この前ドリアを食べてたら熱すぎて火傷しました。
皆さん、今は寒いですが火傷には注意してください。
「私、しばらくお兄ちゃん断ちします!」
ある日、仕事を始めようとした時チノが突然驚くことを言い出した。何かする時はいつも一緒だったのに一体どうしたんだ?ココアとリゼも目を丸くして驚いている。
「どうしたのチノちゃん!?熱でもあるの!?」
「そうだぞチノ!お前がそんなこと言うなんて!一体どうしたんだ!?」
2人はチノの肩を掴みながら理由を聞こうとしている。チノは2人の驚き方にびっくりして言葉を発せずにいる。なんとかしないと。
「2人とも落ち着け。それでチノなんで急にそんなことしようと思ったんだ?」
「私、最近お兄ちゃんに甘えてばかりで仕事にも支障が出てきて、さすがにダメなんじゃないかと思ったんです。 なのでこれから1ヶ月お兄ちゃんに甘えるのは禁止にします!」
フンと鼻から蒸気が出るみたいに意気込んでいた。本当に大丈夫だろうか。1週間なら2回耐えてたことはあったが1ヶ月となると話は変わってくる。1週間であれだったんだ、今のチノには耐えれそうに見えない。
「大丈夫なのか?無理しなくていいよ?」
「いいえ大丈夫です!1ヶ月耐え切ってみせます!」
チノはもう張り切り状態だ。ここで無理に止めるのも野暮だし、させてみるか。
「わかった。じゃあ今から始めるけどいいか?」
「はい!」
チノは元気よく返事をして、開店作業を始めた。隣にいたリゼも心配しながらチノを見ている。
「なあリョーマ、チノの奴本当に大丈夫なのか?」
「本人がやるって言ってるんだ。できるところまでさせてみるよ。さすがにもう無理だと思ったら俺が止める。」
こうして今日の仕事が始まった。チノは張り切って仕事に励んでいる。まだ1日目だから大丈夫だろうけど1週間経った時が心配だ。あの時は無心で呟いていたからな。
「さて、俺はパンを作るか。」
俺は厨房へ行きパンを作るために、小麦粉、砂糖、塩、牛乳、ドライイーストなどの材料を取り出した。ラビットハウスは9時から始まるが、お客さんが来だすのは10時を回ってからだ。そしてパンの注文が入るのもその時間帯だ。それまでは俺はパン作り、残りの3人は店の方を任せている。
「それにしてもチノがあんなこと言うなんてな。」
俺はパンをこねながら今朝のチノのことを考えていた。
チノは俺の妹になってからはいつもそばにいたからな。少し大人になったのかと思えば嬉しいがその反面寂しい気持ちも少しある。でもいつまでも甘えん坊というわけにはいかないけどな。
「よし、あとは少し寝かせて焼くだけか。」
俺は生地をボウルに入れ、ストップウォッチを設定し、近くにあった椅子に腰を掛け、腕を組みながら時間が経つのを待った。数分間無音の時間が流れ、少し離れたホールから3人の話し声が聞こえる。
「そういえばココアもチノくらいの時はかなりの甘えん坊だったな。」
ボーッとしながら待っていると、少し昔のことを思い出した。
ココアが中学に入学したばかりの頃、俺と同じ中学に入れたことが嬉しくて大はしゃぎしてたっけ。一緒に通学することになったけどいつもいつも寝坊するからわざわざココアの家まで行って起こしに行ってたな。今も変わらないが。
「もうあれから4年くらい経つのか。早いな。」
懐かしさに浸っていると無音の部屋からピピピッという音が響き渡った。どうやら時間のようだ。生地を見てみると程よく膨らんでいる。俺はロールパン、ジャムパン、クロワッサンなどの生地に均等に分けてトレイに乗せ、オーブンに入れ電源を入れた。
「お兄ちゃん!パンもうすぐ焼ける?」
電源を入れた時ちょうどココアが厨房に入り、ちょこちょこと小走りで俺がいるオーブンの前までやってきた。オーブンの窓に映る少しずつ焼けていくパンの生地をジッと見つめている。
「今焼いたところだからもう少しだな。」
「ねえお兄ちゃん!焼けたら1つ食べたい!」
「ダメだ。これはお客さんに食べさせるパンだ。それに朝ごはんの時にパン食べただろ?」
「だってお兄ちゃんのパン美味しいんだもん!お願い1つだけ!」
ココアは目を瞑りながら手を合わせて俺に頼み込んでくる。そしてタイミングが良いのか悪いのかピーっというパンが焼けた音がオーブンから鳴った。それでオーブンに目が行き再びココアに目を戻すと尻尾を振る犬みたいにウキウキしている。
「はぁ〜、1つだけだぞ。」
「やったー!お兄ちゃんありがとう!」
俺はオーブンから焼きあがったパンが乗ったトレイを取り出しキッチンのテーブルに置き、焼きたてのロールパンを1つ手に取った。
「ほら。」
「えへへ、ありがとう!」
ココアはパンを受け取るとパクパクと夢中で食べていた。こういうところはチノと一緒なんだよな。なんとなく頭を撫でてあげるとパンを咥えながらニコッと微笑んでいた。
「それ食べたら仕事に戻れよ。」
「えっと、お兄ちゃん。」
半分ほど食べたココアが両手に残りのパンを持ちながら、上目づかいで少し申し訳なさそうな顔をしている。なんとなく予想がついてしまう。
「ん?」
「あの......もう1個...。」
「ダメ。」
「おねがい!」
「ダメだ!」
「む~.....」
予想通り頬を膨らませながら俺を見てくる。そんな顔してもダメなものはダメだ。そういうところもチノと一緒だな。いや、チノがココアに似たのか?
俺はトレイを持ってホールに行くことにした。
「ほら早く食べてさっさと行くぞ。」
「お兄ちゃんのケチ!」
「ケチで結構!」
お客さん用のパンなのに何を言ってるんだこの妹は.....。
俺はパンをホールへ持っていくとちょうど小さい女の子を連れた親子連れのお客さんが注文をしていた。そしてそのお客さんの女の子がパンが乗っているトレイを持った俺を見つけると、目をキラキラしていた。
「ママ!またあのパン食べたい!」
女の子は席を立ちトレイに乗っているバターロールに指差していた。
「ここに来るといつも頼むわね。すみませんバターロールください!」
「かしこまりました!」
俺は皿にバターロールを2つ乗せ、女の子の前に置いた。とても嬉しそうにパンを見つめている。
「はいどうぞ。さっき焼きあがったばかりだから気をつけて食べてね。」
「うん!お兄ちゃんありがとう!」
「うん、どういたしまして。」
俺は軽く一礼し、チノたちの所へ戻った。振り返って女の子を見るととても美味しそうに食べており母親の方はそれを微笑ましく見ている。
「リョーマのパンすごく人気だよな。」
「はい。お兄ちゃんのパン目当てで来るお客さんも多いですから。」
「美味しく食べてくれると作り甲斐がある。」
チノの言う通り、注文がパンだけというお客さんもいる。最近売上が上がってきているようで、ティッピーが跳ねながら喜んでいるところをよく見かける。
数分後にはどんどんお客さんの数が増えていき、俺の大忙しのパン作りの時間が始まった。お昼時が一番忙しいんだよな。
※
「さて、今日はこれで終わるか。」
「やっと終わった〜!そうだお兄ちゃん!お仕事頑張ったから頭撫でて!」
ココアは俺の所へテクテクとやってきて、頭を差し出してきた。仕事が終わったら頭をを撫でてあげるのが当たり前になってきている。
「はいはいわかった。」
「えへへ〜。この撫で撫でのために頑張ってると言っても過言ではないよ!」
それなら勉強もそれくらい頑張ってほしいものだ。でもそれを言うとめちゃくちゃ誤魔化すからあまり意味はない。
「ココアさんずるいです!私も撫でてください!」
チノもこっちにやってきて頭を差し出してきた。どうやら甘えるのを禁止してるのを忘れてしまっているようだ。1日目の終わりで朝での勢いが少し崩れてきたかな。
「チノ、甘えるの禁止にしてるんじゃなかったか?」
「あ........そうでした。すみません今のは忘れてください。」
「無理しなくていいんだぞ?甘えたいなら甘えていいぞ?」
「いえ大丈夫です!耐えてみせます!」
チノはそう言って自室へ走って行った。この調子じゃ2週間も持たないかもしれないな。とはいえ少しでも忍耐力がつくのは確かだ。見守りながら応援しよう。
こうして1日目が終了した。日が経つごとにボーッとしていたり、ココアが俺に抱きついているとじーっと見ていたりと少しずつ異変が出てきた。そして本格的な異変が出てきたのは6日目の時だった。朝、目を覚まし歯を磨がき、部屋へ戻ろうとしたときにそれは起きた。
俺は部屋へ入ろうとドアを開けた時、ちょうどチノの部屋からチノが出てきた。なんだかフラフラとした足取りをしており何かを呟いている。....お...兄...ちゃんと呟いているのか?
「チノ、大丈夫か?」
「お兄.....ちゃん.......お兄ちゃん........お兄ちゃん。」
チノは俺を見つけると虚ろな目で両手を前に出し、誰かに引っ張られてるような歩き方でこっちに来た。まるでゾンビみたいな歩き方だ。そしてチノは間合いに入ると糸が切れた人形のように抱きついてきた。
「チノ?」
「お兄ちゃん......」
チノはそのままずっと抱きついたままである。我慢のしすぎで無意識に抱きついてるような様子だ。
「チノ大丈夫か?チノ?チノ?」
「........は!?お兄ちゃん!?どうしてここに!?」
「どうしてって、チノが抱きついて来たんだぞ?」
「そう....だったんですか。ごめんなさい迷惑をかけました。」
チノはそう言って重い足を運びながら洗面所へ向かって行った。明日で7日目だ。そろそろチノも限界だろう。明日の時点で限界だろうが続行できようがもうやめさせよう。すごく可哀想に見えてくる。
「甘兎にでも行くか。」
俺は気分を変えるために甘兎庵に向かうことにした。
※
「まあチノちゃんがそんなことを。」
「少しびっくりですね。」
甘兎庵に行くとまだ空いてる時間帯みたいで客は俺と既にいたシャロだけだった。2人に今チノがしていることを話すとココアとリゼほどではなかったが少し驚いていた。
「でも我慢をしすぎてるみたいでな。明日でやめさせようと思ってる。」
「そうですね、また我慢しすぎて先輩が修学旅行で留守の間のチノちゃんになるのは見たくないですからね。あの時のチノちゃん凄かったです。」
「そうね、お見舞いに行った時声かけても全く返事しなかったし。」
「そんなに酷かったの?ココアがチノに突き放されたのは聞いたことがあるけど。」
「ええ、私達が声をかけてもずっと『お兄ちゃんに会いたい、ハグしたい、撫でてほしい』って呟いていたわ。」
「私はその翌日にもう1度お見舞いに行きましたけど、同じことをずっと呟いてました。」
「そうだったんだ......」
どうやら俺が思ってた以上に酷かったみたいだ。そんなトラウマがあるのに1ヵ月禁止に挑むなんてな。すごいよチノ。
「お邪魔しま〜す。」
入り口の方からおっとりとした女性の声がした。この声はもしや....
「青山さん。」
「あら?リョーマさんじゃないですか!奇遇ですね!」
青山さんはそのまま俺の隣のカウンター席に座った。
「小説のネタ探しですか?」
「はい!」
「本当は?」
「休憩です!」
「ただの休憩じゃないですか。」
「そうかもしれませんしそうでないかもしれません。」
なんか軽い漫才みたいだな。青山さんはチヤに善哉を注文すると、両肘を机につき、両手の指同士を絡ませて俺の方に顔を向けた。
「何か心配事ですか?」
一瞬俺の考えてることを読まれたのかと驚いた。でも心配事があるのは本当だし多分顔に出てるんだろうな。
「今チノが俺に甘えるのを禁止してるんです。今日で6日目なんですけどもうそろそろ限界だと思うので明日でやめさせようと思ってるんです。」
「そういえばこの前、リョーマさんにすごく甘えてましたね。初めて会った時に私が兄妹と間違えてしまった時あんなに恥ずかしがっていたのに、今ではお兄ちゃんと呼んで甘えていますからね。でもどうしてそんなことをしだしたんでしょう?」
「最近俺に甘えすぎて仕事でミスが多くなってきて、それを気にして甘えるのを禁止にしたみたいです。」
「そうだったんですか。兄を慕う妹、とても素晴らしいです!リョーマさん次の小説の参考にさせてください!」
俺の話を聞いていた青山さんは突然俺の手を両手で握り、目を輝かせながら頼み込んできた。青山さんってネタが見つかるとこんな風になるの?
「は、はあ。いいですけど。休憩はいいんですか?」
「ええ!大丈夫です!」
青山さんはカバンからペンとメモ帳を手に取り、原稿を書くときにだけ使う眼鏡をかけ、体ごと俺の方に向きやる気満々といった顔だ。なんだか取材をする記者みたいだな。普段からそうやって頑張っていれば締め切りに追われることも、真手さんに追いかけられることもないのに。
「ではまずチノさんとの出会いから教えてください!」
「まず俺は小さい頃にこの街に1度来たことがあってそれが忘れられなくてこの街の高校に通うことにしたんです。そしてーーーー」
*
「つ、疲れた......」
あの後俺は青山さんに4時間近く事細かく聞かれ続けた。てっきり40分くらいで終わると思っていたがそんなことは全然なく、しかも青山さんは疲れてる様子は全くなかった。あの頑張りっぷり、ココアには是非とも見習って欲しい。
「もう暗くなるな。早く帰ろう。」
俺は疲れた体を動かし歩き始めた。手を繋いで話しながら帰ろうとしている親子連れとすれ違ったりスーパーから出てきて帰ろうとしている人や互いにバイバイと言いながら公園で遊んでいた子供たちが去っていく光景が目に映る。日がどんどん見えなくなっていき辺りが暗くなっていく。
「チノ大丈夫かな。」
俺はふとチノのことを考えた。今朝の時であの状態だったんだ。早く帰らないともっとひどくなってしまうかもしれない。
俺は少し早歩きで帰ることにした。
「ただいま。」
ドアを開けると店内には誰もいなかった。店内を通り過ぎキッチンの方へ行くとココアが夕食を作っていた。
「あ!お兄ちゃんお帰り!」
「ただいま。今日はココアが作ってるのか。」
「うん!今日のは自信があるから楽しみにしててね!」
自信たっぷりに言ってくる。この前は自信があると言っておきながら塩と砂糖を間違えるという漫画みたいなドジ踏んでたからな。ちょっと心配だ。
「そうか。そういえばチノは?」
「チノちゃん今日1日ずっと部屋に籠ったままなの。お昼ご飯の時も出てこなくて部屋の前にお昼ご飯置いたらしばらくしたら食べてくれてたけど。お兄ちゃんのそばにいれないのが辛いみたいなの。」
「そうか。ちょっとチノの部屋に行ってくる。」
俺の予想以上に深刻みたいだな。明日じゃなくて今すぐやめさせよう。俺はそのまま2階に上がりチノの部屋に行くことにした。チノの部屋に立ったが、ノックをしても返事がない。
「チノ、いるか?」
俺はチノを呼びながらドアを開け部屋に入ると、チノがベッドの上で体育座りをしたまま一切身動きをとらずにじっとしていた。俺の声に反応したチノは俺に目を移したが、目は今朝よりさらに虚ろになっていた。しばらく俺を見ていたチノはそのまま目を元あった視線に戻した。
俺はチノの所まで行き、同じ目線になるように膝立ちになった。
「チノ、もうやめよう?辛いだろ?」
「.......。」
チノは何も言葉を発さない。
「このまま続けても意味なんか無い。より辛くだけだ。だからもうやめろ。」
俺の言葉を聞いたチノは暫くした後口を開け、震えるようにしゃべり始めた。
「...........たいですよ............やめたいですよ私だって!!!.........でも、自分から言ったのに今更やめるだなんて..........できないです。」
途中から怒鳴るように言ってきた。責任を感じてるんだな。でもこれ以上続けると短気になり八つ当たりするようになり最悪大喧嘩に発展するかもしれない。そんなことになったらみんな口を利かなくなる恐れがある。そんなことで良い事なんか1つも無い。
「チノ、自分の言ったことに責任を持つのは良い事だ。でもだからと言って体や心を壊していいわけがない。それにいきなり大きな縛りをつけるのも良くない。だから今日で終わろう?苦しんでいるチノを見る俺も辛いから。」
俺はチノの目を見て言うと、チノは次第に涙を流し俯いてしまった。髪の毛で隠れた顔から涙がポタポタと流れ落ち、ベッドに染み込む。やがてその量は増え、涙の量が増えていることを物語っている。
「いいんですか?........自分で........言ったのに。」
「うん。」
「自分で言ったのに..........辛いからっていう理由で........やめるんですよ?」
「ああ。」
暫く無言の時間が流れた後、チノは体を震えだしすすり泣く声が聞こえた。そしてチノは顔を上げると口を噛みしめながら声をあげて泣くのを我慢していたが、涙は止まるどころか、どんどん増えていき我慢出来ずにいられないようだった。そのままチノは全体重を俺に任せるように抱きつき、やがて大声で泣き始めた。
「.......寂しかった!........苦しかった!........お兄ちゃんが....そばにいるのに.....手を繋ぐことも....撫でてもらうこともできなくて......本当に辛かった!」
「そうか。」
俺はチノの頭を撫でながら何も言わずに聞き続けた。
「もうこんなことしたくない!........私......もうお兄ちゃんから離れたくない!」
いつも敬語のチノが敬語じゃなくなっている。それほど心の底から本音を言っているんだろう。涙は止まることなく泣き続けている。
「そうか。よく頑張ったな。」
「うわあああああああん!!」
※
30分ほど泣き続けたチノは泣き疲れたみたいで、床にあぐらで座っている俺の膝の上に頭を乗せぐっすりと眠っていた。時々寝ている頭を撫でると笑顔になりながら寝ているから多分夢の中でも頭を撫でられてるんだろうな。
「お兄ちゃん、チノちゃんは大丈夫?」
「ああ、もうぐっすり寝てるよ。」
ココアは部屋に入り、俺の隣に座り寝顔のチノを見ている。
「もう今日でお終いにしたんだよね?」
「ああ、すごく辛そうだったからな。」
「よかった。チノちゃんはもうお兄ちゃん無しでは普通にはいられないようになっちゃったからね。」
ココアはそう言いながらチノの頭を撫でていた。ココアの手で撫でてもチノはにっこりと笑顔になりながら眠っている。それを見たココアも微笑ましく笑っており、俺はこの瞬間だけココアがチノのお姉ちゃんっぽく見えた。
「今のお前、お姉ちゃんって感じがするな。」
「ほんと?」
「ちょっとだけな。」
「ん~........お兄ちゃん........お姉ちゃん。」
聞き間違えたかと思った。だが確かに今チノの口からお姉ちゃんという言葉を放った。今この部屋にいるのは俺とココアとチノだけだ。ということはココアのことを寝言だがお姉ちゃんと呼んだんだ。俺は驚いたがそれ以上にココアが目を見開き驚いていた。
「よかったなココア。」
「......うん!寝言でもすごく嬉しい!」
ココアは目尻に少し溜まった涙を拭っていた。よほど嬉しいみたいだ。チノの顔に目を移すと感動に浸っているココアとは違って無邪気な顔で眠っている。とても可愛らしい。
「それじゃ私、夕飯の準備の続きしてくるね!」
「ああ、もう少ししたら俺もチノを起こして行くよ。」
ココアは上機嫌で部屋を後にし、1階へ降りて行った。パタパタとリズムよく階段を降りる音が聞こえる。その音からでもココアの機嫌さがよくわかる。
「さてと。チノ、そろそろ起きろ。」
「ん~.....お兄ちゃん?」
チノは目をこすりながら寝惚け眼でゆっくりと体を起こした。チノは俺が目に映ると躊躇うことなくスッと抱きついてきた。
「チノ、もうすぐ夕飯だから下へ行こうか。」
「もう少しだけお願いします。6日ぶりなので。」
「そうか。じゃあちょっとだけな。」
俺は立ち上がりかけた足を座り直し、5分ほどこのままでいることにした。時計の秒針が動く音だけが部屋に漂っている。
「お兄ちゃん。」
「ん?」
「その、ごめんなさい。あの時八つ当たりするみたいに怒鳴っちゃって。......本当にごめんなさい。」
やめたいって言った時のことを気にしてるんだな。人間イライラしないことなんてない。誰しも機嫌が悪くなることはあるものだ。もちろん俺にだってある。.....主にココアが全然勉強しないことに関してだが。
「いいよ。チノはよく頑張ったんだから気にするな。」
「はい。......お兄ちゃん、これからもお兄ちゃんのそばにいいですか?」
「何言ってんだチノ。いいに決まってるだろ。」
「お兄ちゃんありがとうございます!」
悩みのない満面の笑みだった。もう大丈夫だな。次またチノが挑戦しようとしてきた時はまずは3日間にしよう。
「じゃあ下に降りようか。」
「はい!」
俺はチノと手を繋いでココアが待つリビングへ向かった。
To be continued
今回はここで終わります。
寒いと布団から出るのが難しいですよね。もう少し暖かくなって欲しいですね。