「はい、じゃあちょっと早いですが授業はここまでにしましょう。授業終了時間まで自由時間とします。疲れた人は無理せず休憩してくださいね」
13号先生の言葉に「だぁ~」と気が抜け始めるB組の面々。雄英高校に入学して数日、初日に個性把握テストをしたと思ったら次は
「液水の個性っていいよなぁ」
「水難事故、火事にはチート級の能力だよな」
「それな」
「さっきなんて水難事故の救助で水面割ってたもんな。モーゼの十戒かよって感じで」
円場、鱗、回原、泡瀬、後にB組の常識人男子四天王と呼ばれる4人に話しかけられた。
「いや、でも火事の場合は周りに水とか液体がなかったらアウトなんだよな。あと、火災の原因が天ぷら油とかだった場合、知らないで水かけたら火柱があがることになる。」
俺の言葉に「なるほど、確かに」「まずは状況確認が大事か」「じゃあ液体操作で油だけ移動させれば?」 「いや、恐らく液水が視認できてないと無理なんだろう。火災現場でそれは難しいかもしれんぞ」 等々の議論が始まった。
流石は雄英の試験に受かった猛者たちだ、次々と意見が出てくる。この後、俺も意見を出し合い、5人で火災に限らず、様々な事故の対策についてひとしきり話し合った。
「今考えつくのはこのくらいか」
「そうだな」
意見をまとめ、全員が謎の納得感に包まれていると円場が突然、話題を変えることを言ってきた。
「なぁ、液水! さっき訓練でやった水面割るやつ、もう1回やってよ」
「えっ? なんで?」
「いいから、いいから」
「え~、あれ疲れるんだよ」
「あとでジュース奢るから!」
「よしきた‼」
「安いな、お前」
泡瀬にツッコまれながら水難ゾーンに行き、円場のご要望どおり、液体操作で水面を左右に真っ二つに割る。普段見えるはずもない水底の地面が顔をだす。
「うひょー!! マジ○ガーZのオープニングみたい!!!」
ああ、だから見たかったのね。そういえば自己紹介の時、特撮とかレトロなの好きって言ってたな。じゃあマジ○ガーZも守備範囲内か。あっ、ちょっと疲れてきた。もうやめよう。
「液水サン、液水サン」
個性を解除して水面が戻っていくのを見ていると急に後ろから服をついっと引っ張られながら声をかけられた。声の主は頭に2本の角が生えた日系アメリカ人、角取 ポニーだった。
「私もお願いしたいことアリまーす」
俺と円場のやり取りを聞いていたのだろうか。彼女は俺に自分のやりたいことを伝える。すると
「えっ? 何それ? 超面白そう!! 俺もやりたい‼」
円場が予想以上に食いついてきた。
「お前にはさっきやっただろう、円場」
「缶ジュースもう1本追加‼」
「さっさと位置につけ、2人とも‼」
「大バーゲンセールだな、液水」
泡瀬が俺のツッコミ役みたいになってきた。
円場とポニーはお互いにある程度離れて対面する。そして2人とも両手首をくっつけて同じポーズを取り、同じ言葉を同じタイミングで言う。
「「か~め~○~め~波ーーーーーっ!!!!!!」」
角取のやりたいこと、それは某有名漫画のあの技だった。彼女は日本のアニメが好きらしい。当然、俺があの技を出せるわけがないので水難ゾーンの水を使ってエネルギー弾っぽい感じの形にして2人の手から出しているように見せているだけである。2人の中間では水がぶつかり合い、水しぶきが飛び合う。周りで見ている皆は大爆笑だ。
「スゴイです‼ ワタシ、かめは○波、撃ってます‼」
撃ってないぞ、角取。しかしあんなに目をキラキラさせて喜んでくれるとこちらも嬉しいな。おっ、目が合った。
「液水サーン、カモーン、ヘルプミー‼」
そんな笑顔でヘルプミー言われても。しかし何用だ? 近付ていくと彼女は俺に耳打ちをする。・・・なるほど、それがやりたいのね。
俺は角取の方の水の威力を下げ、水がぶつかりあう場所を角取寄りにする。そして角取は苦悶の表情を浮かべて両手の構えから片手に変える。対面してる円場は怪訝な顔をするが・・・
「そ、それは‼」
角取の後ろに俺が立ち、両手首を合わせ、最初に2人がしていた同じポーズを取る。そして一気に角取の方の水の威力を上げる。
「セ○編の最後じゃねぇかーー!!ゴボゴボっ!!!」
叫ぶと同時に円場は水に飲まれた。俺と角取はハイタッチ。それらを見ていた回原は腹を抱えて笑っている。その様子を見て、流石に悪いことしたかなぁと思っていたら何故か円場はやりきった顔で笑顔だった。
「え、液水、つ、次はおれの番だ!螺旋○出せねぇか?」
腹を抑えてヒーヒー言いながら回原が聞いてくる。これまた某有名漫画の技。ああ、回原は個性が「旋回」だからか。
「これでいいの?」
手の中に水球を作り、中の水を回転させそれっぽく見せて回原の前に突き出す。
「本当に出来てるじゃねえか!!!アーハッハッ‼」
回原が笑いすぎて壊れた。しかしこうなってくるともう止まらなくて
「液水、霊○出せない?」
柳が肩を叩いて聞いてくる。振り向くと顔が近いからビックリした・・・あ、わざとか。オカルトとかでベタなのであるもんな。しかしなんでこの技・・・あっ、霊界探偵だからか。まあ普通にそれっぽいの出せますよ。入試でも使ってたし俺。今日から技名を霊○にするか。数発撃ってみせると「ウラメシ~」と言ってきた。それはどういう意味だ?
そしてまたもや後ろから服を引っ張られる。
「ん」
何やらポーズを決めた小大が立っていた。あんまり喋らないね君。だからこちらが意味を汲み取ってあげないといけない。
「・・・もしかしてスペ○ウム光線?」
うんうんと深く頷く小大。いやそれは難しい。あのたくさんの細かく途切れた線みたいなのを液体で表現するのは・・・そんな期待の目でこっちを見てくるな‼だいたいなんだよそのチョイス。あーもう‼
「こんな感じでいいか?」
ポーズをしてできるだけ薄く作った水の膜を前に飛ばす。すると鼻息を荒くして喜んでくれた。はぁ、期待に答えられてよかった。
「随分と人気者じゃないか、液水‼」
俺の肩に手をかけ、捻くれた笑いを浮かべて話しかけてくるのは物間。どうやら俺の人気ぶりに少し嫉妬しているらしい。
「だけど僕にだって同じことはできるさ」
そりゃあそうだろう。さっき俺の肩を触って個性をコピーしたからな。
物間は水難ゾーンから水を大量に浮かせて自分の手元に持ってくると螺旋○をやろうとするが・・・
「あっ、バカ‼その操作は初心者にはムズい・・・」
ビッシャーー
物間の手からスプリンクラーのように水が飛び散り、周りにいた全員をずぶ濡れにする。ちなみに俺はとっさに液体操作で自分の周りだけ防いだので無事。
「「「・・・・・・」」」
周りからの無言の圧力を受け、引きつった笑いを浮かべる物間。そもそもこの状況で笑ってられるのがすげぇ。
するとたまたま近くにいて被害を受けた拳藤が近づいてきて
シュ‼
「ダッ‼」
物間におそろしく早い手刀をかます。見逃しちゃったね。
「はぁ~、まったく・・・乾かさなきゃ」
水びたしの拳藤・・・なんかエロい。はっ‼いかんいかん。急いで乾かしてあげないと。
「拳藤、腕伸ばして」
「? はい」
伸ばした拳藤の腕を掴む。
「ちょっ!!な、何? 液水!?」
赤い顔になりながら凄くびっくりされた。えっ、そんなに腕触られるの嫌だったのか? ちょっとショック。
「‼ 服が乾いてる!ありがとう‼」
そう、俺の液体操作で服についた水分を取り出したのだ。直接手に触れられればこういう技も出来る。
「他に濡れた奴、俺のところに来い。乾かすから」
そう言うと俺の前に列がなされ、俺はひとりひとり乾かしていく。すると地面に突っ伏したままの物間が話しかけてくる。
「ははは、液水、僕も頼むよ」
「おまえ、俺の個性をコピーしてるだろう。自分の失敗は自分で拭け」
「それは『液体だけに』って意味かな?」
イラッ
霊○を作り、ヤツの肛門目指して発射。
「ひゃうっ‼」
短い悲鳴をあげて物間は喋らなくなった。
「さて、全員乾かしたし授業ももう終わりだから戻るか」
他の皆も「そうだな」と言い、気絶した物間を置いて全員USJを後にした。
思えばこの時の行動が物間の捻くれ具合に拍車をかけてしまったのかもしれないと後々後悔することになるのだがそれはもう少し先のお話。