GYAOでスターダストクルセイダース見て何となく思いついたので書いてみたテスト

※ジョジョと賭ケグルイの単発クロスオーバー作品です。もしも二つの作品の世界と年代が同じだったら……という設定でお願いします。
※だいたいタイトル通りの話です。暇つぶしになれば幸いです。

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【スターダストクルセイダース】……ってよォ~~、1987~8年の話って公式で設定されてるってのは、わかる。スゲーよくわかる。
【賭ケグルイ】……ってよォ~~、かなり薄めのスマホが作中で普及してるし、そうなると2015年以降の話ってのは、わかる。スゲーよくわかる。
だが、「その二つがクロス」ってのはどういうことだああ~~~っ!? 一世代分年代が離れてるのにクロスオーバー出来るかっつーのよーーーーーッ! ナメやがってこの作者ァ、超イラつくぜェ~~~ッ!! 2015年つったら、【ストーンオーシャン】より後じゃあねーか! クロスできるもんならやってみやがれってんだ! チクショーーッ!
どういう事だ! どういう事だよッ! クソッ!
ただギャンブル繋がりってだけじゃねぇか! ナメやがってクソッ! クソッ!

 ……ってならない人向けの作品です。

トキノースナヲコエルジャニー


【単発クロス】ダービー・ザ・ギャンブラー その喰

 創立122年を迎える名門校、私立百華王学園は、上流階級・政財界の子女が数多く通う名門校。そこは、圧倒的なギャンブルの腕を持つという生徒会長・桃喰綺羅莉のもと、生徒同士のギャンブルによる階級制度によって支配されていた。

 

 しかし、一人の転校生が現れた事により学園に変化が訪れる。完全なる支配体制を布いていた生徒会長は突如として生徒会を解散、次に生徒会長――実質的な学園の支配者――となる者をギャンブルによって決める事を宣言。学園は欲望と野望が渦巻くギャンブラーの巣窟と化していた――。

 

「ふぅ、今日も終わった……」

 

 そんな学園に籍を置く生徒の一人、鈴井涼太は放課後を知らせる学園のチャイムを聞き流しながら、今日も無事に学園を終えられた事に安堵する。賭博の才が無い彼にとって、現在の学園は空腹の猛獣がいる檻にいるも同然であった。事実として、以前に彼はギャンブルに負けたばかりに、その名の通り『家畜』のような扱いを受けた事もあった。そのために学園を去ろうとも考えた。

 しかし、それを思いとどまらせた存在がいたために彼はここにいる。

 

「今日は一斉下校の日でしたね、鈴井さん。一緒に帰りましょう」

 

 帰宅準備をしていた彼に、さらりとした女性の声がかかる。

 彼女の名は蛇喰夢子。この学園に変革をもたらそうとしている転校生その人であった。転校初日に涼太と知り合い、以後友人関係を結んでいた。

 

「あぁ、そういえば、学園の施設を一部改装工事するんだっけ?」

「今日は放課後のギャンブルが出来ないのが残念です……」

 

 本当に残念そうにしょぼんとした表情を浮かべる夢子に涼太は「相変わらずだね」と半分苦笑いを返す。夢子の方も力を抜いてしまった拍子に、空腹感を覚え、少しだけ恥ずかしそうに軽くお腹に手を当てた。

 

「鈴井さん、ギャンブルの代わりという訳ではありませんが、甘いものでも食べに行きませんか? 少しお腹が空いてしまいました」

「あっ、それなら、この前チョコレートケーキが美味しいカフェを見つけたんだ。どうかな」

「是非お願いします!」

 

 涼太の返答に夢子は嬉しそうに笑い、我が意を得たり、とぱちんと両手を合わせる。そして当然といった様子で、クラスメイトの一人に首を向け、声をかける。

 

「芽亜里さん! 一緒にカフェに行きませんか!」

 

 声をかけられたクラスメイト――早乙女芽亜里は『また絡んできた』と少しだけ面倒くさそうな表情を浮かべながらも夢子の方を振り向く。彼女もまた夢子によって変化をもたらさせれた生徒の一人であり、様々な出来事を踏まえて夢子や涼太と友人(のような)関係を結んでいた。

 芽亜里は二人を見やり、ほんの少しだけ考えてから、首を横に振った。

 

「……やめとく。今日はそういう気分じゃないから」

「そうですか? 残念です」

 

 芽亜里は再び残念そうな表情を浮かべる夢子を一瞥し、最後に『また明日』と手を振る涼太に視線を向け、下校しようと教室の扉に手をかけた。その時、彼女が手を引く前に、がらりと扉が開かれた。

 外側から一歩早く開かれたのだろうと、芽亜里は少し驚く。が、何ともなしに教室に外に出ようとしたその時、彼女の目の前に不気味な白い仮面が現れた。

 

「早乙女」

「うわっ!?」

 

 まるで幽霊のように突然現れた相手に、肝っ玉の強い芽亜里と言えども悲鳴をあげて後ろに飛びのく。……が、すぐに腹立たしいものを見つめる視線で相手を睨みつけた。

 

「だから! いい加減その突然現れるのやめなさいよ!」

「早乙女、この後時間はあるか」

「あんたに割く時間なんて無いっつの!」

「……予定があるのか?」

「えぇそうよ! 鈴井にチョコケーキをおごってもらう予定がね!」

 

 突然の、手のひらを返したような言葉に夢子と涼太はきょとんとしてしまう。そして突如現れた仮面の生徒――副生徒会長を不思議に思いながら、涼太は首をかしげた。

 

「えっ? 早乙女、今行かないって――」

「聞き間違いよ! さぁ行くわよ夢子! 鈴井!」

「まぁ、嬉しいです!」

「え、えぇ……」

 

 どうにも副会長から逃げる口実に使われた、と薄々に感じながらも、涼太はにこにこ顔の夢子とうんざり顔の芽亜里に続いて教室から出て行った。

 

「………………チョコケーキ?」

 

 その場に残された副会長は、その嵐のように去っていった勢いに取り残され、何の事かと一人呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 さて、その三人が目指しているカフェでは、一人の男が一足先にチョコレートケーキをつまんでいた。

 

「ふむ……さて……」

 

 そのチョコレートケーキの味に満足し、男は一息つく。一緒に頼んだ珈琲のかぐわしい香りをキザに楽しみつつ、カフェのテラス席で人の行きかいと街並みを眺める。

 彼の目に映るは日本の午後の風景。平和・安寧といった言葉がまず浮かぶ穏やな光景がそこにある。しかしこの男の並外れた観察眼は、その光景に停滞・閉塞という感想を捉えた。

 

(どいつもこいつもヌケサクのようなアホ面をしやがって……。それだけこの国が平和ということだろうが、だからこそつまらん……。まぁいい。このダービーのカモにしてやるまでよ……)

 

 ワイシャツとベスト、ネクタイをピシッと着こなし、まるで貴族かカジノのディーラーかのような雰囲気を持つ

この男は名をダービーという。彼はつい昨日、仕事の為に遥かエジプトのカイロからやってきたばかりであり、その仕事の前に一息入れているところであった。

 チョコレートケーキと珈琲をしばらく楽しんだところで、ダービーはいよいよ仕事について考えを巡らせる。まず彼の脳裏には、エジプトを旅立つ前の記憶が蘇った。

 

『ダニエル・J・ダービー、そして花京院典明。お前たちにジョースターたちの始末を命ずる。私の期待を裏切ってくれるなよ……』

 

 ダービーは思い出すだけで背筋が凍える心地がした。彼にそう命令した男は百年の眠りから目覚めた吸血鬼であったからだ。心の中心にしのびこんでくるような氷りつく眼ざし、黄金色の頭髪、すきとおるような白いハダ、男とは思えないような妖しい色気……その全てが人ならざる魅力、カリスマとなって多くの悪党を魅了し、配下を増やしていった。

 このダービーもその内の一人であった。そして、この日本にはその悪のカリスマが唯一警戒する存在がいた。ダービーはそれらを抹殺するために日本にやってきたのであった。

 

(花京院は日本に到着した後、勝手に一人で動き出してしまったが、まぁいいだろう。所詮は肉の芽によって操られている哀れな小僧、私の邪魔にならなければそれでいい……)

 

 ダービーは目的を同じくしてともに来日した花京院という男を一瞬思うが、どうでもよい事だとすぐに忘れる。そして自身の旅行鞄から辞書を取り出し、それを何気なく指でめくり続けた。

 

(625……いや、626ページだ……)

 

 今自分の親指が抑えているページを見ずに、ダービーは指先だけの感覚でページを予測する。果たして確認すると、見事に彼の指は626ページを抑えていた。

 

(フフフ……絶好調といった感じだ……。このダービーは生まれついてのギャンブラー、ここに来たのはDIO様の命令だからではない……ただ強い人間と闘うためにここに来たのだ……せいぜい楽しませてもらうぞ、ジョースター……!)

 

 ダービーはこれから始まるであろう闘いに期待し、ニヤリと微笑みを溢す。しかし、ギャンブラーとして生計を立てている彼にはまず、先立つものが必要であった。具体的に言えば、ジョースターを探し出すための交通費である。

 

(私の幽波紋(スタンド)を以てすればジョースターを倒す事など容易い。花京院に遅れを取る事など決してない……。まずは準備運動がてら、この国のトンチキ共から金を巻き上げてやるとするか)

 

 ダービーはそう決めて、自分の座っているテラス席の卓にトランプやらチップやらを置き始めた。そんな彼の姿は日本の日常からは何ともかけ離れており、否が応でも人目を引いた。しかし、どこかよく様になっている姿から、誰もヤジを飛ばしたりはしない。むしろ興味津々とばかりに寄って来る者もいた。

 そんなカモにダービーはふっ、と口元を緩ませ、スカした態度で声をかける。

 

「そこの方、一つ私と賭けでもしませんか? ……おっと、この国では賭博は禁止だったね。では、賭け事ゲーム、そう、ただの、賭けのあるゲームでもしませんか? 麻雀、バックギャモン、サイコロもスリルがあっていいぞ……フッフッフ……」

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、満席だなぁ」

「とても人気のお店なんですね」

 

 一方、夢子たち三人も涼太の案内で件のカフェに到着した。しかし午後という事もあってか、彼らが到着した頃には既に満席状態になっていた。これではチョコレートケーキどころか中に入る事も出来ないと、三人は困った表情を浮かべる。

 そんな夢子らに、テラス席に優雅に座り込む男――ダービーが声をかけた。

 

「そこのお嬢さんたち、ここに入りたいのかな?」

「えぇ、ここのチョコレートケーキが絶品だと聞きまして!」

 

 突然見知らぬ相手に話しかけられた事に涼太と芽亜里は不審に思いお互い顔を見合わせる。しかし夢子は何とも気にせずにダービーに返事を返し、彼もその返答に満足気に頷く。

 

(学生のわりにはいい身なりをしている。どこぞの金持ちの子息か。これはまたいいカモが現れたものだ……。それに……)

 

 ダービーは一瞬、悟られないほどに夢子の全身を見やる。

 

(なかなか美しい娘じゃないか……私のコレクションの片隅に加えるには丁度いい……。)

 

 ダービーは一呼吸入れ、改めて表情を引き締める。そして夢子たちに一段階真面目なトーンで返事を返した。

 

「まさしくここのチョコレートケーキは良い味だったよ。君たちもそれを食べにきたが、しかし、席が空いていない。だから君たちは困っている」

「えぇ、その通りなんです」

「では、一つ賭けでもしないかね? 賭けで君たちが勝ったら、私の席を譲ろうじゃあないか」

「まぁ!」

 

 【賭け】という言葉に夢子は喜色を浮かべ、すぐにでも首を縦に振ろうとするが、それを芽亜里が肩を掴んで止める。

 

「待ちなさい! 何でどこの誰とも知らないおっさんとギャンブルできるのよ!」

「そうだよ夢子! こんな見るからに怪しそうな相手とギャンブルする事ないって! 別の店を探そう!」

 

 芽亜里に続いて涼太も首を横に振るが、夢子は不満そうな表情を浮かべる。ダービーはつまらなそうに眉を落とし、わざと芽亜里の方を向いて言葉を続けた。

 

「まぁまぁ、そう邪見にせずに……。金髪のあなた、賭け事は好きですか?」

「は?」

 

 何の事かと芽亜里は一層警戒した表情でダービーを睨む。その視線をものともせずにダービーはさらに言葉を続けた。

 

「わたしは賭け事が大好きでね。くだらないスリルに目がなくってやみつきでして……。ま、大方はギャンブルで生活費を稼いでいるのですよ」

「あっそ。どこかで聞いたような話ね」

 

 またこの手の人種か、と芽亜里は目の前にいる夢子を見やる。当の彼女は何の事か、と首を傾げるだけであったが。

 

「この国ではいわゆるギャンブルというものは法律で禁じられている。だからこれはただの賭けゲームさ……。しかし、ゲームとはいえ何だって賭けは成立するものですよ……。例えば、ほうら、あそこにハトがいますよねェ」

 

 ダービーはそう言いながら、ナッツの欠片を二つ、路上で鳴いているハトの傍に投げた。

 

「右のナッツと左のナッツ、どちらが先にハトが食いつくか賭けようじゃありませんか。あなたが勝てばこの席をあなた方に譲りましょう」

 

 ドォンと迫力のある宣言を受け、芽亜里はその思いもよらぬほど強い迫力にぐっと体に力を入れてしまう。だがしかし、芽亜里とてギャンブルの坩堝・百花王学園で戦い抜いて来た歴戦のギャンブラー、そう簡単に怖気づきはしない。逆に少し煽り返すような態度で首を横に振った。

 

「ふん、お断りよ。あんたみたいな怪しい相手とギャンブルなんか出来るかっつの」

「おや、怖気づいたのですか? 口ぶりのわりには小心者なのですね。その貧相な胸と同じように」

 

 ダービーは小馬鹿にするような笑みと共にそう言う。すると芽亜里は目をかっ開き、ずかずかとダービーのテーブルの前までのし歩き、怒りを露わにするようにバン、とテーブルを叩いた!

 

「……下手な挑発だけど、乗ってあげるわよおっさん。あんたが負けたらここのメニュー片っ端から全部奢ってもらうから……!」

「おい早乙女、落ち着けって――」

「うっさい!」

 

 どうにも逆鱗に触れてしまったようだ、と涼太は制止を諦め、心配そうに眉根を顰める。同時に夢子が何ともいい笑顔を浮かべている事にも気が付き、どうにもおかしな流れになってきた、と緊張を隠せずにいた。

 

「いいでしょう。あなたの名前は?」

「早乙女芽亜里」

「結構、ミス・メアリー。わたしはこのゲームにこの座席と、あなたたちの勘定の支払いを賭けましょう」

「二言は言わせないわよ。一応聞いてあげるけど、私は何を賭ければいいかしら? あなたの勘定?」

「いえいえ、あなたから金銭を揺すったり、弱みを握ったりする気はありません。ただ……あなたの『魂を賭けて』もらいます」

「は……?」

 

 何を言っているんだこいつは、と芽亜里は今日何度目になるかも分からない戸惑いの声をもらす。そんな彼女にダービーは考える隙を作らせないように、すかさず言葉を続けた。

 

「あなたにはそこまでの度胸はありませんかな? そうであれば、このゲームは無かった事にして下さい」

 

 ダービーに再び胸の辺りを見られた芽亜里は一層に怒りに火が付き、彼に反発するようにドンと胸を反らした。

 

「いいわ……賭けてやろうじゃない、私の魂を!」

「――――グッド」

 

 それは、ダービーにとっての勝負の合図。彼の特殊能力の発動条件を満たす呪いの言の葉。ダービーもまた目を見開き、気分を高揚させ、少し声を張って相槌を打った。

 

「あたしは左のナッツに食いつくのに賭ける!」

「では、私は右だ」

 

 宣言を終え、二人の視線はそのハトに向かう。すると丁度、群れの中の一匹が投げられたナッツに気が付き、どてどてと地面を歩いてナッツに近づいてきた。

 そしてハトは何とも無しに右のナッツ――ダービーが賭けた方に嘴を向けた――!

 

「まずい! 右の方へ行ってしまう!」

 

 涼太が思わず声を荒げる。ダービーはやはりただ不気味に微笑みを浮かべ、勝負はついたとばかりに芽亜里を首を向ける。

 

「フフ……ついていなかったねミス・メアリー。相手が悪かったな」

「それは! どうかしら!」

 

 ここで芽亜里が動く。彼女はおもむろにテーブル上の、ナッツが入っていたグラスをひったくるように取り、それをハトの目の前めがけて放り投げた!

 グラスは彼女にスイングされ、見事にハトの目の前の地面で砕け散る。多少の破砕音が響き、その拍子にハトは驚き、目の前のナッツを無視して飛び退いた!

 

(こちらからの妨害を禁止しないなんて馬鹿なオッサンだ! こんなゲーム、相手のナッツを啄むのを妨害していれば勝てる! あたしを鈴井みたいな単純な人間だと侮ったオッサンの負けよ!)

 

 芽亜里は口元を歪め、勝ちを確信する。その後ろで、ダービーがさらに笑みを深くしている事に気が付かずに。

 

「私の賭けたナッツを啄ませないようにすればいいだけ。そう思っているんだろう?」

 

 その呟きに、夢子の視線がきらりと光り、ダービーに向けられた。果たして、夢子の瞳には、まるで負けるとは思っていないダービーの静かな笑みが映っていた。

 

「――違うんだなぁ、それが」

 

 ダービーが静かにそう語ると同時に、飛び退いたハトはすぐに再び元の位置まで戻る。そして、すかさずに右のナッツを啄んだ――!

 

「な――――!?」

 

 その余りにも早く、不自然なほど利口なハトの挙動に芽亜里の反応が遅れた。彼女がハッとした時には時すでに遅く、ハトはダービーの賭けた右のナッツの欠片を丸のみしてしまっていた。

 

「だから言っただろう。相手が悪かったな、とね。賭けは私の勝ちだ。ミス・メアリー」

「そん、な、あり得ない! 野生のハトがあんな、不自然に……!」

 

 芽亜里は驚きと敗北の衝撃とで気を遠くする。しかしそれだけではない。彼女は本当に目の前が真っ暗になり、体から魂が抜け落ちてゆくような心地を覚えてしまう。

 同時に、ハトは左のナッツの欠片をも飲み込み、慣れた動作でダービーの肩に止まった。それを見て、芽亜里と涼太は全てを理解してしまった。

 

「まさか……あんた……!」

「あぁ、ところでこのハトは先ほどまで私が躾ていたヤツでしてね」

「ふ、ふざけるな! そんなのイカサマじゃないか!!」

 

 何とも無しに惚けた口調で言うダービーに涼太は思わず叫ぶ。しかしダービーはそれに対し、逆に毅然とした態度で睨みを返した。

 

「イカサマ? いいですか、イカサマを見抜けなかったのは見抜けない人間の敗北なのです。わたしはね、賭けとは人間関係と同じ……だましあいの関係と考えています。泣いた人間の敗北なのですよ」

 

 またこの手の人種か、と涼太は悔しさと怒りに握り拳を作る。夢子はただ、今の一連の流れを静かに眺めていた。その赤い瞳を爛々と輝かせ、じっと見つめていた。

 

「では賭けを払ってもらおう、ミス・メアリー」

「えっ――」

「あなた、賭けましたよねェ。そう、魂を――!」

 

 瞬間、ダービーの背後から異形の影が現れる! 魔物のような、妖怪のようなその人型の影は幽波紋(スタンド)と呼ばれる、一部の人間だけが見て感じる事の出来る特殊能力である! 彼のスタンドは冥界の神を暗示するオシリス神! ギャンブルに負けた相手の魂を目に見えるチップとして取り出してしまう能力を持っていた!

 オシリス神は容赦なく芽亜里の魂を抜き取り、まるで小麦でもこねるかのように整形した後、パチン、とそれを両手で潰す。すると、掌から一枚のチップがダービーの目の前に落ちてきた。そのチップはちょうど、芽亜里の髪のような明るい金色をしていた。

 

「鈴井……! 夢、子……!?」

「早乙女? ――早乙女!?」

 

 今のオシリス神の一連の流れは、スタンド能力を持たない夢子や涼太には全く感じる事も出来ず、そしてそのまま、芽亜里はまるで貧血でも起こしたかのように全身を脱力させて倒れこんでしまった。突然の事態に涼太は倒れる彼女を抱きかかえる。そこで彼女の呼吸が止まっている事に気が付き、全身が嫌な予感に打ち震えた。

 

「まずいっ! 早乙女、息をしていない! 夢子、救急車を――」

 

 呼んでくれ――そう叫ぼうとした矢先、涼太は絶句する。彼が目にしたのは、ダービーの対面の席に自ら座る夢子の姿があったからだ。

 だがこれにはダービーの方もまた予想外であり、少し驚いていた。

 

「……ほう、逃げずに向かって来ますか。今のわたしを見て恐れずに向かってくるとはなかなか肝の据わったお嬢さんだ」

「見事なお手並みでした。えぇと……」

「おっと失礼、申し遅れた。わたしの名はダービー。D'.A.R.B.Y。Dの上にダッシュがつく……。ミス・メアリーは私との賭けに負けた。したがって魂は彼女の元から去った」

「魂……ですか。私は見たことありませんので、本当に魂というものがあるのかも分かりませんが……もし魂というものがあるとして、それが身体から去ったのならば、いったいどこに行ってしまったのでしょう」

「さて、どこだろうね。天国かもしれない。地獄かもしれない。はたまた……このチップの中にあるのかもしれない……」

 

 ダービーはその金色のチップを目の前に見せながら惚けて言う。スタンドを知覚出来ない夢子に真実を話す必要は無く、話したとしてもとんだ与太話にしか聞こえないだろうからだ。

 しかしどちらにしろ現在、夢子と涼太にとってはあまりに非現実的な状況であり、とても看過できることではない事もまた事実であった。

 

(とりあえず救急車は呼んだけど……、救急車が来るまでには十分もかかる……! 人はそんなに呼吸を停止させていて大丈夫なんだろうか……!)

 

 携帯電話で救急車を呼び終えた涼太は、芽亜里をそっと夢子の隣の椅子に座らせて思う。

 涼太たちも、ギャンブルの最中に意識不明となり倒れる、といった事態は以前に一度経験している。その時に倒れたのは夢子であり、それはギャンブルの相手に毒を盛られたためだった。

 

(でも、今回はまるで分からない……! 早乙女とあのダービーって人は指一本触れていない。だから毒のせいで倒れたとは考えられない……! じゃあ、何で早乙女は突然倒れた……?)

 

 涼太はこれまでにないほど強烈な不信感を抱くが、夢子は相変わらず涼しそうな表情でダービーに相対していた。

 

「この世の全てのものには始まりと終わりがある。人生の中に生死があるように……人間関係に出会いと別れがあるように……。ならば賭けの中にだって生死があっても当然……そうは思わないかね。……まだ君の名前を聞いていなかったね」

「蛇喰夢子と申します。ダービーさん」

「オーライ、ミス・夢子。もし君がミス・メアリーの魂を今一度欲するのならば、それはわたしとゲームをする以外に手段はない。だが、ギャンブルをするからには当然、君にも魂を賭けてもらう。さて、君はこのわたしとの賭けゲームを望むかね?」

 

 例え何があろうとも決して負けんがね、とダービーは心の中でほくそ笑んで言う。涼太は事態がいつもの方向へ向いている事に思わず奇妙な表情を浮かべた。ダービーは知らない。自分が誰にギャンブルを持ち掛けているのかを。それの意味を分かっているのは、意識のない芽亜里を除き、この涼太のみであるからだ。

 

(ゲーム、なんて言葉の綾だ。これは正真正銘のギャンブル! 魂を賭けるなんてあまりにも理解を越えているけれど、今の早乙女を見れば……もしかしたら本当に……って思えてくる……! だけど夢子はそんな事でギャンブルを止める訳がない。だって、彼女は――!)

 

 涼太が緊迫した心地でいる最中、夢子はほんの小さく、しかし滾っているかのように熱い吐息を吐き、ダービーを見据えて返事をした。

 

「賭けを望むか、ですか……。フフ……フフフ……! えぇ、えぇ! もちろん喜んで! 私の魂を賭けましょう!!」

 

 

 

 

アイキャッチ

【STAND MASTER】ダニエル・J・ダービー

【STAND NAME】オシリス神

【STATUS】破壊力:E スピード:D 射程距離:D 持続力:C 精密動作性:D 成長性:D

 

 

 

 

「グッド! 楽しくなってきた。ミス・メアリーの時はわたしがギャンブルを決めた。次は君がギャンブルを決めて構わんよ」

「そうですね……。私もお腹が空いてきてしまったので、手軽に出来るものがいいですね……。ダービーさん、トランプはお持ちですか?」

「もちろん」

 

 ダービーは自身の荷物の中からトランプを取り出し見せる。すると夢子は楽しそうに微笑みを返した。

 

「ではポーカーで勝負しましょう!」

「いいでしょう」

 

 ダービーは努めて冷静な声音でそう返事した。しかし内心ではほの暗い喜びが渦巻き、それを何とか抑えるのに精一杯であった。

 

(間抜けめ……ポーカーはこのダービーが最も得意とするゲーム! わたしの勝利は確定したようなものだ……! どのみちメアリーは趣味ではないので返してやるが、夢子、お前は我がコレクションに加えてやる……この私に軽率にギャンブルを挑んだ事を後悔させながらチップにしてやる……!)

 

 ダービーはオシリス神で芽亜里のチップを六枚に増やす。さら荷物から真っ白なチップを六枚取り出し、それを夢子へと渡した。

 

「それが君の持ち分だ。そのチップを全て私が奪った時、君の敗北となる。わたしはこの金色のチップを賭けよう。わたしのチップを君が全て取った時、ミス・メアリーの意識は戻るだろう」

 

 最もそれが出来ればの話だが、とダービーは最後に付け加え、そのチップを一枚、テーブルの中心の放り投げた。

 

「ゲームスタートだ。まず私はこの黄金のチップを一枚ベットする」

 

 それに倣い、夢子も自分に与えられた無地のチップを一枚投げる。

 ダービーはベットを確認するとトランプのセキュリティシールを切り、カード取り出し、それをゆっくりとした手つきでシャッフルする。その間にもダービーの脳裏にはどのトランプがどの位置にあるのかが正確に把握できていた。

 

「ではディールをしよう。私へ」

 

 ダービーはシャッフルをし終えた山札をまず一枚、自分の方へ裏側で落とした。

 

「夢子へ」

 

 次に夢子の方へ一枚目を裏側で投げる。

 

「私へ」「夢子へ」

 

 それを五回繰り返し、お互いの手札が五枚となった。ここからがポーカーの本当の始まりである。

 涼太は恐る恐る夢子の後ろへと近づき、彼女の手札を覗く。

 

「――――っ!?」

 

 夢子の手札に衝撃を受け、涼太は思わず息を飲む。彼女の手札はダイヤのQ、ハートの9、ハートの2、スペードの5、クラブの7……つまるところ、おおよそ役が揃えられそうにないブタと呼ばれる手札であったからだ。

 

(なんて運が悪い……! 役が出来ないまでも、近い数字も同一の絵柄もほとんど無いなんて……!)

 

 涼太は頭を抱えたくなるが、ダービーに悟られまいと必死に表情を保つ。

 ポーカーは決められた役を手札で作り勝負するゲームである。同じ絵柄、連続する数字など、共通点のあるカードを揃えていく必要がある。しかし、手札の交換は一度のみであり、それで目当てのカードが来る確率はほぼ期待出来ないほどに低い。ポーカーは初手の手札で決まる運の強いゲームでもある。

 

(魂を賭けるだとか、取り戻すにはギャンブルしかないだとか、このダービーって人、明らかにまともじゃない! 百喰家の人たちと同じ……もしくはそれ以上の、尋常じゃない何ががある気がする……! これはあまりにも危険だ。いつものギャンブルとは何かが違う……! 早乙女も目を覚まさないし……くそ、分からない事が多すぎる……!)

 

 涼太の心配を察しつつも、夢子はその恐ろしささえ見える赤い瞳でじっと一点を見つめる。目線の先は自分の最悪の手札ではない。どこか食えぬ笑みを浮かべているダービーその人にあった。

 

「このご時世に賭け事で生計を立てていらっしゃるとは、素敵ですね。ダービー・ザ・ギャンブラーと言ったところでしょうか」

「そういうあなたはどこかこういう事に手慣れている様子ですね。日本人は賭け事にいい顔をしないと思っていましたがね」

「えぇ、私も好きなんです。賭け事のスリルが」

 

 ……何だ、こいつは。

 ダービーはここでようやく目の前の美女へ言葉にし難い違和感を覚えた。彼の観察眼はようやく蛇喰夢子という人間の正体を正しく掴み始める。だからこそダービーは困惑した。

 

(ハッタリではない……こいつ、本当に今の状況を楽しんでいる……!)

 

 ことギャンブルにおいては歴戦の猛者であるダービーもこのような相手は初めてであった。まさか、負けるかもしれないというスリルを本気で楽しみ、あまつさえ笑みさえ浮かべるほど余裕のある相手が、こんな自分の半分ほどの年齢しかない学生だったとは、と。

 

(大した度胸だ……。だが、そうでなければわたしも面白くない)

「ではダービーさん、レイズなさいますか?」

「無論。わたしはあと二枚レイズだ」

 

 ダービーはさらに金のチップを二枚放り投げる。これでダービーの賭け金は三枚となった。それは、早乙女芽亜里の魂のちょうど半分の重さであった。

 

「次は君の番だ。コールするかね? それとも、ドロップするかね?」

 

 ダービーはまだまだ余裕のある表情で、夢子の赤い宝玉のような瞳に聞き返す。まるで挑発するような態度であったため、涼太はばつが悪そうに眉をしかめた。

 

(夢子の手札じゃ、例え手札をチェンジしたとしても勝ち目は薄い……。ここは下りるしかない……。賭け金一枚は取られるけれど、コールして三枚取られるよりはずっとましだ……!)

「コールします」

 

 馬鹿な――!

 涼太はダービーと同じように合計三枚のチップをベットした夢子に戦慄する。夢子は賭け事のスリルを味わう事はあっても、自滅行為はしない……涼太はそう思っていたからだ。

 

(いや、違う……。夢子は何かを探っている……?)

 

 夢子にとってあり得ない行為――だからこそ、涼太はすぐに落ち着きを取り戻す事が出来た。彼はそのコールが勝ちへの布石と信じ、再び視線をダービーに戻す。

 

「結構。私は一枚チェンジだ」

 

 掛け金の上乗せが終わったところで、お互いの手札の交換が始まる。ダービーは手札から一枚を捨て、山札から一枚をドローした。そして夢子は――。

 

「五枚チェンジします」

 

 なんと手札の全てを捨て、新たに山札から五枚を引いた。それは相手に『自分はブタでした』と伝えるようなものであり、まるでポーカーを覚えたての素人がやるようなプレイングだからだ。涼太は当然いい気分はしないものの、仕方ない事だとぐっと溜飲を下げる。

 

(ブタである以上、こうするしかない……。だけど……)

 

 涼太は再び夢子の手札を確認する。そして彼は再び心臓が止まりそうなほどの衝撃を受けた。

 

(ハートのエース、ハートの10、ダイヤの6、ダイヤの8、クラブのJ……! またブタだ……!)

 

 交換した先のカードですら、役の無いブタの組み合わせであった。ポーカーでは不自然な事ではないとはいえ、あまりの不運に涼太も首を背ける。

 

「手札を全て交換とは、また大胆な事をするねェ。今度はいいカードは引けたかい、夢子。さぁ、勝負手だ」

「………………」

 

 ダービーは余裕綽々で、夢子は無言のまま、お互いに手札を公開する。

 ダービーの手はダイヤのJ、ハートのJ、クラブの4、スペードの4、クラブのK……ツーペアの役であった。

 

「おやおや、交換した先もブタだったようだね。よくコールする度胸があったものだ。だが、君の負けだ」

 

 ダービーはそう言いながら、夢子の無地のチップをかっさらうように腕で寄せた。これで夢子の持つチップはあと三枚。もうほとんど後がない事に、涼太は歯がゆそうに唇を引き結んだ。

 

「ネクストゲームです、ダービーさん」

「おやおや、むきになっているのですか? ですが、私はあなたが素人であろうと手加減はしませんよ?」

 

 しかし夢子は気にせずに再び自分のチップを一枚ベットする。ダービーはふっ、と不敵に笑い、今取ったばかりの夢子のチップを一枚ベットする。

 

(馬鹿なガキ共め! 私がシャッフルの時に山札を操作していたとも気が付かずにまた勝負を仕掛けてきた! 間抜けめ、やはりこいつらはズブの素人だ……! 夢子の胆力に少しばかり驚かされたが、所詮はギャンブルを知らないガキだ! 次で仕留めてやる!)

 

 ダービーは手ごたえのなさに多少物足りなさを感じつつも、再びトランプをシャッフルする。そして、一度目と同じようにディールを始めた。

 

「私に」

 

 ダービーが自分へ一枚落とし、

 

「夢子に」

 

 その後、夢子に一枚落とす。

 

「私に――――」

 

 二枚目をダービーが自分に落と――――そうとしたその時、夢子の腕が素早く伸びて、ダービーの指を掴んだ! 夢子らしからぬ行動に涼太も何があったのかと驚く。

 

「夢子!?」

「――セカンドディール。お見事な腕前です。二度見なければ気がつけませんでした」

「く……!」

 

 夢子の視線が、ダービーの配っていた山札に注がれれる。そこには、一番上ではないところからカードが出かかっており、そのカードをダービーの指がつまんでいた。涼太はここで、一度目の敗北の真相を即座に理解した。

 

「まさか、さっきもこのイカサマを……!」

「えぇ。セカンドディールだけではありません。ダービーさんはおそらく、シャッフルした山札の順番全てを記憶出来ている。そして私の手札で決して役にならない組み合わせを作っていた……。恐ろしいほどのカード捌きです。ですが、見抜いてしまった以上、イカサマは使わせません」

「ちっ……、油断したか」

 

 夢子の言葉を肯定するように、ダービーは苦い表情でディールを止め、トランプを置く。そして彼の方も全てを察した。夢子がブタであってもコールし、むきになっているようにゲームを続けていたのは自分を謀るためであったのだ、と。

 

「二度目で見破ったのは君が初めてだ。イカサマを見破られたのはわたしの落ち度……この屈辱は甘んじて受け入れよう……。そして、わたしは君の認識を改めなければならないようだ。……このダービー、ギャンブラーとして全力でお前を倒すと宣言しよう」

「そうでなければ面白くありません。……鈴井さん、お手数ですがディーラーをお願い出来ますか?」

「わ、分かった」

 

 夢子とダービーの精神力が高まってゆく。その緊迫した空気の中、涼太は先ほどまでダービーがシャッフルしていたトランプを手に取る。

 

(見たところ、カードそのものにイカサマをしてはいないようだ。それだけこの人は自信があるんだ。自分の技術に……)

「さぁ、早く配れ小僧。言っておくが、私の眼を欺いてイカサマをし返そうなどと思わない事だ」

「鈴井さん、普通に配って構いません。ただしシャッフル中、ダービーさんにカードの裏以外が見えない角度でお願いしますね」

 

 涼太は夢子に頷きを返し、ダービーに見えないように角度をつけながら、至って普通に山札をシャッフルした。そしてダービーと夢子にそれぞれ五枚ずつ手札を配る。

 

(頼む、夢子に良い手札が行ってくれ……!)

 

 涼太はそう祈りながらディールを終えた。そしてダービーと夢子はお互いの手札を確認する。

 

(これは……!)

 

 まずダービーが自分の手札に驚く。彼の手札にあるはスペードのエース、ダイヤのエース、ハートのエース、クラブのQ、クラブのJであった。既にスリーカードが完成されている、かなり強力な組み合わせであった。

 

(クククク……! どうやら天運すらもこのダービーに味方しているようだ……! 夢子……生意気にも手こずらせてくれたものだ……このゲーム、お前の人生のファイナルゲームとなりそうだな……!)

 

 ダービーは己の強運に思わず笑みが零れそうになるが、それをポーカーフェイスで抑える。

 対して、夢子もまた読ませない表情で手元のカードに視線を落としていた。そのカードが果たしてダービーに勝ちうるものであるのか、それは涼太にすら分からず、涼太は生唾を一度飲んだ。

 

「さぁ夢子、好きな枚数レイズしたまえ。と言っても、君に残されたチップはあと三枚しかないがね……」

 

 今回は先のゲームで敗北した夢子からレイズの権利を与える。しかし夢子は目元にほの暗い光を映し、ダービーとは真逆の、鎮静的な態度で改めてダービーを向いた。

 

「ダービーさん、私はあなたとの出会いにとても感謝しています。あなたは真のギャンブラーです。そんな強いあなたと戦えて、私の身体は歓喜に打ち震えています」

 

 そう言いながら、夢子は言葉の通り身を震わせ、瞳に熱が入り始める。吐息に甘い声が混ざり、額に汗が滲み始めた。

 

「まさに運命の出会い……! あなたほどの相手とこうしてポーカーができるなんて、この先二度も無いでしょうね……」

「……何の話だ?」

「だからこそ楽しみたい、最後の最後まで……! 悔いの残らない一戦にしたい……! この勝負を余すことなく味わいたい……!」

「何の話をしている、と聞いているッ!」

「あなたとの勝負をただのゲームで終わらせるには惜しいと言う事です!」

 

 感情の高ぶりを抑えきれなくなってきた夢子は声を荒げ、ダービーに歌うように語りかける。その気迫に思わずダービーも絶句してしまい、涼太は『やっぱりこうなった』と頭を抱えた。

 

「あなたとの勝負をただのゲームで終わらせるにはあまりにも勿体ない……! そう、やはり、ゲームではなく、ギャンブル(・・・・・)でなければ、この機会を味わいつくしたとは言えない! お互いが平等にリスクを負ってこそ、最高のギャンブル! ダービーさん、あなたも賭けて下さいませんか……! ――そう、あなたの魂(・・・・・)を!」

「!? わ……、わたしの魂をだとォッ!?」

 

 ここで初めてダービーは手が汗ばみ始めた事に気が付いた。それはつまり、自分が夢子に対し恐れを抱き始めている、という事に他ならないからである。

 

「鈴井さん……あなたの魂を私に賭けて下さいませんか?」

 

 そこで唐突に夢子は涼太に視線を向ける。勝負の興奮に蕩け始めた彼女の表情を見て、涼太は彼女の全てを察し、覚悟を決めた。

 

「……それで、早乙女が助けられるなら!」

「ありがとうございます!」

 

 それでは、と夢子は使われていない無地のチップを新たに六枚取り、それと自分の魂の三枚分を自分のレイズとした。

 

「ベット! 私の魂、そして、鈴井さんの魂も賭けましょう!」

 

 

 

 

「な――――!?」

 

 ダービーは驚愕の表情を浮かべ、テーブルの中央にレイズされた無地のチップ合計九枚を刮目して目に入れた。まさか夢子の方から先にファイナルゲームを仕掛けてくるとは思わなかったからである!

 これでダービーは先ほど奪った夢子のチップ三枚と、芽亜里のチップ六枚分とを強制的に賭けさせられる事になる。そうしなければダービーは勝負すら出来ないからだ。そのような真似を彼が許すはずが無かったッ!

 

「……いいだろう。受けてたとう蛇喰夢子! このダービーの辞書に、こと賭け引きにおいて逃げの二文字はない! コールだ!」

 

 ダービーは夢子を睨み返しながら、夢子と芽亜里とチップ合計九枚をテーブルの中央に叩きつける! 鬼気迫る闘志を見せるダービーを見て、夢子はさらに体の熱を高めてゆくッ!

 

「あぁっ、いい……! ダービーさん……あなたは素晴らしいギャンブラーです……!」

「こいつ……!」

 

 イカれてやがるのか……!

 自身とその友人の破滅がかかったこの土壇場で恍惚の笑みを浮かべる夢子に、ダービーは初めて恐怖を覚えた。それは、理解が及ばない存在を相手にしている恐怖であった。人とは恐怖を感じる生き物である。この【恐怖】は人間の証であり、それを克服出来た時、その人物は人間を超越する事に他ならない。

 ダービーはスタンドという超越的な能力を持ってこそいるが! しかし! あくまでその魂は今だ人間! 彼には恐怖が存在し、ギャンブラーにとって恐怖とは、まさしく天敵となり得る感情である!

 

「Go ahead! 蛇喰夢子! さっさと手札をチェンジしろ!」

 

 己が恐怖している事に気が付いたダービーは努めて冷静でいようとしながらも、どうしても声を荒げてしまう。そんなダービーに対し、夢子は口元を歪ませて答えた。

 

「いいえ、このままで結構(・・・・・・・)です」

「な、何だとッ!?」

 

 予想外の答えにダービーは思わず立ち上がって声を荒げる。夢子の答えはつまり、ディールされたままの手札で勝負し、勝つ自信がある、という事に他ならないからである!

 

「ふざけているのか蛇喰夢子! もう一度言うッ! 手札をチェンジしろ!」

「このままでいい、と申し上げました。そして……」

 

 夢子は夢心地な表情のまま、もう一度使われていない無地のチップ六枚を手に取り、テーブルの中央に積み上げた!

 

「レイズ! 私の姉の魂を賭けましょう!」

「な――なにィーーーーーーッ!?」

 

 さらに一人分積み上げられたチップの塔を見て、ダービーは恐怖をさらに大きくした!

 夢子の怒涛の攻勢に、ダービーの焦りは止まらない。まさか、自分がその台詞を言わされるとは夢にも思わなかったと、ダービーは己の中の恐怖と焦燥をさらに掻き立てられる。

 

「さぁ、これであなたの魂も賭けられますよね?」

(このガキめ! 調子に乗るなよ……、ノーチェンジでこのダービーの手札を崩せるものか! 大方、また手札が弱いためにハッタリでこのわたしをビビらせようと考えたのだろう。馬鹿な女め、そういうのを浅知恵と言うのだ!)

 

 しかしダービーも、これまでに培ってきたギャンブラーとしてのプライドが勝負師の理性を取り戻させる。そしてダービーは己の手札からクラブのJのみを捨てた。

 

「小僧ッ! 私は一枚チェンジだ! さっさと寄越せ!」

「は、はい」

 

 ダービーの怒号を聞き、涼太は山札から一枚をダービーに渡す。その一枚は……果たして、クラブのエースであった――!

 

(エースのフォーカードが成った! これに勝てる役はストレートフラッシュとロイヤルストレートフラッシュのみ! 私の勝ちはも同然だッ! やはり天運はこのダービーに味方しているッ! ここまでだ蛇喰夢子ッ! わたしの魂でもなんでもかけてやろう! 何故ならば私は勝利するからだ! コールだ! お前たちの魂、このダービーが根こそぎいただ――)

 

 強力な手札にダービーは喜びと共に再び落ち着きを取り戻しかけたその時、夢子が再び口を開く。

 

「いいだろう夢子! わたしの魂を賭け――――」

「私には分かります。あなたと私は同じタイプ(・・・・・)の人間。この勝負には、本当に魂が賭けられている」

「よ――――――――――――――……な――に…………?」

 

 勝利の確信を持って宣言をしようとしたその時、聞き捨てならない言葉がダービーの耳に届いた。戦慄の悪寒がダービーの背筋を這いあがる。今、こいつは何と言った、と!

 

「負ければ魂が消え去る! あぁ、こんなリスク私一人で味わうには勿体ない! そう、ゲームのまま(・・・・・・)ではあなたの魂が賭けられない! 私はこの極上のスリルを独り占めしてしまう!」

「同じタイプ……! 同じ人間だとォーーッ!?」

「ですが、これでリスクの共有はなされました……! 【ゲーム】は既に、【ギャンブル】へと変わっているのですから!」

「クゥッ……! ヌゥゥゥゥッ……!」

 

 ダービーの呼吸が乱れる。夢子の言葉、態度、表情……その何もかもが理解を越えており、まるで宇宙人を相手しているかのような、ともすれば自分が行っているのはギャンブルですらないような錯覚に陥る。

 

(わ、分からないィィィ~~~~ッ! 何故そんな『良かれと思って』とでも思っていそうな表情でリスクを語っている!? 何故この土壇場で奴は笑っていられる!? 何故……死の崖っぷちにいるにも関わらず、あまつさえ昂っているッ!? 火事場の馬鹿力だとか、死を前にしてハイになっているだとか、そんなものじゃあ断じてない! ヤツは……蛇喰夢子は全く心の底から(・・・・・・・)この状況を楽しんでいるッ!)

 

 ダービーとて、敗北の瞬間を前にして感情を昂らせる相手にはこれまでに何度も出会った。恐怖に泣き叫ぶ者、気丈に笑みを浮かべる者、絶望にひれ伏す者、そういう者達をこれまでにチップにしてきた。

 だが! リスクを前に喜ぶ者とは出会った事がなかった! 恐怖で理性が飛んでいるならばまだ理解が出来た。だが、この蛇喰夢子はそうではないと、ダービーの観察眼は見抜いた! 理解出来てしまった! この女は、信じられない事に、素でスリルを喜べる性格なのであると、正しく認識できてしまった!

 

「ハァッ……! ハァッ……!」

 

 認識出来てしまったからこそ、ダービーは呼吸が乱れるほどの恐怖を覚えた! ダービーは夢子を目端の利くギャンブラーだと再認識していたが、それもまた誤解! この女はそんな甘っちょろい人間ではないと、遅すぎるもようやく気が付いた!

 

(奴は今、同じタイプ(・・・・・)の人間と言った……! そして私に魂を賭けさせた……! まさか、まさかッ……! 夢子も私やテレンスと同じタイプのスタンド使いだとでも言うのかッ……!)

 

 ダービーは真偽を確かめんと夢子を睨む。しかし、この場の形勢は既に逆転していた。ダービーは夢子の言葉の真意を見抜くだけの余裕を失い、夢子はこの土壇場にさらに調子を上げてゆく。

 

「申し訳ありません。思わず昂ってお言葉を聞き逃してしまいました。ダービーさん、もう一度仰っていただけますか? ――魂を賭ける、と」

(ヒィィィ~~~~ッ! やはり分かっている(・・・・・・)ッ! わたしと同じだッ! この女の精神力ならば、スタンド能力が発現していてもおかしくないッ!)

 

 ダービーはさらに呼吸を乱し、手札がひじゃけるほど強く拳を握りしめ、恐怖に耐える。

 

(ギャンブラーはスリルとリスクを楽しむのではない! それはあくまで通過点! それを過ぎた先にある勝利を楽しむのだ! だが、こいつはスリルそのものを楽しんでいるッ! 貴様はギャンブラーでも何でもない! だが!)

 

 しかしそこでダービーは恐怖に竦む精神をなんとかギリギリ持ちこたえさせる。スタンド能力があったところで何だ。スリルに恐怖しないイカれた女だろうがどうした。勝てばいい! 勝てば全てが解決する! ダービーはそう確信し、また自分の手札もそれを可能な手札である事に自信を取り戻しかけた。

 

「いいだろう、もう一度言ってやる……! わたしの魂を賭け――」

 

 しかし、ここで逆に、ダービーの目端の利く性格が、この決断に冷静に待ったをかけたッ!

 

(……何故、夢子はカードをチェンジしなかった? スリルを味わうためにわざと負けようとしている? いいや違う! こいつは死にたがりという人間でもない。では本当に初手でストレートフラッシュを成立させた? そんな確率は無いに等しい! では小僧がイカサマを? 違う、おれの目の前でイカサマをして見抜けないはずがない! ならば……夢子のスタンド……?)

 

 有り得る、とダービーは判断した。弟のスタンドは相手の思考を読むスタンド能力であったし、夢子のスタンドもそれに類似する能力を持ち合わせていても不思議はない、と。

 

(分からない~~~ッ! 何と言う事だ! このダービーが、年端もいかないガキに翻弄されているッ!)

「か……賭け……! かけっ……! カケ……!」

 

 ダービーの渇ききった口が、次の言葉を言わせない。夢子の真っ赤な瞳は絶えずダービーを見続けている。蛇に睨まれた蛙の心ッ! ダービーはそれをまさしく味わっていた!

 

「ここが絶頂ですダービーさん! ギャンブルは狂っているほど面白い!」

(ヒ、ヒィィィ~~~~~~~ッ!)

「さぁ! 一緒に賭け狂いましょう!!!!」

 

 狂っている――!

 それがダービーが何とか抱いた感情であった! もしここで負けてしまったなら、とダービーは思う。目当てのジョースターと出会う事すら出来ず、魂はチップか人形かにされ、挙句の果てにはテレンスか、もしくはDIO様か、この無能の自分を始末しにやってくるであろうと、確信を持って思えたッ!

 死への絶望、理解不可能な相手への恐怖、そして何より、ギャンブルで自分が倒されるという焦燥がダービーの精神に襲い掛かるッ!

 

(ち、ちくしょォォォォ! 言ってやるゥゥゥゥ! おれは最強のバクチ打ちだァァァァァァ! 受けてやるゥゥゥ! おれも魂を賭けてやるうゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!)

「私のレイズ、コールして下さいますよね?」

(コール! コール コール! コール! コール! コール! コール コール コール コール コール コール コール! コールと言うぞォォ~~っ!)

 

 だが、ダービーの喉から出てくるのは乾いた吐息のみであった! そして、ダービーはあまりの恐怖から呼吸さえも乱れに乱れてゆく!

 

(蛇喰夢子……こいつはギャンブラーではない……! 言うなれば、そう……!)

 

 そして、ダービーはその恐怖に耐えきれず、ガシャアン、とその身をテーブルの上で失神させた。彼が最後に見たのは、爛々と狂気に輝く赤い瞳であった――――。

 

「えっ、ダービーさん!?」

「き、気絶してる……!」

 

 そのギャンブルではない決着に、夢子も涼太も驚きダービーの顔を覗く。しかして、ダービーは口から泡を吹いて失神していた。

 

「まぁ……。ダービーさんは私と同じ、ギャンブルを心から愛せる人間だと思っていましたが……。眠ってしまうとは、お疲れだったのでしょうか……」

「いや、絶対違うと思うよ……」

 

 その瞬間、テーブル上にあった黄金のチップが霞となって消滅してゆく。霞はそのまま芽亜里の身体へと戻り、みるみるうちに彼女の顔色を良くしてゆく。

 彼女だけではない。ダービーがこれまでにチップにして奪っていった魂が、それぞれあるべき場所へと戻ってゆく。その光景を夢子たちは認識できなかったが、この勝利を祝福するように、空は幻想的なまでに美しい夕焼けに染まっていた。

 

「う……なんか気分悪い……」

「早乙女っ! よかった……! 本当によかった……!」

「はっ? ちょっ、えっ? 何っ?」

 

 同時に意識が戻った芽亜里に、涼太は喜び思わずその手を取った。彼女の方も、目が覚めたら突然心配されていたため、気恥ずかしさと訳の分からなさで少し赤面してしまっていた。

 

 ここで、場にけたたましいサイレンの音が響く。涼太が呼んだ救急車がカフェに到着したのだ。

 

「おい、あそこに気絶している人がいるぞ!」「あれが傷病人か……うわっ、何だこの汗の量! シャツがぴっちり張り付いてるぞ!」

 

 そうして、ダービーはその救急車に乗せられて、近くの病院へと搬送されていった。

 まるで嵐のように起きて過ぎていった事件に、涼太は思わずため息をつく。

 

(あの人は立派なギャンブラーだった。それは僕もそう思う。だけど、それだけじゃあ足りない。夢子とギャンブルするには、ただギャンブルが上手いだけじゃあ駄目だ。狂気と相対する覚悟が必要なんだ。何故なら――)

 

 彼女は、賭け狂いだから――――。

 涼太は芽亜里に抱き着き無事を喜ぶ夢子を見やり、その思いを胸の内にしまった。

 

「夢子、でも、今回のギャンブルはこれでよかったの? 勝負はついたけれど、ギャンブルでついた訳じゃない。それでも満足出来た?」

「えぇ、もう大満足です!」

「うっとおしいから離れなさいっての!」

 

 芽亜里に引きはがされながら、夢子はにこにこ笑顔で答える。涼太は少し以外に思った。夢子はギャンブルを神聖視している。それはダービーにも言った通り、お互いが対等のリスクを負い勝負をしているからだ。涼太はそれも理解していた。しかし、そのリスクは今回払われていないように思えた。

 

「ダービーさんはギャンブルの勝負をする前に倒れてしまわれた訳ですが、これはきっと、ダービーさんにとってこの上ない屈辱だと思うんです。何せギャンブラーが勝負の前に恐れをなして倒れてしまわれた訳ですからね。そのダービーさんのギャンブラーとしての魂(・・・・・・・・・・)は、ちゃんと私がいただきました。だから、今回はとてもいいギャンブルでした!」

 

 ぱぁ、と輝くような微笑みでそう言う夢子に、涼太は不思議と納得してしまい、『そっか』と一言だけ答えた。

 

(そういえば……結局、ポーカーの勝敗はどうだったんだろう)

 

 涼太はふとそう思い、テーブルに落ちた、ひじゃけたカードを拾い集める。すると、ダービーの握っていたエースのフォーカードが揃った。

 

(なんて強い手札だ! そ、それじゃあ夢子は!?)

 

 すかさず涼太は、決着がついたのでテーブルに裏にして置かれた、夢子の手札を確認する。そこには……。

 

(ダイヤのJ、ハートのK、ハートの4、ハートの7、クラブの10……。って事は……ぶ、ブタだァァァァ!!)

 

 二度目のディールはまともにやっていたため、本当に運任せのものであった。そのため、夢子の手札は本当に運に見放されていたとしか言いようが無いものだった。

 

「こ、こんな手札に、僕は魂を賭けていたのか……!?」

 

 あまりの恐ろしさに、思わず涼太は椅子に座りこむ。彼は気づいていない。真実を知った今でこそ恐怖しているが、その実、友人とはいえ他人に自分の命を躊躇なく賭けたその行為に。へたり込んだ表情を浮かべている涼太もまた、十分に賭け狂いなのであると、彼自身、全く気が付いていなかった。

 

「さて、それでは遠慮なくこの席を使わせていただきましょう! もうお腹ぺこぺこです」

「ダービー……貧相な……うっ、頭が……、でも何か思い出せそうな……」

「さ、早乙女っ! 注文を決めちゃってよ!」

 

 何はともあれ、賭け狂いたちの毎日は、つつがなく、これからも続いてゆくのであった……。

 

 

 

 ←To Be Continued……

 

 

 

 

 

 

 数日後……。

 

(おのれ蛇喰夢子ッ! 貴様だけは絶対に許さん! わたしのこれまでのコレクションを全て台無しにしてくれたその罪、絶対に償わせてやるッ! このダービーは貴様との再戦を望む! 貴様に奪われたギャンブラーとしてのプライドを取り返し、二度と先日の惨めなダービーに戻らないと証明してやるッ!)

 

 意識を取り戻したダービーは運び込まれた病院の寝台の上で味気ない朝食を取りつつ、夢子への復讐に燃えていた。彼の脳裏にはあらゆるゲームとそのイカサマが考えられていた。敗北がテレンスとDIO様に伝わらないうちに、汚名返上と名誉回復を成し遂げてやろうと息巻いていた。

 

 

 その時、がらり、と彼の病室の扉が開かれる。

 

「……あなたが、そう……何だったかしら、清華?」

「ダービーです。蛇喰夢子が言っていたのは」

 

 扉が開かれ、寝台の目の前に現れたのは、夢子と同等、もしくはそれ以上の非日常的な雰囲気を持つ学生であった。瞳、ネイル、唇は鮮やかな青で統一され、凍てつくようなプレッシャーと、樹氷のような美しさを持つ美少女であった。その後ろにも、目を引くほどの美少女が秘書然として佇んでいた。

 ダービーは何事かと思い、まずその氷の乙女を見上げる。そして――――。

 

「ヒィッ!?」

 

 悟ってしまった。ダービーの並外れた洞察力が、彼女の瞳の奥底にある狂気を見抜いてしまった。ダービーは思わず恐怖する。

 

(いや待て! 確かに、確かにわたしは蛇喰夢子と再戦を希望していた! だが今ではない! こんな、唐突に、しかも夢子ですらない相手とギャンブルなど聞いていない!)

「あなた、私とギャンブルしてくれる? 素晴らしいギャンブラーだと聞いているわ」

「お前もか! お前も賭け狂いかッ!」

「何故そんなに恐怖しているの? 夢子を楽しませたその実力、私にも披露してくれないかしら?」

「クキクゥ~~~~ッ! いいだろう! わたしはギャンブルの天才だッ! 二度も賭け狂いなどに負けてたまるかッ! わたしはもう、あの頃の惨めなダービーには戻らん! かかってこいッ!」

「そうこなくてはね。嬉しいわダービー。さぁ、賭け狂いましょう?」

 

 

 

 ……その後、病棟の一室から男性の絶叫が聞こえた事件については、桃喰家の権力を以て黙殺された……。

 

「ダニエル・J・ダービー

 運悪く賭け狂い二人に絡まれ、承太郎たちの知らぬところで

    () () () ()   」

 

 

The End

 




カツボウスルタマシイヨサカヅキヲー


さて、完走した感想ですが。

とにかくオービーくんの描写が難しかったです。あの原作のような強キャラ感が全然出せなくて苦労しました。
次に書いてて芽亜里が可哀想になってきて辛かったです。賭ケグルイで二番目に好きなキャラだったので……。一番は鈴井くんです。

感想はそのぐらいです。また何か思いついたら書くかもしれません。その時にはまたよろしくお願いいたします。それでは。


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