S10地区司令基地作戦記録   作:[SPEC]

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UA1000超えてるやん!(驚愕)
これからも書きたいもの書いて好き勝手やっていきます



.2 ―シェルター防衛戦―

グリフィン&クルーガーに所属する指揮官は2ヶ月に一度、定例会議に召集される。

 

鉄血の攻勢。人類人権団体にロボット人権団体、反戦団体といった不穏因子の動向。各地区で確認された情報を共有し現状を把握。必要に応じて迅速且つ柔軟な支援を行えるよう取り決める為の、顔合わせも兼ねた重要な会議である。

 

しかし今回、ブリッツが招集された会議はそういった重要性の高い案件を取り扱う会議ではない。

 

指揮官の間では"反省会"と揶揄される会議がある。

鉄血はもちろん、不穏因子の排除といった戦果を上げられていない司令部の指揮官を中心に招集され、ここ数週間の実績報告と、どうすれば戦果を上げられるかを考える、所謂アクションプランの場だ。

 

グリフィンの指揮官選別試験は厳しい事で有名だ。それ故に、試験をパスして指揮官という肩書きを手に入れた人間の大半はプライドが高い。そんな人間が、「どうやったら戦果を上げられるか考えましょう」なんていう場に招集されること自体、面白味を感じるわけもない。

グリフィンに所属する指揮官の中で、落ちこぼれの烙印を押される事と同義なのだから。

 

会場となる場所はグリフィン本部ではなく、その傘下に属する組織が所有・管理する施設。シェルターと呼称される建物だ。

 

第三次世界大戦のきっかけとなった北蘭島事件。列強各国が自国の保全に走る中、要人達が保身の為に建造されたのがこのシェルターだ。

 

見た目は円柱状の3階建ての商業施設。しかしその地下には核攻撃を受けてもビクともしない耐久性と、長期間の籠城を前提とした設計が施されており、大戦中は密かに協力関係にあった要人達が隠れ潜んでいた。

 

大戦も終わり、PMCが台頭する時代となったのと同時期にグリフィンがこの施設を接収。現在はこうして幾つかある集会の場の一つとして利用している。

 

指揮官のブリッツと副官として同行したLWMMGが、シェルターの地上部分から施設に入る。小綺麗に清掃の行き届いたロビーは、大戦時の爪痕が色濃く残っている世界()の惨状を散々見た後だと、酷く違和感を覚える光景だった。

 

そんな中で、いつもの戦闘服ではなくグリフィンの制服に身を包んだ自分も、きっと世界から見ればひどく浮いているように見えるに違いないと、ブリッツは内心で呟く。

 

会議の開始時刻にはまだ早いが、ロビーには既に何人か同じグリフィンの制服を着ている他地区の指揮官と、それに同行している戦術人形の姿が見受けられる。

 

本部からは、会議などで基地の外に出る際は最低一体の人形を同行させるよう伝えられている。万が一に備えての護衛もかねているのだろう。

 

そんな中で早速、反省会特有の光景がチラホラと見られ始める。

 

先にも言ったように、試験をパスした指揮官というのはプライドが高い。

それ故に、同行している人形の殆どは最高級モデルだ。プライドの高さから見栄を張りたがる。だからこその光景だ。

 

そんなだから、ブリッツと彼に同行したLWMMGに向けられる視線には嘲笑の念が混じっていた。

 

「見ろよ。安い人形連れてるぜ。ありゃ誰だ?」

 

「さあなぁ?ここに来るってことは、どうせ遠くの辺境に派遣されたヤツだろ」

 

「ああ、じゃああの荷物は宿泊グッズか。そりゃ大変だわ」

 

事実無根の嘲笑と勝手な言い分を吐き捨てる、最高級の戦術人形を傍らに立たている他地区の男性指揮官二人に、LWMMGは今すぐに食って掛かりたかった。

自分の事はいい。安い人形である事は否定できない。だが彼の悪口は許せない。見過ごせない。

何も知らない人間が、自身が最も信頼している彼に陰口を叩くなど、許せるはずがない。

 

しかしそのブリッツが全く意に介していない以上、部下である彼女は言い返すことも、何も出来なかった。

 

男達に指摘されたブリッツの持つ大きなバッグには、先日の作戦でも使ったタクティカルベストに黒を基調とした都市迷彩の戦闘服。ヘッドセットにHMDといった装備品と、HK417A2が収納されている。

サイドアームのMk23は制服で隠すようにして腰のホルスターに収めている。

 

どうしても不安を拭うことの出来なかったブリッツが、有事の際に最低限戦えるだけの武器をバッグに詰めて持ってきたのだ。

 

ついでに言うと、完全武装した第一部隊が施設から少し離れた地点で待機していたりする。

ブリッツがここまでやるのには理由があり、以前本部から緊急の会合で多くの指揮官が集まっていた。そこを鉄血に襲撃され、決して小さくはない被害が出てしまった。その当時ブリッツは別の任務で手が離せず、会議に出席していなかった。

突如として襲ってきた緊急事態だったが、S09地区に配属された新人指揮官を中心とした活躍によって鉄血の撃退に成功。

 

そういう前例がある以上備えておくのは当然であり、何もなく杞憂に終わるのが理想だ。ブリッツの弁である。

 

LWMMGはチラリと嘲笑を浮かべる他地区の指揮官を見る。姿勢に制服の膨らみ具合を見たところ、武装らしい武装をしていないことが分かる。護身用の拳銃位はあるかもしれないが、戦力としては不安が残る。

 

彼女も、護衛という名目でLWMMGをスリングで身体の前に吊り下げる形で装備している。

その銃身をそっと撫でる。

使わずに済むならそれが理想。確かにそうかもしれない。辺りやブリッツ以外の人間を見回して、LWMMGはそう思った。

有事の際、これでは対応が出来ないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後。予定していた時間の通りに会議が始まった。

シェルターの地下3階にある、最低限識別出来る程度の光量しかない薄暗い多目的室の中央に巨大なテーブルが鎮座し、その周囲をグルリと囲むようにして指揮官達が椅子に腰を下ろす。

同行していた護衛役の人形は別室にて待機している。

 

基地の司令室にある椅子よりも柔らかな、見るからに高級な椅子に腰かけるブリッツは、態度にこそ出ないが何とも言えない座りづらさに内心落ち着かなかった。

服装の「着こなす」と「着られている」のような、言うならば椅子に座らされている感が、どうにも拭えなかった。

 

「では、定例会議を始めるとしよう」

 

本会議の議長役、ヘリアントス上級代行官が、灰色の長髪を揺らし右目のモノクルをかけ直しながら告げた。

傍らには書記を務める女性もおり、PCと向き合ったままだ。

 

つまらない反省会の為にここまで足を運ぶとは、中間管理職とはやはり大変な役職なのだろう。そりゃ合コンの一つや二つ行ったってバチは当たるまい。いつかは幸せになって貰いたいものである。

そんな他人事を内心で呟いている内に各地区の指揮官達による近況報告が始まっていた。

 

「我々の司令部では数か月前から、人類人権団体とロボット人権団体による作戦の妨害を受けていますが、先日この二つを制圧。これからは多大な戦果を上げてみせましょう!」

 

「私の部隊では先日鉄血のハイエンドモデルと戦闘。大きな損害もなく撤退に追い込みました!」

 

さて始まった。反省会名物、戦果のマウント合戦。

 

先に話した通り、指揮官はプライドの高い人種だ。それ故か他人より上の功績を上げないと気が済まない。

だからこうして近況で一番の戦果、功績を声高に主張するのである。もっとも、それがどこまで正しいのかは知らないが。

ましてや今回は直接上司が来てくれている。出世のチャンスでもあるこのタイミングで功績の主張はある種当然ではある。

 

しかし、この反省会に召集された時点で、その一番の功績が全体から見て大した事はないと決定付けられている。

それでも何とか、か細い紐を手繰り寄せて掴もうと必死だ。

 

ブリッツからすれば、ひどく見苦しいものだ。同じ指揮官としてではなく、一人の兵士として、それはあまり見れたものではない。

 

適当に聞き流している内に、ブリッツの番まで回ってきた。

 

座らせられていた椅子から腰と背中を解放し、背筋を伸ばし、一度見渡す。

値踏みするような視線が一斉に降り注ぐ。

 

何を期待しているのか。これはただの報告だというのに。

小さくため息をついてから、持参した軍用タブレットを手元に持つ。

 

「えー、自分の担当するS10地区では先日。大戦時に使用しその後放棄された軍事施設。そこを占拠、再利用していた鉄血兵の掃討作戦を行いました」

 

「ああ、それについて報告も受けている。実にご苦労だった」

 

「恐縮です。ですが今回の本題はこれではありません」

 

「どういうことだ」

 

ヘリアントスのモノクルが訝しげに光る。

 

「その作戦で撃破した鉄血製の戦術人形。その大半がS09地区で生産されたもので、10地区の物は一体もありませんでした」

 

場が俄にざわついた。

 

鉄血工造は蝶事件以降も、全うな製造工場であった頃の名残で、鉄血兵やユニットにシリアルナンバーとIDタグが刻印されている。それを読み取ると、どこの地区のどこの製造工場で生産されたのかが分かる。

あの夜、施設に居座っている鉄血兵はS10地区で製造された人形は一体もいなかったのを、ブリッツは直接確認していた。

 

何より、S10地区内の鉄血工造の秘密製造工場はとうの昔にブリッツ達が発見し、直接潰している。

だからといって油断があった訳ではないが、急激に地区内で増えた鉄血兵に対処が遅れてしまったのは事実。遅れた分を取り戻せたのは幸運だった。

 

とにかく続ける。

 

「他にもS06地区や02地区、隣のR地区にT地区の物まで。詳細な内約は今調査中ですが、わかっているだけでこれです。

ご存じの通り、S09地区はS地区きっての激戦区。複数のハイエンドモデルの存在も確認されており、その対応もしなければならない。取りこぼしも仕方ないかと」

 

「救援要請してくれればすぐに窺うんですがね」と、冗談めかした言い方で一旦区切る。

 

「やつらの目的は?」

 

「ハッキリとは。ただ居住区からそう離れた場所ではありませんから、そこを拠点にして居住区に攻め込む心算もりだったのではないかと。マンティコアまでありましたから、放置していれば大変な事態に陥ってました」

 

居住区にも防衛装置としての兵器や防壁が設置されてはいるが、任務の時のような数で攻められれば流石に侵入を防ぐのも困難だ。マンティコアの攻撃力と機動力をもってすれば、強行突破も出来なくはないだろう。アイギスもあれば尚更に。

 

それを考えれば、あの施設内で敵を抑えられたのは良かった。もしも敵が戦力を整えて侵攻するようなことになったら、居住区を背にしての防衛。もしくは居住区に攻め込まれた後で対応に当たらねばならない事態になれば、それはそれはもう泥沼だったことだろう。

 

まだ懸念はあるが、地区内において当面の脅威は排除できている。消極的だが、しばらくは様子見するしかない。

 

「当面は居住区と工業区の防衛を第一として、哨戒を強化。平行して、こちらで預かっている新入りの人形達の訓練も進め、そちらも哨戒に充てます。残党がいないとも限りませんので。

他の地区と比べて基地自体の戦果は減りますが、その分は緊急即応部隊(QRF)として他地区の支援に出向くか、不穏因子の制圧が主な活動になるかと」

 

「そうか。わかった。有事の際は、貴官らに頼むこともあるかもしれない。その時は頼んだぞ」

 

「一声もらえれば。自分達はいつでも準備が出来ています。以上、報告を────」

 

終わります。そう告げようとした途端部屋が大きく揺れた。

テーブルに置かれたコーヒーカップは揺れ、幾つかテーブルから落ちて床にぶちまけた。

 

「な、なんだ・・・・・・!?」

 

誰かが明らかに慌てた様子で声をあげる。

他の指揮官らも突然の事に混乱をしているようだ。

 

「ライト、何があった」

 

そんな中でもブリッツは動じずに耳に着けた通信機で、別室に待機しているLWMMGに呼び掛ける。応答はすぐにあった。

 

『指揮官。鉄血が攻めてきました。敵襲です』

 

端的に告げられた報告は、すんなりとブリッツの頭の中に染み込んでいく。

 

『今は隠れていた第一部隊主導で正面玄関前に即席のバリケードを作ってます』

 

「お前は?」

 

『そちらに向かっています』

 

「何時着く」

 

その時、勢い良く手の込んだ装飾を拵えた会議室の両開きの木製ドアが開かれた。見れば、背中にLWMMGを背負い、左肩にブリッツのバッグをかけている副官の姿。

どうやら律儀に開ける手間すら惜しんで蹴破ったようだ。

 

「たった今です」

 

「お、おい人形が勝手に・・・・・・!」

 

他所の指揮官がLWMMGを憎らしい目付きで睨むが、彼女は視界に入らないと言わんばかりに一切気にせず、一直線にブリッツの下へと早足で近寄る。

会議の場に人形が入らないことがルールだが、今はそんな悠長な事を言ってはいられない。

 

「指揮官、これを」

 

「よし」

 

副官から受け取ったバッグをテーブルに置いてファスナーを開ける。

黒い都市迷彩の戦闘服にタクティカルベスト、靴底に踏み抜き防止の鉄板を仕込んだブーツ。Mk23用レッグホルスター。作戦に使うインカムとHMD。

HK417A2にM320、予備弾倉を次々にテーブルに並べていく。

 

LWMMGも、自身の銃の作動チェックを行う。

 

グリフィンの赤い制服を脱ぎ、腰に巻き付けていたホルスターを一旦外してバッグに放り込む。代わりに戦闘服とベスト及びレッグホルスターを着用。Mk23とマガジンを詰め込む。

ヘッドセットとHMDを装着。何事もなく起動、LWMMGと一足先に戦場にいる第一部隊との通信リンクを確認。

HK417に1×6倍率のオプティカルサイトとM320を組み付け、マガジンを機関部に叩き込みチャージングハンドルを引いて薬室に初弾を装填。

 

瞬く間に戦闘体勢へと切り替わり、指揮官から兵士へと変貌を遂げる。

 

「代行官殿。我々はこれより、鉄血と交戦し、侵攻を食い止め時間を稼ぎます。その間に本部に救援を要請してください」

 

「了解したブリッツ指揮官。一階の倉庫に弾薬を備蓄してある。好きに使ってくれ」

 

「感謝します。この場はお任せします。では」

 

上官に一礼し、踵を返す。

副官から頼れる相棒へと切り替わったLWMMGと共に、会議室を飛び出す。

 

ここでようやく他の指揮官達も動きだし、連れてきていた護衛の人形達に通信機越しに指示を飛ばす。

ヘリアントスも、たった今駆け出していった兵士に武運を祈りながら、あくまで冷静なままで本部へ緊急通信を繋げた。

 

 




もう9月だよ。早いっすね。
皆さんビンゴどうですか?私は無事にJS9ちゃんさんを無事お出迎えしました。
前話の後やたらと揃ってびっくりした(小並感)
でも相変わらず弾薬がないです。なんでや。
おまけにコアも無いんで大型製造出来なくてショットガンが4体しかいないっていう。

あっ、次回はドンパチ回です。

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