするのにそんなのんびりとしていられない。

 

「いいでしょ?コーヒー1杯だけでいいから。」

 

「ん~、でも………」

 

「私は構いませんよ。丁度今はお客さんがあまり来ない時間帯ですし、今だけお客さんとしてコーヒーを飲めば問題はないと思いますよ?」

 

「ほら!チノちゃんもこう言ってるんだし!」

 

どうしようか悩んでいたところチノが助け舟を出してくれた。それを聞いたココアはコーヒーが飲めると確信したのか勝ち誇ったような顔で俺を見てくる。チノの方はいつでも準備ができるといった顔だ。

 

「……わかった。1杯だけな?」

 

「やったーー!」

 

「それじゃあ私はコーヒーの準備をしますね。」

 

万歳をしながらココアは喜び、チノは素早くカウンターに戻りコーヒーの準備に取り掛かった。今だけお客さんとしていれば問題はないだろう。むしろ今飲んでおかないと後々ココアの言ったとおりになりかねない気がしてきた。

 

「お兄ちゃんここに座ろ!」

 

そう言いながらココアはカウンター席に指をさしていた。今チノが立っている場所の目の前だ。多分コーヒーを作るところを見たいんだろう。

 

ココアはすぐさま席に座り、早くコーヒーが作られるところを見たくてわくわくしてるような顔だ。そういえばコーヒーが作られるところを見たことがないんだった。

 

「それじゃ今から作るので少し待っててくださいね。」

 

チノは豆をコーヒーミルに入れ、ハンドルを回しゆっくりと豆を挽いていく。早すぎず、そして遅すぎないようにゆっくりと一定の速度で。静かな店内でガリガリという豆が挽かれている音が響き渡っていると次第に豆の香りも広がってきた。

 

この時の香りが堪らない。お湯を注いだ瞬間の時、コーヒーが出来上がった時、人によって好みの香りは違うが俺はコーヒー豆を挽いている時の香りが一番好きだ。

 

豆を挽き終えると今度は抽出器具を取り出した。上部にはロート、下部にはフラスコ、そしてそれらを支えるスタンドで構成されている。水蒸気を利用してコーヒーを淹れる器具として知られているコーヒーサイフォンだ。

 

フラスコに水を入れ、ロートにはフィルターを入れてから先ほど挽いた豆と入れる。そしてアルコールランプに火をつけ、それをフラスコの下に置いて過熱させていく。

 

しばらくそのままでいると、次第に水が沸騰していきフラスコにあるお湯がロートへ上っていき挽いた豆と混ざり茶色になっていった。

 

「おぉぉぉぉ!すごい!理科の実験みたい!」

 

「私も初めて見た時はそう思いました。」

 

ココアは珍しいものを見るような目でずっとキラキラしている。確かに理科の実験みたいと言われればそうだろうな。実際に学校でやっても全く違和感を感じないだろうし。

 

「もう少しで出来上がるのでもうちょっとだけ待っててください。」

 

アルコールランプの火を消し、放置していると今度はロートからフラスコへコーヒーが下りていった。これで晴れてコーヒーの完成だ。インスタントだとすぐに作れるが、喫茶店のように本格的に作るとなると意外と時間がかかる。だが時間をかけたその分コーヒーの香りや美味しさを味わえる。コーヒーの醍醐味というやつだ。

 

「どうぞ。」

 

完成したコーヒーをカップに注ぎ、俺たちに差し出してくれた。香りとともにコーヒーから立ってくる湯気が鼻腔をくすぐってくる。

 

「ん~♪良い香り~!」

 

どうやらココアもこの香りを気に入ったようだ。嬉しいと思ったのかチノは少し頬を赤らめている。

 

「さ、冷めてしまいますから、早く飲んだほうがいいですよ///ほら、早く飲んでください///」

 

照れているのを悟られたくないのか、やや強引気味に勧めてきた。確かにコーヒーは温かい方が個人的には好きだ。早速いただこう。

 

「「いただきます。」」

 

水面を軽く冷ますように息を吹きかけて、ゆっくりと味わうように一口飲んだ。感想を一言で表すなら”すごく美味しい”、それしか思いつく言葉が見つからない。そして今まで飲んだ事があるコーヒーとは違う味がする。この時点でオリジナルブレンドだというのはすぐわかったが細かいところまではわからない。きっと数えきれない程、試行錯誤を繰り返して作り上げたものだろう。また新しい味に出会えて俺は大満足だ。

 

「美味しい、本当に美味しいよ!」

 

「そ、そうですか………良かった、です///」

 

チノは一気に頬を赤らめ傍にあったお盆で顔を隠した。率直な感想を言っただけなんだけど、多分褒められ慣れてないのだろう。

 

「ん~美味しい!この落ち着く感じインスタントと同じだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、場が一気に凍り始めた。雲一つないそよ風が吹くような場所から猛吹雪が吹き荒れる場所に飛ばされたような気分だ。

 

恐る恐るチノを見るとさっきまで赤らめていた顔から一変、信じられないものを見るような目でココアを見ていた。そしてそこからだんだん怒りをこみあげているような顔にも見えてきた。

 

「どういう意味ですか?………それ。」

 

「え………?」

 

ココアも雰囲気の変わり様に気付いたようで、しかしどうしてこうなっているのか分からない顔で困惑している。チノは変わらずムッとした顔でココアを睨んでいる。

 

「私が淹れたコーヒーがインスタントって言いたいんですか?」

 

「ち、違うよ!味は本当に美味しいよ!今まで飲んだことがないくらい!飲んだ時の落ち着く感じがインスタントと同じって言っただけだよ!?」

 

「つまり、()()()()()()と同レベルって事ですよね?そう言いたいんですよね?」

 

「ち、ちが………そういうつもりじゃ………。」

 

「違いませんよね?さっき()()()()()()と同じって言いましたよね?」

 

ようやく理解したココアはすぐさま弁明するがチノは聞く耳持たず。よほど不愉快と思ったのかインスタントの部分を強調している。

 

そして何より圧がすごい。女の子の物とは思えないくらいの圧力で気を抜けば一瞬で気圧されそうなる。下宿1日目でこれじゃ流石にマズい。なんとかしてフォローしないと二人の間に亀裂が入ったままだと店の経営にも支障を出し迷惑をかけてしまうかもしれない。

 

「違うんだチノ!ココアは今までインスタントコーヒーしか飲んだことがないんだ。今まで比較対象が無かったからそういう風に言ってしまっただけなんだ。さっきココアも言ってたけど、チノの淹れたコーヒーの味がインスタントと同じって言ったわけじゃないよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、だから決して馬鹿にしてる訳じゃないよ。」

 

「…………ですけど、それでも落ち着く感じがインスタントと同じと言われたのは不愉快に感じました。」

 

それは誰だってそうなるよな。頑張って作った料理を不味いって言われるようなものだからな。

 

ココアは思ったことをすぐ言うタイプではっきりとした子だ。良いところではあるが、稀にそれが仇となる時がある。今回は完全に仇になってしまっている。

 

俺が慌てて仲裁に入って少し落ち着いたチノだが、まだ少しご機嫌斜めといったところだ。

 

「これから少しずつここのコーヒーを飲んでいけばココアもきっとコーヒーの違いが分かってくるようになると思うよ。」

 

「………そう、ですか。」

 

「それに飲んでわかったけど、この店のコーヒーって独自でブレンドしたコーヒーでしょ?」

 

「え………わかるんですか!?」

 

「!!!………」

 

突然チノが驚いた顔になりカウンターテーブルを乗り越えるくらいの勢いで顔を近づけてきた。それには俺は驚いたが、それよりも気になるところがある。カウンターテーブルにいるティッピーも驚いていたのだ。

 

………なんでウサギが驚くんだ?

 

「も、もしかしてコーヒーソムリエなんですか!?」

 

「ち、違う違う!そうじゃないよ。俺の父さんが大のコーヒー好きで、その影響で俺もコーヒーが好きになってそれでコーヒーの違いが分かるようになっただけだよ。それにコーヒーなら俺より父さんの方が詳しいだろうし。」

 

さっきの威圧的な空気はどこへ行ったのやら、チノの顔はパアっと明るくなり驚き嬉しそうな顔になった。チノの変わり様にココアは状況についていけず目が点になってるし。

 

今まで飲んだことがない味だったからもしかしたらと思ったが、やっぱりオリジナルブレンドだったみたいだ。このままいけば機嫌を直してくれるかもしれない。

 

「でもそれでもすごいです!じゃあコーヒーの淹れ方の種類も知ってるって事ですよね!?」

 

「ああ、フレンチプレスに、エスプレッソ、マキネッタ、今チノがやってたサイフォン。挙げだしたらきりがないかな。」

 

「本当にコーヒーが好きなんですね!リョーマさんみたいな人がうちで働いてくれるなんて嬉しいです!」

 

「ありがとう。でも俺も最初はコーヒーの違いなんて全く分からなかったんだ。コーヒーなんて全部同じだろって思ってたくらいだし。ココアも今はまだコーヒーの事があまり分からないかもしれないけど、ここで働いていけばいつか分かるときが来ると思うんだ。だからココアの事、今回は大目に見てくれないかな?」

 

チノは”さっきまで私怒ってたんだった”みたいな顔でハッとし、ココアをちらっと見て少し沈黙の後軽くため息をつき

 

「分かりました。でもココアさん1日でも早くコーヒーの違いを理解してくださいね?店員がコーヒーの違いが分からないなんて知られたら私が恥ずかしいんですからね?」

 

「え………?……あ、う、うん!」

 

まだ状況を理解していなかったらしいココアは素っ頓狂な声で返事をしていた。何はともあれ事態が収束してよかった。ホッと一息をついてコーヒーを飲むと気のせいかもしれないが一口目の時より美味しく感じた―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ごちそうさまでした。」」

 

「お粗末様でした。」

 

コーヒーを飲み終えた俺たちはリラックスした気分になっていた。やっぱりコーヒーをを飲むと落ち着く。ココアは眠そうな顔をしてるが。

 

「ココア寝るなよ?この後仕事するんだぞ?」

 

「ほぇ?…あ、そうだった。」

 

眠気眼のココアは目をこすり、顔をパチパチと叩き眠気を無くそうと頑張っていたが、電車の長旅で疲れてしまっているのかまだ少しウトウトしている。

 

「そうだチノちゃん、ティッピー貸して?」

 

「え……?どうしてですか?」

 

一瞬、1秒にも満たないほどの一瞬だったが嫌な顔をしていた。店に入ってきて早々ティッピーを取ったことを少し根に持っているのかもしれない。

 

「ティッピーをもふもふしたら眠気が吹っ飛ぶと思うから。」

 

「さっき店に入ってきて早々してたじゃないですか。」

 

やっぱり少し根に持っているかもしれない。考えてみれば店に入って早々、なんの断りもなくティッピーを取ったり、悪気がなかったとはいえ相手を不愉快な気持ちにさせる言葉を言ってしまったりと失礼な事ばかりだ。

 

この街に来る前、下宿先でいつか何かしらのトラブルが起こることはあるだろうなと覚悟していたが、まさか1日目でそうなるとは思ってなかった。ココアの母さんからよろしく頼むと言われたがこれは先が思いやられる。

 

「お願い!もふもふするだけで大丈夫だからお願い!」

 

「ココア、疲れてるんだったら無理せず少し休んだ方がいいぞ?」

 

「もふもふしたら元気いっぱいになるから大丈夫だよ!だからチノちゃんお願い!」

 

ココアは貸してもらうまで折れないといった様子だ。疲れてるのは間違いないだろうし、このまま仕事を始めても何かしらの問題が起こる可能性が高い。少し寝かせたほうが良いだろうか?30分ほど仮眠を取らせてからでも遅くはないと思うが。

 

「………わかりました。いいですよ。」

 

「いいの!?」

 

ほんの一瞬貸したくないような顔をしていたのに何を思ったのかもふもふの許可を出し、チノはカウンターテーブルにいるティッピーをそっとココアに渡した。

 

「そのかわり少しだけですよ?」

 

「ありがとう!チノちゃんは優しいね!」

 

「か、勘違いしないでください//// リョーマさんの負担を減らすためですから///」

 

どうやらチノに気を遣わせてしまったみたいだ。ココアのわがままっぷりは今に始まったことじゃないから俺はもう慣れているが、そうじゃない人には悪い印象しか与えていないような気がする。それに該当しているかもしれないチノはというと、貸したティッピーを雑に扱われないか監視するような目でジーっとココアを見ている。

 

「ふわぁ~、やっぱりこのもふもふ具合は最高~!」

 

そんなチノとは対照的にココアは、お花畑……いや、もふもふ畑にでもいるかのような、人生に悩みなんか全くないような笑顔だった。微笑ましい光景ではあるがチノの顔を見るとそれと同時に申し訳ない思いも出てくる。

 

「この子、綿飴にしたら美味しそうだな~!」

 

 

 

 

 

「の゛お゛ぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

「え!?」

 

食べるなよとツッコもうとした途端ティッピーからお年寄りの男性のような大声が聞こえた。

 

ウサギが喋った!?

 

「今このウサギ喋らなかったか!?」

 

「え?喋った?私は何も聞こえなかったけど?」

 

「………さあ?私も聞こえませんでしたけど。」

 

え?うそ………。絶対に喋った気がするんだけど。気のせい?気のせいにしては鮮明な声だったけど………。

 

「ふわぁ~、いくらもふもふしても全然飽きないよ~!」

 

再びココアはティッピーをギュッと抱きしめ、もふもふを堪能している。

 

やっぱりさっきの声は気のせいだったのだろうか。冷静に考えれば動物が喋るなんてこと、オウムとかは例外として基本的にはありえないことだし。きっと俺の気のせいだろう。

 

 

 

 

「ええい!いつまでも抱き着くな!暑苦しいわい!」

 

 

 

 

 

「やっぱり喋ってる!!!」

 

間違いない。今確実に喋った。さっきと同じ声だし、発声源もティッピーからだったし気のせいなんかではないはず。

 

「ココア!今ティッピー喋ったよな!?」

 

「ふえぇ?そう?もふもふに夢中だったからわかんないや~。」

 

「えー嘘だろ………チノは聞こえたよな?」

 

「………私は何も聞こえませんでしたよ?もしかしてリョーマさんも疲れてるんじゃないですか?」

 

そんなはずはない。あんなにはっきりと聞こえたんだ。幻聴なはずはない。ココアはもふもふで夢中だったから分からなかったとして、チノも傍にいたんだから聞こえてるはずだ。なのに聞こえなかったと言っている。

 

………もしかして白を切っている?ティッピーが喋ったことを言うと妙な間を置いてから聞こえなかったと言っているところを考えるとその可能性はある。

 

「そうかな?聞こえた気がしたんだけどな。俺も疲れてるのかな?」

 

「ええ、きっとそうです。ですからウサギが喋るなんて事はないです。ありえないです。あるはずがないんです。ですからリョーマさんの気のせいです。」

 

やけに早口なのが気になるが今ここで問い詰めても聞こえなかったの一点張りをしてくるだろう。今はこの場に合わせておいてこの事は後回しにしておこう。

 

「ココアさん、そろそろティッピー返してください。」

 

「えー?もうちょっとだけ。」

 

「さっき少しだけって言ったじゃないですか。」

 

チノがティッピーを手に取ろうすると、ココアはまだもふもふしていたいようで中々ティッピーを離そうとしない。

 

「返してください。もう充分もふもふしたじゃないですか。」

 

「あとちょっとだけ!5分でいいから!」

 

少しムッとなったチノは強めにティッピーを自分のもとへ引っ張るが、負けじとココアも引っ張る。ティッピーの取り合いだ。お互い譲る気は無いといった様子でティッピーが苦しんでいる。このままじゃティッピーが2つになってしまう。

 

「ココア、少しだけって言ったんだからそろそろ返せ。約束守らないとティッピー貸してくれなくなるぞ。」

 

「………うん。」

 

ココアは少しその場で考えた後、名残惜しそうにそっとティッピーを手から離した。

 

「でももうちょっとだけもふもふしたかった………。」

 

「………仕方ないですね。お仕事が終わったらまた貸してあげます。」

 

「え?ほんと!?」

 

「少しだけですよ。今度はちゃんと約束守ってくださいね?」

 

「うん!ありがとう!」

 

また貸してくれるとわかった途端、悲しい表情から太陽みたいな笑顔に変わった。ココアは小さい時から我が儘なところがあった。そしてそれは今もあまり変わらない。この街での暮らしを機に少しずつでも我が儘なところ治させていこう。これを放置してしまうのは良くないだろう。

 

「さて、コーヒーも飲み終わったことですしそろそろお仕事に入ろうと思うんですけど、もう大丈夫ですか?」

 

「うん!もうバッチリ元気だよ!」

 

「ああ、俺も大丈夫だ。」

 

「わかりました。では着替えを渡しますのでついてきてくれますか?」

 

そう言ってチノは奥の扉を開け中に入っていき俺たちはゆっくりと席を立ち、チノについていった。

初日から、それも仕事が始まる前からトラブルの連続だったが、少しずつ頑張っていけば良いことだってあるだろう。よく言うしな。『なるようになる』って。

 

To be continued




お久しぶりですP&Dです。

結構前から思っていたんですが、最初あたりの話を読み返す度にこれ書き直した方がいいよなって常々思っていたので超久しぶりの投稿ではありますがリメイクを投稿させていただきました。今後は最新話と同時にリメイク版も投稿していきますので読んでもらえると嬉しいです。
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