「みなさん初めまして!今日からこの学校に転校してきました。
俺は今、教室の
そう、今日から俺の新しい学校生活が始まるのだ。これからどんな日々があるのか楽しみで仕方なかった。正直昨日は楽しみ過ぎて寝不足とまではいかないが、あまり寝れていない。
この学校は始業式が先に行われ、入学式は明日行われるらしい。つまりココアは明日から学校生活が始まる。二年の転校生である俺は始業式である今日に登校してきたわけだが、新しい学校だから、俺にとっては入学式の気分だ。
さて、ずっと思ってきたが、どんなことが待っているのか、それとは別にこの学校で上手くやっていけるか、期待と不安がいっぱいだ。
でもきっと大丈夫。今までの入学式の時も学年が上がってクラスが変わった時もこんな気持ちだった。でも友達ができて楽しい日々を送ることができた。だからこの学校でも楽しくやっていけるはず!友達何人できるかな?楽しみだ!ここから俺の楽しくて充実した学校生活が始まるんだ!
――――――――そう、思っていたのに………。
「キャー!うそ!?男子!?」
「え!?何!?ドッキリか何か!?」
「結構イケメンじゃん!」
「事件!事件だわ!」
「男装じゃないよね!?」
教室中に
期待と不安でいっぱいだったのに、一気に不安の方に傾いた。
なぜかって?目の前にいる生徒たちが全員女子だったからだ。
正直に言うと、今日登校して学校に着いた時には違和感を覚えてはいた。登校してくる生徒たちは女子ばっかりで男子は俺一人だった。そして女子たちは珍しいものを見るような目で俺に視線が集まっていた。その時は今年から共学化したからそうなるのも仕方ないかと
始業式は体育館で行われることになっており、そこに行くと、既に到着していた生徒たちが中央で横に並べられたパイプ椅子に座り
この学校は珍しくクラス替えは無く三年間ずっと同じだ。それは事前に渡された書類に書いてあったから知っていた。クラスを変えないことで友好関係が安定しやすく、チームワークを築きやすくなると昔聞いたことがある。多分そのためだろう。だからあんなに談笑できているんだ。既に一年間クラスを共にしてきたんだから。
どこに座ればいいのかわからなかった俺に横から女の人が声をかけてきた。その人は『
俺はそのまま
本当ならこの時に気づくべきだったんだろう。この違和感の正体に。教員が全員女性であることに。中央のパイプ椅子に座って談笑している生徒たち、俺の存在が気になるのかチラチラとこっちを見ている生徒たちが全員女子であることに。
その後、始業式が始まり校長先生からの話を聞き、三十分程で始業式が終わった後、生徒たち
やっと違和感に気付いた。この学校は
「ねえねえ
女子たちは興味津々で
「
「元カノはいたの?」
「え、あの………。」
なんでいきなりそんな質問してくるんだ?
今まで俺は学校で女子と話すことなんてほとんど無かった。精々学校行事とかで軽く話したりする程度だった。まともに話した女の人なんて母さんとココアの家族ぐらいだ。女子と何を話せばいいのかよくわからない。
だから俺は―――――
「えっと、彼女はできたことない………。そもそも恋愛がよくわからない………。」
こう答えるしかなかった。まともな答えを返せなかったから、がっかりされるのかと思ったが―――――
「「「「「「「うそぉ!?」」」」」」」
がっかりされるどころか、心底驚かれた。しかも全員ハモってた。そんなに驚くことなのか?
「え、ほんとうに!?」
「告白とかされたことないの!?」
「絶対
「恋愛がわからないなんて
次から次へと質問の連続だ。そんなに疑われても事実なんだから仕方がない。
「じゃあさじゃあさ!
「あ、それ気になる!」
「は………?」
なんでそんなこと聞いてくるんだ?それを聞いてどうするんだ?意図がわからない。それ以前に俺自身も好きなタイプがわからない。だって恋愛そのものがよくわからないんだから。
「えっと………。」
「ほらほら~、そんなに恥ずかしがらずにさ~。」
どう答えるか悩んでいた俺を恥ずかしがっていると勘違いした女子たちは、
「みなさ~ん。席についてください。まだホームルーム中ですよ?」
教室の端に立っていた
「………みなさ~ん?」
密着するくらいまで近づいてきた。花のような匂いが
ダメだ。もう逃げられない。
そう思った俺はギュッと目を閉じた。
「………………。」
タァァーーーン!!!
「「「「「「っ………!?」」」」」」
突然黒板から何かを叩くような音、しかも耳鳴りがするほどの
音が鳴った方に視線を移すと、顔を伏せながら伸縮タイプの銀色の
そしてそのままゆっくりと顔を上げると、口は微笑んだままだったが糸目だった目が半開き程まで開き、ギロッと鋭い目つきでこっちを睨んでいた。
「………みなさん?転校生さんが気になるのはわかりますが、今はホームルーム中です。質問は後にして、席についてください?」
「「「「「「………は、はーい………。」」」」」」
女子たちは声を揃えて、ぎこちない足取りで静かに席に戻った。怒らせてはいけない人怒らせてしまったと後悔している女子がいれば、怖くて手が震えている女子、ダラダラと冷や汗が止まらない女子たちがいる。
たった一言で生徒全員を従えさせた。この先生見た目に反して
「ごめんなさい
「………はい………俺は全然、気にしてないです。」
「そう!よかったぁ!」
「自己紹介も終えたことですし、ホームルームを続けますね。
「はい、わかりました。」
俺は
今まで学校の席替えでこういう
トントン………。
俺が軽く深呼吸して落ち着くと、横から何かを叩くような音が聞こえた。見ると、隣の女子が俺の机の端を
………あれ?伝わらなかった?顔が赤いように見えるけど。体調が悪いのか?
「はい、ではまず今年度使う教科書を配っていきますね。汚れていたり、印刷ミスで白紙になっているところがないか、念のために確認しておいてくださいね。」
そう言って
その後は、時間割表や年間行事予定表のプリントを配られ、先生から激励の言葉を貰い、ホームルームは終わった。
「というわけで今日はこれで終わりになります。明日は新入生の入学式ですが、皆さんは通常授業になりますので時間割表を確認して忘れ物がないようにしてください。」
時計を見ると、十一時だった。今日はこれで終わりか。初日から色々と面食らったが、何とか乗り切ったな。二時間くらいしか経ってないけど。
この後はどうしようか………。
そういえば今朝、ココアが
俺もそこへ行くか。一つだけ奢ってもらうって言ったし。この前貰った
そう思い、席を立とうとした瞬間―――――
「では、やるべきことは終わったので………」
「転校生さんへの質問タイムといきましょー!」
「「「「「「「イェーーーーーーイ!!!」」」」」」」
「えっ!?」
とんでもないことを言い出してきた。女子たちも待ってましたと言わんばかりの盛り上がりだ。最初の時は質問責めの寸前で助かって、ある意味
マズい!逃げよう!
「「「「「「「
「は、はい!」
だが、そう思ったときには既に女子たちに囲まれ、完全に逃げ道を塞がれてしまった。
何笑ってるんだ!誰の
「改めて、
「好きな料理は何?」
「家では普段何をしてるの?」
「趣味は何?」
「あの………ちょ、ちょっと………待って………。」
た………
助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
「……………。」
疲れた……………。
疲れた……………。
疲れた……………。
今はそれしか頭に浮かんでこない。道を歩いている足も想像以上に重い。というか体中が重い。長時間休憩なしで働いたような感じだ。今目の前にベッドがあったら一瞬で眠れるんじゃないかと思ってしまうほどだ。
あの後俺は、女子たちから
何がチャンスなんだ?何を考えてるのかわからない。正直に言うと怖い。ああいうことが続くと思うと
そういえば今までの学校で転校生がやって来たとき、最初はみんな珍しかったのか転校生に質問ばかりしていたが一週間ほどすれば落ち着いていき、すっかりクラス馴染んでたな。ということは俺も一週間ほどすれば今日みたいな質問責めは無くなるということだ。
………でも逆に言えば一週間も続くということだよな……………。
「…………はぁ………。」
そんな
「リョーマ君いらっ!………しゃい………。」
「あ!お兄ちゃん!学校どう………だった?」
チヤが笑顔で迎えてくれたが、俺の顔を見た途端、引きつった顔になった。ココアも振り返った時は笑顔だったが、その直後チヤと同様の顔になった。
今の俺、そんなに酷い顔なのか?どうやら俺が思っている以上みたいだな。
そのまま中に入り二人のもとへ歩いた俺は、肩にかけてた学校
「………チヤ、この前言ってた一品奢ってもらうって話、今頼めるかな?」
「え、ええ………もちろんよ。」
「それじゃ………この店で、とにかく甘いものをひとつ頼む。」
「………何があったの?」
心底心配している顔だ。一方ココアはスプーンを持ったまま俺を見て完全に止まっている。ココアの目の前に置いてあるのは白玉あんみつか。一緒に
待っている間、そんなことを思いながら時間が過ぎると奥からチヤが戻ってきて、俺の前にそっと和菓子を出してくれた。
モナカだ。
「いただきます。」
俺はそれを手に取り、そっと口に運んだ。その瞬間
美味しい。美味しすぎて、
何だろう………ほんの少しだけが
俺はそのまま二つ目、三つ目とモナカを口に入れ、甘味を堪能した。
「ごちそうさまでした。」
何とか助かった。甘いものを食べただけでこんなに元気になるものだったんだな。なんであんなにネガティブになってたのか不思議になるくらいだ。
一週間も今日みたいな事が続くと思っていたが、よくよく考えればたった一週間だ。”一週間も” ではなく ”たった一週間” だ。ポジティブに考えれば何の問題もない。定期的に
「ありがとうチヤ。助かったよ。」
「え………?どう、いたしまして?」
チヤはそう言いながら首を傾げている。当然だよな、和菓子を出しただけだから。
「お兄ちゃん、何があったの?」
横からココアが心配した顔で
「実は―――――」
俺は二人に今日学校で起こったことを包み隠さず全て話した。最初は驚いた様子だったが、次第に俺を
そんな感じで色々励まされた俺は帰り
そして翌日――――――
「――――y=logaxを例として出します。ここの底aを10とした場合―――――」
俺は今、数学の授業を受けている。この授業が終われば昼食だ。ココアたち新入生は今頃入学式が終わった頃だろうか。二年の俺は通常授業だけど。
それにしてもこのクラス、授業の時は静かで真面目だな。………ウトウトしてしまっている人が何人かいるけど。授業が始まる前は昨日と同様、質問されまくったり世間話などの雑談で大騒ぎだったが。
そういえば前の高校で女子高は授業中も話し声が絶えないと、そんな話をしている人がいたな。どこで聞いた話なのかは知らないけど。てっきり俺はこの学校もそうなのかと思っていたが、そういう所も探せばあるかもしれないけど少なくともこのクラスはそうではないみたいだ。
キーンコーンカーンコーン
そう思っていると、授業の終了を知らせるチャイムが教室に響き渡った。授業が終わって、両腕を広げて伸びをしている人もいれば机に伏せてグッタリしている人もいる。俺もつられるように伸びをした後、
少し前にタカヒロさんが俺たちの弁当を作ると言っていたが、バーの仕事をしていて、昼間も俺たちが学校でいない間の喫茶店の仕事をしているうえで、弁当まで作るとなると流石に負担が大きすぎると思い、みんなの弁当は俺が作ると無理やり説得して弁当係は俺になった。
その
「
「………え?」
布の結び目を
「私とも一緒に食べよ!」
「お昼に良い場所知ってるよ!」
「この学校食堂があるから一緒に行こ!」
「あの、俺はその………」
ドタドタ、
俺の席が角の位置の
「………わかっ――――」
ガラガラ!
「お兄ちゃん!一緒にお昼食べよー?」
突然ドアが開く音が聞こえ、続いて聞き覚えのある明るい声が聞こえてきた。密集の隙間から入口を見ると、フリフリと何かが入っている袋を右手に
予想外の人物が来たが………波乱の予感が………。
「「「「「「お兄ちゃん!?」」」」」」
「え?………え?」
予想的中!ココア逃げろ!
だが、それを言う前に女子たちは俺からココアの方へ
「君、お名前は?」
「………コ、ココア、です。」
「君のお兄ちゃんってどんな人?」
「………え………あ、あの………。」
流石のコミュニケーション能力が豊富なココアもタジタジだ。両手を胸に当て、
でもおかげでみんなの意識がココアに
「ごめん!今日この子と一緒にお昼を食べる約束だったから、また後で!」
俺は女子たちの密集の中に割り込み、ココアの手を掴み、そう言い残して教室から飛び出した。走っている最中、俺に
「「はぁ………はぁ………。」」
学校の中庭に出た俺たちは、人気のないベンチに座り休憩していた。物陰になっているから陽が差して来ず、走って息が上がっている俺たちには涼しくてちょうどいい。
「お兄ちゃん、大変だったね。」
「まあな。」
「私、今ならお兄ちゃんの気持ちすごくわかる。」
だろうな。あのココアがああなってたんだからな。まあここならもう大丈夫だろう。
「そういえばココア、まだ帰ってなかったんだな。」
「うん、折角だしお兄ちゃんとお昼食べてから帰ろうと思って。見て見て、購買でパン買ってきた!」
そう言って袋の中身を見せてきた。コロッケパンや焼きそばパン、たまごサンドなどが入っている。袋の中身はパンだったのか。新入生たちは午前中で終わるから、ココアの分の弁当は作ってなかったな。
「お兄ちゃん早く食べよ?」
「そうだな。」
そう言ってココアは袋からパンを取り出し、俺は布を
ちなみにチノの分の弁当の中身も俺と同じだ。野菜嫌いなチノのことだから野菜ばかりで気分が
「いただきまーす!」
ココアはコロッケパンを両手で持ち、パクッと美味しそうに食べ始めた。それを見た俺も白米を口に運ぶ。
ここは校舎から少し離れているから静かだな。空も雲一つない快晴で気温も適温でピクニックみたいだ。
「そういえばチヤは?」
「チヤちゃんは
「なら仕方ないか。」
仕事があるならどうしようもないな。でも明日からは新入生も通常授業だからその時はチヤも一緒だろう。
「………ん?」
ふと校舎の方から大勢の声が聞こえてきた。見てみると男女の生徒達が正門から出て帰宅しているところだった。男子もいるからココアと同じ新入生だな。
…………あれが二年生だったらな………。
「あ!それハンバーグ!?」
そんなことを思っていると、突然ココアが俺の弁当を見て嬉しそうな顔になった。
バレたか。野菜炒めを被せて隠したつもりだったが、ココアには効果がなかったか。
「そのハンバーグ、お兄ちゃんが作ったの?」
「ああ、そうだけど。」
「へぇ~そうなんだぁ~。」
「………。」
めっちゃ見てくる。キラキラした目でめっちゃ俺を見てくる。そんな顔されてもあげるわけにはいかない。俺のおかずが減ってしまうからな。
そう思った俺は、ふいッと目を
じーーー………
じーーーーーー………
じーーーーーーーーー………。
「………わかった。わかったから。一個だけだぞ?」
「やったぁー!」
結局俺が折れて、ハンバーグをあげることになってしまった。バレたからにはこれからハンバーグを入れてくれって
「やっぱりハンバーグと言えばお兄ちゃんのだよね!」
そう満足げなココアはコロッケパンを食べ終え、続いて焼きそばパンを袋から取り出しパクパクと食べていくのだった。
「ごちそうさま。」
昼食を食べ終えた俺たちは
「はぁ~美味しかったぁ!ねえお兄ちゃん!これからお昼は一緒にここで食べよ?チヤちゃんも一緒に!」
「そうだな。それじゃ、雨の日は食堂で食べるか?」
「うん!」
昼食はココアたちと食べることに決まった。誘ってくれたクラスのみんなには悪いけど。あとで昼食は
「うーん、パンを食べたら何だかお兄ちゃんが作ったパンが食べたくなってきたなぁ。お兄ちゃん、家に帰ったらパン作って!」
「は………?」
急に無茶な要望を出してきた。無理だろ。びっくりした。
「オーブンが無いんだから作れないぞ。」
「あ、そっか。ラビットハウスだから無いんだった。………え、じゃあこの街じゃお兄ちゃんのパン食べられないの?」
「まあ、そうなるな。」
「……………。」
ココアは後になってようやく気付いたみたいに落ち込み、がっくりと
昔からココアは俺が作ったパンを美味しそうに食べてたからな。一人で平らげるほどに。作ってやりたいのは山々だけど、オーブンがないから………………いや、待てよ?もしかしたら。
「作れないことはない………かもしれないぞ?」
「え!?ほんと!?」
「ああ。台所に電子レンジがあっただろ?もしあれにオーブン機能があれば作れるぞ。」
「本当に!?絶対に!?」
「………あったらな。」
「じゃあ今度の休みの日に作ろ?みんなも誘って。」
「ああ、いいけど。」
「やったぁ!」
希望が見えた途端、急に笑顔になった。そんなに食べたかったのか。
ココアが『やった!』と言った直後に校舎から予鈴のチャイムが鳴った。五分後には午後からの授業が始まる。そろそろ戻らないと。
「それじゃ俺は教室に戻るよ。」
「うん、私はチヤちゃんの所に寄ってから帰るね!」
「………食べ過ぎないようにな?」
「大丈夫!私、身体は丈夫な方だから!」
そんな両手でグッとガッツポーズみたいなのをしながら自信満々に言われてもな。というか俺はそういう意味で言ったんじゃないんだが。チヤに前もって、あまり食べさせ過ぎないようにと伝えてあるから大丈夫か。
「そうか。気を付けて帰れよ?」
「うん!それじゃあまた後でね!」
俺たちはその場で別れ、ココアは軽快な足取りで正門の方へ走って行った。
というか作れる前提で話が進んだけど、もしダメだったらどうなるんだ?あまり想像したくないけど。どうかオーブン機能が付いていますように。
「ただいま………。」
午後の授業を終え、クラスのみんなからココアとの関係を事細かく聞かれた後、無事に
「……………マズいな。」
調べてみたが、俺の願いは叶わずオーブン機能は付いていなかった。これじゃ作れない。ココアが知ったら悲しむだろうな。
「ただいまー!」
裏口の玄関から声が聞こえてきた。トン、トン、と靴下を履いた足で廊下を走る音がこちらへ近づいていき、俺が居るキッチンに入ってきた。ココアだ。言ったそばから帰ってきた。
「お兄ちゃんただいま!」
「………お帰り。」
「ねえねえ!電子レンジどうだった?」
そう言いながら俺のもとまで近づき、電子レンジを確認している。
「………ごめん、オーブン機能は付いてなかった。」
「……………。」
ワクワクしていたココアだったが、作れないとわかると一気に悲しい表情になった。学校の時よりもだ。流石にこれはどうしようもない。勝手にオーブンレンジを買って、
「………まあここでは作れないけど、いつか実家に遊びに帰ることがあったら、その時は好きなだけ作ってやるから。そんなに落ち込むな。」
「………………。」
こんなことを言っても、今食べたいココアからしたら
「………電子レンジの前に集まってどうしたんですか?」
突然声をかけられ、見ると不思議そうにしているチノがいた。頭に
「もしかして故障したんですか?」
「いやそうじゃなくて、ココアが俺の作ったパンを食べたいみたいなんだけど、このレンジ、オーブン機能が付いてなくてどうしようか困ってたんだ。」
「オーブン?オーブンなら
「「………え?」」
まったくの予想外の言葉に俺もココアも同じタイミングで反応してしまった。
オーブン、あったか?見かけたことなかったけど。
「あるのか?本当に?」
「はい、ありますよ。おじいちゃんが調子乗って買って、結局使わずじまいでしたけど。」
そう言われた
「じゃあじゃあ、ここでパン作れるの!?」
オーブンがあるとわかると、ココアはものすごい食い気味に聞いてきている。顔が近すぎてチノがびっくりしてるぞ。
「そ、そうですね。オーブンは
俺たちはそのまま
「これです。」
そう言ってチノは、
というかこんなに本格的なオーブンを買っておいて使わなかったなんて………。
「わぁ大きい!チノちゃん、これ使ってもいいの?」
「はい、大丈夫ですよ。全然使わないから捨てた方がいいんじゃないかって父が言ってたくらいですから。
でもオーブン、もう大丈夫だ。今まで放置されてきた分、俺たちが思う存分使わせてもらうから。もう寂しい思いなんてさせないから。よろしくな
俺はオーブンにそっと手を触れ、心の中でそう語りかけた。
「やったぁ!これでお兄ちゃんのパンが食べれる!」
ココアはこれ以上ないくらい大喜びだ。良かったな。
となると、あと必要なのは材料だけか。まあそれは今度の休みの日に買いに行くとして………。
「………その前にこのオーブン、掃除しないとな。」
「あはは………。そうだね。」
何はともあれオーブンがあって本当に良かった。
To be continued