百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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其の二「見える弱さと、見えない弱さ」

 百合が宗三左文字を抜くのと同時に、北斗も鬼神丸国重を抜いた。

 だがそこで、北斗は訝しげな視線を百合に寄越す。

 …何故、二本ある内の一本しか抜かないのか? 

 それを疑問に思っての事だろう。

 

 

「…もう一本の御刀は抜かないの?」

 

「はい」

 

 

 舐められている、そう感じた北斗だったが、結芽が補足を入れるために口を挟む。

 

 

「おねーさん、気にしないで。ゆり、荒魂相手以外に二本目抜こうとしないの」

 

「全力は出さないと言うこと? それで私に勝つつもり?」

 

「…全力は出しませんが、本気でやります。お気になさらず」

 

 

 申し訳なさそうな感情が言葉に乗っているところを鑑みると、百合に悪意や悪気がないことは何となく察することが出来た。

 だからこそ、北斗も腹を決める。

 全力でぶつかり、自分の強さを…言葉を証明する。

 互いに写シを張り、緊張感が場を支配する中、先程まで騒々しいほどに鳴いていた蝉の鳴き声が止んだ。

 

 

 それが合図となり、二人が持つ御刀が甲高い金属音を響かせる。

 最初の一撃は北斗から、横一閃の右薙。

 全力で叩き込んだつもりだった。

 写シを張れるならば、痛みが残るが怪我をすることは無い。

 確信故の攻撃はあっさりと百合に受け止められた。

 

 

 並の刀使だったら、この一撃で倒せるか、少なくとも体制を崩すくらいなら出来る。

 北斗のその考えに間違いなく、恐らく並の刀使ならやられているレベルの一撃だった。

 けれど、百合は並の刀使などではない。

 天才……いや怪物だ。

 

 

 受け止められた事に驚く北斗だが、油断出来る相手ではないと理解し迅移で距離を離そうと動くが、百合も反応し迅移を発動。

 

 

(この歳で迅移まで……!)

 

 

 距離を詰められたら、攻撃されるのは必然。

 百合はもう一度迅移を発動し、北斗の背後の死角に移動し上段から斬り下ろす。

 …それは無外流の玄夜刀(げんやとう)と呼ばれる技の変形だった。

 

 

「ッ!?」

 

 

 何とかギリギリの所で回避する事が出来たが、北斗は明らかに動揺していた。

 自分がその技を、彼女に見せたことはない。

 ましてや、自分と同じ無外流の使い手が居たとしても、思いついて身に付けるには相当な鍛錬が必要な事を、彼女は知っていた。

 

 

(この子の流派…一体なんなの?!)

 

 

 …有り得ないと言えばそれまでだが、彼女がーー夢神百合が独学でそこまでの発想に至ったと考える他なかった。

 

 

「一つ、聞いてもいいかしら?」

 

「…何ですか?」

 

「あなた、流派は?」

 

「夢神流……いえ、新夢神流です」

 

 

 聞いた事がない流派だと、北斗が思った瞬間。

 百合は察しているかのように、言葉を紡いだ。

 

 

「知らなくても当然ですよ。夢神流は元々門外不出ですから。それに、私の新夢神流は私が作り出したものですし」

 

「なっ!?」

 

「…お喋りはここまでです。次で決めます」

 

 

 衝撃の事実の連続に動揺している北斗を他所に、百合は次で決めると宣言する。

 宣言…この言い方は正しくない。

 百合の場合、宣言ではなく決定事項の報告だ。

 包み隠さず、あなたは私に負けると言ったのだ。

 

 

 流石の北斗も、この言葉には反応し集中力を戻さんばかりに息を吐いた。

 次の瞬間、百合の姿が残像に変わる。

 目を離したつもりはなかったし、実際のところ目は離してなかった。

 ただ純粋に、彼女の力の限界がそこにあったのだ。

 

 

「負け…ですね」

 

 

 この言葉が発せられると同時に、北斗の写シは呆気なく真っ二つに切り裂かれた。

 目で捉えることができなかった。

 

 

(負けた……また負けた。私は弱い……強くならなければ。もっと、強くならなければ)

 

「…その目をしている様では、あなたはどう頑張っても本物強さは手に入りませんよ?」

 

「あーあ。つまんなーい。ゆりに負けちゃうなんて、おねーさん弱過ぎ」

 

 

 ニッカリと笑う結芽は容赦なく言い放った。

 栖羽でも分かる…いや、栖羽だからこそ分かる。

 間違えなく、彼女は百合と同等以上に強いと。

 弱者故の勘が、そう囁いていた。

 

 

「S装備の運用試験って明日なんだよね? だったら、その時に暴走しちゃえばいいのに」

 

「暴走……?」

 

 

 聞き慣れない言葉を、栖羽は鸚鵡(おうむ)返しする。

 

 

「あれ、知らないの? おねーさんたちが試験することになってるS装備はね、フルスペックを発揮すると暴走する危険性があるらしいよ。そしたら、正気を失って、どうなっちゃうかわかんないんだって」

 

「え……?」

 

 

 黙っていた北斗はリディアと言うDARPA(国防高等研究計画局)の研究員であり試験運用の同伴者に貰った資料を見ていた為、暴走の可能性は知っているのであまり反応はしない。

 

 

「資料には必ず目を通すべきですよ、伊南先輩」

 

 

 落胆するような表情の百合は渋々と言った感じで、栖羽に向けてS装備で知っていることの諸々を話した。

 

 

「元々、S装備には二タイプの完成形案がありました。一つは電力を使って作動させるタイプです。しかし、このタイプでは出力を高めることが出来ず、八幡力と金剛身共に第二段階が限界でした。それに加えて、消費する電力量も大きい為、大容量バッテリーを使っても稼働時間がかなり短いのです」

 

 

 …因みに、この完成形案が未来でのS装備になる事は、まだ誰も知らない。

 

 

「二つ目のタイプは、御刀の素材ーー珠鋼を使うタイプです。こちらは電力よりも遥かに高い性能を発揮出来ます。しかも、電力と違い、珠鋼のエネルギーは無尽蔵で、活動時間に制限がない。…ここまで来れば分かると思いますが、断然珠鋼を利用した後者の方を目指した開発が進められました。今回完成して、試験運用が行われるのは、この珠鋼搭載型のS装備です」

 

 

「あ、あのぉー、そこまで聞いただけだと。暴走する理由が……」

 

「それもそうですよね。…補足を入れますが、珠鋼搭載型のS装備は八幡力と金剛身共に、性能を引き出せれば第五段階までの使用が可能です」

 

 

 百合の補足事項を聞いて、栖羽は薄らと暴走の理由が分かってきた。

 八幡力と金剛身の第五段階までの使用が可能。

 リディアから聞いた、一般人でも刀使並に戦える装備。

 デメリットが存在しないわけない。

 

 

「珠鋼搭載型の問題点は、使用中に珠鋼と装着者の肉体が融合に近い状態になること。それによって精神と肉体が侵される可能性があります。…因みに、電力稼働型には、そのような問題点はありません。S装備のフルスペックを発動した場合、暴走する確率が約三パーセント……優秀な刀使ほどS装備の性能を引き出せる場合が多いため、つまり優秀な刀使ほど暴走の危険性が高いと言うことです」

 

「そっちのおねーさんはダメそうだけど、こっちのおねーさんは面白いことになりそうだね?」

 

 

 北斗の方を見ながら言う結芽の表情は、先程のニッカリとしたモノではなく、小悪魔のような可愛らしくも恐ろしいモノに変わっていた。

 その言葉を最後に、二人は公園から去って行く。

 燕の様に自由気ままな少女と、百合の様に美しく…威厳のある少女。

 北斗と栖羽は知らない、今後も彼女たちと大きく関わることを。

 

 -----------

 

 北斗との立ち会いのあと、少し外をぶらついてから百合と結芽は紫に取ってもらったホテルに戻ってきた。

 蒸し暑かった外を比べたら天国にも感じるホテルの室内。

 エアコンのお陰で快適な温度に保たれているので、外で汗をかいた二人からしたら薄寒いくらいだ。

 

 

「エアコン気持ちいい〜……けど寒い〜!」

 

「温度上げようか?」

 

「だいじょーぶ。すぐシャワー入るし。ゆりも一緒に入る?」

 

「…後でーー」

 

 

 後で入る、その言葉を言いかけたが途中で止める。

 結芽の健康確認の為に、一緒に入るべきか? 

 …百合が悩んでいると、柔らかくて冷たい手が彼女の手を掴んで引っ張った。

 

 

「悩むくらいなら、一緒に入ろ? ね?」

 

「…うん。そうする」

 

 

 ぎこちない笑顔になってしまったが、百合は頷く。

 変えの下着を持ってシャワー室に向かうと、更衣場所で結芽がだらしなく服を脱ぎ散らかしていた。

 相変わらずだなぁ、と思いつつも百合は丁寧に服を畳んで邪魔にならない場所に置く。

 

 

 置いたあとは、自分も服を脱ぎシャワー室に入る。

 最近、肩凝りが酷くなってきたのは、書類仕事をし始めたことだけではないことを、百合の膨らんだ胸部が教えていた。

 

 

(…また、少し大きくなったかな)

 

 

 備え付けのシャワー室は広く、二人が入ってもまだ余裕がある。

 シャワー自体は一つしかないので、待つことになるが構わない。

 今の内に、結芽の体に異常がないか確認すればいいだけだ。

 パッと見た感じは、特に異常がない。

 スベスベで柔らかい肌に、変色した様子はない。

 

 

(直接聞くしかない…か)

 

「結芽? 調子はどう? 今日は結構暑い外に居たけど、問題はない?」

 

「別にー。全然悪くないよ」

 

「…そっか」

 

 

 悪くない訳ない、辛いに決まっている。

 なのに、結芽は……百合に何も言わない。

 悲しませるだけだと分かっているから、何も言わない。

 それこそが、百合を悲しませていることをーー彼女は知らなかった。

 

 

 だから、百合は気付いていない振りをした。

 別れが怖くて、居なくなってしまうのが辛くて。

 刀使としてどれだけ強くなっても、本物の強さは手に入らない。

 大切な誰かを助ける事が出来る、大切な誰かを守ることが出来る、そんな強さを百合は未だに持っていなかった。

 

 

 だから、その代わりに温かい想いを結芽に伝えたくて、百合はそっと後ろから抱きしめた。

 自由気ままな燕は、今にもどこかに飛んで行ってしまいそうだったから。

 

 

「ゆり…?」

 

「ごめん。少しだけ…もう少しだけ」

 

「…良いよ」

 

(ホント、ゆりって偶にこうなるよね。何時もはおねーさんみたいなのに……)

 

 

 これは過去だ。

 変えようが無い過去。

 神の悪戯が起こる前で、彼女の中に眠るナニカが動かされる前だ。

 温かい思い出と仄暗い感情が混ざる、歪な時の話。

 

 -----------

 

 翌日、二人がホテルの部屋で待機していると…百合の持っていたスマホから軽快な音楽が流れ始めた。

 ……チラリと結芽の方を見遣ると、下手な口笛を吹いて顔を逸らす。

 聞き慣れない音楽だったのだが、案の定結芽のイタズラだったようだ。

 はぁ、とため息をつきながらも電話に出る。

 

 

『夢神です』

 

『私だ。何時でも出られる準備をしておけ。任務開始は追って連絡する』

 

『了解しました』

 

『百合。結芽の体調は?』

 

『問題ありません』

 

『ならいい。経過観察は必要だ。もし何かあったらすぐに報告しろ。以上だ』

 

 

 事務的な会話の中に、結芽を慮る心が見えるのは気の所為ではないだろう。

 電話を切ったあとは、結芽に電話の内容を伝え準備に取り掛かる。

 南国での戦いは、まだ始まりすらしていない……

 

 

 




 次回もお楽しみに!
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結芽の誕生日は……

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