百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 琉球剣風録編、はじまり、はじまり〜


琉球剣風録編
其の一「本物の強さ」


 これは、百合と結芽が親衛隊に入る前のお話。

 南の島で起きた裏側の記録だ。

 

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 二〇一七年八月某日、沖縄に四人の刀使が舞い降りた。

 ひたむきに強さを求める少女、朝比奈(あさひな)北斗(ほくと)

 自分のことを刀使らしくないと考える少女、伊南(いなみ)栖羽(すう)

 神童と呼ばれた天才少女、燕結芽。

 未だ成長途中の天才少女、夢神百合。

 

 

 四人が出会うのはもう少し先だ。

 

 

「あー、もう飛行機でジッとしてるのって、ちょー疲れる! やっと着いたぁ!」

 

「結芽。空港の中では静かにして、他の人に迷惑だから」

 

「はいはーい、分かったよ〜」

 

「はぁ、早く行くよ。命令が来るまでは待機だから」

 

 

 折神紫の指示ーーと言うより命令でこの地に訪れた二人は、温度差のあるテンションで空港を出る。

 旅行用のバックを肩に掛けて、腰辺りにある御刀の位置を調整した。

 荒魂が出たら、一分一秒の遅れが命取りとなる。

 その一秒があれば救えた命も、簡単に救えなくなってしまう。

 百合はそんなの御免だとでも言わんばかりに微調整を忘れない。

 

 

 結局、その日に何かが起こることはなく。

 百合と結芽は大人しく指定されたホテルで一夜を過ごした。

 

 

 翌日、「遊びに行きたい!」と言う結芽の要望を聞き、百合は彼女を連れ出して散歩をしていた。

 途中、段々と退屈になってきたのか、今度は「試合がしたい!」と駄々を捏ね始めたので仕方なく公園に足を運んだ。

 …この時の百合は、恐ろしい程に結芽に甘い。

 パンケーキにシロップだけでは飽き足らず、チョコやアイス……果てには果物まで投下したあとにも並ぶ甘さだ。

 

 

 五分も歩かない内に、公園前に差し掛かる。

 そこで、結芽が目を光らせた。

 次の瞬間には、百合を置いて公演の中に入りベンチの傍に駆け寄った。

 ベンチにはーー平城学館の制服に身を包んだポニーテールの少女、北斗が居た。

 

 

「これ、御刀だよね!? もしかしておねーさんたちも刀使なの?」

 

 

 ベンチには掛けられている北斗の物であろう御刀を指差しながら尋ねると、北斗はしっかりと返事をした。

 チラリと結芽の腰にある御刀に目をやってから。

 

 

「ええ、そうよ。あなたも刀使? 普天間研究施設の所属かしら?」

 

「ブッブー! 刀使なのは合ってるけど、研究施設の刀使じゃないよ。綾小路から来たんだ〜」

 

 

 伍箇伝の一つ、綾小路武芸学舎から来たと言う結芽に対し、北斗は何故京都の刀使がここに居るの不思議に思った。

 北斗が不思議に思っていると、遅れて百合がやって来た。

 額に少しの汗をかいてるのは、今日の晴天なる天気と沖縄特有の暑さゆえだろう。

 

 

 しかし、百合が訪れた後の栖羽は北斗とは違った表情をしている。

 畏怖している…とも言える顔で、震えた声が漏れた。

 

 

「あ、あ……あああああ! も、もしかして……夢神百合……さんと……燕結芽……さん?」

 

「あれ? おねーさん、なんで結芽の名前知ってるの?」

 

「…すいません。どこかでお会いしたでしょうか?」

 

「む、昔、私が通っていた道場が、交流試合した時……相手方に燕さんと夢神さんがいて。ものすごく強くて……」

 

 

 二人は揃って栖羽の顔を見て疑問符を頭に浮べる。

 どちらか片方ぐらい覚えててもいいとおもうが、どうやら本気で記憶にないのかもしれない。

 …まぁ、覚えていないのも無理はないだろう。

 何せ、二人はお互い以外にあまり興味を示さない。

 結芽は強い人には少しばかり興味を示すが、百合は結芽以外に全くと言っていいほど興味が無い。

 

 

 紫や綾小路の学長である結月には敬意の念くらいはあるだろうが、本当にそれだけだ。

 

 

 栖羽は空気を読まないことに定評があるのか、二人が思い出そうと考える中……病気の事を聞いた。

 

 

「でも、燕さん、病気だったんじゃ……!?」

 

「ああ、病気はーー」

 

「治りました。…すいませんが、お顔だけでは思い出せそうにないので、お名前を聞いてもよろしいですか?」

 

 

 結芽の言葉を遮るように、百合が言葉を被せた。

 あまり良い思い出はない記憶を掘り起こす意味は無い、そう考えたのか行動は早かった。

 結芽は目を見開いて百合を見るが、百合は視線を合わそうとはしない。

 照れ隠し……なのだろう。

 

 

「伊南栖羽です……一応私も、燕さんや夢神さんと戦ったんですけどね。……手も足も出ませんでしたけど」

 

「伊南……ああ! 思い出しました。雲弘流の使い手でしたよね?」

 

「お、覚えていてくれたんですね」

 

「一応、珍しい流派でしたので」

 

 

 百合は覚えているようだが、結芽は全く記憶にないらしく、人を食ったような笑みでこう言った。

 

 

「覚えてないや。ぜーんぜん記憶に残ってない! おねーさん、よっぽど弱かったんだね。弱い人の事なんて覚えてても意味ないし。あはは」

 

「あ、あはは! ですよねー!」

 

 

 栖羽は引きつった顔のまま愛想笑いを浮かべた。

 けれど、北斗は結芽の言葉を聞き捨てならないと言わんばかりに、言葉を紡いだ。

 

 

「取り消しなさい、燕結芽」

 

「北斗さん……」

 

「確かに伊南さんは弱いように見えるわ。私も弱いと思うわ。プロフィールを見せてもらったけど、実際すごく弱いわね」

 

「あの、北斗さん、酷いです」

 

 

 助け舟が泥舟より酷いとは、これ如何に。

 伊南の言葉を聞いても、北斗は気にすることなく話し続けた。

 そして、言い放ったのだ。

 

 

「でも、弱いことを馬鹿にしないで。今は弱くても、いつか強くなれるかもしれない」

 

 

 言い放った言葉は、どこか自分に言い聞かせいるような……そんな感じがした。

 百合は、その言葉を聞いて素直に思ったことを口に出した。

 誰にでも優しく接する未来の彼女なら、絶対に言わないであろう言葉だ。

 

 

「…弱い人は、何時まで経っても弱いですよ。幾ら努力しても本当の強さは手に入りません。誰かを助けられるような強さは……絶対に。伊南さんが本当に強くなれる素質があるなら、きっと大切な誰かを助けるとこが出来ます。強さとは、そう言うモノです」

 

 

 キツく当たるような言葉。

 幾ら努力しても、自分の力で何も救えなかった者の言葉。

 百合は挑戦的な瞳で北斗を見据える。

 

 

「朝比奈先輩、立ち会いしませんか? 努力したら強くなれる、その言葉を証明する為に」

 

「…分かった」

 

「ほ、北斗さん!? …膝は? 大丈夫なんですか?」

 

「一回の立ち会いくらいなら、問題ないわ」

 

 

 北斗は知らなかった、どう足掻いても届くことがない本当の天才の背中を。

 北斗は知らなかった、知る由もなかった、未来で彼女が最強の刀使になる事を。

 …本当に知らなかったのだ。

 

 




 次回もお楽しみに!

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結芽の誕生日は……

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