だだっ広い屋敷の廊下を、親衛隊の制服を着た二人の少女が走る。
勿論、百合と結芽だ。
集合時刻まで後数分。
他の親衛隊の面子はとっくに着いている頃だろう。
「もお~! ゆりが寝坊するからだよ~!」
「ごめんってば、さっきも謝ったじゃん!」
遅刻しかけているのに、何処か余裕そうに頬を膨らませて文句を言う結芽。
対して、百合は少々焦っているのか少し言葉が荒々しい。
何せ、百合は無遅刻無欠席の優等生。
結芽は朝が弱いこともあるのか、寝坊しがちでいつもは百合に起こしてもらっている。
そんな二人は、先程のやり取りを続けながらも、何とか集合時間前に執務室前に着くことが出来た。
「良かった……間に合った」
「ハァ、後で真希おねーさんに怒られるかな~……」
廊下を走ったことを真希に知られたら怒られると思ったのか、結芽はあからさまにめんどくさそうな雰囲気を出している。
親友の不穏な雰囲気を感じ取った百合は、結芽の機嫌を取りに行った。
「あ~……結芽? そう言えば私、この前買ってきたイチゴ大福がまだ余ってるんだけど……要る?」
「要る‼‼ありがとう~! 流ッ石、私のゆり」
「結芽のじゃないけどね……、息も整ったし中に入ろうか」
「うん」
強すぎず弱すぎず、丁度いい加減でノックをし中に居るであろう人に入ってもいいか尋ねる。
「百合と結芽です。入ってもよろしいでしょうか?」
「……入れ」
扉越しでも聞こえてくる凛々しい声、百合と結芽は揃って中に入った。
中には既に三人の仲間が待っていたようだ。
男性、引いては女性からも人気が高い
イケメン女子とはまさに彼女を意味するのではないかと疑うほど。
親衛隊第一席であり、御刀の名は薄緑で流派は神道無念流。
前回と前々回の御前試合では優勝して、現在の地位に就いた経緯を持つ。
紫の護衛と荒魂討伐の作戦指揮が主であるため前線に出ることは少ない。
その隣に居るのは
名家・此花家の令嬢であり、物腰が柔らかい。
真希と違い、女性らしい面が目立つためか男性人気が高い。
親衛隊第二席であり、御刀は九字兼定で流派は鞍馬流。
前回・前々回の大会で真希に敗れて準優勝に終わったため、真希のことをライバル視している。
紫の政治活動への同行、ならびに荒魂討伐の陣頭指揮を主とする。
そして、最後に紫の隣に無表情で佇むのは
特にこれと言って目立った容姿ではないが、普通に綺麗な女性なのに変わりはない。
主な業務は、雑務であり紫の秘書的存在だ。
「遅れてすいません紫様」
「遅れてごめんなさ~い」
「……また、結芽の寝坊か」
「結芽。少なくとも今日ぐらいはしっかりしなさいとあれほど」
「……結芽さん」
(あちゃ~、完全に結芽の所為になってる……。まぁ、日頃の行い的にしょうがない部分はあるけど)
流石に可愛そうだと思ったのか、百合が本当のことを話す。
「あの、先輩方。今回は結芽ではなくて私が寝坊しまして……あまり結芽の事を責めないでやってください」
「百合がか? 珍しいね、何かあったのかい?」
「本当ですわね、大丈夫ですの?」
「……何かありましたか?」
「い、いえ、特に何もありませんので。お気になさらず」
「そーだよ、今回は私悪くないもん」
普段からそういう行いをしてるからそう思われるんだよとは、百合は口が裂けても言えない。
その後は今日の御前試合の件について話した。
決勝以外の試合は自由に見に行っても構わないということだったが、百合は到底見に行く気はない。
勝敗が分かってる戦いなど、見に行ったところで意味はないのだから。
そして、最後の決勝のみ本殿白州にて紫が観覧することになっている。
折神紫、20年前の相模湾岸で発生した大災厄において大荒魂を討伐する特務隊の隊長を務めており、最強の刀使としても知られている。
誰にでも分かり易い言い方をするなら……英雄。
だが、その真の正体は……
(……紫様に成りすました大荒魂タギツヒメ。どこまでが、タギツヒメでどこまでが紫様なのか……)
「――、話は以上だ。開散」
『失礼しました』
全員が声を揃えて出ていく。
本当の戦いはまだ始まってもいない。
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御前試合の決勝戦、前回と全く同じように襲撃は起こった。
平城学館中等部三年・
お互いが御刀を抜き写シ*1を発動させる。
勝負が始まろうとしたその瞬間、始まりの合図とともに姫和は弾丸と同等かそれ以上のスピードの迅移*2を使い紫に突きを入れようとした。
だが、紫は難なくその攻撃を受け流した。
「それがお前の一の太刀か」
「くっ!?」
いきなりの事に出遅れた親衛隊だが、すぐさま真希が攻撃を仕掛ける。
動揺した姫和は、後ろからの突き攻撃に対応できず写シが解かれてしまう。
先程の三段階迅移の所為で上手く写シが貼れないらしい。
そのまま切り捨てようとした真希だったが、可奈美に邪魔をされてしまった。
「迅移‼‼」
可奈美の言葉を聞いて、姫和は急いで迅移で加速して逃げる。
その姿を見た夜見が、袖を巻くっていく。
「お任せください」
「いい、追うな」
「…………」
「結芽!」
無言で結芽が飛び出す。
百合もそれを追うように飛び出していく。
二人とも先回りをするが、百合は二人を庇った。
二人に向かう斬撃を悉く打ち払い、逆に百合も斬撃の隙をついてカウンターを入れていく。
「早く」
「ありがと」
可奈美たちに早く離脱するように促し、その場は一時的に打ち合いが中断された。
門を飛び越えた所を見るに、予測ではあるが八幡力*3を使ったのだろう。
(これで……あの二人が舞草に接触してくれる筈……)
百合が二人を助けた目的はこれにあった。
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時刻は午後七時過ぎ、百合は一人で執務室に来ていた。
「失礼します紫様。折り入ってお話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「構わん、なんだ」
「…単独行動の許可をお願いします。……知っていると思いますが、結芽の残りの命は後僅かです。最後の悪あがきをさせてくれませんか」
お互いが見つめ合う。
紫は百合の考えを見透かすような目で見つめ、百合は懇願するような目だった。
「も、勿論ですが! 任務となったらすぐに向かいお役に立って見せます……駄目でしょうか?」
「好きにしろ」
「あ、ありがとうございます!」
(よし! これで、こっそりと衛藤さんや十条さんに合いに行ける!)
花丸をあげたくなるような笑顔で執務室を出ていく。
少しづつ、運命は変わりつつあった。
次回もお楽しみに!
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結芽の誕生日は……
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