投稿が遅れて申し訳ありません。
百合の誕生日回の内容が思ったように纏まらなくて時間が掛かってしまいました。
今回は特別バージョンで前後編で別れています。
後編は十二時にアップ予定です。
2024年一月九日。
日本中を恐怖に陥れた大災厄から約四年の月日が流れた。
未だに、あの時の恐怖は人々の心に残っているが、それも次第に薄れていく。
だが、少女のーー夢神百合の感情が薄れていくことはない。
鮮明に思い出すことが出来るほど、大災厄の日の事を覚えている。
当事者だったから、大切な人が命を懸けて戦っていたから。
絶対に薄れていくことはない。
「……四年も経ったんだ。時が過ぎるのは、早いなぁ……」
腰まで流した絹のような美しさを魅せる紺色の髪と、見た人が吸い込まれるように綺麗な藍色の瞳。
あどけなさが残った顔立ちは今はどこかへ消えて、大人の余裕が溢れる整った顔立ち。
人と居る時は常に笑みを絶やさず、近くに居る誰かを照らし続ける太陽だ。
体の方も成長しており、身長は165cmまで伸びた。
スラッとしたモデル体型とまではいかないものの、性別に関係なく人を虜にさせるメリハリのある体付き。
出る所は出て、引っ込む所は引っ込む。
次元の違う世界から出てきたんじゃないかと錯覚させるほどの容姿になった。
しかし、彼女の全ての顔を知っているのは、この世でたった一人だけ。
それはーー
「…結芽」
百合は、薫
ポケットからスマホを取り出し、パスワードを打ち込みホーム画面に移る。
するとそこには、壁紙としていつかの花見の写真が映し出されていた。
しかも、映し出されているのは結芽と百合の二人だけ。
態々、専用の画像加工ソフトを使ってまで解像度を極限まで落とさず作った一枚。
ニヤニヤとした、部下やその他友人には見せられないような顔で写真を見つめる。
どうしても、この写真を見ていると顔が緩んでしまう。
それもこれも全部、ずっと傍に居てくれない結芽が悪いと言い訳をしながら、写真を見つめた。
今頃、特別遊撃隊副隊長となった結芽と沙耶香は、三日前から言い渡された、荒魂討伐の任務に励んでいるだろう。
今日中には帰ってくると知っていても、寂しいものは寂しい。
百合が以前から親しくしていた人達は軒並み大変な職に就いている。
先ず美濃関学院に行っていた、可奈美・舞衣・美炎だが、可奈美が美濃関の剣術講師に、舞衣が実家の企業を継ぐ準備として社員に、美炎が美濃関の学長補佐となっている。
続く平城学館に行っていた、姫和・真希・清香だが、姫和が平城学館の学長補佐に、真希が平城学館の学長に、清香が刀使としての経験を活かし教師見習いとして教壇に立っている。
綾小路武芸学舎に行っていた、寿々花・ミルヤ・由依・葉菜だが、寿々花が綾小路の学長補佐に、ミルヤが綾小路の学長に、由依と葉菜が本部所属の局員になっている
長船女学園に行っていた、薫・エレン・智恵だが、薫が刀剣類管理局本部長に、エレンが両親の研究を引き継ぎ研究チームに、智恵が長船女学園の学長になっている。
最後に鎌府女学院に行っていた、夜見・呼吹・つぐみだが、夜見が鎌府女学院の学長に、呼吹とつぐみは変わらず研究チームに所属している。
とまぁ、それぞれがそれぞれの道を進んでいる事もあり、百合の部屋を訪れる者はいない。
部下は百合の事をやたら慕っている所為で、百合の部屋に私用では全く近付かない。
「…纏めた書類出しに行くかぁ」
寂しさ故に重いため息を吐くと、机に乗っているファイリングした書類を持ってイスから立ち上がる。
羽織るだけだった制服を着直し、ドアを開けて廊下に出た。
笑顔を貼り付けるのも慣れたもので、少女はニコニコとした明るい笑みを絶やさぬまま廊下を歩き続ける。
通り過ぎる人が二度見したくなるほどの立ち振る舞い。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
この言葉が彼女の為に存在するかのような美しさがあった。
部下に慕われ、職員にも慕われ、上司に信頼されて。
百合の肩には様々な重圧があるが、そんなの関係ないと言わんばかりに、彼女は笑みを絶やさない。
何故なら、もう少しすれば大好きな人にーー大切な人に会えるから。
まだ会えない寂しい気持ちと、もう少しで会える嬉しい気持ちが綱引きをし、圧倒的な強さで嬉しい気持ちが勝つ。
結芽に会える、それだけでどんなに辛い事でも、どんなに苦しい事でも耐えられる。
鼻歌が零れそうになるのを必死に我慢して、百合は指令室に急いだ。
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指令室の中は、驚く程に静かだった。
仕事に集中して私語がないのは悪い事ではないが、流石に静かすぎる。
…それもこれも、死にそうな青白い顔で仕事を黙々とこなしている薫本部長の所為だろう。
四年前からほぼほぼ変わらない容姿は、彼女は苦しめてるとか何とか……
「……薫本部長、今日で何徹目のですか?」
「知らん。数えるのも面倒で五からあとは覚えてない」
「明日、その顔で私に会うのは止めてくださいね? 晴れやかな気持ちが申し訳なさで埋もれるので」
自分の質問に淡々と答える薫に対し、百合は申し訳なさで一杯になる。
何とか冗談を言って誤魔化すが、薫はコクリと冗談に頷くだけで、反応が乏しい。
いつもなら冗談に対するツッコミや愚痴が返ってくるのだが……
(……今度、紫様と朱音様に、薫先輩に長期休暇を上げるようにお願いしないと……。本気でグレる所か死んじゃう)
レッドゾーンを超えてデットゾーン突入しつつある薫の為に、休暇の打診考えいると……指令室のドアが開く音が聞こえた。
(…ノックもなしにここに来るのなんて、一人だけだよね)
一瞬前まで考えていた事を決定事項として記憶し、百合は目の前に意識を戻す。
すると、彼女の耳に聞き慣れた声が耳に入る。
心が弾むような嬉しさで溢れて、声が聞こえた方に振り向いた。
「ただいま戻りました〜」
「ただいま戻りました」
一人は結芽、もう一人は沙耶香だ。
結芽の方は若干あどけなさが残っているが、体自体はしっかりと大人の女性として成長している。
身長は百合と同じ165cmで、度々百合のを羨ましがっていたある部分も程よく育ち、腰まで伸ばした桜色の髪はポニーテールに纏めており、碧色の瞳は少しではあるが落ち着きがあるものになっていた。
対して沙耶香はと言うと、あどけなさは完全に消え去り、高校生とは思えないほど大人の女性として完成していた。
身長は160cmしかないが、ねねが懐いただけありそこそこのものを持っている。
ショートに切り揃えられていた銀髪はそのままに、臙脂色の瞳には温かさが宿っていた。
「ゆりもこっちに居たんだっ! やっぱり先に報告来て正解だったね沙耶香ちゃん」
「うん。結芽の意見を信じて正解だった」
「二人共お疲れ様。報告あるんでしょ? 先に済ませちゃって、話はその後で…ね」
百合はそう言うと、二人を薫の前に出して後ろに下がる。
彼女たちの報告は数分で終わり、書類も帰宅途中の新幹線で纏めてきたらしく提出していたが……その後、十分ほど薫に対し早く休むように説得し、指令室に居た職員の力も借りて仕事の引き継ぎをさせた。
引き継ぎに対応した職員の一人が、薫の仕事量に薫以上の青白い顔で引き攣った笑みを浮かべた。
「大変そうだけど、私たちの任務は終わったし部屋に戻ろ〜」
「だね。薫先輩の仕事、職員以外が触るの不味いやつ多いし」
「…そう言えば、百合は何の資料渡したの?」
「あ〜。私が渡したやつ? 荒魂の出現率に関する資料だよ。最近、荒魂の出現率は低下の一途を辿ってるからね。これも、ノロをまた祀るようになったお陰……なのかな」
四年前の大災厄以来、刀剣類管理局はノロを祀る神社を増やし始めた。
諸々の兼ね合いに多少時間は掛かったが、ノロを祀る神社は着々と数を増やしいき、それに伴って荒魂の出現率も低下していった。
「原因が分からないんだっけ?」
「完璧にはね。予測としては、さっきも言った通りノロを祀る神社が増えたから…ってのしかないんだよ」
「ふーん。まぁ、今はそんな話は良いよ。…それよりそれより! ゆり! 明日どうする? 誕生日会は夜にやるから、それまで暇だけど?」
「私も結芽も休暇は貰ってる。…でも、私は誕生日会の準備があるから一緒には居られない。百合は…私より結芽と一緒に居る方がずっと嬉しそうだから、二人で遊びに行って。遠くない範囲で」
同い年組だから、三人の仲は必然的に良く、今では替えが絶対に聞かない人物にまでお互いが登り詰めている。
それでも、お互いが抱いている好意の大きさは違う。
沙耶香は百合と結芽のことが大好きだ。
だが、百合と結芽はお互いが大大大大大好きで、沙耶香は大好きで止まっている。
好意の差に寂しさは感じるが、自分の事を大事に思っていることが分かっている沙耶香は嫌な顔をせずそう言った。
「…じゃあ、そうしようかな。丁度、行きたい場所もあったし」
「行きたい場所?」
「そっ。朝、早く起きる事になるけど良い?」
「良いよ! 別に、まだ午後五時くらいだし早めに寝ればよゆーだよ」
結芽はこの時、考えもしていなかった、まさか始発の新幹線に乗って、生まれ故郷に行く事になるなんて。
次回もお楽しみに!
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結芽の誕生日は……
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