兄というのは苦労するが、やり甲斐はある   作:P&D

2 / 49
-2話- 君たちは拳銃を持った女子高生に会ったことはあるか?俺は1度もない。 (RE)

 チノからコーヒーを一杯頂いた後、早速仕事をするということで制服に着替えるために更衣室へ案内してもらっていた。チノに先導してもらいカウンターの奥にある『Staff Only』という掛札が掛けられた扉を開けると目の前には2階へ続く階段があり、その横に奥へ続く通路があった。更衣室はその通路の奥にあるようでそのまま案内してもらうとドアが2つあり、片方は『男子更衣室』、もう片方は『女子更衣室』という掛札が掛けられていた。

 

「リョーマさんはここの男子更衣室を。ロッカーの中に着替えが入っているのでそれに着替えてください。」

 

「わかった。ありがとう。」

 

「わぁ!どんな制服か楽しみ!お兄ちゃん早く着替えよ!」

 

 ココアはそう言いながら俺の手を握り、男子更衣室へ入ろうとした。そう、男子更衣室だ。女であるココアが男である俺を連れて男子更衣室へ入ろうとしているのだ。俺の認識に間違いが無ければ男子は男子更衣室へ、女子は女子更衣室で着替えるもののはずなんだが………?

 

「ちょっ!?ココア!?」

 

「ココアさん!そこは男子更衣室です!ココアさんは隣の女子更衣室(こっち)で着替えてください!」

 

「ふぇ?」

 

 俺とチノが慌てて引き留めるとココアはぽかんとした顔で振り返った。そしてココアはドアに掛かっている掛札に目をやると3秒ほど固まった後、我に返ると同時に顔が赤くなり俺の手を掴んでいた手をそっと離した。

 

「あ、あはは!制服楽しみ過ぎて忘れちゃってた!」

 

 ココアはそう言いながら笑いながら頭を掻いた。恥ずかしさを誤魔化すように。顔を赤くされたらこっちまで恥ずかしくなってくる。楽しみなのは分かるけど。

 

「ココアさん、私たちは隣の更衣室ですよ。ココアさんの制服は別の部屋に置いてるので更衣室で待っててください。制服を取ってきます。」

 

「うん!お兄ちゃんまた後でね!」

 

「ああ後でな。………さて、俺もさっさと着替えるか」

 

 スキップのような足取りで女子更衣室に入って行ったココアと一旦別れた俺は、ドアを開けて中に入ると更衣室にしては少し大きめの部屋で左右の壁にロッカーが並んでいた。いやロッカーというよりクローゼットだ。それも一人用にしては少し大きめの、私物とかを置いてもスペースが余るくらいだ。

 

「えーっと俺の着替えは………。」

 

 着替えはどこなのか探していると1つだけ「如月リョーマ」と書かれたネームプレートが貼られているクローゼットがあった。開けてみると中にはYシャツ、黒色ズボン、黒色ベスト、蝶ネクタイが入っていた。

 

 なんだかバーテンダーみたいだな。というよりバーテンダーの制服なんじゃないか?もしかして店内のカウンターにワインが並んでたのってそういうこと?ラビットハウスってバーも経営してる?それならワインの件も納得できる。となるとチノのおじいさんは1つの店で2つも経営してるのか。すごいな。まだ会ったことないけど。

 

 そんなことを考えながら制服に手をかけた瞬間―――

 

「キャアアアアアアア!!!」

 

「っ!?」

 

 突然隣の部屋から悲鳴が聞こえた。しかもココアの声だ。虫が出たのか?いや、だとしたらあんな断末魔のような悲鳴は出さないはずだ。なら不審者か?

 

 俺はドアを突き破るような勢いで更衣室を出て、隣の部屋のドアを開けた。中に入ると部屋の様相はさっきまで俺がいた部屋と変わらなかった。ただ一ヶ所を除いては。紫色の下着姿をした女の子がココアに銃を向けながらこちらを見ている。そしてココアはあまりの出来事に腰を抜かして立てなくなっていた。

 

「お兄ちゃん……ご、ご強盗が……」

 

 え、この子が?下着姿のこの女の子が?確かに拳銃を見た瞬間、俺も強盗だと思ったが本当にそうなのかと思ってしまった。本当に強盗だったら目立たない服装にするだろうし顔も隠すだろう。間違っても下着姿だなんて目立つ格好はしないはずだ。”私は強盗です!見つけてください!”と言ってるようなものだ。

 

 とはいえ警戒するに越したことはない。まずは落ち着いて話をしてみよう。

 

「………お前は、強盗なのか?」

 

「ち、違う!そんな訳ないだろう!」

 

 と、真向から否定してきた。

 

 だろうな。下着姿の強盗だなんてコメディ映画ぐらいだぞ。だとしてもその手に持ってる拳銃は見過ごせない。殺傷能力を持った武器だ。誤射して誰かに当たったらごめんなさいじゃ済まされない。

 

「ならその拳銃はなんだ?一般人が持っていい物じゃないぞ。」

 

「これは護身用だ。人を傷つけるつもりはない!」

 

「だとしても拳銃はやりすぎだろ。下手したら過剰防衛になる。」

 

「安心しろ。これはモデルガンだ。弾は出ない。」

 

 そう言って下着姿の女の子は弾が入っていないのを見せてくれた。

 

 モデルガンなのかよ。じゃあ撃てないじゃん。強盗でもないじゃん。いつものココアの早とちりじゃん。

 それにしてもモデルガンが護身になるか?簡単に言えばおもちゃの拳銃だろ?………いや、相手を牽制させるぐらいはできるか。なら護身用と言えなくもないな。

 

「そうか、お前が強盗じゃないのは分かった。ココアが早とちりしてしまったみたいだな。ほらココア、強盗じゃないってさ。」

 

「うえぇ~怖かったよ~!」

 

 いつの間にか這いつくばりながら俺のもとへ来ていたココアは半泣き状態だった。完全に腰を抜かしている。ココアの早とちり癖も治さないとな。わがまま癖に思ったことをすぐ言ってしまう癖、そして早とちり癖。治させなきゃいけないことがいっぱいだ。

 

「それで、お前たちは誰なんだ?今日誰かが来るなんて聞いてないぞ?」

 

 モデルガンを下ろした女の子は右手に銃を持ったまま左手を腰に手を当てて体をこちらへ向けてきた。俺たちが女の子を怪しんだように、今度は女の子が首をかしげながら眉をひそめて怪しむように俺たちを見る。

 この人はまだ知らないんだ。なら説明しなきゃな。

 

「俺は如月リョーマ、それでこっちのちょっと泣きそうになってるのが保登心愛。今日からここで下宿させてもらうことになって、それでその代わりにここで働くことになったんだ。まさか初日からこうなるとは思わなかったけど」

 

 一通り説明し終えると女の子は静かに目を閉じ納得したように頷いた。そして目を開けると今度は女の子が口を開く。

 

「そうか、わかった。私は天々座理世。リゼでいいよ。私もここでバイトとして働いている。分からないことがあったら色々教えるからよろしく頼む。」

 

「ということは先輩ということだな。」

 

「そ、そうだな!教官ということになるな!」

 

 なんか急に嬉しそうに誇らしげな顔になったぞ。先輩を教官と言い換えたり、モデルガンを持ってたりしていた所を見ると軍人か何かに憧れを抱いているのだろうか?まあいいんだけど。

 

「よろしくな。………えっと………それでなんだけど………」

 

「ん?どうした?」

 

「その、なんと言えばいいか………」

 

「???」

 

「………服を、そろそろ着た方がよろしいかと。」

 

「………あ。」

 

 気付いていないみたいだから、いや、忘れているみたいだからずっと言おうと思ってたんだけど、強盗と勘違いしたり、自己紹介をしたりして言うタイミングを逃してしまっていたけど、リゼって今下着姿なんだよな。下着姿に目がいかないようになるべくリゼの首から上を見るようにしていたが、いつまでもこの状況は耐えられない。早く服を着てほしい。

 

 そして今の自分の姿を思い出したリゼは持っていたモデルガンを落としてしまい、みるみる顔が赤くなっていった。そこから握り拳を作りふるふると体が震え始め————

 

「………け。」

 

「え?」

 

「出ていけ!!!変態!!!覗き!!!」

 

「え!?ちょっ!?」

 

 突然鬼のような形相になったリゼは猛スピードで俺に突進してきた。そしてその勢いのままジャンプをすると、足をそろえて地面と平行になるように体勢を横にして、俺の鳩尾にめがけて思いっきり蹴ってきた。ドロップキックというやつだ。

 

 蹴られた衝撃で一瞬息が止まった俺は体がくの字のようになり、宙に浮きそのまま部屋の外、廊下へ蹴り飛ばされてしまった。そして背後にあった壁に激突し、尻もちをつくようにそのまま床に落ちた。

 

「痛っ………た………!」

 

「リョ、リョーマさん大丈夫ですか!?」

 

 顔を上げ、声がする方を見ると。俺の姿を見たチノが駆け寄ってきた。手にはチノと同じ制服、色だけが違う制服を持っていた。多分ココアのだろう。制服を取りに席を外し、ちょうど戻ってきたタイミングでこの状況に出くわしたといったところか。なんて状況を分析してる場合じゃない。

 

「この犯罪者め!ただで済むと思うな!」

 

 怒りが頂点に達したリゼが部屋にあったのであろう箒を持って部屋から出てきた。下着姿のままで。息も荒々しく、何を言っても聞く耳を持たないといった様子でゆっくりとこっちに近づいてくる。

 

「リゼさん落ち着いてください!何があったんですか!?」

 

「チノ!そいつから離れろ!そいつは覗きの犯罪者だ!」

 

「え………覗き………犯罪………?」

 

 チノは呆気に取られたような顔で固まってしまった。どうやら理解が追いついていないようで、何度も瞬きをしている。宇宙が見えてそう。

 

「違う!ココアの悲鳴が聞こえたから駆けつけただけで覗きたくて部屋に入ったんじゃない!」

 

「どっちにしろ下着姿を見たのには変わらない!天誅——————ッ!!!」

 

「ダメェーーーー!!!」

 

 リゼが箒を俺に目掛けて振り下ろそうとした瞬間、更衣室にいたココアが部屋から飛び出しリゼの背中にしがみついた。全く予測していなかったのか、かなり驚いた表情のままバランスを崩し二人一緒に床に倒れた。

 

「チノちゃん!お兄ちゃんをここから離れさせて!」

 

「え………は、はい!」

 

 ココアの呼びかけでハッと我に返ったチノは『こっちです!』と言って俺の手を掴み、男子更衣室へ引っ張られるように連れてこられた。そしてドアに鍵をかけるとチノは一息つくように息を吐いてから俺の方に体を向けた。

 

「すみません、状況がよく分からなくて。何があったんですか?覗きとか犯罪者とか言ってましたけど?」

 

 チノは何がなんだか分からないような困惑の表情を浮かべた。ココアの制服を取って戻ってきたらあんな状況になっていたのだから無理もない。一からしっかり説明しなければ。

 

「俺が制服に着替えようとしたら隣からココアの断末魔のような悲鳴が聞こえたんだ。心配で駆けつけたら下着姿のリゼがココアに拳銃を向けてて、強盗かと思ったんだけど後からそれはモデルガンだったって事が分かって誤解は解けたんだけど一段落ついて自己紹介をし合った後、服を着た方がいいって言ったら、顔を真っ赤にして怒りだして、あんな状況になったんだ。」

 

「そういう事だったんですね。とにかくリゼさんをなんとか落ち着かせないと……!?」

 

 チノが話し終えた瞬間、ドンドン、ガタンと暴れるような音とココアがリゼを止めようとしている声が壁越しから聞こえてきた。余程怒りが収まっていないらしくこのままじゃココアが本当に危なくなってくる。

 

「まずい!早く止めないと!」

 

「リョーマさんはここにいてください!今リョーマさんが行ってもリゼさんを刺激するだけです!リゼさんは私とココアさんで止めますのでリョーマさんはここで大人しくしていてください!私が部屋を出たら鍵をかけておいてください!」

 

「あ、チノ!」

 

 チノはそう言い残し、ココアの加勢に加わった。暴れる音が更に大きくなった。もう俺にできることはなさそうだ。俺はチノの言う通りだと思い開けっぱなしのドアをそっと閉め鍵をかけ、何もすることが無くなった俺は窓を開けて黄昏るように雲一つない青空を見上げた。

 

 神様、俺何かしましたか?下着姿を見てしまったのは確かですが、それはココアの事が心配になって駆けつけた結果見てしまっただけなんです。不本意なんです。何故こんなことになってしまったのでしょうか?

 ………もしかして貴方の悪戯ですか?もしそうだったら俺、怒りますからね?リゼほどじゃないですけど。

 

 そう心の中で呟いた俺は、暴れる音と大声が壁越しから響いてくるこの男子更衣室の中で窓から青空を見上げ続けた。

 

 

 

 

 

 

あぁ、鳩尾(みぞおち)と背中と尾骶骨(びていこつ)が痛い。

 

To be continued

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。