寿々花さん!誕生日おめでとうございます!
九月九日、今日は寿々花の誕生日である。
お嬢様である彼女にどんな祝い方をするか?
それが当面の問題だった。
誕生日当日になっても中々案は纏まらず、最終手段に出ることに……
「寿々花。少し聞きたいことがあるんだけどいいかい?」
「あら、どうしたんですの真希さん。何かありまして?」
「実はさ、その、君は今日誕生日だろう? どう祝えばいいか分からなくてね。…中々案が纏まらないし、直接聞く他ないと思って……」
「……ふふふ。真希さんたちらしい真っ直ぐさですわね。……そうですわねぇ……」
寿々花は可笑しそうに笑いながらも、話し始めた。
曰く、彼女の家では盛大にパーティをするらしく、大人しめのささやかなものがやりたいとか。
真希はうんうんと頷くと、笑顔で走り去っていった。
最近、彼女の柔らかい笑顔が増えている事に、彼女以外の誰もが気付いていた。
「…変わりましたわね、真希さん。これもどれも、あの子のお陰…なのでしょうか…」
嬉しいような悲しいような、そんな曖昧な表情で走り去っていく背中を見つめる。
やがて背中が見えなくなると、手に持っているタブレットを弄りながらため息を吐く。
「少しくらい…気付いてくれてもいいのに…」
呟いた言葉は誰も居ない廊下に響く。
鬱陶しいほどの朝日が窓から入ってくるが、気にする事はなく通常業務に戻る。
先程までの感情を頭の隅に退けて、作業場所に向かった。
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時間は過ぎて夕暮れ時。
太陽はその日の役目を終えようとしている。
オレンジ色の光が辺りを包む中、寿々花はぼーっと椅子に座っていた。
通常業務はとうの昔に終わっている。
こんな無駄な事をしている必要も意味もないのに、何故かそうしていた。
扉がガチャリと開く音がしたが、寿々花は気付いていない。
扉を開けた主は……
「寿々花先輩。お迎えに来ましたよ?」
「………………」
「寿々花先輩?」
「? 百合? どうかしましたの?」
「誕生日会の準備が整ったので迎えに来ました!」
「素直でよろしいですわ。…さて、では行きましょうか」
椅子から腰を上げて、作業場である執務室を後にする。
元々、今日ここで作業をするのは寿々花一人だったため他には誰も居ない。
その身に荒魂を宿しながらも、一切の穢れない笑顔を魅せる百合。
この世に二人といないイレギュラーのような存在。
けれど、彼女は自分たちの恩人であり仲間だ。
ぞんざいに扱うなどとんでもないが、丁寧に扱う訳でもない。
あくまで対等、仲間として家族として同じ目線で接する。
結芽とよろしく、妹のような存在なのだ。
どちらも、手のかかる妹だが。
そんな考えに耽っている内に、どうやら目的の場所に着いたらしい。
百合と結芽の部屋だ。
百合と結芽は基本的な作業をここで行っており、任務やデート、お使い以外では外に出ない。
偶に結芽がフラフラとうろついているが、あまり宜しくない。
百合の中の荒魂は精神状態によっては浄化が長引く可能性がある。
その為、精神を安定させると言う体で出来るだけ二人を離させないようにしている。
当の本人たちはあまり意味を分かっていないようだが…構わないだろう。
「…どんなおもてなしを受けるのか、楽しみですわ」
「期待は程々に、それじゃあ開けますね」
苦笑いをしながら、百合は扉を開けた。
中はほんのりと明かりがあるだけで薄暗く、誰かがいる気配がしない。
少しだけ中に入るのが躊躇われる寿々花だったが、一歩踏み出す。
すると、急に明かりが強くなり、眩しいと思わせるものになった。
目が段々と強い明かりに慣れてくると…そこには。
こぢんまりとしたテーブルにB級グルメがズラリと並べられていた。
数は多くないし、量も五人分ピッタリしかないので、誰かが食べ過ぎたら誰かの分がなくなるレベルだ。
寿々花の口角が少しだけ上がり、ふふっと笑った。
あまりにも貧相で質素に見える食事なのに……彼女の目にはそれが高級フレンチにも並ぶ品々に見えた。
零れ落ちそうになる涙を必死に堪えて、こう言った。
「…本当に貴女達と言う人は……ありがとうございます。本当に…ありがとうございます…」
「す、寿々花?! どうしたんだい? もしかして、流石にダメだったかな?」
「真希おねーさんは本っ当に分かってないな~」
「そうですね。獅童さんはもう少し明確に相手の想いを汲み取るべきです」
「あはは…。ハッピーパースデー! 寿々花先輩! 残り時間は少ないですが…今日はたっくさん楽しみましょう」
楽しい時間はあっという間に過ぎ去って。
終わりの時間がやってくる。
……寂しそうな顔で真希を見る寿々花。
それを、百合はしっかりと確認していた。
だから、こう言ったのだ。
「真希先輩。寿々花先輩と一緒に散歩でも行ってきてもらえますか? 寿々花先輩、少しだけ体調悪そうなので外の空気を吸わせてあげたいんです」
「?! そうなのかい? なら、早く言ってくれ。…さぁ、少し外に出よう。中庭でいいだろ」
「え、ええ。お願いします…」
最後の言葉は少し萎んでしまったがしようがない。
百合は二人を見送ったあと、少し微笑んで呟いた。
「あとは自分次第ですよ…寿々花先輩」
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中庭に出て数分も経ったのに、二人の間に会話はない。
いや、厳密には真希の一人相撲状態だ。
真希が話し掛けているのに、寿々花はうんともすんとも言わない。
ただ顔を俯かせているばかり、本当に体調が悪いのか?
そう思った真希は寿々花の手を握り救護室に行こうとしたが……
「待って下さい……。少しだけ…待って下さい」
「君がそう言うなら…」
納得がいってないのか、不服そうに頷く真希。
寿々花は呼吸を整えるように大きく深呼吸をして…ある言葉を口にした。
「真希さん…私は…貴女の事が…」
「ボクのことが…?」
好きです。
その一言が中々口から出て来ない。
あと少しでもどかしい思いが無くなるかもしれないのに…
喉に引っかかって言葉が上手く出て来ない。
今までの関係を壊したくない…そう思うと同時に。
もっと先に進みたい…そう思うのだ。
だから…だから……
(あと一歩だけ…前に進ませて下さい!)
身長差があるので、肩に頭が当たるような形になりながらもゆっくりと真希に抱き着いた。
動揺する彼女を畳み掛けるように…引っかかっていた言葉を口にする。
拒絶されたら…痛くて…苦しくて…泣いてしまうかもしれないが…
(私はそれでも構いません。想いを伝えず終わらそるのなら、断られた方が…拒絶される方が余っ程ましです)
「好きです…大好きです。貴女の事を心の底から慕っています」
「えっ…あ…」
固まってしまっている。
無理もないだろう。
家族のように仲間、そう言う認識で接してきた人物にそう言われたら固まるなと言う方が無理な話だ。
だが、真希のプライドは固まったままでいるのを許しはしなかった。
答えは今すぐ出せなくていい。
しかし、言葉は今すぐ出さなければいけない。
「…ありがとう、寿々花。君の気持ちは嬉しいよ。…少しだけ整理する時間を貰っていいかな? …君を笑顔にする答えを出すと約束するから」
「言いましたわね? …約束ですよ?」
「ああ、約束する」
数日後、晴れて恋人になった二人が仲睦まじく歩いていたのは…また別の話。
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新しく始めましたので、時間があれば読んでやってください。
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結芽の誕生日は……
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