S10地区司令基地作戦記録   作:[SPEC]

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お待たせ、待った?(約8ヶ月ぶり)


Ex-OPS.2-5 -効果測定-

教練開始から一週間。

屋内射撃場に一人の戦術人形、ウェルロッドMkⅡが立つ。その表情には若干の緊張が見受けられる。

 

彼女の眼前にはいくつも並んだレンジに一つずつ置かれている銃火器。左から見て拳銃、サブマシンガン、アサルトライフル、ショットガンという順だ。

 

ウェルロッドの後ろには、彼女の教練担当のPx4ストームが壁に背を預けて見物し、その近くには各銃種の取り扱いを見るためにSMG人形のVector、AR人形のFAL。そして長い銀髪を後ろに纏めた黒のパンツスーツ姿の女性が一人。教練組が基地に来たばかりの時には会わなかった、見覚えのない人物だ。戦術人形かとも思ったが、ウェルロッドのデータベースに該当する戦術人形は存在しなかった。

 

しかしこの基地に所属しているVectorとFALが何も言わないという事は関係者なのだろうと決めて、気にしないことにした。

 

「時間だね。それじゃあ────開始っ」

 

Px4の合図と同時にウェルロッドは左のレンジに入って台に置かれている拳銃、SFP9を手に取る。台の上には拳銃だけでなく弾倉が2本も置かれている。その内の1本を持って銃に装填。スライドを引いて10メートル先の標的に向けて構える。

 

トリガーを引く。軽快な銃声と共に放たれた9mmパラベラム弾が標的の胴体部分に命中。それを3発。するとSFP9のスライドが後退したまま固定される。元より弾倉には3発しか弾が入っていない。空になった弾倉を抜いて残りの1本である弾倉を叩き込みスライドをリリース。同様に3発撃てば、再びスライドが後退したままになる。

今度は装填せずに弾倉を抜いて台に置く。

 

これでハンドガンの試験は終了。立て続けにサブマシンガンの置かれているレンジに移動する。

今度はMP5A5だ。SFP9と同じように弾倉が2本置かれている。ハンドガード上のコッキングレバーを引いて固定してから弾倉を装填、コッキングレバーを軽く叩くようにして前進させ、セレクターをフルオートにセット。MP5は撃てるようにするまでに独特な手順を踏まねばならないデメリットああるが、その小型軽量なデザインは屋内の戦闘においては最適な銃の一つとして多くのPMCにて現役である。

 

しっかり肩付けをしてアイアンサイトで標的の胴体に狙いを合わせ引き金を引く。

3発ごとの指切り射撃によって反動で暴れようとする銃口をコントロール。30発を撃ち切るころには標的の胴体部分にはいくつもの風穴がこさえられている。

 

再度コッキングレバーを引いて固定しマガジンキャッチレバーを押して弾倉を引き抜く。新たな弾倉を叩き込みレバーを叩いて前進させる。

構え直し、また標的を打ち抜いていく。弾切れを確認しレバーを後退させて弾倉を引き抜き台に置いた。

 

続くはアサルトライフル。R15基地の指揮官も使っているM4A1だ。こちらはMP5ほど手間は無い。弾倉をレシーバーに叩き込みチャージングハンドルを引く。誰でも出来る簡単な手順だが、それでもMP5の感覚が残っている中で淀みなく装填する辺り、ウェルロッドのこれまでの努力が垣間見える。

 

撃ち尽くしリロード。弾倉を抜いて次のマガジンを装填しボルトリリースを叩くように押して後退したボルトを前進させる。すぐに構え直し照準を済ませて発砲。発射時の軽い反動をストックを通じて肩に感じとる。

5.56mmの反動は強くはない。寧ろ軽い。経験次第でフルオート時のハンドリングも容易に出来てしまう。

 

標的の胴体部分をズタボロに仕立て上げて、M4A1から弾倉を抜いて台に置いた。

 

最後のショットガン、レミントン M870タクティカルにショットシェルを3発ロード。フォアエンドをコッキング。

構える。引き金を引けば12ゲージOOバックが轟音と共に放たれる。12ゲージの衝撃は比較的小柄な彼女の素体を大きく揺らす。しかしそこは戦術人形。人間がそうであるように、来ると分かっていれば対応も出来る。

強烈な反動を受け止めフォアエンドをコッキング。役目を終えた空のシェルが排莢口から吐き出される。

2発3発。装填した分を全て撃ち切り弾切れ。

 

ハンドガードを持つ左手でM870を捻る様にして装填口内側へ向けストックを肩に乗せる。その間に予め腰に着けていたショットシェルホルダーから4発分のシェルを右手で掴み、まるで装填口を二度撫でるように滑らせてシェルを装填。所謂クアッドロードでリロードを済ませ、フォアエンドをコッキング。射撃を再開。

 

2発、3発、4発。12ゲージの重い銃声が屋内射撃場全体に反響する。

 

撃ち切る。フォアエンドを何度か引いて残弾が無いのを確認してから、ウェルロッドはM870を静かに台に置いた。

 

「どう思った?」

 

Px4がVectorとFAL、銀髪の女性にそう投げ掛けた。

 

「良いんじゃない?」

 

Vectorが投げやりに答える。一つでもダメな所があれば遠慮もなしに言う彼女がそう言うという事は、現状で目立つ悪癖は無いという事だ。

 

「同じく。エイムが少し遅いのが気になったけど、一応及第点って所ね」

 

FALも同意した。彼女もダメならダメとハッキリ言うタイプだ。

 

最後、銀髪の女性に全員の視線が集中する。そっと口を開く。

 

「一週間でコレなら、悪くないだろう。良いんじゃないか、合格で」

 

その言葉にウェルロッドは安堵のため息をつき、教練を担当したPx4は当然と言わんばかりに自慢げに胸を張って見せた。

 

────中間講評。対象:ウェルロッドMkⅡ

 

ハンドガンの戦術人形という事で、他の銃器の取り扱いという内容に当初は多少なりとも不満があったようだが、途中から意欲的に取り組んでくれるようになった。

目的である「他の銃器を用いた射撃技術の習得。それに伴う戦術性の拡張」というこちらの狙いに気付いてくれたからと思われる。

技術そのものの習得には時間がかからなかった。最高級グレードの人形だからという事もあるのだろうが、彼女自身が非常に優秀である事も大きな理由であることは疑いようもない。

 

この結果を考慮し、今後の彼女に対する戦術的価値を見出してくれることを、ナイル・ルース指揮官には期待する。

 

 

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走る。

誰もいないゴーストタウンを。

 

走る。

今自分が出せる最高速度で。

 

走る。

すぐ後ろを着いてくる仲間と共に。

 

走って走って、そして遭遇した。

路地の隙間から第一世代型の戦術人形がズカズカと歩いて姿を見せた。

第一世代型は右腕に持った小銃を向ける。小銃に収まっているのは模擬弾だが、一発でも食らえば動きを制限される程度には威力がある。

 

撃たれる前に先頭を走るSMG型戦術人形のG36Cが、走るスピードを一切緩めることなく半身の銃を構えて第一世代型を攻撃。胴体と頭部に弾丸が命中し機能停止し、仰向けに倒れた。

 

しかしそれと同時に逆サイドから2体の第一世代型が姿を見せ、既に射撃体勢に入っていた。

その存在にG36Cも気付いた。が、彼女に焦燥は無い。何故なら彼女の背後には頼れる仲間がいるのだから。

 

5.56mmよりも重く響く銃声が轟き逆サイドの第一世代2体が倒れ伏せた。

 

「クリア!」

 

G36Cの後ろに着いていたAR型戦術人形の56-1式が告げる。

それを皮切りに前後左右。あらゆる場所から第一世代型が現れる。

 

「右をお願いします」

 

「了解だよ!」

 

G36Cが左サイドを。56-1式が右サイドを請け負い分担する。

ターゲットを視認と同時に銃口を合わせ引き金を引く。7.62mmと口径の大きい56-1式は順調にターゲットをダウンさせているが、小口径の5.56mm弾であるG36Cは敵の処理にどうしても時間と弾薬を使ってしまう。

一体ならともかく、複数体が相手ではヘッドショットを叩き込むだけの技術的余裕は今の彼女にはまだない。ので、確実に仕留めるために胴体のコア部分を集中的に狙う。

第一世代型は軽度ながら胴体部分に装甲がある。なので、2発3発と弾丸を集中させて叩き込んで装甲を貫く必要がある。

 

これが貫通力に優れたFCA研究所製のAPCR高速弾であるならばもっと楽に打倒できるのだろうが、生憎今使っているのは比較的安価なJSP高速弾。予算不足のR15基地で主に使われている弾薬だ。

 

それでもフルメタルジャケット弾よりもそれなりの貫通力があるはずなのだが、3発は撃たないと装甲を貫きコアまで弾丸が届かないよう絶妙な硬さに改造されている。

 

5体ほど行動不能にした所でレシーバーから乾いた音が鳴った。弾切れだ。

 

「リロード!」

 

「オッケー!」

 

あらかたターゲットを片付けた右サイドへG36Cへ庇う様に56-1式が左サイドのターゲットに狙いを変える。

その間に素早くG36Cはリロードを終える。

 

「クリア!」

 

「変わって!」

 

今度は56-1式がリロードに入り、入れ代わりでG36Cがターゲットの対処に入る。

56-1式もスムーズにリロードを済ませ、引き続き残りのターゲットの殲滅にかかる。

 

教練の過程でリロード速度が上昇。それに伴い走りながらでも安定した再装填が可能となった。

薬室に一発だけ残してマガジンを変える事で、ボルトリリースの手順を省くことで即座に銃撃を再開できる。それを可能な限り意識して行う。

 

順調に進行していく最中。突如先頭を走っていたG36Cの長いグレーの長髪、その一部が風切り音と共に風穴があいた。穿たれた髪は見た目には元に戻るが、ハラハラと何本か髪の毛が舞っている。

 

攻撃だ。しかし周囲の第一世代型は撃たれる前に処理した。という事は

 

「スナイパー!」

 

狙撃を受けた。偶然外れてくれたが、もう一度外れるなんて幸運は期待しない。早急に排除する必要がある。

 

「2時方向!200メートル!」

 

56-1式が即座にスナイパーの位置を割り出した。G36Cも見つけた。

5階建てのビルの4階部分にいる。窓から身を乗り出さず、すこしだけ部屋の奥から撃ったようだ。そのせいで発見が遅れて先制されてしまった。

 

牽制射撃。これ以上撃たせないように4階部分に集中的に銃撃を行う。当たればラッキー程度の攻撃だ。

その隙を突くように逆サイドから第一世代型が待ち受けている。逸早く気付いたG36Cがサイドアームのブローニングハイパワーを抜いてトリガーを引く。9mm弾では一時的に動きを止めるのが精一杯だが、それだけでメインのカービン銃を使うには十分すぎた。ストックを肩に押し付ける様に固定し、右手のみで銃撃し奇襲しようとした第一世代型を沈黙させる。

5.56mm弾の反動ならば片手でも反動を受け止められる。

 

「接近します!援護をお願いしますわ!」

 

「オッケー!行っちゃって!」

 

拳銃を仕舞い、G36Cは地を蹴りカタパルトから撃ち出されたかの如く加速。AR人形を上回る素体性能を遺憾なく発揮し、スナイパーに肉薄していく。接近してくる彼女の存在にはスナイパーも気付いていたが、56-1式の絶え間なく続く牽制射撃によって対応が出来ない。

 

ものの数秒でスナイパーが陣取るビルの前に到着。腰にぶら下げた手榴弾2つのピンを引き抜いて4階部分に投げ入れる。連続した爆発音が4階フロアから上がり窓から煙が噴き出した。

制圧出来たかどうかは不明だが、少なくともすぐに反撃が来ることはないだろう。

 

「排除しましたわ!」

 

「ナイス!こっちも片付いたよ!」

 

進行を再開。決められたルートを進みつつも周辺のクリアリングは怠らない。

 

やがてある交差点の約50メートル手前に差し掛かった。あの交差点が目標地点だ。

それを示す様に、交差点の中心には赤い旗が一本だけ立っており、それを守る様に周囲には第一世代型が4体、小銃を持ってうろついている。

 

見つからぬようにG36Cは車の残骸の陰に。56-1式は瓦礫に身を隠し、様子を伺う。ターゲットはまだこちらに気付いた様子はない。

 

『私は左から行きます。56-1式さんはここで待機を』

 

『オッケー』

 

人形のツェナープロトコルを使った短距離無線通信。声に出さずとも思考と指示を伝えられる戦術人形の強みだ。

 

G36Cが移動を開始。建物の中を抜けて進行方向より左サイドに回り込む。

伏兵の存在も警戒していたが幸いにもいなかった。予定通りに回り込み、通って来たビルの陰へ。ターゲット4体のうち2体を狙えるポジションを確保出来た。距離にして約60メートル。

 

『配置につきましたわ』

 

『こっちも行けるよ』

 

可能な限り身を晒さず、しかししっかりと狙えるように。右手でハンドガードを指で挟むように保持し、壁に手を添える。所謂依託射撃の構えだ。これでより正確に狙える。

 

レティクルをターゲットの頭部に合わせる。

 

『射撃用意』

 

『いつでも』

 

引き金に指をかけ、少しずつ遊びを殺していく。

 

『────Feuer.(撃て)

 

瞬間、銃口から迸る閃光と銃声が飛び出し、5.56mmJSP高速弾が3発放たれる。狙いすまして放たれた弾丸は真っ直ぐ、吸い込まれるようにしてG36Cから見て右にいた第一世代型のヘッドパーツを穿った。

続けざまに左側のターゲットへと銃口を向けて、レティクルが重なった瞬間に銃撃。こちらも3発使ってヘッドパーツを破壊する。

電脳からの命令が無くなったボディは力なく、糸の切れた人形のように重い物音を立てて地に倒れた。

残りの2体も56-1式によって無力化されている。

銃を構え直して、ポツンと立っている旗へと歩み寄る。

 

合流し、周囲を確認。敵影無し。オールクリア。

 

『はぁ~い、お疲れ様です。試験は終了。お二人とも合格です』

 

人形間の無線通信を使って、教練担当であったAR70が試験終了を告げる。彼女は現在、実技試験の実施区域から少し離れた位置に設置された簡易天幕の中で、複数のドローンを使って二人の試験を監視していた。

「敵を排除しつつ目標地点まで移動する」という至ってシンプルな内容の試験ではあるが、その過程でいかに素早くターゲットを倒し目標地点を確保するかが重点的に見られる。

 

今日まで繰り返し行ってきた射撃技術の精度と速度の向上という教練内容をキチンとこなしていなければクリアできない試験なのだ。

 

「わーちゃん大丈夫~?」

 

AR70の傍らに立つ同じく教練担当のCZ-805が暢気な口調で、ビルに潜んでいたスナイパー役であるWA2000に連絡を入れる。

 

『無事じゃないわよ!思いっきり埃被っちゃったわよ!ああもう口の中もジャリジャリするし!』

 

「そっか、大丈夫そうだね」

 

流石はS10基地の凄腕スナイパー。手榴弾程度ではダメージもないらしい。尤も、だからこそ本来予定の無かったスナイパー役を指揮官に依頼されたのだろうが。

ただ相当お冠のようだ。いつもならすぐに返ってくる「わーちゃんって言うな!」という定番のフレーズが一向に出てこない。

 

『ワンショット・ワンキル』を信条としている彼女としては埃を被ったこと以上に、試験とはいえ「初弾をわざと外す」というのはプライドが許せないらしい。それでも頼まれればやってくれるのが彼女の優しいところだ。

 

彼女が実戦さながらの本気になってしまったら、数分足らずで試験が終了してしまう。それでは意味が無い。

 

そっと無線を切り、話目散らしている埃塗れのエーススナイパーをそっと(放置)しておいて、ドローンの映像越しに担当二人をCZ-805は見た。

 

達成感のある良い笑顔で、二人はハイタッチをしていた。

 

────中間講評。対象:G36C

 

教練開始当初から射撃精度は非常に高かったが、それは制止目標に対してのみの話で、人間サイズの移動目標に対しては精度が今一つであった。が、一週間に渡る教練で射撃精度が著しく向上した。今の彼女なら、全力疾走中でも移動目標に正確に銃弾を叩き込めるだろう。

 

 

中間講評。対象:56-1式

 

大口径のアサルトライフルという事もあり、初期は連射時に着弾にバラつきが見られたが、一週間の教練を経て大幅に改善された。今ならフルオート射撃でも全弾を敵に叩き込める。

残りの一週間で兵士として実力を高められるかが、個人的にも楽しみな人形である。

 

 

 

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薄暗く手狭な通路は空気が冷たく、ひどく張りつめていた。ジリジリと。あるいはチリチリと。ふとした拍子に何かが起きそうな程に。

前屈みの体勢のままなるべく足音を立てず、しかし素早く。手に持ったショットガン、フランキSPAS-12を構えるサブリナは通路を進む。

 

やがて部屋の前に差し掛かる。木製の扉によって内部の様子は分からない。仲間がいれば内部のスキャンが出来るが、生憎今は自分一人。ならばやる事は一つ。

 

全身のバネを使いドアに向かって後ろ蹴りを食らわせる。

軍用規格で製造された素体が内包している出力によって、ドアは蝶番を引きちぎって飛んでいく。

体勢を素早く立て直しエントリー。中には5体の第一世代型戦術人形がサブリナに銃口を向けようとしていた。

 

第一世代型とは言え、訓練用に電脳はアップグレードされている。襲撃に対するレスポンスは速い。

だからそれよりも速く動く。

 

まず一番近くにいた左側のターゲットに照準を合わせトリガーを引く。12ゲージの重い銃声が轟き響き、第一世代型のボディを破壊した。

 

コッキングし次。続けざまに右隣にいるターゲットを撃ち砕く。

更に隣のターゲットに照準をむけようとした次の瞬間、一番右端にいた第一世代型がサブリナに銃撃した。が、それをサブリナは腰から伸びているSG人形特有のシールドで防いだ。防がれた弾丸は弾かれ明後日の方向へと飛んでいき壁にめり込んだ。

 

『正面からの銃撃に対して、シールドを垂直に立てて使うのはよくないよ。大口径相手なら特に。1発2発ならともかく、集中して撃たれたらいずれは抜かれるからね』

『だからなるべく傾斜させる。受けるというより弾いて流す感じだな。屋内で他の仲間がいるときは跳弾で被弾するリスクはあるけど、鉄血の指向性エネルギー兵器(DEW)なら弾いた後に壁で跳ねる事は無いから、クセを付けておいた方がいいぞ』

 

教練担当のスパスとAA-12のアドバイスだ。教練過程でも何度も指摘されてきたから、今も咄嗟にそう出来た。

 

両足を大きく開いて地を這うように姿勢を低くし、シールドと地面の隙間から銃撃してきた第一世代型に発砲。脚部を破壊され第一世代型は立つことが出来ず無様に倒れる。

その隙に残る一体を撃って仕留めてから、倒れているターゲットにトドメとばかりにもう一発12ゲージを叩きこんだ。

 

ルームクリア。それを確認し、サブリナは腰に据え付けているショットシェルホルダーからシェルを4発掴んでクアッドロードで装填していく。

滑らせるようにロードするとハンドガード部に引っ掛かりやり辛いので、サブリナは親指で押し込むようにロードしていく。

 

消費した弾薬5発に対して4発ロードしフォアエンドをコッキング。残弾は7発。

 

次のポイントへと向かうため部屋を出る。

すると、待ち構えていたとばかりに2体の第一世代型がサブリナに攻撃を開始。幸い、反射的に部屋に引っ込んだことで被弾はしなかったが、先手を取られた。

 

すぐにシールドを前面に展開。ここでもきちんとシールドを傾斜させる。

まるで雨に打たれているかのような甲高く小気味良い音がシールドから鳴り響く。

 

そのまま耐えていれば、あれほど喧しくがなり立てていた騒音が止んだ。弾切れだ。

すぐに展開していたシールドを外して反撃。12ゲージの直撃を受けた第一世代型2体は胴体部分を粉々に破壊され仰向けに倒れ、動かなくなった。

再び動き出さないとも限らないので、サブリナは銃口を向けたまま第一世代型の上を通る。無事に通り過ぎて先へと進む中でも、シールドできっちり背面を守る。

確実性を重視するならそれぞれに一発ずつ撃ち込んだ方が良いのだが、手持ちの弾薬の数が限られている。なるべくなら使いたくはない。

 

その矢先のことだ。通路の向こうや近くのドアから大量の第一世代型がぞろぞろと現れた。確認できるだけで10体はいる。それほど広い通路ではないため密集状態となっており、容易く前には進めそうにはない。

 

サブリナの姿を視認してすぐに一番近い。集団で言うなら一番先頭の2体が小銃を連射してくる。それより早くシールドを展開しサブリナは自身の身を守る。身を屈めて面積を小さくし、それに合わせてシールドも傾斜させ、まるで貝殻(シェル)に覆われる様な形を作り上げる。角度が浅くなるので貫通力のある高速弾であろうとも、シールドには大したダメージが通らず弾かれるのみだ。

 

「足りるかな?」

 

先の2体に使用したショットシェル2発を装填しつつ呟く。手持ちの残弾と残敵数。それらを考慮しての呟きだ。

 

「ま、なんとかなるよね」

 

フォアエンドをコッキングし、一息に振り返りながら立ち上がる。シールドを展開したまま地を蹴り前進。というより、突進していく。

小気味良くも恐ろしい銃弾の着弾音を聞き流し、さながら除雪車よろしく敵陣に突っ込み薙ぎ倒す。

AA-12に教えてもらったシールドバッシュの応用だ。

 

脇に逸れて突進から逃れた第一世代型も、待ってましたと言わんばかりに小さな大砲(SPAS-12)の銃口を向けられ、至近距離で12ゲージの直撃をもらい外装と構成部品をまき散らした。

 

体勢を崩しつつも押し返そうと第一世代型が束になって抵抗する。

 

「んっ、んん~っ!」

 

が、軍用規格で製作されたサブリナの素体はそれを更に押し返して見せた。

シールドのアームを伸ばしてターゲットを押しのける。スペースが空いた所でSPAS-12を構え直す。同時にセミオートに切り替える。

 

引き金を引く。12ゲージによる衝撃力は第一世代型の外殻を砕き内部を潰すには十分過ぎた。

近いターゲットから順に12ゲージを叩き込む。が、敵の数に対して装填出来る弾の数が足りない。残り4体といったところで弾切れになった。

以前までならば、シールドに隠れてスピードローダーを使って即座にリロードする。が、今回その用意がない。

 

で、あるならば。

展開していたシールドを畳んで一枚の分厚い金属板にし、アームから取り外して持つ。

 

後はシンプルに、それで殴打していく。シールドの硬い縁で、サブリナの膂力を使って殴ればいかに頑丈な第一世代型も、さながら紙屑のように弾き飛ばされる。これはスパスに教えてもらったシールドの違う使い方だ。

 

横薙ぎに。もしくは縦に振り下ろし、ハンマーよろしくターゲットを叩き壊していく。

 

瞬く間に3体を屠り残り一体。

素早くシールドをアームに再度接続し展開。シールドバッシュでターゲットを壁に叩き付ける。

態勢を整えるより先に、SPAS-12の銃口が胴体部分に押し付けられる。持っていた銃で反撃しようとするも、サブリナは無慈悲にも銃身を掴んで奪い取り遠くへ放り捨てた。

 

武装を解除したことで脅威度が下がったのを確認し、ゆっくりと。サブリナはショットシェルを一発だけ手に取って装填口に入れる。フォアエンドをコッキング。

 

「じゃあね」

 

ゼロ距離の12ゲージが炸裂し、第一世代の胴体部分に風穴があいた。

ズルリと崩れ落ち、通路内に静寂が訪れた。

 

『終了~。サブリナちゃんお疲れ様~』

 

天井に設置されたスピーカーからスパスの声が響き、薄暗かった通路が明るくなる。試験が終わった。

 

『問題なさそうだな。いいんじゃないか?合格で』

 

AA-12の一言に、サブリナは「やったね!」と両手を高く突き上げて歓喜した。

 

────中間講評。対象:SPAS-12

 

「仲間を守る以外の戦術的な考えが知りたい」という彼女の要望をくみ取り、こちらが持っているSG人形が使っている技術を提供した。

教えた端から全てを素直に吸収する彼女の器量に、逆にこちらが驚かされることとなった。

仲間を守るだけの盾ではなくなった。

 

 

 

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「アナタが狙撃で一番重要としている事はなんですか?」

 

教練開始してすぐのこと。教練担当であるSV-98から唐突に投げ掛けられた質問に、スカウトライフルはやや面食らってしまった。

 

簡単に言えば狙撃とは、遠くにいる目標を狙い撃つ事である。

その狙撃で一番重要なこと。スカウトが真っ先に思い付いたのは気候だった。狙撃距離が長ければ長い程に気候の影響は大きくなる。

が、スカウトライフルは元々長距離狙撃をするような銃ではない。最大有効射程は400メートル。距離だけ見ればボルトアクションを使ったマークスマン・ライフルだろうか。それでも多少なりとも気候の影響は受けるが。

 

となれば、重要なのは精度だろうか。シュタイヤー・スカウトは銃としての精度はとても高い。しかし「スカウトライフル」という概念から装弾出来る弾丸は5発と多くは無い。外してカウンターを食らって撃ち合いにでもなれば不利になる恐れがある。

実際。鉄血のハイエンドモデルであるスケアクロウ相手に狙撃しようとした際に気付かれ狙撃合戦の様相を呈してしまい相討ち。スケアクロウは撃破されたがスカウトも顔を負傷する結果となった。

 

あの時、素早く一発でスケアクロウを仕留められれば、反撃も受けなかった。それこそ教練初日に自身がSV-98に完膚なきまでにやられた時のように。

 

「確かに、気候条件や一発の精度も大切な要素です」

 

そんなスカウトの考えを見透かしたかのようにSV-98が切り出した。

 

「しかし、いかに条件が良くて精度が高くとも、目標が動く以上命中率は変動します。当たるはずだった弾が外れる事もあれば、外れると思われた弾が相手が動いたことで当たる事も」

 

気候を読んで弾道を計算した所で、狙撃目標が動く的である以上当たるとは限らない。例え凄腕のスナイパーであったとしても、外すときは外すのだ。

 

「『相手の呼吸を読め』。これは私が指揮官に言われた事です」

 

「呼吸を読め?」

 

「呼吸とはつまり行動の起こり、兆し。歩くにしても走るにしても止まるにしても、必ずその時にその呼吸がある。これは人間にも人形にも必ずある。そう指揮官は言っていました。つまり呼吸を読むとは、相手の行動を読むということです。この基地に所属しているRF人形は全員その考えを基に狙撃してます」

 

尤も、正確に呼吸を読むには経験が必要ですけどね。そうSV-98は締めくくった。

 

SV-98のスナイパーとしての実力は疑う余地もない。スカウトは身を持ってそれを知っている。が、それを教えたのが指揮官というのがなんとも懐疑的にも思えてしまう。

グリフィンの指揮官とは基本的に安全が確保された後方で指揮する人間であって、高度な狙撃技術を有するような物では無い。

スカウトの指揮官であるナイル・ルースも、こう言っては何だが狙撃に関しては自分には及ばないであろう。

 

「ちなみにですが、ブリッツ指揮官は軍にいた頃1964メートルの長距離狙撃に成功していますし、選抜射手(マークスマン)の経験もあります。それと、指揮官に狙撃を教えた人は過去に3200メートルのスナイプに成功したそうですよ」

 

補足された情報からスカウトは懐疑的な思考を即座に切り捨てた。

 

そしてこの一週間。スカウトは狙撃対象の「呼吸を読む」ことを徹底して叩き込まれた。狙撃技術だけでなく、鉄血人形がどのような状況でどのように動くかを統計的に纏められた資料を読み漁り、それを電脳に叩き込む。

特殊戦闘部隊ということもあり、様々なシチュエーションから入手された豊富なサンプルの数々は、ただただ狙撃の訓練ばかりしてきたスカウトにとって新鮮であり、有意義なものであった。

 

教練に来る前から意欲のあったスカウトは、一刻も早くこの情報を試してみたくなった。

そうすれば、ハイエンドと対峙したあの時の自分を超えられる気がしたから。

 

そして一週間後。その時が来た。

だだっ広い原っぱのような場所。見晴らしはいいが、ところどころに木の板きれや岩など遮蔽物があって射線の確保が難しい場所がある。そんな中を第一世代型戦術人形が一体、彷徨うように歩いている。

────そこからほぼ水平に400メートル離れた位置に、スカウトは伏射(プローン)姿勢でライフルを構える。

スカウトから見て標的の第一世代型は遮蔽物に隠れ、時折そこから姿を現すように見える。姿が見えるのは時間にすれば2秒あるかないか。

 

距離400メートル。気温19度。時折左から右へ2メートルの風。奇しくも、条件がスケアクロウを狙撃したあの時とほぼ同じだ。いや、もしかしたら敢えて同じ条件を設定したのかもしれない。

今回は、どこか頼りなくもいざという時はやってくれるスポッターはいない。スカウトの地力以外ない。

 

第一世代型は7.62mm口径でドラムマガジンが付いた小銃を持っている。もし狙撃に失敗し機能を停止できなければ即座に反撃される。潜伏場所のバレたスナイパーの末路は何時の時代でも悲惨極まる。

 

深呼吸を一つ。気候を読む。呼吸を読む。教わった全てを絞り出して、一発に懸ける。

あの時は隙を伺うばかりで何もできなかった。だが今は違う。今の自分ならほんの僅かな隙があれば十分。

 

スコープのクロスヘアは常に第一世代型の頭部に合わせて動いている。呼吸を読むことで出来る行動予測。あとは射線が通る位置に目標が来るのを待つ。

あと数十グラム指に力を加えれば弾丸が発射される。そんな状態を維持している時、岩陰から第一世代の無骨なヘッドパーツが出てきた。

 

間髪入れず、しかししなやかな指先は繊細にトリガーを引いた。

反動でストックが肩を叩く。それと同時に感じ取った確かな手応え。この弾丸は間違いなく命中する。そんな確信めいた手応え。

狙い通りに、放たれた7.62mmの弾丸は狂いなく第一世代のヘッドパーツを貫き、やがて支えを失ったマネキンのようにその場に倒れた。的確に電脳を撃ち抜き機能停止させた証拠だ。

 

「ヒット」

 

倒れた第一世代型を見て、スカウトは小さく呟いた。

 

「クリーンショット」

 

すぐ後ろでスカウトの狙撃を見ていたSV-98が静かに告げる。スカウトが伏せたまま彼女に視線を向ける。

 

「良くなりましたね、スカウトさん」

 

にっこりと、柔らかな笑みを浮かべて褒めてくれるSV-98を見てようやく、実感がわいた。

ようやく自分は、あの時の自分を超えられたのだと。

 

────中間講評。対象:スカウトライフル

 

教練開始直前までは実力に対しやや自信が過剰な面も見られたが、その後はすぐに反省し意欲的に教練に励むようになった。

狙撃技術自体は既に高いレベルで身に着けていたので、狙撃目標の行動予測を重点的に教え込んだ。一週間で鉄血人形の行動パターンはほぼ全て把握したと言っていい。仮にパターンから外れる行動を観測したとしても、冷静に対処できるだろう。

 

 

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「────っと。これで良し」

 

S10基地司令室にて。キーボードのエンターキーを叩くように押して、ブリッツは教練担当全員の中間講評をまとめた資料を完成させた。それをファイルに保存する。教練を依頼してきたR15基地からは各人形の講評が欲しいと言っていた。

教官としても、そう依頼されればそうしないわけにもいかない。最初は総評だけでもいいかとも思ったが、この一週間の全員の努力を見て簡単な評価だけでもしておこうと決めた。

 

「現状こんなところですが、どう思いますか?ローズマリー・ムーン指揮官」

 

右耳に装着したインカムに向かって声をかける。このインカムの向こうにはR13基地指揮官であるローズマリー・ムーンがいる。

中間講評の作成と並行して彼女に教練の途中経過を報告したのだ。

 

『順調そうね。手間をかけた甲斐があってなによりよ』

 

賞賛しているようでいて、どこか嫌味の籠った口調にブリッツはつい苦笑を溢した。

今回の効果測定で使用した大量の第一世代型戦術人形。これらはブリッツが用意した物では無く、彼女が手配したものだ。

 

型落ちの第一世代型といっても、纏まった数を揃えるにはそれなりの金が必要になる。グリフィンの特殊部隊ということで本部からはそれなりの予算を与えられているが、訓練のために第一世代型を調達するには資金面で抵抗がある。

 

そこで、このS10基地をR15基地に紹介した張本人であるローズマリー・ムーンに割を食ってもらう事にした。

R13地区の街はR地区全体で見てもかなり大きく発展している。それだけ経済面ではS10地区とは比較にならない程に差がある。それだけに基地の予算も段違いだ。

彼女ならば、大量の第一世代型の調達も出来る。ついでに訓練で使用する弾薬。模擬弾と実弾も工面してもらった。技術講習の費用と考えればそう高くはない。

 

何より、ローズマリー・ムーンは今回依頼する側だ。

実際の階級がどうあれ、依頼される側の意向には従う必要がある。だから吹っ掛けさせてもらったのだ。

嫌な顔をされたが、ちゃんとやってくれた辺り彼女の生真面目さが伺える。

 

『・・・まあいいわ。それで、次はどうするの?』

 

次。残りの一週間でやれる事は限られている。どうせなら、良い経験を積ませたい。

 

「洗礼は終わりました。仕込みも済みました。後は、本物を知ってもらおうと思います」

 

『今の貴方、とても悪い顔をしてるわね。声でわかるわ』

 

呆れるような口調で、ローズマリーは吐き捨てた。事実、その時のブリッツは、何かを企んでいると一目で分かるほどの笑みを浮かべていた。

 




ああでもないこうでもないと色々考えてたらこんなに期間空いちゃったごめんなさい(⁠´⁠・ω・⁠`⁠)

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