半年以上この作品書いていて、記念すべき五十話の節目をちゃんと祝えなかったのが悔しいです!
琉球剣風録編に続き、新章(最終章(名前未決定))も有りますのでどうかお楽しみに!
あっ、今回はハロウィン回です!
ハロウィン、それは元を辿れば秋の収穫祭や、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事だった。
現在では、子供が『
そして、今日は
刀剣類管理局本部に居る刀使の少女たちも浮き足立っている。
仮装して友達とお菓子交換をする者たちが目立つ中、一人の少女は給仕服にうさ耳のカチューシャを付けて、指令室にてトレイに山盛りに置いてあるクッキーが入った紙袋を職員に渡していた。
「お仕事お疲れ様です。ハロウィンですのでクッキーをどうぞ」
「ありがとう百合ちゃん。助かるよ」
丁寧に丁寧に、何時もお世話になっている職員の人たちにお菓子を配る百合の姿は、さながら本物のメイドや侍女そのものだす。
彼女の言葉遣いも、らしさを際立たせている。
それを結芽は、傍からぼーっと見つめていた。
何かを手伝う訳でもなく、ただぼーっと百合の姿を見つめる。
見惚れている…と言うのもあるが、それ以上に感慨に耽っているようだ。
視線は百合の事を見つめながら、どこか遠い過去を見つめていた。
そう、それは……
出会って、自分が病気になる前のほんの少しの時間の出来事。
百合と結芽、二人だけしか知らない、秘密のハロウィンパーティーの記憶だ。
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「ハロウィンパーティー?」
「そっ。私の家、今日はパパとママが居ないからさ、二人でしよ?」
「…ハロウィンって、秋の収穫祭や悪霊を追い出す宗教的な行事なんだよ? 結芽、つまらないよ?」
「……………へっ?」
当時、小学生低学年でありながらも百合はゴリゴリの文系女子。
現在のイベントのようなハロウィンに置き換わる前の、行事としてのハロウィンを知っていた。
逆に、百合は今どきのイベントとしてのハロウィンを知らない。
箱入り娘、とはいかないが、それでもお嬢様に変わりはない。
ハロウィンに彼女の家を訪れる者は誰一人として居ないので、百合が今のハロウィンを知ることは出来なかったのだ。
…流石の結芽もこれには驚き、何とか身振り手振りも加えて説明した。
説明に苦節十分、ようやく理解した百合と共に、二人はスーパーに出掛けていた。
「仮装用の服は家にあるから~、お菓子買って行こー!」
「良いけど。仮装用の服は何があるの?」
「えーっとねー、化け猫とー、ドラキュラとー……」
結芽が楽しそうに仮装用の服の候補を言っていく中、百合は何故か少し視線を逸らしてある物を見つけた。
それは、『簡単クッキーセット』と銘打たれた商品だった。
値段は千円と高いが、無性に惹かれるものがあり、百合は吸い付くように商品を手に取る。
「それでね、それでね~……って。ゆり? それ、欲しいの?」
「…ちょっと気になって」
「へぇ~、簡単クッキーセットかぁ~。って!? 高っ!? 千円もするよ、これ!」
「うん。だから、買うの迷ってて……」
悩む百合の横顔は、真剣そのものだ。
しっかりとハロウィンパーティーの事を考えてくれているのだろう。
それが嬉しくて、結芽はニッカリと笑ってこう言った。
「買っちゃえば?」
「…キッチン借りてもいい?」
「良いよ~、どうせ私は何も出来ないから、作ったら味見させてくれれば」
「味見だけじゃなくて、私は普通に結芽と一緒に食べたい…」
今まで、心落ち着いて食事が出来たことなど、数えられる程しかない。
侍女であり乳母のような存在である正子と、一緒に食べた時以外で心落ち着いた事は無い。
結芽となら、今まで知らなかった事も、色々と知ることが出来る気がして、だから試したくなった。
ハロウィンパーティー、このイベントが一歩進むチャンス。
百合はそう信じて、今まであまりしてこなかった事をやろうとしたのだ。
料理自体はした事があるが、お菓子作りとなると勝手が違う。
それを聞いたことがあった百合は、少しの恐怖心があったがやってみたいと思った。
(結芽と一緒なら、何でも出来そうな気がする…から)
「食べたら、感想教えてね」
「分かってるよ~。不味かったら不味いって言うけどね」
小悪魔のように笑う結芽だが、きっと彼女はそんなことしないと分かっていた。
分かっていた…と言うよりは信じていた。
強さを求める少女は時に冷酷だが、根は凄く優しいを事を百合は知っていたから。
二人は買い物を終えると、結芽の家に向かった。
ビニール袋を間に挟んで片側を持つ、と言う名前もない持ち方で、夕日に照らされるコンクリートの上を歩いた。
風が少し寒く、季節が冬に移変わろうとしているのを嫌でも感じる。
だが、家に着いたら着いたで、床が冷たくスリッパがないことを嘆きたくなったのは言うまでもない。
何とか、パーティの為に仮装を用意し、お菓子の準備を始める。
結芽は買ってきたお菓子を皿に出し、百合はレシピの書かれた小さい紙を見てクッキーを作り始める。
勿論、結芽の方が先に準備が終わるので、彼女は暇を持て余す。
暇に耐えきれなくなった結芽は、チョロチョロと百合の周りを動いてどうやってクッキーが作られていくのか眺める。
小動物を思わせる行動に、百合はクスリと笑いつつも手を止めはしなかった。
順々に工程をこなし、約二十分の時を経てようやく……クッキーは完成した。
……途中から、結芽はチョロチョロするだけではなく、構って欲しそうに抱き着いてきたが、頭を撫でる事で抑えていた百合は、最早結芽取扱検定特級の資格があると言っても良いだろう。
「良い感じだね!! いっただっきまーす!」
「…じゃあ、私も。いただきます」
一も二もなく、二人は同時にクッキーを口に運んだ。
…味はーー
「美味しい! 美味しいよ! ゆり~!」
「うん。凄く美味しいっ!」
結芽が百合に見せた笑顔は数あれど、百合が結芽に見えた笑顔はまだ少ない。
有るには有るが、どこか本当の笑顔じゃない気がした。
しかし、今、そこにある笑顔は心からのものだと、結芽は確信する。
(ゆりの本当の笑顔ってそんななんだ…)
柔らかく温かい雰囲気を醸し出す笑顔はどこか儚げで、それがまた彼女の魅力を引き立てる。
一流の画家に描かせても、この雰囲気だけは描き移すことが出来ないと言える程の、包み込むような笑顔だった。
百合が家に帰るまで、あと三時間。
この笑顔をずっと見続けていたいと、結芽は心の底から思った。
けれど、それ以上に何時か自分の力でこの笑顔を作って上げたいとも思った。
だから、その日は遊び尽くした。
その笑顔を絶やさぬように、遊んで遊んで遊び倒した。
百合にとって初めてのハロウィンは、到底忘れられないものとなる。
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そうして、結芽が過去の情景に耽っていると、不意に耳元で声が聞こえた。
「結芽? 部屋に戻るよ」
「え~、私の分は?」
「部屋にちゃーんと用意してありますよ。ほら、行くよ」
百合が手を引くと、結芽は歩き出した。
部屋にあるお菓子を目当てに。
化け猫の仮装は可愛らしく、天使にも見える。
百合との仮装も相まって、二人はさながら天使の姉妹。
…片方は悪魔ーーいや小悪魔だが。
「そう言えば、部屋にあるお菓子って何?」
「ふっふっふっ~! 何と! イチゴ大福ネコをイメージして作ったケーキです!」
「い、イチゴ大福ネコのケーキっ!!!」
目を輝かせてハシャグ結芽は、百合の手を振り切り自室に向かってスキップし始める。
その様子を見た百合は、何時ものようにクスリと笑った。
そして、追いかけようとしたその時、視界に別の何かが映りこんだ。
視界が切り替わるなど、普通なら有り得ないが百合は心当たりがある。
(龍眼? でも、今は使おうとも……)
クロユリに問いかけようと、内側から呼びかけるが返事がない。
半ば諦めた百合は、未来の映像をしっかりと確認するために立ち止まる。
映し出された未来に居た人物は二人。
一人は、
もう一人は、霞みがかったように上手く見えないが、どことなく雰囲気はタギツヒメたちに似ていて、結芽と同じく二本の御刀を持っていた。
訳が分からない…が、これが未来らしい。
何日後かなど分からないが……確実に未来で起こる出来事だ。
(何が何だか分からないけど…今は気にしてもしょうがないか)
百合は気付かなかった……いや気付けなかった。
龍眼による未来視の中に、自分が居なかったことを。
ハロウィン、それはあの世とこの世の境目が曖昧になる日。
もしかしたら、彼女たちの世界ではあの世が隠世でこの世が現世なのかもしれない。
次回もお楽しみに!
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イベント回なのに思わせぶりな事する作者ですいません。
週末には二話に分けて(胎動編と波瀾編)裏話的な奴を上げます。
結芽の誕生日は……
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X年後のイチャラブ
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過去のイチャラブ