百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 どうも!
 前回の投稿でお気に入りが三一人になって嬉しいのと、感想が二件も貰えて深夜に一人喜んでいたしぃです!

 お待たせしてすいません。
 
 本編をどうぞ!


七話「強くて弱い」

 舞草の本部にて、折神紫の妹である朱音(あかね)に出会い。

 朱音は二〇年前の相模湾岸大災厄の真相を語り始めた。

 因縁の始まりを。

 

 -----------

 

 辺り一面に飛行型の荒魂が飛び回り襲ってくる。

 それらを対処しながら、特務隊の()()は進んでいた。

 今の状況を一言で表すなら……地獄、この言葉が相応しいだろう。

 いや、それも生温いほどに事態は緊迫していた。

 

 

「紫! 後ろ」

 

 

 これからの行動を考えていた紫は、後ろからの攻撃に気付かない。

 カバーは何とか間に合ったが、後何回もカバーできる余裕は徐々に無くなりつつあった。

 紫も焦りが出始めている、だからこそ……少女は活を入れる。

 

 

「紫! 落ち着いて、いつも通り冷静に物事を整理するの」

 

「…そうだな、済まない(ひじり)

 

「いいのいいの」

 

 

 少女の名は()()()

 紫と同学年であり、紫自身も認める「最強の刀使」。

 紺色の髪に薄茶色の瞳で、紫レベルではないが体の凹凸がある少女。

 泣きホクロが特徴である。

 その容姿はまるで……成長した百合のようだった。

 

 

「雪那ちゃん!」

 

「雪那!」

 

 

 後方から声が聞こえ、紫と聖は同時にその方向を向いた。

 そこには、自分たちの後輩である雪那が倒れていたのだ。

 写シも貼れないらしく、顔を上げるのが精一杯なのだろう苦し気な様子で呟いた。

 

 

「紫…様、聖…先輩」

 

「雪那……」

 

「紫……そろそろ不味いよ」

 

 

 少しの間思案した、出した結果は……

 

 

「聖、美奈都、結月先輩、江麻、いろは先輩、紗南! 以上六名は雪那を連れて撤退せよ!」

 

「そ、そんな! 私の所為で撤退なんて……どうかこのまま見殺しに!」

 

「雪那! それ以上は言っちゃダメ!」

 

「もう、これ以上犠牲を出したくない…」

 

 

 雪那の言葉を聖が抑える。

 限界は近い、チャンスは今しかない。

 

 

(かがり)?」

 

 

 篝は、何かを決心したような顔をしていて、美奈都(みなと)は少し首を傾げてしまう。

 だが、そんなことは関係ないかのように話は進んで行く。

 

 

「せやけど、この有様じゃ撤退するのも難しいのとちゃう?」

 

「そうですよ! 行くも茨、戻るも茨。だったら行くべきです!」

 

 

 二人の言葉は的を射ている。

 戻ることさえ困難であり、帰り道道でまた重傷者が出る可能性は十分にある。

 だったら、進む方が幾分かマシに見えるだろう。

 

 

「アイツの懐まで、後もう少しなのに……」

 

「いや違う。本体は恐らくあの奥に居る」

 

「だったら行って、ソイツを倒そうよ」

 

「だね、その方が被害は軽傷で済むかもしれなし」

 

「いいえ、ここからは私と紫様二人だけで行きます」

 

「え? なんで? ちょっとどういうこと?」

 

 

 篝の言葉に、美奈都だけではなく他の者達も驚いた。

 二人だけで行くなど自殺行為に等しい、それなのに何故そうするのか? 

 何かしらの理由がなければ行かせることは出来ない。

 仲間として……友として。

 

 

「四百年続く刀使と荒魂の戦いの歴史。荒魂による大災厄は、記録に残るものだけで過去三回。いずれも、折神家と一部の者だけが受け継ぐ方法で沈めてきた」

 

「沈める方法…?」

 

「あるの?」

 

「ある。篝の協力が必要だけど」

 

 

 聖の胸に、シコリのような違和感が生まれる。

 このまま行かせてはいけないと、何か良くないことが起こると……

 その思いを、言葉にして吐き出した。

 

 

「そんなの初耳……何で今まで言わなかったの?」

 

「説明している時間はない。命令に従え」

 

「結月先輩……」

 

「以後、隊の指揮は私が執る。雪那を守りつつ、速やかに撤退する」

 

「そんな……紫様……紫お姉さま…」

 

 

 雪那の状況は芳しくないのも事実。

 このまま放置していれば、確実に荒魂の餌になってしまうことだろう。

 何としても避けなければいけない未来があり、それ以上に不安定な未来が目の前にあった。

 

 

「……美奈都、聖。先行して退路を確保してくれ」

 

「ごめん結月さん。アタシ二人の援護に行く」

 

「ごめんなさい結月先輩。私もあの二人の援護に行きます」

 

「待て! お前達が行ってもどうにもならない」

 

 

 結月の言葉を聞こえなかったかのように、二人は親友でもある江麻に後の事を任せた。

 

 -----------

 

「相模湾岸大災厄、あれからもう二〇年の時が過ぎようとしています……」

 

「あっと言う間だったな」

 

「ハーイ、サナ先生」

 

 

 襖を開けて、長船の学長真庭紗南(まにわさな)が入って来る。

 エレンは嬉しそうに挨拶を返すが、百合は下を向いて俯いていた。

 

 

「長船女学園の真庭学長?」

 

「お前が十条姫和、そしてお前が衛藤可奈美。その隣に居るのが、夢神百合だな」

 

「はい」

 

 

 可奈美は何でもないように返事を返すが、百合と姫和は口を開かずにいた。

 そのままに、紗南は話を続けていく。

 

 

「あの日のことはまるで昨日のように思い出せる。私がこうしてここに居られるのは、お前たちの母親のお陰だ」

 

「お前()()…?」

 

 

 姫和がその言葉に反応した。

 百合は、顔が青くなっていっている。 

 まるで、何かに怯えているように。

 

 

「そうです、大災厄のあの日大荒魂を鎮めるべく奥津宮へと向かった四人。一人は私の姉、折神紫。一人は姫和さんのお母さん、(ひいらぎ)篝。もう一人は可奈美さんのお母さん、藤原(ふじわら)美奈都」

 

「な?!」

 

「え?!」

 

「マジか?!」

 

 

 三者三様の言葉を発する。

 

 

「ひよよんのママがかがりんデ」

 

「可奈美ちゃんのお母さんが美奈都さん?」

 

「皆さん落ち着いて下さい。最後の一人は――百合さんのお母さんである、夢神聖です」

 

「嘘です!」

 

 

 この場に居る誰よりも大きな声で、百合は朱音の言葉を否定した。

 何故なら、夢神家はもう何代も刀使を輩出していないし、百合は親からそんなこと聞いていない。

 

 

「有り得ません! 私のお母さんは普通の人で、お父さんだって……」

 

「いいえ、本当です。この写真をどうぞ……」

 

 

 朱音かわ渡されたのは一枚の古ぼけた写真。

 渡された百合の周りに、可奈美たちが集まって行く。

 その写真は結婚式の写真なのだろう、ウエディングドレスに身を包む聖と……見知らぬ男性。

 それを見た瞬間、百合の頭に軋むような痛みが走った。

 

 

「いづぅ……」

 

「百合ちゃん!」

 

 

 虫食いだらけの記憶の中で、笑い合う二人にあやされる幼き頃の自分。

 ……痛みが治まってから、もう一度思い出そうとする。

 だけど……

 

 

「なんで……どう、して」

 

「あなたに本当の御両親の記憶がないのは……憶測ですが自己防衛の為でしょう。聖さんと旦那さんである龍雅(りゅうが)さんは、今から約十年前に交通事故で亡くなりました。あなたは二人の死に耐える為、記憶に重い蓋をした」

 

「そして、今の御両親に引き取られた。……一応は聖先輩の兄でな……妹である先輩を溺愛していた。だからこそ、刀使になるのも反対していたんだがな……。聖先輩は誰からも愛される人だったよ、他人に優しく自分に厳しい人だった。後輩に尊敬されて、先輩に頼られる人だったな」

 

 

 自分の知らない母の話。

 少しづつ、声が遠くなっていく気がした。

 その後も、話は続いていたが百合の頭には何も入って来なかった。

 一つだけはっきり聞こえた言葉は「百合さんの御刀である宗三左文字と篭手切江は、聖さんが使っていたものです。……これも運命だったのかもしれませんね」、というものだった。

 

 -----------

 

 翌日、早朝から舞草の先輩たちから訓練と言う名の扱きを受けていた。

 昨日事は収まったのか、百合も扱きに参加しているようだ。

 一対多数にも関わらず、一太刀も受けずに圧勝していたが……。

 

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ~。夢神さん強いね、結構連携出来てた気がするけど…。ほんの少しの隙を確実に突いてくるんだもん」

 

「いえ、そんなことは…」

 

 

 そして、次の鍛錬では可奈美たち六人とやることになった。

 何でも、先程同様に隙がある部分を教えて上げて欲しいとのこと。

 迷いはあったが、そのお願いを受けた。

 

 

「よーい、始めっ!」

 

 

 長船の先輩の言葉を皮切りに、それぞれが仕掛けてくる。

 指揮は明眼*1が使える舞衣、その護衛に沙耶香。

 主攻撃手は可奈美で副攻撃手は姫和、遊撃手に薫とエレン。

 百合は、手っ取り早く舞衣を仕留めることにした。

 頭を潰すことで、統率は出来なくなる。

 

 

 けれど、そんなこと可奈美と姫和が許さない。

 攻撃手として、先制を仕掛けた。

 ……それが失敗だと気付かずに。

 

 

「せやぁっ!」

 

「はぁっ!」

 

 

 姫和は迅移を利用した刺突で、可奈美はそれに合わせて袈裟切り。

 出会った時と同様、姫和の御刀を人差し指と中指の間を八幡力を利用しながら使って白刃取りし、可奈美の攻撃には受け流しで対応。

 御刀を八幡力で強く挟みながら、過去に機動隊の人から教えて貰った体術を駆使し姫和に回し蹴り。

 可奈美には回し蹴りの遠心力を利用して足払いを掛ける。

 しかし、可奈美も負けておらず紙一重でそれを回避して右薙ぎに一閃。

 

 

 百合は少し驚いたものの、動きを止めずに素早く迅移で回避する。

 その後は、もう一度迅移を使用。

 一気に二段階までシフトさせて刺突するが……

 

 

「きえーい!」

 

「忘れて貰っては困りマ~ス」

 

「くっ!?」

 

 

 祢々切丸の一撃は受け流せないと判断し、迅移を中断し御刀の横っ腹に八幡力で強化した拳を一発入れて逸らす。

 尽かさず、エレンが体術と剣術を混ぜた攻撃を仕掛けてくるも、いとも簡単に流されて逆袈娑で写シを剥がされてしまう。

 衝撃波と煙で周りの視界が悪い中、これを利用し可奈美にもう一度迫る。

 

 

「可奈美ちゃん右から来てる!」

 

「分かった!」

 

 

 気付かれてしまっているが、問題はない。

 百合は、一気に三段階迅移を使用し可奈美の背後に周り背中に一太刀入れる。

 これで、可奈美と姫和にエレンが脱落。

 姫和は蹴られた衝撃が強かったせいか、御刀を落としてしまったからだ。

 

 

 今の状況は悪くない、ようやく三対一になった。

 

 

「紗耶香ちゃんに薫ちゃん、気を付けて!」

 

「了解」

 

「あいよ」

 

 

 三段階迅移の疲労は少しあるが、些細なものだ。

 煙が晴れてから、百合は真っすぐと舞衣に向かって行く。

 先程と同じく、変な掛け声の下に攻撃をしてきた薫を一瞬の間に腹部から上辺りを切断する。

 それを見た沙耶香は、全力で行くために無念無想*2を発動。

 本来、無念無想とは剣術の極地の一つ。

 無念(何も考えない)ことで行動を予測しずらくし、無想(何も思わない)ことで動きを悟らせない。

 

 

 頂点ではないが、最強の一角。

 だが、紗耶香の無念無想は欠点があるために百合でも対処可能。

 持続的に行われる迅移での動きに合わせ、迅移を使う。

 親衛隊の寿々花が得意としている迅移のタイミングを読むことも、百合には何度か見れば可能となった。

 そのお陰か、あまり苦を強いられることなく何度かの打ち合いで沙耶香を脱落させた。

 

 

 最後に残った舞衣に向かい御刀を向けようとした瞬間。

 先輩である米村孝子(よねむらたかこ)が、終了の合図を出して訓練は終わった。

 

 -----------

 

 訓練の後、百合は可奈美に話しかけられた。

 理由はシンプルだった。

 

 

「百合ちゃんって誰に剣術を教えて貰ったの? と言うか百合ちゃんの流派って何!!」

 

「師匠ですか? 特には居ませんね、私の流派は新夢神流……聞いた事ありませんよね?」

 

「そうだな、少なくとも俺たちの中で剣術に詳しいのは可奈美くらいだ」

 

「ごめん、私も知らないや」

 

「マイナーな剣術ですから、知っていなくて当然です。軽く説明しますよ」

 

 

 そう言った百合は簡単に、簡潔に夢神流の起源やら基礎を教える。

 まぁ、基礎の基礎も良い所だが。

 

 

「師匠に関しては、居ませんでした。皆さんが御刀に目覚めたのが何歳のときか知りませんが、私が御刀に目覚めたのは三歳の頃でした」

 

「さ、三歳だと!」

 

「そんなの有り得るのか?」

 

「さぁ、そんなことは私も分かりません。ただ、ぼうーっとしていたら御刀の前に居て手に取っただけですから」

 

 

 百合の言ったことは紛れもない真実だ。

 ある日、特筆して何かあった訳でもない一日に、百合は刀使に目覚めた。

 そして、彼女にとっての地獄が始まったのだ。

 

 

「刀使に目覚めてからは、夢神家の人たちに化け物と蔑まれて過ごしてきました。あの時の私は、『自分が弱いから認めて貰えない』と思っていました。だから、倉庫にあった過去の資料を読み漁っては鍛錬を繰り返しました。『もっと凄くなれば認めて貰える」と……」

 

『…………』

 

 

 誰も、何も言い出せない。

 それほどに、重い話だった。

 

 

「その後も鍛錬を続けていました、その過程で試合形式の練習も大切だと気付き道場に通い始めました。その頃には、私の剣術はほぼほぼ完成していましたので道場の師範代も何も言いませんでした。その道場で、結芽に出会いました」

 

 

 少しだけ、彼女の顔が明るくなる。

 結芽の存在は、彼女の中でとても大きな存在なのだ。

 

 

「私は、両親に認めて貰いたかった……いいえ、褒めて欲しかったんです。でも、結芽が認めてくれて、凄いって言ってくれてそれだけなのに凄く嬉しくって泣いてしまいました。結芽の病気が発覚したとことを境に、私はあの子の為に剣を振るうと誓いました。……別に両親は恨んでません、一応それなりの生活もさせて貰ってましたし、恩義は感じています。……でも」

 

「でも?」

 

「今思うと、バカみたいですよね? 認められるために頑張っていたのに、絶対に認められる末来なんてなかったんですから…」

 

 

 冗談交じりに言う言葉。

 流石に場の空気を重くし過ぎたから、贖罪の意味を込めての行動。

 

 

「……ねぇ、百合ちゃん? 気付いてないの?」

 

「何がですか?」

 

「泣いてるよ?」

 

 

 みんなに背中を向けて、急いで頬を触った。

 すると、本来するはずのない冷たい感触が手に伝わる。

 袖を使い完璧に涙を拭きとると、もう大丈夫と言う為に可奈美たちの方に向き直った。

 

 だけど……

 

 

「百合ちゃん……」

 

「夢神…」

 

「百合ちゃん…」

 

「百合…」

 

「ゆりりん……」

 

「違っ!? スイマセン、今止めますから」

 

 

 何度拭いても、瞳から溢れ出してくる。

 まるで、崩壊しかけのダムのように少しづつ少しづつ、涙の量が増えていく。

 そして、涙腺と言う名のダムは決壊して潜めてきた想いが涙となって、溢れていく。

 

 

「う゛う゛あ゛ぁぁぁーー!」

 

 

 そんな状態の百合を、可奈美は抱きしめた。

 親が子にするように、優しく壊れないように、それでいて強く。

 認めて欲しかった、褒めて欲しかった、多くは望まない。

 たった二つの願いを叶えて欲しかった。

 少女は自分を……愛して欲しかったのだ

 

 -----------

 

 五人は、フリードマンに言われた言葉の意味がようやく分かった。

 勘違いしていたのだ、刀使はまだ子供幾ら強くても精神は未熟な部分が多い。

 百合にはそれが当てはまる。

 前回の世界で大切な人を失い、今回の世界で自分が既に大切なものを失っていることに気付いた。

 

 

「……寝ちゃったね」

 

「そっとしておけ」

 

「そうだね、今はゆっくり休ませてあげようか」

 

「うん」

 

「ひよよんの言う通りだな」

 

「グランパの話の意味が今、はっきりと繋がりましたね」

 

 

 そうして、百合を昨日みんなで寝た寝室に寝かせて、外へ出た。

 

 -----------

 

 濃い霧に覆われた空間。

 神社の石階段にも似た場所で、百合の意識は覚醒した。

 

 

「ここは……?」

 

「おおー! よく来たね! 誰も来なくて暇だったんだよ、少し話し相手になってもらって良い?」

 

「あ、あなたは……」

 

「あちゃ~、自己紹介がまだだったね。私は()()()! よろしくね」

 

 

 その空間にもう一人いた人物は、百合の母である聖だった。

*1
視覚を変質させ肉眼で、望遠・暗視・熱探知などが行える。

*2
自己暗示的に無心状態に入り、神力の消費を抑え迅移など技の効果時間を延長する。代わりに行動が単純化する




 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!

 感想もお待ちしております!

結芽の誕生日は……

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