百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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閑話
十四話「百合と燕の、唐突温泉旅行!」


 戦線に復帰してから、はや1週間。

 鎌倉特別危険廃棄物漏出問題から数えると、約1ヶ月もの時が経っていた。

 身体的な問題は特になく、その日もせっせと荒魂退治に勤しむ百合。

 だが、その日の午後5時頃、百合は紗南に呼び出され指令室に足を運んでいた。

 

 

 久しぶりの指令室に少しの緊張と、それ以上の罪悪感が彼女の心中に渦巻いていた。

 規則正しいノックと共に扉を開けて中に入る。

 

 

「失礼します。夢神百合ただいま到着しました」

 

「そう固くならなくていい、悪かったな急に呼びつけて」

 

「いいえ、そんなことは……」

 

 

 紗南と話しながらも、百合の視線は周りに居る職員に向けられていた。

 退院したあとは、色々な所に行って謝り倒した百合が唯一来れていなかったのが指令室(ここ)だったのだ。

 そんな百合の視線を見てか、苦笑いを浮かべる紗南。

 彼女の胸に渦巻く罪悪感を取り払うために、紗南が職員を代表して言葉を発した。

 

 

「百合、あまり気にするな。ここに居る職員でお前を嫌ってる奴や、お前のことを恨んでるやつは居ないよ」

 

「本当ですか? ……なら良いんですけど」

 

「さぁて、暗い話はここまでだ! 退院した祝いにこれをやろう」

 

 

 渡されたものは1枚のチケット。

「1泊2日の温泉旅行ペアチケット!!」と簡潔に書かれている。

 有効期限は……なんと明日まで。

 

 

「こ、こんなの貰っていいんですか?! 悪いですよ、私なんかよりいっぱい働いている薫先輩にでも!」

 

「それは無理な話だ。アイツは今頃美濃関で荒魂の相手をしてるよ」

 

「そうですか、アハハ…」

 

 

 薫の現状に同情しつつ、少しだけ目を逸らす。

 紗南は薫曰くクソパワハラ上司らしい。

 先程のやり取りで、百合も何となく察しがつき薫に尊敬の念を送る。

 

 

「ペアチケットですけど、誰と行けば……」

 

 

 結芽は休暇を貰えていないため、勝手に連れ出す訳にもいかない。

 かと言って、ペアチケットなのに自分1人では少し物悲しさがある。

 百合は頭の中で、明日から明後日にかけて休暇だと言っていた人を思い出そうとしたが、そもそも今の現状で休暇を取っている者などいるわけが無い。

 最近の荒魂の発生量は異常とも言えるものであり、まともに休めた試しがなかった。

 

 

 酷い時は、シャワーを浴びている途中に出撃命令が出され、慌てて出ていった所為で下着をつけ忘れとこともあった。

 最近の人生の黒歴史の1つにカウントされている。

 

 

「? ああ、そうか。お前には言ってなかったが、明日と明後日の2日間は燕も休みだぞ」

 

「えっ? そうなんですか?」

 

「お前達2人で楽しんでこい」

 

 

 その言葉に、百合は顔を顰めた。

 嫌なのではない。

 ただ、最近は何故か、結芽の顔を見るだけでドキドキしたり、結芽が誰かと楽しそうに話しているのを見てると無性にムカムカしてモヤモヤしてしまうのだ。

 これの所為で、ここの所は結芽との距離が開いてしまっている。

 

 

 この温泉旅行が距離を戻す良い機会だと分かっていても、もしものことを考えると素直に喜べなかった。

 とりあえずその場は上手く誤魔化し、指令室を出る。

 貰ったチケットを手の中で遊ばせながら、チラリと専用の機械で腰に固定されている二振りの御刀を見た。

 聖はこんな時どうするのだろうか? 

 

 

 答えてくれない事など、分かっている筈なのに頼ってしまうのは悪い癖なのか……

 ため息を吐きながらも、気持ちを切り替えて自室に歩を進めて行った。

 

 -----------

 

 特にノックをする訳でもなく、いつも通りに扉を開ける。

 結芽は既に帰ってきていたのか、ベッド寝転がりながらスマホを弄っていた。

 百合が帰ってきたことは分かっていたらしく、スマホから目を離して口を開いく。

 

 

「おかえり〜、遅かったね?」

 

「そう? いつも通りじゃない?」

 

「ん〜? まぁ、いっか。それより聞いた? 私とゆりは明日と明後日休みなんだって!」

 

 

 休みをとれることが嬉しいのか? 

 自分と一緒に遊んだりぐ〜たらできることが嬉しいのか? 

 生まれてしまった疑問を一旦横に置き、チケットの話をした。

 結芽の顔は見る見るうちに顔がほころんでいく。

 百合はそれを見て、自分の心がドキドキと温かくなるのを感じつつも手早く荷物の準備をし始めた。

 

 

 結芽も百合に見習いウキウキと鼻歌を歌いながら、自分の荷物をバックに詰め込んでいく。

 20分程で支度は終わり、明日の予定を決めるために2人で隣同士にベットに腰掛ける。

 寿々花と夜見、他のみんなへのお土産を話し合いながら決めていく。

 行く場所は神奈川県内にある箱根温泉郷。

 

 

 有名どころだと元祖箱根温泉まんじゅうや、箱根まんじゅう辺りだろう。

 それ以外でも、変わった所で湯もちや箱根ロール等だろうか。

 百合は寿々花や夜見に湯もち、可奈美たちには箱根まんじゅう、職員の方々には元祖箱根温泉まんじゅうをと思っている。

 結芽は箱根限定のイチゴ大福ネコのストラップに目を輝かせていた。

 

 

 今の状態は、結芽が百合のスマホを横から覗き見る形である為、吐息が当たる距離だ。

 その事実が百合の心臓の鼓動を早くしていく。

 先程の温かいものに似ているが、どこか違っていて。

 顔が熱くなっていくのが自分でも分かった。

 

 

 そんな百合の状態を知らないであろう結芽。

 彼女は無自覚に、上目遣いで顔が熟したリンゴのようになっている百合を心配して声をかけた。

 

 

「ゆり、大丈夫? 顔赤いよ?」

 

「う、ううん。なんでもないの、ただ明日が楽しみで興奮しちゃって…」

 

「だよね!! 私も今から楽しみだよ! ゆりと2人だけで出かけるなんて久しぶりだね」

 

「うん、良い旅行にしたいね♪」

 

(あ、危ない、なんとか誤魔化せた〜)

 

 

 内心ヒヤヒヤして言葉が変にぶらついていたが、上手く誤魔化してその場を乗り切る。

 その後も、遅くなるまで旅行について話していた2人。

 最終的に同じベットで寝たが、結芽に抱き枕のように抱かれてしまい寝ることなどできなかった。

 

 -----------

 

 鎌倉駅から電車に揺られて1時間半、出勤ラッシュだと言うのに電車の中は空いていた。

 

 

「空いてて良かったね〜。あっ、そう言えば話は変わるけどさ、夜見おねーさんが脱走しようとしてたってホント?」

 

 

 結芽の言葉に百合は肩をビクリと震わせ、顔がほんのり赤くなる。

 あまり思い出したくないことを思い出してしまったのかもしれない。

 いつまで経っても返事を返さない親友に首を傾げながらも、結芽手に持っていたスマホでイチゴ大福ネコの冒険を進める。

 ここで簡単にイチゴ大福ネコの冒険を説明しよう。

 

 

 イチゴ大福ネコを主人公とした王道派RPG。

 基本的なスマホのRPGものと同じくガチャがあるが、最初の無料ガチャで最高レア度のSSRを確定でくれる初心者に優しい作りになっている。

 ガチャで出るのは、ご当地イチゴ大福ネコやイベント限定のイチゴ大福ネコであり、出たキャラを操作してクエストやストーリーを進めていく。

 ゲーム操作はコマンド&タップ・スライド・フリック式で、コマンドで必殺技、タップ操作で攻撃、スライドで移動、フリックで回避。

 

 

 とまぁ、こんな感じのスマホゲームだ。

 今時の流行りのゲームと言えるだろう。

 こんなゲームを結芽が進めていく中で、夜見が脱走しようとしてた時のことを話し始めた。

 

 

「え〜っとね、最初は全然私の話す言葉を聞いてくれなくて、そのまま逃げて行っちゃいそうな雰囲気だったんだけど……」

 

「だけど?」

 

「その…私が夜見先輩のことを夜見おねーちゃんと言ったら止まってくれて、それでなんとか脱走は阻止できたって感じかな?」

 

 

 結芽がニヤニヤしながら、此方を見つめてくる中で百合も現実逃避するようにスマホに入っているイチゴ大福ネコの冒険のアプリを開き遊び始める。

 基本的にこういうスマホゲームをあまりしない百合も、初心者に優しいゲーム性から好んでやっていた。

 今日の朝方は眠れなかったこともあり、ひたすらクエストを進めていたほどだ。

 

 

 同じゲームを始めた百合に、結芽は思い出した顔をして頼み事をするように少し頭を下げて上目遣いでお願いする。

 最近の彼女が、このやり方に弱いとなんとなしに分かってきたのだろうう。

 

 

「ゆり〜、このクエスト手伝って〜」

 

「なになに…って?! これさっき出たばかりの1番難しいヤツだよ!」

 

「えへへ〜、舐めないでよね! 私はこのゲームを立ち合いと荒魂退治の時以外殆どずっとやってるんだからっ!」

 

 

 エッヘン、とない胸を張る結芽を見ながら百合は歯噛みする。

 彼女は基本的にストーリー性のあるゲームや、こういうスマホゲームはマルチなどせずに自分一人で進めたい派閥の人間なのだ。

 だが、クエストが出てから何回か挑戦しているが後一歩の所で勝てないのだ。

 少しの間吟味しつつも、結芽のお願いを断ることも出来ない為、出来る限りの笑顔で頷いた。

 

 

「良いよ、でも私のキャラが弱くても文句言わないでね?」

 

「言わない言わない! ボスのヘイトを稼いでくれたら充分だよ」

 

 

 彼女たちがやろうとしているクエストは、道中は難しくないのだ。

 ボスが異常とも言えるほどに、攻撃力が高いためほぼ1回目の攻撃でHPがなくなってしまう。

 だが、ボスのHPはそこまで高くないため、隙をついて1発必殺技を入れられれば勝てる。

 しかし、苦戦を強いられるだろうと思っていた2人の考えは意味をなさなかった。

 

 

 何故なら、マルチプレイの挑戦1回目にして簡単に勝ってしまったのだ。

 理由は単純だった。

 2人が強すぎた、ただそれだけだ。

 本来ならこのクエストはマルチ推奨で、雑魚敵も相当に強く設定されているのだが、百合と結芽のやり込み度合いが凄まじい所為でなんら苦に感じず、ボスでさえも簡単に倒すことが出来た。

 

 

「何だか拍子抜けだったねー」

 

「うん、そうだね。そうだ! このまま周回してイベントポイント集めちゃおうよ」

 

「いいよ、このクエストで良い?」

 

 

 因みに余談ではあるが、今回のイベントはポイント制のランキングで、彼女たち2人がワンツーフィニッシュを決めたのは言うまでもない。

 

 -----------

 

 チケットの旅館に着いてチェックインした後は、荷物を置いて浴衣に着替える。

 結芽の浴衣に着替えるのを手伝いながら、今日の観光こ流れを頭の中で確認。

 スムーズに行けば行くほど、温泉でゆっくりする時間が増えるので、百合は今から楽しみだ。

 

 

 結芽も久方ぶりに着る浴衣に瞳をキラキラさせて喜んでいる。

 最低限の荷物をを持って旅館を出ていく。

 ブラブラと観光地を巡りながら、お土産屋さんを物色したり食べ歩きをしたり、旅行を楽しむ。

 時刻は11時過ぎ、お昼ご飯にはまだ少し早い、それにちょこちょこ出店で食べているのであまりお腹は減っていない。

 

 

 足湯で休憩で足の疲れを癒しながら、思いっきり肩を伸ばす。

 百合は実家に居る時旅行に行くことはあるにはあったが、肩の力を抜いて行けた試しはない。

 隣り居る結芽は先程3軒目のお土産屋さんでようやく見つけたイチゴ大福ネコストラップを見て、ご満悦なのか満開の笑顔だ。

 そんなゆったりとした温かい雰囲気を壊すかのように、電柱に付いているスピーカーから放送が流れる。

 

 

『荒魂の出現を確認しました。周辺住民の皆さんは速やかに屋内に避難し、刀使は直ちにこれを撃退せよ。繰り返すーー』

 

 

 放送を聞いた途端、そこら中に居た観光客が屋内に避難していく。

 2人はそれを見送おった後、スペクトラムファインダーを確認する。

 道なりに100m行った所に荒魂が居るらしい。

 2人は面倒臭そうな顔持ちで、荷物を片手に御刀を抜き荒魂退治のために出現場所に向かった。

 

 

 運の悪いことに、まだ他の刀使は来ていない。

 荒魂の数は小型個体が10体だけで、2人で余裕を持ちながら戦える範囲内。

 2人は臆することなく、次々と荒魂を祓っていく。

 全て倒し終わる頃に、やっと他の刀使が現れた。

 

 

「到着が遅れました、綾小路武芸学舎高等部2年の木寅(きとら)ミルヤです」

 

「長船女学園高等部2年の瀬戸内智恵(せとうちちえ)よ。遅れてごめんなさ……」

 

「? どうしたのちー姉? あっ、美濃関学院中等部二年生の安桜美炎(あさくらみほの)だよ」

 

「ご丁寧にどうも、元折神紫親衛隊第五席夢神百合です。今日は休暇中故、このような格好で申し訳ありません」

 

「元折神紫親衛隊第四席燕結芽、よろしくね〜」

 

 

 結芽を見て固まったまま、顔に陰りがある智恵以外は普通に挨拶を終え。

 百合とミルヤはノロの処理の話をしている中、美炎と結芽はスマホに付いているイチゴ大福ネコについて語り合っている。

 数瞬の内に仲良くなっている、美炎と結芽を智恵複雑な表情で見ていた。

 ……智恵は舞草に所属していた、そして結芽は舞草を襲撃した。

 智恵にとって結芽は仲間を傷つけた相手だが、今の彼女からは年頃の少女のような幼さしか感じられない。

 

 

(この子が、舞草の仲間を……。いいえ、止めましょう。私はお姉さんなんだから…)

 

 

 黒い感情に蓋をして、智恵は結芽たちの話の輪に入っていく。

 その数分後、智恵のことをおばさんと言った結芽の悲鳴が聞こえたのは、仕方の無い話である。

 

 

 

 荒魂退治から数時間、旅館に戻って来た2人は夕食を終えて温泉に入っていた、

 なんでも、この旅館の温泉は疲労回復と発育促進の効能があるらしい。

 舞草にいた時入った温泉と同等かそれ以上に温かく気持ちが良い。

 百合は顔を他所様にお見せできないレベルにまで蕩けさせ、寛ぐ。

 この時、結芽の目線は百合の双丘に向けられていた。

 

 

 羨ましそうに、見つめる結芽。

 その視線に気付かず、なおも寛ぎ続ける百合。

 ゆっくりと背後に回って行く結芽に対し、百合は微睡んだ思考でナニをしているのか考える。

 

 

(結芽? ……何してるんだろう、まぁいいか。体洗おう)

 

 

 結芽の手が後少しで届く、と言った所で百合は湯船から上がり体を洗いにいく。

 頭に乗せていたタオルをシャワーのお湯で濡らし、そこにボディソープかけて泡立たせる。

 泡立たせたら、そのタオルで体を洗っていく。

 

 

「ゆりー! 背中洗って上げるから、私の髪と背中洗って〜」

 

「髪は自分で洗ってよ、もぉ」

 

 

 口ではこう言いながらも、お願いを無下にしない辺りは本当に好きなことが見て取れる。

 結芽は合法的に百合の背後を取れたことに笑いを隠さずニシシと笑う。

 そんな笑い声を気に掛ける様子はなく、背中以外の部分を洗っていく百合。

 

 

「はい、背中はお願いね。私は髪の毛洗ってるから」

 

「任せといてよ!」

 

 

 タオルを渡してからは、髪の毛を洗うためシャンプーに手にかけて頭に手を伸ばす。

 そして、百合の手が髪の毛を洗うために上に上がった瞬間、結芽は百合の双丘に覆うように触った。

 

 

「あっ…つぅ……ひゃんっ…んっ…はぁ…あっんっ」

 

「ずるいよ! 私と同い歳なのに、こんなに大きくて! イタズラしちゃうんだから!」

 

「まっ…結芽…やめ…んっ」

 

 

 恐らくこの年頃の少女出してはいけないであろう、と言えるほどの艶めかし嬌声が小さく響く。

 声を抑えてるのか、必死に我慢してるようで余計に変な声が出てしまっている。

 結芽も結芽で、何故か分からないが気分が乗ってきてしまい、双丘を触っていた筈の手が段々と下に下がっていく。

 

 

 百合はこれ以上は不味いと判断し、結芽に訴えかける作戦にシフトした。

 

 

「ゆめぇ、もうやめて。いじわるしないでぇ…」

 

「ご、ごめん! 調子乗りすぎちゃったかも…」

 

 

 赤面・涙目・上目遣い、この3コンボは結芽の胸にずきゅんと効果音をたてて突き刺さった。

 先程より艶めかしく、扇情的なその姿は同性の結芽でさえ美しいと思わせるものだ。

 その後のことは2人共にあまり良く覚えていないとの事。

 だが、旅行後の方が距離が空いてしまったのは事実だった。

 

 

 百合だけではなく、結芽も百合を意識し始めていた。

 お互いを想う、百合と燕の行きつく先は……




 次回もお楽しみに!

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結芽の誕生日は……

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