百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 お待たせしました!
 令和初投稿!

 今年度もこの作品をよろしくお願いします!


九話「百合は怪物(天才)、燕も狂人(天才)

 舞草の隠れ里の生活にも慣れてきた頃。

 訓練終わりに、みんなで温泉に入っていた。

 疲れと汗を温泉で流す、この行為は何物にも代えがたい幸福感が生まれてくる。

 実際に、百合は十代前半とは思えないほど気持ちよさそうな顔で温泉に浸かっていた。

 

 

「き~も~ち~い~」

 

「あはは、百合ちゃん凄い顔だよ」

 

 

 先程まで戦う理由について話していたのに、その空気は百合と可奈美の所為で完全に壊されていた。

 姫和は呆れながらも、確かめたかったことを聞くために百合に問いかける。

 ……本来迅移とは隠世の層を潜っていく行為であり、それを深く潜っていくことによって加速する。

 理論上、深く潜れば潜るほど一瞬の時間が引き伸ばされ永遠になっていく。

 姫和が知っている五段階の迅移……大荒魂討伐の際に使われたものは使うと隠世の奥深くまで到達できるかわりに現世に戻ってこられなくなる。

 

 

 これがあるからこそ、彼女は三段階迅移をシフトなしで使うことが出来るのだ。

 けれど、百合にはそれを扱える理由はない――ない筈なのだ。

 だけど、百合は使ってみせた、いとも簡単に。

 その理由が姫和は知りたい。

 

 

「私が三段階迅移を一足飛びに使える理由ですか?」

 

「そうだ。私には紆余曲折あれど使える一応の理由がある。だが、夢神にはそれが無い筈だ。なのに使える。それは何故だ?」

 

「そりゃあ、目の前で見せて貰えれば覚えられますよ?」

 

 

 彼女は努力して強くなった。

 それは確かだが、それ以外にも彼女が強い訳は存在する。

 純然たる強さで言えば、母である聖の方が圧倒的に上。

 しかし、百合の年齢はまだ十二歳、対して聖の年齢は十七歳だ。

 経験の差は格段に違う。

 

 

 だからこそ、彼女にはまだまだ伸びしろがあるし、なにより彼女は……剣の天才だ。

 剣の神であるタケミカヅチに愛されてると言われても過言ではない程の才能と、それに見合う器。

 彼女は一人で新夢神流を作り上げた。

 無念無想とは違う道で、百合の少女は剣術の極地に辿り着いている。

 恐らく、今剣術の頂点に最も近しい場所に居るのは百合だろう。

 

 

 姫和は百合の両親に当たる人物が、彼女を恐れた理由の一端を垣間見た。

 この少女はまさしく――怪物(天才)だ。

 

 

「……良く分かった。済まないな変な質問をしたかもしれん」

 

「? いいえ、別に構いません」

 

 

 何がなんだか分からぬままに、話が終わる。

 少し首を傾げた百合だったが、後ろから来た薫に胸に実る果実を揉まれて疑問はどこかに飛んでいった。

 

 

「な、ななな、何するんですか薫先輩?!」

 

「悪い悪い、どこぞのエターナル胸ペッタンと違って揉み心地が良さそうだったからつい」

 

 

 クツクツと笑う薫にあまり嫌悪感は抱かないが、流石に恥ずかしいと言う思いは強く、急いで振りほどき温泉を出る。

 タオルで体に着いた水を拭いて、制服を着ようとしたが――

 

 

「あれ? 私の制服がない? それに、なんだか外も騒がしいような……」

 

 

 百合の言葉に反応してきたのはエレンだった。

 けど、肝心な制服の部分は聞こえてなかったらしいが……

 

 

「そりゃあそうデスヨ。なんたって今日はお祭りですから」

 

「お祭り?」

 

「この里では、年に二回やるそうだ」

 

「聞いた舞衣ちゃん? 稽古も終わったことだし後で行ってみようよ」

 

「うん、そうだね」

 

 

 舞衣は可奈美のアゲアゲなテンションに苦笑しながらも、ちゃんと返事を返す。

 

 

「楽しみだなお祭り~!」

 

 

 だが、ようやくそこで制服の件に気付いた。

 

 

「私の制服無くなってる…」

 

「私のも…」

 

「まさか……」

 

 

 姫和が般若のような形相でねねを睨むが、当の本人? は――

 

 

「ねねねねー!」

 

 

 必死に首を振って否定している。

 だが、飼い主の薫にさえも疑われる始末。

 日頃から、胸の大きい人に対して変態的な行動を取るせいなのだが……

 そんな時、ねねにとっての救世主として米村孝子と小川聡美(おがわさとみ)が制服が無くなった経緯を話しながら、代わりの浴衣を持って現れた。

 

 

「お前たちの制服ならクリーニングに出しておいたぞ」

 

「夕方には仕上がるそうよ。それまでは…はいこれ」

 

 

 そう言って二人は人数分の浴衣を渡してくる。

 エレンは子供のように目を輝かせていた。

 予想でしかないが、あまり浴衣を着た経験がないのかもしれない。

 

 

「おー浴衣! 風流デスネ!」

 

「フリードマン博士が用意して下さったのよ」

 

「それを着て、お祭りを楽しんで来いってさ」

 

「流石はグランパデース!」

 

 

 浴衣に着替えた後は、みんなでお祭りを楽しんだ。

 射的に金魚すくい、カキ氷や綿あめ。

 それぞれがそれぞれで楽しみ夕暮れ時、百合や可奈美たち一行はエレンと薫に連れられて神社の石階段を上がっていた。

 

 -----------

 

 少ししてようやく境内見えてきた頃に、エレンと薫が五人をここに連れてきた理由を話し始めた。

 

 

「かなみん、ひよよん。あと、ゆりりんとまいまいとさーやにも見て貰いたいものがあります」

 

「なんだ?」

 

「グランパが今夜のお祭りのメインイベントにみんなを招待したいようデス」

 

 

 その後、可奈美と姫和を一時的とはいえ匿ってくれた恩人である恩田累(おんだるい)と合流。

 少しお話をしてから、招かれた場所であるお社に向かった。

 社、そこに祀られているものは――ノロだった。

 

 

「折紙家に回収されていないノロが、まだ存在していたのか…」

 

「驚いた? 数はだいぶ数は減ったけど、この国にはまだこんな風にノロを祀る社があるんだよ」

 

「祀る……」

 

「そう、丁重に敬い祀るんだ」

 

 

 ノロを祀る。

 その行為は、遥昔から行われていたもの。

 今では折神家に管理されているが、昔は日本各地でノロは祀られていた。

 

 

「可奈美君は、そもそもノロがどのようにして生まれるか知っているかい?」

 

「ええ……っと……」

 

「御刀の材料である珠鋼を精錬する際、不純物として分離される」

 

 

 夢の中で、母と話していた内容を百合は記憶していたし、それ以外でも諸々の予備知識は備えている。

 そんなこともあってか、詰まっていた可奈美に代わり問題の答えを提示した。

 

 

「流石百合君だ。御刀になるほどの力を持つ珠鋼から分離されたノロは、御刀とほぼ同等の神性を帯びている。未だ人の持つ技術では、これを消し去ることは出来ない」

 

「でも、そのまま放置てると荒魂になっちゃうから折神家が管理してるって」

 

「うん、不正解だな。…少し場所を変えよう」

 

 

 少し喋り過ぎたらしい、周りに注目されてしまった。

 可奈美の声もあるが、百合と舞草であるエレンと薫以外の面子は少なからず驚いている。

 

 

「かつてノロは、こんな風に社で祀られてきた。それを今のように集めて管理するようになったのは明治の終わり頃だねぇ。主に経済的な理由から、社の数を減らしたかった当時の政府が工事を進めていったんだ。当然そのままいけばノロはスペクトラム化し荒魂になってしまう。そうならないように当時の折神家が、ノロの量を厳密に管理していた。でも、戦争の足音が大きくなるにつれ軍部を中心にノロの軍事利用を求める声が高まり、タガが外れてしまったんだね」

 

「軍事利用……」

 

 

 これこそが、人間の愚かしさであり、浅ましさでもあった。

 争いに利用してはならないという一線さえも、その時の人間たちは超えてしまっていたのだ。

 

 

「ノロの持つ神性、つまり隠世に干渉する力を増幅させ、まさに君たち刀使にのみ許された力を解明し戦争に使おうとしたのさ。戦後、米軍が研究に加わったことでノロの収集は加速した。表向きは危険なノロは分散させず一か所に集めて管理した方が安全だと言って、日本中のノロが集められていった。しかし、思わぬ結果が待っていた。ノロの結合、スペクトラム化が進めば進むほど彼らは知性を獲得していった」

 

「それって、ノロをいっぱい集めたら。頭の良い荒魂が出来上がったってことですか?」

 

 

 可奈美の頭の悪そうな発言にフリードマンや累が顔を少し歪めながらも、話を続けていった。

 

 

「ねっへん」

 

 

 何故かねねが誇らしそうな顔をしていたが、見なかったことにした。

 

 

「簡単に言えばそういうことだね。今や折神家には過去に例がないほど、膨大なノロがため込まれている。それが――」

 

「タギツヒメの神たる由縁か……」

 

「問題はそれだけではないわ。もしも、その大量のノロが何かの弾みで荒魂に、いいえ大荒魂になってしまったら。もう私たちにコントロールする術はないわ」

 

「あの、相模湾岸大災厄の時のようにね」

 

 

 まるで何かを知っている様な、まるで自分がそこに居たかのような口調で語るフリードマン。

 その言い草に、姫和は食い掛かる。

 

 

「どういう意味だ」

 

「あの大災厄は、ノロをアメリカに送ろうと輸送用のタンカーに満載した結果、起きてしまった事故。つまり、人の傲慢さが引き起こした人災だ。……彼らの眠りを、妨げてはならなかった。ノロは、人が御刀を手にするために無理矢理生み出された、言わば犠牲者なんだ。元の状態に戻すことができなのなら、せめて社にまつりに安らかな眠りについて貰う。それが、今我々にできる唯一の償いなんだ」

 

「犠牲者、荒魂が?」

 

「それじゃあ、私たちがやってきたことって……」

 

 

 意味がなかった訳じゃない。

 何も為せなかった訳じゃない。

 知らなかったのだ、教えてくれなかったのだ。

 この中でそれを幼い頃から知っていたのは百合だけだった。

 夢神家の夢神流ができた切っ掛けでもある。

 

 

「刀使足る者、御刀を使い、荒魂になったノロを払い鎮める。その行いはちゃんと人を救って来たわ。でも……」

 

「刀使の起源は社に使える巫女さんだったそうだね。荒魂を斬る以上、その巫女としての務めも君たちはちゃんと受け継いでいかなきゃならない」

 

 

 みんな、言葉を発することが出来ない。

 相当に答えようだ。

 約一名を除いては……

 

 

「私は、それを知っていました。ノロと言う小さき被害者を……。珠鋼から無理矢理に分離された孤独と喪失感、それを補うためにノロはお互いに惹かれ合う。人間と似ていて、決定的に違うその本質。まるで、クロユリのように――居なくなって愛おしさに気付いて、その所為で人間を呪い憎しみの果てに復讐する」

 

 

 誰も反応することはなかったが、フリードマンですら百合の言葉に体を強張らせていた。

 

 -----------

 

 時間は経ち、少しだけ別れて行動していた。

 そんな時に、特別機動隊を用いた折神紫の反撃が始まった。

 包囲は始まっている、逃げ切るのは至難の業だろう。

 

 

「どうしますか?」

 

 

 フリードマンに問いに、朱音は数瞬思考を巡らせ答えを吐き出すように口にした。

 

 

「今ここで捕らえられる訳には行きません」

 

「では、戦略体撤退と行きますか」

 

「撤退って一体どうやって……」

 

 

 百合は凄まじい悪寒を体全体で感じていた。

 今すぐここから逃げた方が良い。

 だが、その手段が余りにも少ない。

 

 

「この様子だと難しいだろうが、潜水艦だろうな。あれの所属はアメリカ海軍のままだ、警察組織の彼らが手を出せる相手ではない。よろしいですか、朱音様?」

 

「ん」

 

 

 朱音はフリードマンの意見に敵を睨みながらも同意した。

 けれど、百合は未だ同意できない。

 

 

「フリードマンさん、薬は……届いているんですか?」

 

「グットタイミングさ、ちょうど先程届いた所だよ」

 

「良かった……」

 

 

 彼女の安堵している中でも、行動は止まることはない。

 孝子と可奈美・姫和・舞衣・沙耶香・薫・エレン・百合が朱音たちの護衛をしつつ移動。

 聡美は残りの刀使を集めここで迎え撃つとのこと。

 作戦が決まった後も行動は早く、隠されていた抜け道を使い潜水艦に向かう百合たち。

 聡美たちは……

 

 -----------

 

 ヘリから飛び降りてきた結芽、その眼は夜空の月明かりに照らされながらも緋色に輝いていた。

 

 

「あなたは…?!」

 

「折神紫親衛隊第四席・燕結芽。……紫様の嘘つき、ユリ居ないじゃん。まぁいっか、ここに居るおねーさんたちに聞けば」

 

「ユリ? ……夢神のことね。あの子ならここには居ないわ」

 

「そっ。ならおねーさんたち倒して早く追い掛けよ」

 

 

 聡美たちも簡単に負けるつもりはない、一秒一分でも多く時間を稼ぐ。

 それだけだ。

 だが、その思いは結芽の次元が違うとまで思わせる動きによって、完膚なきまでに叩き折られていた。

 

 

 十人は居た筈の刀使が、僅か数秒の間に全員倒されていた。

 聡美も善戦しようと踏ん張ろうとした瞬間。

 既に、勝負は決まっていた。

 

 

「おねーさんたち弱すぎ」

 

 

 その言葉を最後に、聡美の意識は完全に刈り取られた。

 

 -----------

 

 潜水艦が止められている洞穴らしき場所、そこには二十超える機動隊員が居た。

 そして、不思議なことに何人かはスペクトラムファインダーを握っていることが分かる。

 

 

「撃ってくるデスカ?」

 

 

 孫の言葉にも関わらず、フリードマンは冷静に淡泊に現状を分析する。

 

 

「多分ね。ほら、見てごらん。彼らはスペクトラムファインダーを装備しているだろう? 舞草の構成員は人間だよ? 摘発するのにあんなのが必要になるかね」

 

「……あれにはある程度の細工がされていると考えですか? 流石はフリードマン博士ですね。……紛れもなく正解ですよ、夜見先輩が出す荒魂にも反応させないことだって出来たんですから」

 

「百合君の捕捉でより信憑性が増したね。あれはS装備同様、折神家からもたらされた技術で作られたものだ。今なら、そう御刀に反応するという設定にされているといった所か」

 

「荒魂が、人間を荒魂呼ばわりするか」

 

 

 百合は壁から少しだけ顔を出して、機動隊員の顔を注意深く確認する。

 機動隊員の装備には、分かり易さも求められているためにアルファベットが記載されている。

 通常通りなら、上半身の装備の胸部分に――

 

 

(……やっぱりC班の人たちだ)

 

 

 ここに来て、もう一度やらなければいけないのか? 

 もう一度彼らを傷つけなければいけないのか? 

 呼吸を整えて壁から身を乗り出して、敵に無防備な体を晒す。

 

 

「百合さん……」

 

「すいません隊長さん。私には私のやるべきことがあるんです。だから――」

 

「俺たちにもありますよ。何ででしょうね、こうやって一番闘いたくない人に当たっちまうのは」

 

「本当に、ごめんなさい」

 

 

 少女は御刀を抜く。

 それと同時に写シを張り、敵部隊の中央に飛び込んだ。

 そこからは一方的な戦いだった。

 百合は基本的に体を狙う前に武器を破壊する。

 相手を気絶させても、気絶した仲間の武器で戦われたら困るからだ。

 

 

 百合は良く知っている。

 彼らの動きを、彼らの連携の良さを……そして、彼らの弱点を。

 身体的なスペックには御刀を持つ刀使に遠く及ばないことを。 

 だからこそ武器を破壊してから気絶を狙いに行く。

 罪悪感が心を喰らおうとする。

 

 

 今まで背中を預けて戦ってきた仲間に対して、自分はこんな不義理なことをしていいのか? 

 そんな考えが浮かぶ頃には、敵部隊の半分を倒していた。

 残った部隊の隊員も武器は既に壊されているため攻撃は出来ない。

 

 

「……仲間を連れて撤退して下さい。こんなことをしてお前が言うかとは思うでしょうが、それでも私はあなたたちと戦いたくない」

 

「引き上げるぞ」

 

「ですが隊長!」

 

「止めだ止め! 元々こんな作戦乗り気じゃなかったんだ。……それに、娘みたいに思ってた奴に泣かれるのは困るからな」

 

「そう…ですね。胸糞悪い仕事は放り投げても罰は当たりませんよね」

 

 

 そう言い残した機動隊の隊員たちは去っていく。

 それを見送ってから、残った舞草の者達は潜水艦に入ってくる。

 残るは……孝子と百合のみ。

 

 

「孝子さん、先に行ってください」

 

「何を言っている?! お前の方こそ先に――」

 

「死にますよ」

 

 

 孝子は急かされるまま、潜水艦に入ろうとしたが、何かが彼女の横を通り過ぎた。

 写シを張っていなかったら危うかっただろう、彼女の御刀を持っていた右腕は吹き飛び倒れ込んだ。

 このままでは間に合わないだろう、孝子を助ける手段がない。

 それ以上に……目の前に居る少女に勝てるビジョンが百合には全く見えなかった。

 

 

「久しぶりユ~リ? 探したんだよ? 今、助けて(殺して)あげるから」

 

 

 背筋に冷や汗が流れる、百合は無意識の内に二本目の御刀である篭手切江を抜いて、御刀で×描くように防御態勢を取った。

 予想はあたり、迅移により間を詰めてからの振り下ろし。

 反射的だった、直感的だった。 

 使わないと決めていた二本目を何故か結芽相手に抜いていた。

 混乱する脳を何とか制御し、結芽の方を見た。

 

 

 刃物特有の摩擦音が洞窟に響く中、自分に御刀を向けた少女は笑っていた。

 いつもの小悪魔のような可愛らしい笑顔ではなく、まるで悪魔が人を嘲笑う時にするような笑い方。

 先が長くない所為か戦闘狂(バーサーカー)にも似た所は昔からあった。

 けれど、今の状態を戦闘狂(バーサーカー)と言うのは百合自身は違う気がした。

 言うなれば……狂人(天才)

 

 

 違和感に気付いたのも束の間、結芽の連続攻撃が始まる。

 天然理心流は実践で活きる流派で、基本的に臨機応変な対応が求められるため結芽に驚くほど合う。

 結芽の流派の師は結月であり、結月も特務隊時代から副隊長という肩書に負けない実力があった。

 しからば、天然理心流使いの結芽の強さは折り紙付き。

 連続攻撃に耐えながら、もう一度結芽の顔を見直す。

 

 

 何か見逃していた気がして、何か見落としていた気がして、もう一度見つめ直したその瞳に――()()は映った。

 

 

「……そんな」

 

「どうしたのユリ? ボーっとしてると……殺しちゃうよ

 

「っ?!」

 

 

 間一髪、迅移でその場を脱し潜水艦に直行。

 入ってすぐに蓋を閉めたため結芽は合いってくることはなかったが……

 

 

「結芽……いいや、あれはもう結芽じゃない。ユメって呼んだ方が良いのかな」

 

 

 結芽も百合の事をユリと呼び、百合もまた結芽のことをユメと呼ぶ。

 お互いの行こうとしている道は決定的に違うのに、何故だが噛みあっていた。

 

 -----------

 

 残された結芽は胸を押さえながら咳き込んだ。

 時間がない、余裕がない、力が足りない。

 ないない尽くしのこの状況で、少女は笑う。

 愛おしい存在はきっとあそこに来る。

 その時こそ必ず、助けて(殺して)あげよう。

 

 

「ゆり‼‼ゆり‼‼ゆり‼‼助けて(殺して)あげるから――一緒に」

 

 

 少し間が空いて、その言葉は吐き出された。

 恋人を待ち焦がれる乙女のように、夫を想い続ける妻のように。

 

 

生きてよ(死んでよ)

 

 

 狂人(天才)は信じていた、自分の想い人が必ずまた目の前に現れることを。

 

 終点不明の電車は止まらない、止まるのは終点だけ。

 その終点が希望か、はたまた絶望か、運命に抗う為の戦いは最終局面に移りつつあった。




 次回もお楽しみに!

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結芽の誕生日は……

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