現在0958時。ブリッツとダニエル、そしてS08地区基地のジルフォード指揮官もS11地区基地に合流。司令室にてブリーフィングが行われる。S地区内に存在する3つの基地による
メインモニターには攻略目標である鉄血の生産工場を中心に真上から撮影した航空写真が、周囲の地形と一緒に表示されている。
それを使って、指揮官三名は具体的なプランを組み立てていく。
しかしその様相というのは、ブリッツの完全武装という出で立ちのせいで、指揮官二名と部隊の隊長による話し合いといった風にしか見えない。
「工場へ強襲する部隊はS10部隊。その
ジルフォードの確認にダニエルとブリッツは頷く。
「はい。我々S11とS10の部隊が周辺の拠点全てを制圧し、そこを補給地点として利用します」
ダニエルが自分への確認も含めて答える。
あわせて、モニターには正方形の赤いアイコンと正三角形の青いアイコンがそれぞれ3つ表示される。
正方形のアイコンには『POINT:ALPHA』『POINT:BRAVO』『POINT:CHARLIE』と表記が添えられており、それぞれが生産工場を防衛するための拠点であることを示している。
三角形のアイコンは作戦に参加する戦術人形部隊を示しており、それぞれにS10:UNITとS11:UNITという表記が添えられている。
「S10からは拠点制圧に二部隊。S11は一部隊が導入されます。三部隊が拠点を制圧後対空レーダーを破壊、工場正面に陣取っているジュピターを破壊し無力化。これで物資補給もリスク無く行えます。その後、自分たち強襲部隊が工場内へ侵入します」
ブリッツも答える。司令室のモニター上でも説明にあわせて三角形のアイコン3つが動き、正方形の赤いアイコン上に重なると、色が青色へと変わる。拠点制圧を意味した表示の変化だ。
それから破壊目標である生産工場が赤い枠線で囲われ、その近くに先の正三角形よりも一回りほど大きい青いアイコンが表示される。
赤い枠線には『TARGET』。新たに表示された青い三角形のアイコンには『S10:AF』と表記される。
「対空レーダーを破壊したからと言って、ジュピターそのものの脅威は無くならないだろう。いざとなったら赤外線照準による砲撃だって可能のはずだ」
「こちらのガンシップで攻撃し破壊します。面で居場所を特定出来る対空レーダーさえ潰してしまえば、点で狙う赤外線照準は大して怖くはありません。機体には赤外線ジャマーも搭載してます。そうそう当たらないでしょう」
ジルフォードの懸念にブリッツが即座に答える。ジュピターが要塞砲として設置されていると把握した時点で、ガンシップに赤外線ジャマーを搭載することを決めていた。同時に、ジュピターを即座に破壊するためのロケット弾ポッドの装備も。
そのままガンシップで工場を破壊することも出来なくはないが、内部に侵入して直接破壊するよう行動した方が確実だ。ガンシップはあくまで
作戦はほぼ決まった。
残る問題は、決行時間だ。
「トーレス指揮官。夜間戦闘の経験は?」
「実はあまり・・・。装備も整っているとは言えません」
ブリッツの質問に、ダニエルは申し訳なさそうに目を伏せながら答えた。
I.O.P社製の戦術人形は高性能ではあるが、夜間戦闘では暗視装置やPEQといった専用の装備がないとまともに戦えない。具体的に言えば、射撃時の命中率が著しく低下し、行動にも制限がかかる。
経験を積んでいけば装備に頼らずとも行動できるようになるが、装備があると無いとでは大きく違う。作戦を遂行するためには、やはり装備の充実化は必要になる。
しかしダニエルは指揮官としてはまだ新人であり、抱えている戦力も多くは無く、所属する人形の練度も高くはない。装備も整っていないのは半ば致し方ないのだ。
「そうですか・・・。なら、明るい内に動きましょう。陽が落ちればこちらが不利になる。準備が整い次第、早急に動くべきだ」
「確かに。下手に長引かせても良いことはないだろうな。作戦目標は生産工場。製造したての鉄血兵が一気に攻めてくる可能性だってある。敵に動きの無い今しかないだろう」
この場にいる中で実戦経験を一番積んだブリッツと、指揮官としてのキャリアが一番長いジルフォードがそう決定付ける。ダニエルも、二人に反対する事無く同意した。
「トーレス指揮官はここから自分と指揮を取る。ブリッツ指揮官は強襲部隊を率いて工場を制圧、破壊する。作戦開始は今から2時間後の1220時だ。必ず、成功させよう」
ジルフォードの言に、二人は頷きブリーフィングは終了。
ダニエルを残し、ブリッツとジルフォードは司令室から退室。通路を進み、屋外に用意された急拵えのテントへと足を進める。
快晴の空の下、ブリッツが連れてきた任暁とS11基地所属の人形が、それぞれ交流を計っていた。
実際に一緒に行動することはなくとも、同じ作戦に参加するのだ。笑顔で健闘を祈ったり、不安で緊張している人形を励ましたりする姿が窺えた。
こういったコミュニケーションが、後々になって効いてくることもある。
「相変わらず、指揮官らしからぬ格好ですね。ブリッツ指揮官」
不意に横から声をかけられた。女性の声だった。
振り返ると、真っ先に目に飛び込んできたのは白。
白の軍服に白の軍用コートを羽織り、右手にはグレーの杖を持った女性。その立ち姿は凛としている。
ハンドガンの戦術人形、ジェリコが、こちらを見て立っていた。
ジェリコを見たブリッツが、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ベビーか。久しぶりだな。まさかここで会えるとは」
「その渾名、やめてください。もうあの時の私ではないのだから」
渾名で呼んだブリッツに、ジェリコは怪訝そうに眉をひそめ、かつ恥ずかしげに頬をわずかに赤らめた。
彼女が使う拳銃ジェリコ941は、同じ製造メーカーであるIMI社から出ていた大型拳銃のデザートイーグルを小型化したような見た目から「ベビーイーグル」。もしくは「ベビーデザートイーグル」という商品名で販売されていた。
というのともう一つ、ブリッツがジェリコをそう呼ぶのには理由がある。
「もう手の掛かる子なんて言わせません」
「それでも、お前は俺にとってはただのベビーだよ」
戦術人形ジェリコ941は、かつてS10基地に在籍していた時期があった。
他人に厳しく自分にはもっと厳しい彼女は、ブリッツとLWMMGに戦闘技術を教わり身に付け、任務で優れた成果を見せてくれていたが、日常面では若干そそっかしい一面もあった。
料理に使う調味料で塩を入れようとして砂糖をいれそうになったり、火を消し忘れたり。
作戦開始時刻を間違えて一時間早く来てしまったり。
そういった可愛げのある間違いをよくしていた。そんな訳で、ブリッツはからかい半分にジェリコの事をベビーと呼ぶようになった。
そんな彼女も作戦を通じて武勲を立て、ついにはグリフィン本部へと栄転。戦術人形の技術教官役として立派に務めていた。
「今は、新人であるダニエル・トーレス指揮官の補助や、配属された人形を訓練するための教官として
「そうだったのか。それなら、一言連絡してくれれば良かっただろうに」
「嫌ですよ。またさっきみたいに渾名で呼ばれてるのがバレたら、教官としての私の面子が丸潰れですから。これでも、ここでは頼れる教官として通ってるんですよ」
誇らしげに胸を張って言うジェリコだが、ブリッツから言わせれば自慢する前に「これでも」と前置きを付けてしまう所に、彼女を「ベビー」と呼んでしまう要因がチラホラと見えてしまっている。
それでも、自信を付けてるのは間違いないようだ。S10基地を離れた後も成長しているのだと感じられて、ブリッツは嬉しかった。
わざとらしくジェリコは咳払いして、場の空気を無理矢理変える。
「私は今回、裏方として動きます。トーレス指揮官を補助し、貴方たちを援護します」
「了解だ。キミのサポートがあれば心配はいらないな。頼りにしている」
二人は左手で固く握手をする。ジェリコの右手はロフストランド杖で塞がっているため、空いている左手を使うしかない。左手による握手には色々と不穏な意味合いが込められている場合が多いが、この二人にとっては信頼関係の表れを示すものでしかない。
「やり遂げよう」
「当然です」
互いに手を離し、踵を返す。
ジェリコは司令室へ。ブリッツはS10所属の人形が集まるテントへ。
幾つかのテントを連結させて立てられており、中はかなり広々とした作りになっている。S11所属の人形や人間のスタッフが急ピッチで誂えてくれた待機場所だ。
仕切りを潜って中に入れば、ブリッツの部下たちが出迎えてくれた。
「あらブリッツ。話は終わった?」
彼の存在に真っ先に気付いたFALが声をかけた。つられて、他の人形たちも皆ブリッツを見る。
外でS11所属の人形と話していた一部の人形も、ブリッツに気付いてすぐにテントの中に入ってきた。
これで全員。後から入ってきた人形以外は既に戦闘準備が完了し、いつでも出撃出来る態勢であった。
総勢21名。拠点防衛のために第三部隊以外の全員を、このS11基地に連れてきた。
一度人形全員を見渡し、ブリッツは声をあげた。
「作戦開始は2時間後の1220だ。移動中に伝えた通りに役割を分担する。変更はない。手筈通りに動け」
「派手にやっていいのね?」
FALの質問に、ブリッツは頷いて見せた。
「今回の重要点はタイミングだ。その時がきたら派手にやれ。雪崩の如く奴等を蹂躙しろ」
「つまり、切り込んでもいいんですか!?」
「爆殺してもいいの?」
一〇〇式は目を爛々と輝かせ、Vectorが無表情ながら期待の眼差しをブリッツに向ける。
「ああ、やれ」
ブリッツはそれに応えた。
一〇〇式は両手を上げて喜び、Vectorは舐めていたアメを噛み潰して残酷な笑みを浮かべた。
他の人形も同様だ。先の二人のお陰で聞かずともわかる。
今回の任務は何でもありの蹂躙劇だ。
作戦開始までの残り二時間。全員がその時を待ちわびた。
一部のドルフロ二次作品でいきなりモンハン始まって「あれ?読む作品間違えたか?」ってなったけど些細なこと。
そういえば前回のインターミッション回で一杯感想もらって嬉しかった。
なので毎秒感想ほしい(欲張り)
やっぱゲーム本編がシリアスだから反動でほのぼのが読みたくなるんやなって・・・オレモソ-ナノ