百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 一瞬だけでしたが、日刊ランキングにのりました!
 めちゃくちゃ嬉しくて涙出そうでした。
 何やかんやありましたが、投稿していた作品の中でランキングにのったのは初めて。

 お気に入りも昨日の投稿から七人も増えました!
 以上、失踪系作者しぃの独り言です。
 本編をどうぞ…


十六話「百合と燕は、結ばれる」

「結芽って、好きな人いるの?」

 

 

 よくあるガールズトーク。

 風邪が治ってから二日も経たないある日の朝、百合は不意にその質問を結芽に対し投げかけた。

 どんな返事かえってくるかで、今後の自分の動き方が変わる。

 もし、結芽にそんな相手が居るなら応援したい。

 本当は嫌だけれど、「結芽(親友)を幸せにすることが出来るなら、それもしょうがない」と、百合は思っている。

 

 

 そんな思いがある百合に対し、結芽の返答は、

 

 

「居るよ。好きな人」

 

 

 その言葉を聞いた途端、百合は机と椅子をガタンと揺らしながら立ち上がる。

 構えていた筈なのに、心臓の鼓動は早まるばかり。

 その所為もあってか、咄嗟に立ち上がってしまった。

 

 

「だ、誰?! どんな人?! もしかして、私の知り合い?!」

 

「お、落ち着いてよ…。えっと、どんな人かって言うと…凄く優しくて、気が利く人で、いつも私の事を想ってくれる人かな。勿論百合の知ってる人だよ」

 

(と言うか、本人そのものだけど。……流石に、気づいてくれるよね?)

 

 

 結芽はこの言葉で百合がある程度察してくれるものだと思っていた。

 だが、実際はそんなことはなく。

 パソコンで最近の荒魂退治に関する書類作成を行っていた、百合の作業効率は目に見えて落ち、明らかに雰囲気が暗くなっていた。

 

 

(嘘っ!? 絶対気づくと思ったのに!)

 

 

 百合は百合でこう思っていた。

 

 

(私じゃないのは確実か……、結芽のことを何時も想ってるし、気が利く方だとは思うけど……。すごい優しいわけじゃないからな)

 

 

 あまりにも自己評価が低い少女である。

 前回の事があるせいか、ネガティブな思考が抜け切っていないのだ。

 正直に言うなら、かなり面倒臭いタイプの人種。

 結芽はため息を漏らしながら、これからの動きをどうするか考えた。

 いっその事、素直に想いを伝えてしまおうか? 

 そんな考えが脳裏に過ぎるが、頭を横に振って否定する。

 

 

 先日の事故のように、出来ることなら百合から想いを伝えて欲しい。

 その後、自分も想いを伝えれば晴れて相思相愛の関係を築ける。

 敢えてもう一度言おう、この二人はかなり面倒臭いタイプ人種である。

 

 -----------

 

 先程の話から約一時間、朝十時を回った頃。

 百合は作成した書類の提出のために、指令室を訪れていた。

 結芽の言葉が頭から抜け切っていない百合は、ノックを忘れて指令室に入る。

 指令室の中は、誰もが慌ただしく働いていた。

 徹夜の者も多いのか、エナジードリンクの空き缶や空き瓶が机に並んでいる。

 

 

 目元に隈がある者も多い中、百合は紗南に書類を渡した。

 

 

「真庭本部長、頼まれていた書類を持ってきました」

 

「おお、助かるな。現場に出ていて書類を作成できるものはあまりいないからな」

 

 

 刀使の基本的な仕事は荒魂退治であり、書類作成はあまり行わない。

 高等部になれば社会に出ても役に立つように、と言う理由でやる者も多いが絶対数は多くない。

 その中でも、中等部でありながら下手な高等部より綺麗で読みやすい書類作りをする百合は、指令室(ここ)では重宝される。

 百合はそれ以外でも、お茶やコーヒーを入れて配ったりなどの気の利く行為が出来る。

 

 

 紗南からしたら、少し真面目過ぎるというものだ。

 姫和の母である篝と同等の真面目さと、聖のような人柄の良さわ持ち合わせることで、百合は指令室の職員からしたら天使のような存在。

 噂では、鎌府や刀剣類管理局本部内でファンクラブがあるとかないとか。

 イケメン女子として、男性女性問わずモテる真希。

 その容姿の美しさから尊敬される寿々花。

 最後に、優しさと真面目さ、戦闘時の強さがギャップとなり天使と呼ばれる百合。

 

 

 親衛隊、恐ろしい組織である。

 そんな事はさておき、紗南は百合に対してある疑問が浮かんだ。

 

 

(? そう言えばいつものノックが無かったな。忘れるなんて珍しい。何かあったか?)

 

「百合? 珍しいな、お前がノックもせずに入ってくるなんて」

 

「へ? そ、そうでしたか? だったらすいません! つい、ボーッとしていて。以後気を付けますので」

 

「いや、責めてるわけじゃないんだ。珍しい事もあるもんだな〜、と思ってな。何かあったのか?」

 

 

 少しの情報からそこまで持っていくのは、一種の才能なのだろう。

 伊達に長船の学長を務めているわけでもなければ、過去に特務隊にいた訳でもない。

 紗南の目はしっかりと百合の瞳を捉えていた。

 百合も、少しづつ自分がボーッとしていた原因を話していく。

 

 

「なるほどなるほど、で?」

 

「?」

 

「いや、お前はどうしたいんだ? 燕がこのまま誰かと付き合っていいのか?」

 

 

 女性同士の恋愛を進めるわけでもなければ、否定するわけでもなく。

 ただ純粋な、百合の想いを聞いた。

 結芽が百合との関係性を絶つなど有り得ないが、もしかしたら。

 そんな()()が、百合の心を締め付けた。

 結芽が笑っていて、幸せならばそれで良い。

 けれど、もし可能なら、その隣で笑ってる人間は自分が良い。

 

 

 独占欲に似た何かが百合の中に出てくる。

 黒い感情ではなく、清々しいと言えるものだ。

 温かく包むような、愛と同じで少し違う感情。

 今の百合が結芽にぶつける感情は、愛でもあり恋でもあった。

 

 

 愛を知ってから恋を知る。

 本来、恋を知ってから愛を知るものだ。

 子供の時に他人に恋をして、大人になって親の愛に気付く。

 少し順序が逆になってしまったが、百合は「そんなのどうでもいい!」と、言わんばかりの顔をしていた。

 

 

 その顔を見て、紗南は悪戯が成功した子供のようにクスリと笑い百合の頭を撫でた。

 

 

「まっ、長い人生だ。ゆっくり歩けよ」

 

「ありがとうございます! 私行ってきます!」

 

 

 紗南にそう告げると、百合は指令室を飛び出しある場所に向かった。

 想いを伝えるために。

 

 -----------

 

 結芽は夕暮れ、折神邸の中庭に呼び出されていた。

 百合が部屋を出ていってから、数時間。

 ずっとどうするか考えていたのだ。

 そんな時に、百合からの電話が来て中庭にいる。

 

 

『伝えたい事と、渡したい物があるから中庭に来て』

 

『わかった』

 

 

 こんな会話だけだっだのにも関わらず、結芽は落ち着いていた。

 もしかしたら、百合が勘違いしたままかもしれないのに。

 別れを告げられる、そんな考えは1mmも浮かばなかった。

 待つこと数分、ようやく現れた百合は何故か御刀を抜き写シを張りながら、大きな荷物を背負ってやって来た。

 恐らく、荷物を背負うためにそうしたのだろう。

 

 

 だが、肝心な荷物の中身は見えない。

 

 

「ゆ、ゆり?! それ…何?」

 

「これ? これはね……」

 

 

 ゆっくりと丁寧に荷物を下ろして、写シを外し御刀を納刀する。

 その荷物は花束だった。

 中に入っている花の数が多過ぎて所為で、あんな持ち方をしていたのだろう。

 結芽は女の子だが、あまり花に関心がある訳でもない。

 その彼女でさえ分かる、花。

 

 

「赤い…バラ?」

 

「そっ。いや〜、結構苦労したんだよ? こんなに集めるの二十軒以上回って、ようやく目標の数まで行ったんだ!」

 

「目標の数ってどれくらい買ったの?」

 

「九九九本」

 

「……待って、もう一回言って」

 

「だから、九九九本買ったの」

 

 

 異常と言える程の数である。

 見た目からして、軽く百は超えてるだろうと思っていた結芽だったが、流石にこれはやり過ぎだと思った。

 

 

「ちょ、流石にそれは買い過ぎだよ! いくらかかったの!?」

 

「三〇万位……かな?」

 

 

 ……バカである。

 最も、百合は「なんでそんなに驚いているの?」とでも言いたげな顔をしているが……

 言っておくが、百合は一応は名家のお嬢様である。

 不自由ない暮らしをしてきたし、お小遣いだって相応に貰っていた。

 それでも、百合にとっての三〇万は、一ヶ月分の給料と同等。

 

 

 お小遣いは別だ。

 今回のバラの花束の代金は全部自分の給料から払っている。

 自分が命を賭けて戦って得たものだ。

 お金や量以外でも結芽の疑問はある。

 何故バラなのか? 

 それが、気になっていた。

 

 

「なんでバラなの?」

 

「それはね、私の伝えたいことを言ったあとで言うね」

 

「う、うん」

 

「ふぅ…はぁ…。結芽」

 

「なに?」

 

 

 高鳴る心臓を抑えて、百合は想いを口にした。

 芽生えた願望を口にした。

 

 

「私ね、結芽のことが好き! 女の子同士だけど、それでも…。どうしようもないくらい結芽が好き! 結芽に好きな人が居ても、私は…諦めたくなんてない!」

 

 

 口にした想いは、結芽に届く。

 結芽の答えは? 

 そんなの決まっている。

 

 

「そっか、私も好きだよ?」

 

「ち、違う。多分結芽が言う好きじゃーー」

 

 

 百合の言葉は、結芽の強引で情熱的な口付けによって途切れた。

 顔に両手を添えて、逃がさないように。

 その姿はさながら、肉食動物。

 最初はもがこうとした百合も、段々と力を緩める。

 脳が焦げる、そんな比喩表現を今、体験していた。

 

 

 口に入ってくる結芽の舌が、自分の舌と絡まる。

 焦げるを通り越して、蕩け始めた百合の脳は限界だった。

 そんな百合を察したのか、一分にも及ぶ長い口付けが終わり、結芽が顔を話す。

 糸を引いていたが、百合にそんなことを確認する余裕はない。

 

 

 まだ、正面には舌舐めずりをする結芽。

 比喩などてはない、本物の肉食動物がそこに居た。

 

 

「ゆりの味、少し癖になりそう」

 

「そ、そそそう。ど、どういたしまして」

 

 

 恥ずかしさのあまり噴火寸前の火山と変わらないほどに、顔を赤く染めた百合。

 告白の返事? は貰えたが、まだプレゼントを渡してないためここで何処かに行く訳にはいかない。

 

 

「ゆ、結芽はバラの花言葉が数で増えるって知ってる?」

 

「? あ〜、なんか聞いたことあるよ。それで? 九九九本だとどんな意味があるの?」

 

「……何度生まれ変わってもあなたを愛する」

 

 

 結芽は百合から花言葉の意味を聞いた瞬間、俯いてしまった。

 

 

(も、もしかしたら重すぎた?! どどど、どうしよう!? 今からバラの本数をー)

 

 

 そんな百合の考えは杞憂に終わる。

 何故なら、結芽が百合に向かって熱烈なハッグをしてきたからだ。

 胸に頭を埋めたと思ったら、またしてもキスをしようと迫ってきた。

 なんとか体を離して、今まで隠してきていた話をする。

 神様の悪戯、その話を聞いた結芽はなんとも言えない表情をしていた。

 嬉しいような、悲しいような。

 

 

 ごちゃ混ぜになった感情の中で出した答えは、

 

 

「今があるならそれでいいよ。でも、神様にも感謝しなくちゃね」

 

 

 笑いながら話す結芽に、百合が何かを言うことはなかった。

 代わりに、掴んだものを離さないように、しっかりと手を握り帰路に着いた。

 

 

 その日、百合が眠れなかったのはまた別のお話。




 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!

 感想もお待ちしております!

 記念物語の方は少々設定が違い、百合の両親は交通事故にあっておらず、逆に結芽の両親が蒸発しています。
 結芽が百合の家に養子に来る所から、物語が始まります。
 三話〜四話を目安に作る予定です!
 お楽しみに!(アンケートでの立ち位置逆転のお話)

結芽の誕生日は……

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