朝、学校に着くと門の前にマスコミがごった返していた。どうやらオールマイトが赴任してきた影響らしい。俺も学校に入ろうとしたら「すみません!雄英生ですよね? インタビューいいですか?」と言われたが「急いでいるので」と軽く流して門をくぐる。教室に着いて前の席の泡瀬と「マスコミ凄かったな」と他愛もない話をしていると本日の
「えー、今日はおまえたちに学級委員を決めてもらう。やりたい奴はいるか?」
先生の突然の言葉に皆、一瞬戸惑いを見せるがすぐに複数人が手をあげる。流石はヒーロー志望、皆偉いな。ちなみに俺は挙手していない。学級委員になったら実家の店のサロンがあまり手伝えなさそうだからな。家族は「そんなの気にしないでいい」と言ってくれているが手伝いは1人でも多い方がいいだろう。おっと、立候補者が複数人いるからクラス全員の投票で決めることになったようだ。立候補者以外にも票を入れていいらしい。ふむ・・・このクラスじゃ拳藤が妥当かな?
紙に拳藤の名前を書き、提出。そして結果は・・・
「1番票が多かったのは拳藤だ! やってくれるな?」
「えっ? 私!?」
どうやら俺以外にも拳藤を推した奴らがいるらしい。本人は驚いているが自然とクラス中におこる拍手が彼女が適任であることを意味している。「まあ、期待には応えたいのでやります!」と照れくさそうに言いながら前に出てきた。
「早速で悪いんだが拳藤、副委員長も決めなくてはいけないんだ。進行を頼めるか?」
副委員長も決めるのか。じゃあもう一回投票をやるのか? 次は誰に入れようかな?
ブラド先生の言葉に投票用紙に書く名前を考えていると拳藤が口を開く。
「あの、先生。 副委員長は私が決めてもいいですか?」
「本人が良ければ構わないぞ」
「じゃあ・・・え、液水! やってくれない?」
「・・・・は?」
頬杖ついてペン回しをしていたら急に自分の名前が挙がって思わず素っ頓狂な声をあげる。クラス中の視線が一瞬にして俺に集まり、そして各々話し始める。
「液水か!入試で巨大仮想敵から拳藤を救けたって聞いたしな!仲間想いの奴は俺は好きだぜ‼」
やめて鉄哲‼ 思い出すと恥ずかしいから!!
「あの巨大仮想敵を倒すくらい強いらしいからな、強い奴なら俺は文句はない」
だからやめろ鎌切。今後のハードルをあげるな!
「あたしも賛成かなぁ~」
おい、なんだ取蔭。俺と拳藤を交互に見てからのそのニヤニヤ顔は‼ あと角取と円場‼こっち見て笑いながらかめ○め波のポーズするのやめろ‼ あっ‼ 霊○も螺旋○もスペ○ウム光線のポーズもやめろ!!! 柳、回原、小大!!!
結局周りに流される形で副委員長をやることに決まり、「今日の放課後、A組の委員長達と顔合わせがあるからなー。」と言われてこの日のHRは終わった。
「あー、副委員長かぁ~。俺出来っかなぁ」
時刻は昼になり食堂で頼んだラーメンを盆に乗せて運びながら誰に言うわけでもなくつぶやく。そもそもなんで拳藤は俺を指名したんだ? 確かに試験で救けたかもしれないがあの後無様に倒れたんだぞ。やっぱりヒーローたるものもっと計画性を・・・・はっ‼ヤバイ、緑谷みたいにブツブツ言うところだった。
頭をふるふると振るい、飯を食ってから考えようと空いてる席を探していると前を歩く小大が見えた。俺と同じく席を探しているようでキョロキョロと辺りを見渡す。おっ、昼飯も同じラーメンだ。妙な親近感が湧き、なんとなくそのまま見ていたら彼女の踏み出そうとした足がもう片方の足に当たり・・・
カシャーン、カランカラン
盛大にコケた。幸い周りに人があまり居なかったからそんなに目立っていない。えっ?それよりパンツ見えたかって?・・・ノーコメントで。
「おい、小大。大丈夫か?」
「ん」
即座に駆け寄り、声をかける。短い返事がすぐに返ってきて足を見るが特に怪我はなさそうだ。感情をいまいち読み取りにくい彼女だが特に痛みを我慢してる様子もない。起き上がると軽くスカートを払い、何事も無かったかのように落としたどんぶりを拾いに行く。裏返ったどんぶりを拾ったときに中身が入っていない、それどころか床が汚れていないことに首をかしげる彼女。
「ああ、ラーメンならここだ」
俺の顔の横に浮かぶ茶色で透明な球体。その中には麺や煮卵、メンマなどの具が入ってる。そう、彼女が転ぶと思った瞬間に俺の液体操作で浮かしたのだ。その光景に、彼女が目を見開いて驚く。おおっ、初めて小大が驚くところ見た。新鮮。
「このままキープしとくから落ちたどんぶりと箸、交換してこいよ」
コクンと頷いて来た道を戻る小大。その姿を見送りながら席探しに戻ろうとしたら
「早速、副委員長やってるねぇ。流石は一佳に見込まれた男! このっ、このっ‼」
「脇腹を小突くな取蔭。地味に効く。あと副委員長じゃなくても今の行動はしている」
「へぇ~」
品定めをするように俺の全身をヘラヘラと笑いながら見てくる取蔭。正直、HRからこいつのヘラヘラが気になっているがそんなに面白いことを俺はやっているのか?
もういっその事、正直に聞いてやろうかと思ったがちょうど小大が新しいどんぶりと箸を持ってきたのでやめた。浮かしていたラーメンを小大のどんぶりに移し、今度こそ席探しに戻る。おっ、窓側の端が空いてる。
盆を置いて席に着き、手を合わせて「いただきまーす」と言って食おうとすると小大が隣に座った。・・・辺りを見回す。他にも席空いているよな? まあ同じクラスのやつが居たほうが心細くなくていいか、と思っていたら
「ん」
横から箸に摘まれたチャーシューが現れた。言うまでもなく小大が箸の持ち主である。そのまま俺のどんぶりに置こうとするので彼女の腕を掴み制止する。
「待て、もしかしてさっきの礼のつもりか?」
「ん」
「いや気にしなくていいから。それにチャーシューといったらラーメンの最大の楽しみだろう?」
「ん、んっ‼」
「大丈夫だって。気にしないで自分で食え、小大」
「んっ!んっ‼んっ!!!」
引こうとしない小大、しかし俺も簡単に受け取るわけにはいかない。チャーシューだぞ?メンマくらいならすぐに受け取っていたがチャーシューだぞ?(2回目)
傍から見たら無駄なやり取りを何回か続けていると
「・・・液水」
小大が俺の名前を呼んだ。驚きのあまり掴んでいた手を緩めてしまい、彼女はそこを見逃さなかった。
「んっ!」
「あっ‼」
素早くチャーシューを俺のどんぶりに移し、やりきった顔をした(ような気がした)。こうなったら素直に受け取るしかない。
「ありがとう」
「ん」
「・・・いや待て! 小大、お前普通に話せるだろ!?」
「えっ? 唯は喋ろうと思えば普通に喋れるよ」
俺の疑問に答えが返ってきたのは当の本人ではなく拳藤からだった。いつの間にか俺の向かい側に座っている。そしてその横には取蔭。って気づいたらテーブル一帯B組女子が座ってる!?
「んだよ。ハーレム見せつけやがって~、自慢か?」
後ろでぶどうみたいな頭をした奴が血眼でこっちにガンを飛ばす。流石に居心地が悪くなったので離席しようとするがそれを見越していたかのように小大に制服を掴まれる。
「ん」
「・・・わかったよ。移動しないから離せ」
「随分と唯に懐かれたね~
「取蔭ぇ~?」
「おー怖い怖い」
「えっ、何このやり取り」
「いや実はさっきね・・・」
拳藤の疑問に答えるように取蔭が先程の小大に対する俺の行動を話し始める。すると女子一同から「おお~」と声があがる。やめろ、面映ゆい。
「流石、副委員長」
「ねっ、希乃子もそう思うでしょ?」」
「さっきも言ったけどな、別に副委員長じゃなくてもあの行動はしている」
「なんと慈愛に満ち溢れた行動でしょう! マリア様はここにおりました」
「俺は男だ、塩崎。それにな、あの行動の結果はベストじゃない」
俺の言葉に全員頭に?を浮かべる。
「あの時のベストはまずは小大を転ばないように支えることだ。だけど俺1人で・・・俺の個性だけじゃそれは難しかった。だからあの時、俺の個性で出来る限りの
言い終えるとしんと静まり返る間が少しあったがすぐに
「嫌なわけ無いじゃん」
「仕事どんと来い」
「助け合いこそ善美」
「困ったときはコール・ミー」
「ん」
「まっ、これでもヒーロー志望だし」
小森、柳、塩崎、角取、小大、取蔭から返事があり、拳藤が「みんな・・・」とちょっと感動しかけている。
「いやしかし液水が意外と熱い男だってわかったわ。今の言葉、鉄哲とかにも聞かせに行ってこよう。アイツもしかしたら泣くかもしれないし。ニシシ」
そんないい雰囲気だったのに、本日何度目かわからないヘラヘラ取蔭がぶち壊す。それに対して「コラァ‼」と叫ぼうとしたその時、
ウゥ~
「何? 警報!?」
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』
突然の警報、訳のわからんアナウンス、なんだよセキュリティ3って。大パニックになる食堂から多くの生徒たちが一斉に出口へと向かい始める。
「私達もすぐに避難しよう‼」
拳藤が提案するが
「ゆっくりでいいと思うぜー」
「呑気にラーメンすすりながら何言ってんだよ、液水‼」
「だってこの警報の原因、多分あれだぜ」
窓の外を指差す。
「あれは・・・マスコミ!?」
「多分、朝居た奴らだろ。恐らくそれが校内に侵入したから警報がなったんだろう。だから緊急性は低いと思うぜ」
窓際の席だったからすぐに気付けて割と冷静にいられた。拳藤に説明し終え、ゆっくりとスープを飲み干す。
「ぷはー。避難もいいけど、まずはあそこで倒れている奴ら、起こしに行こうぜ」
今度は窓とは反対方向を指差す。そこには人混みにうまく乗れずにみんなの下敷きになった人や気分が悪くなった人達が居た。
それを見て全員「わかった!」と言って各々、倒れている人達に向かっていく。俺も席を立ち、向かおうとすると拳藤が声をかけてくる。
「液水」
「ん?」
「やっぱりあんたを副委員長に決めてよかった!」
そう言って「へへっ」と笑いながら背中をバシンと叩かれた。結構強めの力だったと思うのだが彼女の笑顔に少し見惚れてあまり思い出せないのは俺だけの秘密だ。
ちなみにあの後、大きい声で「大丈ーー夫‼」と言って非常口みたいな格好になっている奴とまさか顔合わせをすることになるとは思わなかった。