暑い.......暑すぎる!
この前暑過ぎてTシャツに汗を吸い過ぎてビショビショでした。
めっちゃ恥ずかしかったです。
6月になり、もうすぐ梅雨に入ろうとしていたある日の朝、俺は少し蒸し暑くて目を覚ました。今日は学校から帰ってきたらラビットハウスの仕事がある。俺は今日も1日頑張ろうと意気込み起き上がろうとした時、布団の中に違和感があった。
この感覚は間違いない、またチノが夜中に潜り込んできたな。チノは最近自分でも甘え過ぎなのを少し自覚し始めて、だけど何日も甘えるのを我慢すると前みたいなことが起きるということで寝る時は1人で寝るのを始めて潜り込んでこなくなって安心してたのにまたびっくりさせられるのか。
「チノ、前に言っただろ?どうしても一緒に寝たくなったら言って.............え?」
布団をめくると、てっきりチノが潜り込んでいたのかと思っていたがそうじゃなかった。そこには布団の中で俺を抱きしめながら幸せそうに眠っていたココアがいたのだ。これはまた別の意味で驚かされた。
「おいココア起きろ!なんでお前まで潜り込んで来てんだ!?」
「ん~......ふぁ〜、お兄ちゃんおはよ~。」
「はいはいおはよう。で、なんでここにいる?」
「前にチノちゃんが夜中に潜り込んだって聞いたから、どんな感じかなって思って。すっごく温かかったよ!」
チノと全く同じ感想だ。ひょっとしてココアもこれから夜中に潜り込んでくるのか?そんなことになったら俺は毎日驚きの朝を迎えないといけなくなるぞ。
「頼むからもう夜中に潜り込んで来るなよ?」
「わかってるよ。今日だけだから。」
どうやらココアはわかってくれてるようでよかった。チノは言っても潜り込んで来てたからな。もうココアより甘えん坊になってる気がする。
「ココア、もうすぐ学校に行かないとだから早く部屋に戻って着替えてこい。」
「え~?もうちょっとだけギュってさせて!」
そう言ってココアは俺の胸に抱きついてきた。まあ朝食まで5分くらいあるし、少しだけなら大丈夫だろう。
俺はそのままココアと抱きしめ返し、少しの間このままでいた。
「えへへ///こうしてると幸せだな~。」
「ハグくらいいつもしてるだろ?」
「うん。でも起きてすぐにハグはあまりしないから、目覚めの後のハグは本当に最高だよ!」
ココアはさらに抱きつく力を強め頬を俺の胸に擦り寄せてきた。どうやらハグスイッチが入っちゃったみたいだ。ココアには悪いけどそろそろ着替えないと。時計を見ると疾うに5分を過ぎている。
「ココア、本当にそろそろ着替えないと。」
「むぅ~。じゃあ学校から帰ってきたらいっぱいハグさせてね?」
「ああ、わかった。早く着替えてきな。」
「うん!」
そのままココアは急ぎ足で部屋を出て行った。少し名残惜しそうな顔をしていたが仕方がない。ハグの時間が長くて遅刻したなんて先生に言ったら呆られながら怒られるのは目に見えている。
「さてと俺も着替えるか。」
俺はベッドから立ち上がり学校の制服に着替えた。朝食に少し遅れているからチノを待たせるのは悪いと思い部屋を出てココアと一緒に食卓へ急いだ。
「おはようチノ。」
「チノちゃんおはよー!」
「あ、おはようございます!」
食卓へ向かうとちょこんと椅子に座り大人しく待っていてくれたチノが俺を見ると席を立ち勢いよく抱きついてきた。いつもならここでココアがずるいとか言ってチノと喧嘩するんだけど、朝起きてハグができたからなのか特に何も言ってこなかった。
「それより今日は遅かったですね。何かあったんですか?」
「え!?う、うん。私が起きるの遅かったから.......。」
「ん?...........なんだか怪しいですね。お兄ちゃん本当ですか?」
ココアの態度を見て怪しんだのか、今度は俺に聞いてきた。ハグの時間が長くて遅くなったなんて言ったら絶対にココアと喧嘩になる。なんとしても嘘を突き通さないと。
「う、うん。思ったより起きるの遅くてな。起こすのにちょっと時間かかったんだ。」
「本当ですか?ひょっとしていっぱいハグしてたから遅くなったんじゃ.........。」
こういう時だけ勘が鋭いな。ジト目でめちゃくちゃ疑ってるぞ。心の中まで見透かされそうだ。ココアがバレそうですごく冷や汗をかいてるし、気のせいかもしれないけど俺も冷や汗かいてる気がする。
「ほ、本当だって。ココア全然起きなかったんだから。」
「..........わかりました。そういう事にしておきます。」
まだ少し疑ってる様子だったけど納得してくれたようだ。少しヒヤヒヤしたけど事無きを得た俺は朝食を済ませ学校へ向かったが、通学路での分かれ道の際チノがお兄ちゃん分を補給とのことで思いっきり俺を抱きしめてきた。そしてそれを見たココアはいつも不機嫌になるからお昼にチヤも一緒に3人で昼食を食べた後、ハグしてあげるのが日課になっている。甘えられるのは嫌じゃないけど、甘えられすぎるのはちょっと疲れるなぁ。
「お兄ちゃん!一緒に帰ろう!」
放課後、授業を終えた俺は教室を出るといつものようにココアが駆けつけてきた。チヤも一緒だ。
「ココアちゃん、そんなに走ったら危ないわよ。」
「だって早くお兄ちゃんと帰りたいんだもん♪」
そう言ってココアはご機嫌のようだ。何かいいことでもあったのかな?
「何かあったのか?」
「それがねリョーマ君、さっきお昼の時にベンチでお弁当を食べてた私たちを見たクラスメイトの子がいたみたいでね。その子がココアちゃんとリョーマ君が幼馴染なのにいつ見ても本当の兄妹みたいで羨ましいなって。しかもハグもしてたからあんな兄が欲しいなとも言ってたのよ。ココアちゃん、見られてたのがわかって少し恥ずかしがってたけどそれ以上に嬉しがってたわ。」
「そ、そうか///」
なんだかものすごく恥ずかしくなってきた。ていうか見られてたのか。この学校は俺以外女子だからそういうところを見られるのはまだ抵抗がある。そうなった原因は多分前にリゼが怪我した時にお姫様抱っこで保健室へ向かった時に周りの女子たちに歓喜の叫びをされたからだと思う。
「お兄ちゃんどうしたの?顔赤いよ?」
「い、いや。何でもない///ほら、早く帰るぞ!」
俺はココアに悟られないようにそそくさと廊下を歩きだした。事情を知っているチヤはクスクスと笑ってるし、頼むからココアには言わないでくれよ。
「そうだ!お兄ちゃん!」
「ん?」
「これ見て!」
そう言ってココアはカバンから1枚のプリントを俺に渡してきた。見てみると今日の小テストのプリントだったが内容を見た瞬間驚いた。国語の小テストなのに点数が60点だった。いつも20点代とか30点代なのに。
「珍しいな!お前が文系で60点なんて!」
「えへへ///最近頑張ってるからね!」
ココアは胸を張って自信たっぷりの様子だ。まあ最近いつもと違って妙に勉強頑張ってたからな。何かきっかけがあったんだろう。
「そういうわけでお兄ちゃん!ハグさせて!」
ココアは両腕を広げ、ハグを受け止める体勢を取った。こんなとこでやったら周りの女子生徒達の注目の的になってしまう。
「ハグは帰ってからでいいか?ここでやったら色々と恥ずかしいから。」
「え?あ......!そ、そうだね///」
冷静になったのか、少し顔を赤くしていた。ココアは誰もいない所やリゼやチヤ達の前では遠慮なく甘えてくるけどこういう風に周りに大勢の人たちがいる前ではさすがのココアでも恥ずかしがる。その点に関してはチノは全然恥ずかしがらないけど。その分甘えん坊になったってことかな?
「ほら、早く帰るぞ。」
「うん!」
俺たちはそのまま校門を出た。チノは今頃家に着いた頃だろう。今日は帰ったらラビットハウスの仕事があるから早く帰らないと。
「ねえお兄ちゃん。明日と明後日の土日なんだけどチヤちゃんの家で勉強会してもいいかな?」
「え?勉強会?そうなのかチヤ?」
「ええ。ほら、もうすぐ試験があるでしょ?それでココアちゃん赤点を回避するために頑張ってるのよ。」
どうやら次の期末試験に向けての勉強会みたいだ。それでココアは最近勉強を頑張ってたのか。前の試験の時が赤点ギリギリでなんとか進級できたからそれが効いたんだろう。
「わかった、いいよ。最近のココアは偉いな。」
「えへへ///」
頭を撫でてあげると嬉しそうに微笑んだ。こうやって日頃から頑張ってくれると俺も褒め甲斐があるんだけどな。それにしてもココアが自分から進んで勉強をするなんて、前の試験のこともあるんだろうけど根本的な何かが変わったような。ココアが最近勉強するようになったのは前に俺が高熱で倒れた日くらいの時期だ。あの頃に何かきっかけがあったんだろうか。考えても全然答えが出なかった。
「それでねお兄ちゃん、1つお願いがあるんだけど。」
「ん?何かあるのか?」
「お兄ちゃんも勉強会に来てくれない?」
「え?俺も?」
「うん、お兄ちゃん勉強教えるの上手だから!」
勉強を見てあげれるんなら見てあげたいけど仕事はチノとリゼだけで大丈夫だろうか?一旦帰って聞いてみるとするか。
「俺はいいけど仕事もあるからチノ達に聞いてから決めるよ。」
「そうだね。もしダメだったら私とチヤちゃんで勉強会するね。」
「ああ」
俺たちはそのまま歩き続けた。道中ココアとチヤはどの教科を勉強しようか話し合って盛り上がって会話が絶えなかった。いつも勉強を嫌がってたココアが前向きに取り組むなんて世の中何が起こるかわからないな。
「ただいま。」
チヤとは甘兎庵で別れ、俺とココアはラビットハウスへ帰った。そしてドアを開けたが誰もいなかった。まだ店は開いてないから当然なんだけど。いつもならここでチノがお帰りって言って俺に飛び込んで来るのに。
「チノはまだ帰ってきてないのかな?」
「そうかもしれないね。」
もしかしたらマヤとメグと一緒にどこか寄り道をしているのかもしれない。いつも仕事で遊ぶことなんてなかっただろうから少しくらい遅れたって俺は構わない。
「じゃあお兄ちゃん、帰ってきたからハグさせて!」
そう言ってココアはすごくウキウキした顔になった。さっき帰ってからって言ったし約束は守るか。
「いいよ。おいで。」
「お兄ちゃん!」
ココアは勢いよくダイブするみたいに抱きついてきた。誰もおらず窓から夕日が差し込んできてとても静かだ。チヤと別れてからの帰り道、ハグしたいけど周りの目もあって出来ずに少しそわそわした様子だったからな。それくらい我慢してたんだろう。まあ俺も人前で抱きつかれるのはちょっと恥ずかしいからこうして大勢の人がいないところでのハグの方が俺は好きだ。でも俺たちが今ハグをしてるこの場所は店のホールだからこんなとこでしてて大丈夫なのかとは思うけど誰もいないしいいか。
「ココア、そろそろ仕事だから着替えてきてくれるか?」
「うん!じゃあ先に行ってるね!」
大満足したココアは軽い足取りで部屋へ向かった。俺も自分の部屋へ向かいドアを開け部屋に入ると俺のベッドの布団が妙に膨れていた。どこかで見たなこれ。デジャブか?
「.........もしかして。」
俺は布団をめくると、学校の制服を着たままのチノが寝ていた。やっぱりか。あどけない寝顔で幸せそうに眠っている。ていうか前もそうだったけどなんで俺の部屋で寝るんだ?
「はぁ〜まったく。お腹出したままだと風邪引くぞ。」
俺はお腹を出してしまっている制服を元に戻してあげ布団をかけた。仕事までまだ20分くらいあるしもう少しだけ寝かせてあげよう。こんなに幸せそうな顔で寝てるから起こすのが可哀そうだ。
「本当に。幸せそうに寝ちゃって。」
俺は眠っているチノの頬を突いてみた。すごく柔らくてマシュマロみたいだ。なんだかすごく癖になる。
「ん〜.......。」
「おっと起こしたか?」
「.........えへへ///」
起こしたかと思ったが微笑んだまま眠ってしまった。とても楽しい夢でも見てるんだろうか。俺は頬を突くのをやめ、頭を撫でた。
初めて出会った頃のチノはどこか距離があって言いたいことがあってもなかなか言ってくれず、打ち解けあえずに少し心を閉ざしているところがあった。原因は母親を早くに亡くし、おじいさんは今はティッピーに乗り移ってるけど1度は亡くなってるわけで自分の心を開ける相手がいなかったからだろう。でもチノの口から俺の妹になりたいと勇気を出して言ってきたクリスマスのあの日から心に溜め込んでいた思いが一気に爆発したかのように甘えん坊になった。やりたいことや、やってほしいことを遠慮なく言ってくれるようになり心を開いてくれてすごく嬉しかった。たまに苦労することもあるけど嫌だと思ったことはない。むしろチノには心を閉ざしていた分いっぱい甘えて欲しいと俺は思っている。
「.........ん?........お兄ちゃん?」
「あ、起きちゃったか。」
「お兄ちゃんお帰りなさいです!」
頭を撫でているとチノがうっすらと目を開き起きてしまったが、俺だとわかると満面の笑みで抱きついてきた。俺はチノを抱きしめ返しながら頭を撫で続けた。
「ただいま。何かいい夢でも見てたのか?」
「はい!お兄ちゃんと一緒に寝る夢を見ました!」
「そうか。じゃあ今日は一緒に寝るか?」
「いいんですか!?一緒に寝たいです!」
ここ数日チノは1人で寝てたから一緒に寝れるとわかってとても嬉しそうだ。いつも思うけど本当に笑顔が増えたな。
「わかった、じゃあもうすぐ仕事だから服着替えてくれるか?」
「はい!」
チノはそのままご機嫌な様子で自室へ戻って行った。初めて会った頃の面影はもう全くないけど、俺は今のチノの方が大好きだ。距離を置かれる方だとなんだか晴れたような気分がしないし。
「よし、じゃあ俺もそろそろ着替えるか!」
『ありがとう。
「っ!?」
突然背後から聞き覚えのない女性の声がした。慌てて振り向いたがそこには誰もおらず、クローゼットの中やベッドの下を調べたがやはり誰もいなかった。チノはさっき出たからこの部屋には俺しかいないはずなのに。
「気のせい.........かな?」
俺は少し気になったが仕事の時間が迫っていたので急いで仕事の制服に着替えそのまま1階へ下り、仕事を始めた。
翌日の朝、準備ができた俺とココアはチヤが待っている甘兎庵へ向かおうとしていた。週末はマヤとメグが手伝いに来てくれるみたいでリゼからの許可は出たが、もう1人は許可してくれなかった。そしてそのもう1人は俺にしがみついて全然離れようとしてくれない。
「........なあチノ?」
「......いやです。」
「まだ何も言ってないけど。」
「嫌です!お兄ちゃんは行っちゃダメです!」
見ての通りチノが俺から離れてくれない。なんだかこのシーン俺がココアの実家へ行く時と似てるな。
「今日と明日はマヤとメグが来るから大丈夫だろ?それに明日には帰ってくるからさ、頑張って待とう?な?」
「嫌です!お兄ちゃんがいないと嫌なんです!」
チノは頑なに離れようとしない。ココアはどうすればいいのかわからずあわあわとしている。かくいう俺もそうだが。
「なあチノ、リョーマはココアとチヤの勉強を見るために行くんだからさ、2日間くらい我慢したらどうだ?」
「無理です!リゼさんはお兄ちゃんがいないからそんなこと言えるんです!」
「そ、それを言われると......。」
リゼは返す言葉が見当たらず、俺たちと同じあわあわとし始めた。このままじゃチノは駄々をこねる一方だし、チヤとの約束の時間も迫ってきている。
「ココア悪い、勉強会俺だけ昼からでもいいか?」
「うん、私は大丈夫だよ。チヤちゃんにも連絡しておくね。」
「ごめんな。ほらチノ、お昼までいてあげるからもうわがまま言わない。」
「ずっといてくれないんですか?」
「チヤの所で勉強会するって約束したからちゃんと守らないとダメだろ?だからお昼まで。いいか?」
「........わかりました。じゃあお昼までいてください!」
なんとかチノは納得してくれたみたいだ。けどココアとチヤに申し訳ないことしてしまったな。後でパンを作って詫びを入れよう。
「じゃあお兄ちゃん先に行ってるね!」
「ああ、行ってらっしゃい。」
ココアはそのままラビットハウスを出て甘兎庵へ向かった。今は9時だから3時間だけここにいるか。
「じゃあチノもう仕事始まるから離れてくれるか?」
「はい!お兄ちゃんありがとうございます!」
チノは満面の笑みでお礼を言い、そのままテーブルを拭き始めた。自分勝手なわがままを言われたけどちゃんとお礼を言ってくれただけでも良しとするか。
「なあリョーマ?」
「ん?」
「いつも思うけど大変だな。」
「まあそうだな。苦労することはあるけど充実してるから嫌だとは思わないよ。」
「そっか。何かあったら言ってくれよ。手伝うからさ。」
「ありがとな。」
「お兄ちゃんテーブル全部拭きました!」
リゼと話しているとテーブルを全部拭き終えたチノが駆け寄ってきた。ものすごい褒めて欲しそうにしている。
「よしよし、よく頑張ったな!偉いぞ!」
「えへへ//」
チノは俺に頭を撫でてもらっていることにすごく堪能していた。最近のチノはどんなことでも褒めてもらうためなら何でもするようになった。さっきのテーブル拭きもそうだし、夕食の手伝いや食器洗い、勉強に掃除、挙げだしきれないほどだ。とてもいい子だけどちょっとの事で駄々をこねられるのが玉に瑕だ。
「そういえばチノ、マヤとメグはいつ来るの?」
「もうすぐ来ると思います。」
マヤのメグに会うのは久しぶりだな。最後に会ったのはたしか4月の進級祝いのお茶会の時だったからな。
「やっほー!」
「お世話になりま~す!」
2ヶ月ほど前の事を考えていると入り口から元気よくマヤとメグが入って来た。2人とも元気なのは相変わらずだ。
「いらっしゃい。久しぶり。」
「あ!兄貴だー!」
「ほんとだ!お兄さ~ん!」
「え!?ちょ、ちょっと!」
2人は俺を見つけると一直線に駆け寄り、軽くジャンプしながら抱き締めてきた。1人だけなら未だしも2人同時だったせいでバランスが保てず尻餅をついて倒れてしまった。
「2人とも勢い強すぎ。」
「兄貴久しぶり!」
「お兄さんの匂いだ~!えへへ///」
2人とも俺に抱き着くのに夢中で全然聞こえてない。横にいたリゼとチノを見てみるとリゼは苦笑いをしながら相変わらずだなといった表情をしていたが、問題のチノは服の裾をギュッと掴みながら頬を膨らませプルプルと震えていた。.........まずいな。早く離れないとまた文句を言ってくるに違いない。
「そ、そろそろ離れてくれるか?一応今仕事中だからさ。」
「おーそうだった!私たち手伝いに来たぞ!」
「よろしくねお兄さん!」
「ああ、2人ともありがとう。」
頭を撫でようかと思ったがそれをしたらチノがプンスカと怒ると思いお礼を言うだけにした。そしてリゼとチノは2人を着替えさせるために一旦更衣室へと向かった。その間俺はティッピーと2人?1人と1匹?になった。
「........リョーマよ。」
「はい?」
「すまんのぅ、いつもチノの面倒を見てもらって。」
おじいさんはチノの世話のことで申し訳なさを感じてるみたいだ。俺は面倒くさいとか思ったことはないけどやっぱり祖父として何か思うことはあるようだ。
「いいんですよ。こういうのは慣れてますし俺も楽しいですから。」
「じゃが最近のチノはお前さんにベッタリじゃろ?それも日に日にエスカレートしておる。あまり迷惑をかけないようにと時々注意はしてるんじゃが、お前さんと一緒にいたいと言って聞かなくてのぅ。」
「おじいさんがティッピーになる前はチノはおじいちゃん子だったんですよね?でもおじいさんが亡くなってティッピーに乗り移ったから、きっと甘える相手がいなくなって寂しかったんですよ。だから今のチノを見てると昔のチノに戻ったんじゃないかって思うんですよ。」
「確かに以前のチノに戻ってはいるが駄々をこねるような子ではなかったんじゃよ。まあ兄と呼べる存在ができてよほど嬉しかったんじゃろうな。」
「そうだと俺も嬉しいです。」
「これからも迷惑かけるかもしれんがチノのこと見ててやってくれ。」
「はい!」
おじいさんは生前の時を思い出してるのか、向こうを向きながら目を閉じ何も言わなくなった。おじいさんはきっと自分が亡くなってからチノの事がすごく心配だったんだろう。自我があるとはいえ体は乗り移ったティッピーであるわけで話し相手をしたり見守ることしかできなかったんだと思う。でも最近チノが以前のチノに戻ったおかげでおじいさんに安心の笑顔が増えてるのを仕事中によく見かけるようになった。もしかしたらおじいさんがティッピーに乗り移ったのはチノが心配だったが故なのかもしれないな。
「兄貴おまたせ!」
おじいさんと話し終えて暫くするとリゼの制服にマヤとココアの制服に着替えたメグが戻ってきた。リゼは女性用のバーの制服に着替えていた。でも2人とも身長が低いせいで服が少しブカブカだ。
「お兄さんまず何するの?」
「俺はいつもパン作りから始まるんだ。他のみんなは店番をするようになってる。」
「へぇ〜そうなんだ〜!じゃあお兄さん、私お兄さんと一緒にパン作りたい!」
「メグだけずるいぞ!私も作りたい!」
「2人だけ抜け駆けなんてずるいです!私も作りたいです!」
メグの発言に乗じてマヤが参加し、さらにそれを見たチノも参加してきた。1度に3人も来られるとホールが人数不足になってしまう。ここは悪いけどあまり頻繁に来れないマヤとメグのためにチノにはここにいてもらおう。
「チノ、悪いけどここはマヤとメグに譲ってくれるか?2人ともあまりうちに来れないし、チノはまた今度一緒に作ってあげるから。」
「い、いやです!お兄ちゃんと今一緒に作りたいです!」
「それだとリゼ1人になっちゃうから。」
「いやです!一緒に作ってくれないと泣きますよ!」
.........なにその脅し方。心の中で思わずちょっと笑っちゃったぞ。でもよく見てみると目尻に涙を溜めている。..........本当に泣かないよな?
「リョーマ、ここは私1人で大丈夫だからチノも連れて行ってやってくれ。」
「え?でも1人で大丈夫なのか?」
「ああ、このままだとチノは駄々こねる一方だからな。私の事は大丈夫だから一緒にパン作ってやってくれ。」
俺が困っていたところにリゼが助け舟を出してくれた。俺はリゼの言葉に甘えることにし、もし1人じゃ手に負えなくなったらすぐに呼びに来るように言い残し、3人をキッチンへ連れていくことにした。
「さてと、じゃあ早速作っていくぞ。」
「「「はい!」」」
パン作りの準備が整い、始めるための号令をかけると何故か3人とも敬礼をしながら返事をしていた。なんだかリゼみたいだ。
俺は3人に1つずつ指示を出していきパン作りが始まった。チノは1度作ったことがあったから感覚が覚えていたのかそれほど苦戦はしなかった。だがマヤとメグは初めてということもあり、生地をこねるのに一苦労な状態だった。
「うぅ〜。腕が疲れるよ〜。」
「こねるのって結構疲れるんだな。」
2人とも腕をさすり少し苦戦しているみたいだ。確かに俺も初めてパンを作った時は腕が筋肉痛になったものだ。
「コツは手のひらを使って押すようにこねるんだ。」
俺がアドバイスを教えると、すぐさまその通りにし始めた。するとさっきまでキツそうだった顔がだんだん穏やかになってきた。
「わぁ〜すごい楽!」
「兄貴ってすごいな!」
「それじゃ3人ともそのままこねてて。俺も作るよ。」
お客さん用の生地が完成した俺は次にチヤの所へ持っていく用のパンを作ろうと思い冷蔵庫から挽肉を取ろうとした。ちなみにハンバーグサンドを作るつもりだ。しかしその様子をチノに見られてしまい目を輝かせながら俺のところに駆け寄って来た。
「お兄ちゃん!ハンバーグサンド作るんですか!?」
「え?うん、チヤ達に迷惑掛けちゃったからな。お詫びだよ。」
「私も食べたいです!お兄ちゃん私の分も作ってください!」
「え!?ハンバーグサンド!?お兄さん私も食べた~い!」
「本当に作るの!?私の分も!」
........まずいな。こうなったチノは俺が首を縦に振るまで続くからな。ここで断ったら駄々をこねてくるには目に見えてるし、マヤとメグもすごい期待に満ちた顔してるし作ってあげるか。
「わ、わかった。作るからちょっと落ち着け。」
「「「やったー!」」」
3人はハイタッチをしながら喜び合っていた。こんなに喜んでくれるんだし美味しいハンバーグサンドを作ってあげよう。
「じゃあこのままパン作っていくぞ。」
そのまま俺たちは生地をこね続けた。完成した生地を見てみるとチノのは一度経験しているからそれなりの弾力のある生地だった。マヤとメグのは初めてということもありチノの生地ほどの弾力は無かったが器用さがあったようである程度の弾力があった。
「兄貴、あとはこれを焼くだけ?」
「うん、あとはあそこのオーブンに入れるだけ。それじゃあ生地オーブンの中に入れてきてくれるか?」
俺たちは生地が乗ったトレイをオーブンの中に入れ電源を入れた。チノ達はオーブンの窓から焼かれていくパン生地を見るのに釘付けだった。そういえばみんなでパン作りした時もチノがオーブンに釘付けだったっけ。
俺は待っている間にハンバーグを作るために冷蔵庫からハンバーグの材料を取り出しキッチンに並べた。ボウルに牛乳、卵、塩コショウを入れていく。
(ココア、ちゃんと勉強してるかな?)
ふとココアの事が頭に出てきた。ココアはいつも20分ほど勉強するとすぐバテてしまう。でも高校2年生になったからなのか何故か最近は以前とは違って少し頑張るようになっていた。甘兎に行ったら少し聞いてみるか。
「(そういえばさっきから3人ともかなり静かだな)........うおぉ!?」
よほどオーブンに夢中になっているのか、気になって振り返ってみるとオーブンの所には誰もいなく、3人とも俺がハンバーグを作っているところを間近で凝視していた。心臓に悪いって。
「び、びっくりした.....。オーブン見てたんじゃないのか?」
「オーブンよりお兄ちゃんが作ってるハンバーグの方が気になります!」
3人ともハンバーグに興味津々といった様子だ。ちょっとやりにくいけどこのまま作るか。
俺はそのままボウルにお麩を入れた。
「あれ?ねえお兄さん、何でお麩入れたの?パン粉は入れないの?」
「ん?ああ、パン粉よりお麩を入れた方が肉汁をしっかりと閉じ込めてくれて美味しくなるんだよ。」
「へぇ〜。やっぱり兄貴ってすごいな!」
3人とも感心の目をしながら俺がハンバーグを作っているところを見続けていた。俺はそのまま挽肉を入れこね始めた。その後左右の手でキャッチボールをするみたいに交互に打ち付け空気を抜いていく。
「兄貴!もうできる?」
「あとは焼くだけだからもう少しだな。」
3人とも待ちきれないような様子だ。もしここでココアもいたらどうなってたかな?めちゃくちゃせがまれたりして。
俺はそんなことを思いながら挽肉を焼き始めた。
「リョーマ悪い!お客さんが多くなってきた。少しの間チノ達借りていいか?」
キッチンの出入り口の方から少し焦っているリゼが入っていた。時計を見るともうすぐ10時半を過ぎているしお客さんが多くなってくる時間帯だ。そろそろチノ達を仕事場へ戻そう。
「3人とも、そろそろリゼの所に行ってくれるか?」
「「「はーい!」」」
チノ達は元気な返事でリゼの所へ向かっていった。
ハンバーグを焼いているとちょうどオーブンのアラームが鳴った。俺はオーブンから焼きあがったパンを取り出しテーブルに置いた。そしてコンロの所に戻りハンバーグをひっくり返して再び焼き始める。
「なあリョーマ。」
さっきチノ達を連れて行ったリゼがまたキッチンに入って来た。
「どうした?」
「お客さんからパンの注文が入ってな。もう完成してるか?」
「ああ、ちょうど今出来上がったよ。」
どうやらパンの事で来たみたいだ。
「これか。」
「出来上がったばかりだから火傷しないような。」
「ああ。」
俺はパンをリゼに任せハンバーグを焼き続けたがさっきからリゼが難しい顔をしながらパンを見つめたまま持って行こうとしない。
「どうした?」
「い、いや!何でもない.......。」
そんな事言われても何でもないようには見えない。さっきからパンを見つめては目を逸らし、見つめては目を逸らしを繰り返して何かに葛藤してるように見える。
ぐぅ~~~。
「ん?」
「っ!!!........。」
突然リゼのお腹から音が鳴りだした。そしてリゼは顔を真っ赤にしてお腹を押さえた。
.........もしかして。
「リゼ、お前お腹空いてるのか?」
「ち、違う!別にお腹が空いてなんか.......!」
ぐぅ~~~。
「//////.......。」
「........お腹空いてるんだろ?ほら。」
俺は出来立てのパンを1つ取りリゼに手渡した。
「だ、だから別にお腹は.........。」
「本当に空いてないんだったらお腹なんか鳴らないだろ?別に誰にも言わないから食べな。」
リゼは少し躊躇っていたが空腹とパンの香りには抗えなかったようで大人しく受け取っていた。恥ずかしそうに、そしてとても美味しそうにパンを食べるリゼ。やっぱりお腹減ってたんだな。
そしてパンを食べ終えたリゼは少し恥ずかしそうにしていたがどこか満足そうな顔だった。
「その......ありがとう。」
「いいよ。それによくココアもパンを取りに来るときよく1つちょうだいってせがんでくるし。」
「そうなのか?」
「ああ、断ったらすぐ駄々こねるけどな。」
「..........いつも取りに来るのが遅いなと思ってたけど、道理でココアがパンを取りに行ってから戻ってくるまで時間がかかるわけだ。」
どうやらリゼの疑問が解けたみたいだ。パンを取りに行くだけで遅くなるんだったらそう思ってしまうのも当然か。
「それじゃこのパン持って行くぞ。」
「ああ、頼んだ。」
パンを食べて満足したリゼは出来上がったパンを持って仕事場へ向かった。ちょうどハンバーグが焼き上がったのを確認した俺はフライパンから取り出しパンに挟めるサイズに切っていった。そしてそれを焼き上がったサンドイッチ用のパンに挟み箱の中に詰めた。
「よし、できた!」
無事に完成することができそのまま風呂敷に包んだ。時計を見るともう11時を過ぎていた。そろそろ甘兎に行く時間だ。
俺はギリギリの時間まで仕事をすることにした。
12時になり、休憩時間になった。俺はそれと同時に甘兎に行く準備をし今はみんなに見送ってもらってる所だ。
「兄貴!ハンバーグサンドありがとう!」
「美味しく食べるねお兄さん!」
「お兄ちゃんが作ってくれたハンバーグサンド.......えへへ!」
3人ともすごく嬉しそうだ。作った甲斐がある。
「リョーマ、私までハンバーグサンドもらってよかったのか?」
「ああ、1人だけ違うお昼ご飯なんて淋しいだろ?」
「それもそうだな。ありがたくいただくよ。」
「お兄ちゃん最後にハグさせてください!」
リザと話してると横からチノが両腕を広げながらハグをねだってきた。とても淋しそうな顔をしている。2日間会えないからその分いっぱいハグしてあげよう。
「おいで!」
「はい!」
その瞬間、笑顔で抱きしめてきた。いつもより力が強く感じる。多分これは気のせいじゃないだろう。
「兄貴私も!」
「お兄さん私もさせて!」
チノのハグに乗じてマヤとメグも抱きついてきた。ちょっと苦しいけどこれくらい全然平気だ。
ハグを充分に堪能したチノ達は満足そうな笑顔になっていた。
「さてそろそろ行くか。リゼ、悪いけど3人のことお願いな。」
「ああ、任せてくれ。」
「それじゃ行ってきます!」
「「「「いってらっしゃい!」」」」
俺は4人に見送られながら甘兎庵へ足を進めた。
To be continued
今回はここで終わります。
もう9月ですね。あと少しで涼しくなる。
もう少しの辛抱!
PS
誤字などがあったら報告お願いします。