百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 祝!五十話!


其の三「天使と悪魔か小悪魔」

 朝比奈北斗がS装備の暴走を引き起こしてから間もなく、百合たちに紫からの命令が下った。

 中城村の兵陸地帯近くに居る米国の一小隊を片付けて、彼らが持っている携帯端末を奪取しろとのこと。

 

 

「軍の一小隊って、どれくらいいるのかな?」

 

「確か…二十五人から五十人くらいだったかな。そこら辺はまちまちだから分からないけど」

 

「ふ〜ん。まっ、面白ければそれでいいや」

 

 

 にひっ、と笑い声を漏らす結芽の顔はどこか恐ろしく、隣に居るのが百合ではなく栖羽だったら、小さく悲鳴を上げていただろう。

 

 

「…あまり無茶はしないでね?」

 

「分かってるって。ほら、早く行こ?」

 

 

 結芽に促されるがまま、中城村の兵陸地帯に向かって行く。

 目的の場所に近づくにつれ、木々が生い茂り視界が悪くないっていく。

 普通の旅行だったら絶対に通らない道。

 だが、何故か心が落ち着くのは気の所為なのだろうか。

 葉の隙間から差す太陽の光は優しく、沖縄だと言うのに暑さを感じさせない。

 

 

 任務なんてなければ、ゆっくりとこの島を回れただろうに……

 そんな考えに浸っている暇なんてない、と言いたげに遠くない場所から爆発音が響き、空気が振動するかのような現象が起きた。

 木々に止まっていた鳥たちは驚きのあまり飛び去って行く。

 百合も結芽に目線を送り、早歩きでその場から移動を開始する。

 

 

 音のした方に近付いて行くと、銃をぶら下げて軍服らしき物を着た人影が見えた。

 数は…少し数えるのが億劫になるほど居る。

 しかし、そんなの関係ないと言わんばかりに結芽は彼らが居る方向に歩き出した。

 

 

 彼ら隊員たちから見たら、酷く違和感のある光景だっただろう。

 散歩中のような何気なさで少女が歩いてくるのだから。

 だがしかし、結芽や彼ら隊員が居るのは、精々獣道程度しかない山中なのだ。

 結芽のような少女が散歩で歩き回る場所ではない。

 ……加えて、彼女は腰に御刀を帯びていた。

 

 

「あははは! たっくさんいるねぇ!」

 

 

 笑った顔は天使のようで、隠れた力は神にも及ぶ。

 悪魔と比喩されても全く可笑しくない少女が、そこに居た。

 直後、結芽は御刀に手を掛けて、その場から姿を消した。

 刹那、彼女は隊員の一人の前に立ち、凄まじい速さで御刀を抜き、その隊員を斬り捨てた。

 

 

 迅移を使っての高速移動。

 幾ら鍛えられた兵士たちでも、結芽の姿を捉えるのは至難の業だ。

 何せ、彼らは対刀使用の訓練を受けていたが、全く持って接近に気付けなかった。

 

 

「安心してよ、峰打ちだから。紫様には、一応殺すなって言われてるし。ねっ? 百合」

 

 

 斬られた隊員が地面に倒れて苦痛の声を漏らす中、ガサガサと音を立てて茂みの中からもう一人の少女が出て来る。

 紺色の髪と藍色の瞳は、彼女に落ち着きのある印象を持たせるが、腰に帯刀している御刀がその印象を壊す。

 

 

「…加減、しっかりしてね。この人たちは刀使じゃないんだから」

 

「はいは〜い」

 

 

 非日常の中に居ると言うのに、あたかも日常の雰囲気を醸し出す二人。

 異質だった、異常だった。

 幼い二人は天使のようで、そこに居るだけで周りを癒すせるような柔らかさがあるというのに、根本の部分には他社では絶対に理解できない闇がある。

 寂しさと言う、お互いが居なければ埋めあえない闇がある。

 

 

 その後の事は語るまでもない。

 一方的な戦いが幕を開けた。

 途中から銃弾の雨を浴びせられた二人だが、一発たりとも彼女たちに当たることは無く、ジリジリと数を減らされ……最後には。

 

 

「おにーさんたち、全然つまんない」

 

「この端末貰っていきますね。……すいません」

 

 

 片方は吐き捨てるように、片方は罪悪感を感じながら、別れの言葉を呟いた。

 

 -----------

 

 北斗の探索が行われる中、もう一人のテスト装着者である栖羽は、ホテルの自室に居た。

 たった数日の期間しか接点の無かった北斗に対し、栖羽は心配と言う感情を向けている。

 研究施設を脱走してから四時間。

 もうすぐ夜だ。

 

 

 北斗は一人、夜になっても逃走を続けるのだろうか? 

 怪我はしてないだろうか? 

 そもそも、意識は保っているだろうか? 

 

 

 無事でいて欲しい、栖羽は心からそう思う。

 

 

「はぁ……」

 

 

 今日、何度目かも分からないため息を吐いたその時、部屋のドアのチャイムが鳴った。

 

 

(誰か来たのかな…?)

 

 

 訪ねて来た誰かを待たせる訳にはいかない。

 人として当たり前の行動が栖羽を動かし、部屋のドアを開けさせた。

 すると、そこに居たのはーー

 

 

「こんばんわ、おねーさん」

 

「すいませんが、お邪魔させてもらいますね。伊南先輩」

 

 

 天使と悪魔ーーいや小悪魔だった。

 

 -----------

 

 百合たちが栖羽のホテルの自室に行く少し前。

 二人は紫の元へと訪れていた。

 勿論、内密に。

 

 

「これが、GPSの端末です」

 

「ご苦労。続く任務だが……」

 

「ちょっと待ってよ、紫様!! 今回の任務、全然面白くないんだけど?」

 

「ゆ、結芽!? 紫様にそんなこと言っちゃ…」

 

 

 …無言だった。

 紫は何も言わず、ただじっと結芽を見つめる。

 そして、どこか諦めたような声で言葉を続けた。

 

 

「…今回の任務諸々が終わったら、沖縄に追加で宿泊しても構わない。結月には私から伝えておく」

 

「やったぁ! これでいっぱい遊べる!」

 

「…本当によろしいのでしょうか?」

 

 

 喜ぶ結芽とは対照的に、百合は居心地悪そうに言った。

 荒魂相手に比べれば少しは難しいが、それでもその程度。

 だと言うのに、休暇まで貰っていいのだろうか? 

 この頃の百合は、親衛隊として紫と親しくなるより謙虚であった。

 

 

「任務には報酬が付き物だ。気にしなくていい」

 

「…紫様がそう仰るなら」

 

「ふっふっふ〜。こんな時の為に、沖縄の観光名所調べといてよかったー!」

 

 

 浮き足立つ結芽。

 それを諌めるように、紫が任務の続きを言い渡した。

 

 

「伊南栖羽の行動を監視しろ。以上だ」

 

「へっ? それだけ? 他には?」

 

「ないな。監視が続く任務だ」

 

「分かりました。伊南栖羽のホテルに行けば良いのですか?」

 

「ホテルの住所はメールで送っておく。準備が出来次第すぐ向かえ」

 

 

 結芽の顔からは先程までの喜びは消え、つまらなそうな顔に変わっていた。

 それもしょうがないだろう。

 栖羽に立ち会いに誘った所で結果は知れている。

 意味の無い立ち会いほど、つまらないものはない。

 

 

 部屋を出たあと、未だに紫が近くにいることから、ぶーたれるのを我慢する結芽。

 百合は苦笑しながらも、結芽の頭を優しく撫でた。

 

 

 結局、ホテルまでの時間の全てが、結芽の愚痴に使われたのは言うまでもない事実だった。

 始まった南国での戦い。

 様々な思惑が動く中、事態はどう動くのか未だ誰にも分からない。




 次回もお楽しみに!
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結芽の誕生日は……

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