百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 今回で琉球剣風録編は終わりです。
 次回からは新章である終焉編を書いていこうと思います。
 完全オリジナルで進むため、今までよりガタガタな進み方になってしまいますが、最後まで見届けて貰えたら幸いです。

 あっ、それと次回からはみにゆりつばも再開します。
 長らくお休みして申し訳ありませんでした。


其の四「異なる強さ」

 仄暗い街灯の下を百合はとぼとぼと歩いている。

 本来なら、結芽と二人で栖羽の監視をしている予定だったが、突然紫からの電話で研究所に呼び出された。

 

 

 電話で紫が発した言葉は二言だけ。

 

 

『監視は結芽だけで十分だった。お前には新しい任務を課したい』

 

 

 何か考えがあるから呼び出したのだろうが、百合にとってはあまり嬉しくない。

 紫こら任務を課して貰えることは、刀使として名誉な事だと言われているが、百合にとっては名誉などつまらぬものだ。

 彼女にとっては、過分な名誉も金も要りはしない。

 

 

 生活に必要最低限な物と、結芽が居ればそれだけで十分だ。

 結芽は強い相手と戦えないことを嫌うかもしれないが、それでも良いと百合は考えている。

 つまらなそうにしてれば立ち会いを誘えばいい。

 不機嫌そうだったらお菓子をあげればいい。

 

 

 燕結芽と言う少女の扱い方を心得ている百合に取って、一緒に居られないことが一番の問題なのだ。

 他の問題など児戯に等しいと言っても過言ではない。

 

 

「…結芽」

 

 

 …因みにその頃、結芽は栖羽と一緒に北斗を確保しホテルに連れ込んでいたが、百合は預かり知らぬところだ。

 歩き続けてようやく着いた研究所で、百合はそそくさと人目を避けて紫の元へ向かう。

 指定された部屋に着くと、そこには魂鋼搭載型S装備がゾロゾロと置かれていた。

 

 

 今回持ってかれたのは、この中にあり試験用にチューニングされたものだろう。

 もし、DARPAの人間に海外に持ち出されたら、それは金額だけでは完璧に表すことの出来ないほどの損失になる。

 だからだろうか、この部屋に来る途中チラホラと見た研究員は殆どの人間が、驚くほどに顔を青くしていた。

 

 

 構造は他の場所と少し違い、奥にもう一つの部屋がある。

 恐らく、チューニングや軽いメンテナンスをする為のものだろう。

 

 

「紫様。百合です」

 

「呼び出してすまない。…悪いが、お前にはそのS装備を着てもらいたくてな」

 

「…試験要員の代わりですか?」

 

「そんな所だ。…心配するな、とは言えんが暴走しても私が止めよう」

 

「お気遣い感謝致します」

 

 

 深々と頭を下げる百合。

 紫はすぐに頭を上げるよう言い、百合にS装備を装着させた……が。

 何故か、S装備は機能を全くと言っていいほど発揮しなかった。

 …いや、そもそもの問題として、百合は八幡力も金剛身も第五段階まで使える。

 そんな刀使がS装備を使ってなんになる? 

 

 

 自動で八幡力と金剛身を制御してくれて楽になる? 

 反応できないような攻撃を食らっても、対処が出来る? 

 彼女はそんな事一ミリも思わない。

 動き辛くて邪魔だなぁ、と言った程度にしか思わない。

 第一、百合が反応出来ない攻撃は全くと言っていいほどないし、そんな敵が荒魂として現れることは有り得ない。

 

 

 …相手がこれと同じ魂鋼搭載型のS装備でも着けてれば話は別だが。

 だとしても、並の刀使では意味が無い。

 猛者中の猛者、天才の中の天才が身に付けなければ、全力を出した百合の足元にも及ばないだろう。

 

 

「紫様? これは一体……」

 

「気にするな」

 

「ですが……」

 

「他にもお前にしか出来ない任務がある。ここで待っていろ」

 

「はい……」

 

 

 後ろ髪を引っ張られる思いに駆られながらも、百合は頷いた。

 この時の百合は知らない。

 何故自分が()()()()()()S装備を使えなかったのかを……

 

 -----------

 

 百合が出ていってから数時間、結芽の方でも変化が起きた。

 少しウトウトしている間に、北斗と栖羽が居なくなっていたのだ。

 急いで外に繰り出すと、砂浜の手前辺りで遠目に五人の人影が見て取れた。

 二人は見知った顔である北斗と栖羽だが、何故か御刀を打ち合わせている。

 だが、もう三人は違う。

 ……伍箇伝のどの制服でもない所を見ると、あの三人は折神紫親衛隊の一員だろう。

 

 

 今すぐにでも斬りかかりたい衝動を抑えて、二人の行く末を見ていた。

 栖羽の戦い方はあまりにも荒唐無稽なものだ。

 結芽が見始めてから数分しか経ってないが、既に三回は写シを剥がされているのにも関わらず再度写シを張れている。

 

 

(驚いたなぁ〜。おねーさん、そんなに写シ張れたんだ)

 

 

 体力や諸々の関係上、結芽は一度の戦闘で三回以上は張れない。

 本当は、三回以上張れないことはないが、体に掛かる負担が大きいため百合に禁止されている。

 それに、結芽も三回以上写シを張るのは危険だと、自分自身で分かっている。

 

 

 天才の中の天才、それを凌駕する程の才能を持つ結芽に取って、栖羽の剣術は子供のチャンバラごっこと変わらない。

 強いて褒める所があるなら、しっかりと振れている事だ。

 

 

 暇潰しにはなるだろう、そう勝手に思い込んだ結芽はぼーっと戦いを眺めていたが、決着は思わぬものだった。

 

 

 鍛錬のし過ぎにより足が悪くなった北斗は、短期戦特化と言っても良いほど体力が少なかった為か、栖羽の執念じみたゾンビ戦法さながらの戦い方で体力を削られていた。

 だからだろうか、迅移で接近しそのまま五段階まで引き上げた八幡力を使って突きを行う、倒すための最善の策に出たのは。

 

 

 これが普通の刀使だったら成功していただろう、いや並以上の刀使でも成功していたかもしれない。

 だか、栖羽は普通ではない少し変わった特技がある。

 多く写シが張れて死に難いと言う、少し変わった特技が。

 並の刀使では絶対に取らない選択を取った……それは正しく雲弘流の剣士らしい選択だった。

 

 

 雲弘流…相打ちを厭わぬ決死の剣を信条とする流派。

 栖羽はそんな考え、理解出来ないと思っていた。

 しかし、今は違う。

 戦う理由が出来た。

 守るのは、自分の大切な人だけでいい。

 だから、その為に御刀を振るう。

 

 

 栖羽は突きを受け止め、それどころか八幡力と金剛身が同時に使えないと言う部分理解して、カウンターを決めたのだ。

 

 

(おねーさん。面白い戦い方するなぁ。まぁ、強くはなさそうだけど…)

 

 

「負けた……そう……負けたのね……」

 

 

 一度しか写シを張れない北斗は、写シを剥がされたことで自らの敗北を知り、項垂れながら呟くように言った。

 

 

「……S装備の力なんて、全然大したことないんです……だって『平均以下』の刀使の私にだって勝てない……」

 

 

 見ていて、存外スッキリする終わりだ。

 S装備を着ている北斗と戦えなかったのは残念だが、今は切り替えよう。

 そう、結芽は思い直し自分たちが滞在しているホテルへと戻って行った。

 

 

 この後、リディアが現れて一悶着あったが、結芽は知る由もないだろう。

 

 

 

 リディアは苛立っていた。

 計画立てていた様々な事が失敗し、果てには子供相手に負けたのだ。

 苛立つのもしょうがないだろう。

 

 

 だがしかし、彼女は愚かにも基地に戻って来ていた。

 …そこに、紫の命令で潜入していた百合が居るとも知らずに。

 

 

「リディアさん……でしたか大人しく投降するなら──」

 

 

 言葉を続けようとした時、基地の武器庫から持ち出したであろう銃の銃弾がばらまかれた。

 勿論、当たる百合ではなかったが、少しばかり驚いている。

 話を全く耳に入れない程、暴走していたなんて。

 

 

「このガキがぁぁぁあっ!!」

 

「当たりませんよ、そんなもの。…あまり、音を立てて欲しくないのですが……」

 

 

 そんなの関係ないと言わんばかりに、銃弾をばらまき続けるリディアは限界が近そうだ。

 百合はため息を吐きながら、リディアの目の前から消える。

 夜、室内、加えて百合は怪物(天才)だ。

 この条件下で、百合を見失わないのは至難の業だろう。

 

 

 一段階目の迅移で視線からハズレ、徐々にシフトし三段階へ突入した所でS装備に感知されないレベルの峰打ちを喰らわせた。

 簡単に言っているが、親衛隊レベルの刀使にならないと不可能な芸当だ。

 

 

 それを、百合は綾小路の初等部に所属する若さでやってのけたのだ。

 

 

「…はぁ。後処理は紫様たちがやってくれるだろうし。早く帰ろう。一秒でも早く、結芽に会いたい」

 

 

 少しの罪悪感を感じながらも、結芽に対する想いが勝っているのか、百合はスタスタとその場を後にする。

 

 

 こうして、南国での戦いは幕を下ろした。

 

 

 ……因みに、任務を終えた百合と結芽の二人は、沖縄観光を満喫して帰ったが、予定日数をオーバーし結月にこってり絞られたらしい。

 




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結芽の誕生日は……

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