艦これ転生もの 作:謎の提督R
ある日。俺がまだ中学生だった時の話だ。暑く茹だるような真夏の日、朝食を取っていた時にふとテレビに目を移したら、そのテレビの内容に俺は言い知れぬ衝撃のようなものを受けた。
『———は、これら未確認生命体を『深海棲艦』と称し、詳細の判明を急いでおり――』
深海棲艦。初めて聞くはずのその単語に俺は見覚えがあった。それもそのはず、それは俺が前世で遊んでいたゲームで登場した敵の総称だったからだ。
艦隊これくしょん。略して艦これ。突如として現れて空海両方を占領し、人類に牙を剥いた深海棲艦。そんな深海棲艦を倒すためにどこからともなく現れ始めた謎の存在、艦娘。プレイヤーは提督となり、そんな艦娘をコレクションし、艦隊を編成し、海を取り戻す為に戦う…といった趣旨のゲームである。
ゲーム…の筈だったんだけどなぁ。
本当、現実は小説よりも奇なりとかよく言ったもので。俺はどうやら艦これの世界に転生してきてしまったらしい。よく考えなくても美少女ゲーに転生して来たら多くの男は喜びそうなものだが、俺はというと…吐きそうな気分だった。
だって、艦これの世界だぜ?
艦娘が美少女ばかりで、さらに二次創作などでギャグ路線のものが結構多いからあまりイメージがないかもしれないが、艦これの世界は現実目線で考えたら実は危険が危ない物騒な世界なのだ。
何せ深海棲艦に海と空を奪われているのだ。大陸の国々ならまだしも、日本という島国はどうなると思う?
しかも他国からの輸入で食を支えていた現代日本でそれが起こってしまったら…それはもう絶望だろうがよ。
『皆さん、戦争がはじまりました。』
初めて深海棲艦のニュースが入って、数日が経った時の事だった。
深海棲艦の侵攻は一瞬にして激化。日本政府は自衛隊を派遣して、それらに対し徹底抗戦を行う。さらにアメリカ軍も動き出すが、全方位を海に囲まれている日本、さらには世界中のあらゆる場所で同じような異変が起きているとすれば、アメリカ軍は手に負えないと判断し割とすぐに撤退してしまう事となる。
こうして孤軍となってしまった日本は、割とすぐに危機に陥った。俺が次の学年に上がるころには食事は質素なものになり果てたし、道路を走る車の数も次第になくなっていった。さらにはお偉いさん方や金持ちが相次いで外国に逃げ出し、本当の意味で経済は縮小を始めていたのだった。
さて、そんな日本を、ある日とある存在が救った。
それが艦娘。過去の戦艦の魂を宿した女の子達。彼女たちはあっという間に日本の近海を取り戻し、そして日本に対してこう告げた。
『私たちに提督と鎮守府を用意してください。そうすれば、私たちはあなた達を守ります』と。
日本政府にはそれを拒むなどできるはずもなく、大本営を組織し鎮守府及び艦娘の運営に本格的に取り組み始めたのだった。お陰で道路を車が走る数が少し上がり、食事も割と余裕が持てるようになった。
ここまでは艦これゲームの史実通り。まあ、このままいけば普通に優秀な提督たちが現れて海を取り戻してくれるだろう、と俺は日本の内陸部でほくそ笑んだ。平和のためにぜひ頑張ってほしい。報酬は美少女たちのハーレムだ。男なら割に合っておつりがくるレベルだろう。
俺?俺はもちろん、高校に入学したら普通に大学に行って普通に就職する予定だ。転生したからと言って、戦争の矢面に立つなんて御免だね。それに美少女たちに囲まれるのなんて報酬になるものか。リアルの女子に囲まれても生々しすぎて胃が禿げあがるだけだろうしな。
まあ、本音でいうならそもそも俺に提督をやるような能力なんてない。勉強普通、運動普通、できる事と言えば転生時に貰っていたらしいランダム特典の『超手先器用』で作れる芸術作品や料理、それと曲がりなりにも余分に経験を積んだ分、コツコツとした努力の大切さを知っていることくらいだ。
つまり、俺には一切関係のない事。俺は人並みに幸せな人生を普通に歩くぜ、あばよ~!ってな気分だった。
そんな気分だった時期が、俺にもありました。
朝目が覚めたら、枕元に妖精さんがいた。
これは俺の頭がぱっぱらぱーになったり幻覚を見たりした訳じゃない。艦これのゲーム画面でよく見た、本物の妖精さんがそこにいたのだ。
『…あっ、みえてる?』
『やっとみえた?』
『みえた!みえてる!』
『やったー!ていとくー!』
わらわらと出てきて次々に俺に抱き着いてくる小さな女の子達の姿を見て、俺は白目をむいて二度寝()を慣行したのだった。
そして次の日。家に送られてきた『提督招集書』に、俺は今度こそ気絶した。