「たった一人で戦って、英雄にでもなるおつもりですか!」
「違う、ボクは……」
「紫様のこと、タギツヒメのこと、憂いていたのは貴方だけだとお思いですか!」
百合や結芽が声を荒らげる寿々花を見るのは久しぶりだった。
その隣では、寿々花と同じ病院服のようなものを着た夜見も居る。
ようやく、親衛隊のメンバーが帰ってきたのだ。
完璧ではないにしろ……。
その様子を、可奈美や姫和、朱音や紗南が見ていた。
そして、真希のために紗南がこれまでのことを説明する。
「獅童、此花や皐月も戦っていたんだ。人体と融合した荒魂を除去する様々な研究に協力してくれた」
「お陰で研究は飛躍しました。時間はかかりますがそう遠くない内に、貴方たちの中にある荒魂も除去出来るでしょう」
「荒魂を……」
その事に真希は驚いた。
「自分たちは既に普通ではない」、そう思っていたのだから当然と言えば当然の反応だろう。
朱音も微笑みながら、言葉を続けて行った。
「獅童さん、此花さん、皐月さん、貴方たちの戦いは無駄にはしません。勿論、燕さんや夢神さんの戦いも」
真希が持つ御刀には、イチゴ大福ネコのストラップが色違いで二つの着いていた。
百合の様子を見に来た際に結芽に見つかり、無理矢理付けられたのだ。
元々は結芽が百合のために買ってきた物だったが、真希のことも心配だった結芽が渡した物。
「ずっと、一緒に戦っていらしたのね…」
「…………」
「この薄緑は我が鞍馬流に縁深い御刀。ですが、こうされてしまっては、もうしばらく預けておくしかありませんわね」
「寿々花…」
二人の話を聞いて、いても経っても居られなくなった結芽が飛び出した。
それに続いて百合が夜見を巻き込みながら、全員で抱き合った。
「これで親衛隊復活だね!」
「そう、ですね…」
「そうだね」
「そうですわね」
「やったね、結芽!」
抱き合う五人はまるで家族のような温かさを放っていた。
だが、あまり喜んでいられる状況ではない。
名残惜しげに、五人は離れて紗南たちの言葉を待った。
「お前達は明日。朱音様に同行してもらう」
「今度は何処へですか?」
「刀剣類管理局局長。我が姉、折神紫の下に参ります」
朱音の発した言葉は、百合たちに衝撃を与えるには充分過ぎるものだった。
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海上保安庁の出す大きな船の中、ある一室に彼女たちは居た。
折神紫親衛隊。
紫を守るために死力を尽くして戦う精鋭たち。
一人一人が超級の逸材。
例外もあるにはあるが……。
誰も喋ろうとしない。
真希は壁際で窓から外の景色を見つめて黄昏ている。
夜見も夜見で感情の起伏が見られず、何を考えているか分からない。
そんな二人を、寿々花と百合と結芽は見つめていた。
静寂を破ったのは寿々花だった。
「何を考えていらっしゃいますの?」
「別に……」
「夜見先輩も、少し変ですよ」
「…………」
寿々花は真希に、百合が夜見に話しかけるも。
素っ気ない返事と、無音の言の葉が帰ってくるだけ。
寿々花はそんな素っ気ない返事から、百合は無音の言の葉から心意を悟る。
「どのような顔でお目にかかればいいか分からない、と言った所でしょうか?」
「何でもお見通しなんだね君は…」
「私は、自分の言葉で何かを伝えることは、悪じゃないと思いますよ?」
「やはり、貴方はよく見ているのですね」
「真希さんがわかり易すぎるだけですわ」
「夜見おねーちゃんがわかり易いだけですよ」
二人がほぼ同時に返すと、真希は自嘲気味に笑い、夜見は少しだけ顔の緊張を解した。
二人は目配せをし、真希から先に話し始めた。
少しだけ息を吸い、呼吸を整えて。
「紫様が荒魂を取り込んでいることは知っていた。けどそれがタギツヒメだったとは知らなかった。もし知っていたら」
「紫様を斬ってた? そう言うんだ」
結芽の言葉に、真希は頷かなかった。
間違いとは言えないが、正解とも言えない。
「それは分からないが、少なくとも荒魂を受け入れなかったと思う」
「何故受け入れる気になったんですの?」
「戦い続ける力が欲しいと思ったからさ。どんな光でも、やがては闇に飲まれ消えてしまう。膨大な闇に立ち向かうには、自らも闇を受け入れるべきだと思ったんだ」
「親衛隊第一席ともあろうものが、案外臆病でしたのね?」
「臆病か。結芽にもそんなことを言われたっけ」
一人で戦いに行ったのに、百合が心配で度々様子を見に来ていた。
それを結芽は知っていた、だから言ったことがある。
「真希おねーさんって案外臆病だよね?」
存外心に響いたらしい。
真希はその日、自分の弱さを改めて痛感した。
自分の最も人間らしい弱さを……
「ボクは自分の弱さを知った、だから立ち向かうことを決めたんだ。誰よりもタギツヒメを先に見つけこの手で討つ。共に滅ぶのも辞さない覚悟でだ」
「加えて愚か、極端なのですわ」
「そうだね。タギツヒメを討つどころか、周囲を混乱させてしまった。まさか、三体に分裂して争っているなんて想像もしなかったよ」
コツコツと靴の音を鳴らして真希に近づいていく寿々花。
怒っているのか、呆れているのか、はたまたその両方か。
自嘲気味に言う真希には嫌気がさす、そう言わんばかりに言い放った。
「貴方といい、百合といい。親衛隊に直上傾向である決まりはありませんのよ」
「そう言えば、百合と結芽以外の二人はどうして荒魂を受け入れたんだい? 聞いたことがなかったね」
話を逸らしたつもりなのか、余計墓穴を掘っているに等しい行為を平然と行う真希。
ここで、ようやく夜見が口を開いた。
寿々花も言いたいことがあっただろうに、夜見が喋ろうとしたため口を閉じて真希が座るソファに座る。
「私は、荒魂を受け入れたのはただ偶然でした。何をしてもダメで、同級生が御刀に認められていく中、私はただ見ているだけでした。努力すればきっと、そんな思いはすぐになくなって、無力に毎日を過ごしていました。そんな時に高津学長に選ばれて荒魂を投与されて、ようやく三流レベルの刀使になりました。……私は、自分が汚れていると分かっていました。親衛隊に入っての日々も変わらず、汚れたままの自分で過ごして慣れてきた頃に、百合さんと出会いました」
夜見を変えたのは百合との出会い。
「彼女も自分と似ていると思ったんです。実際はそんなことは無く、彼女の圧倒的な才能に驚かされていました。でも、あの夜に、私は百合さんの剣に
誰かの
百合のような人間になりたい。
こんな汚れている自分でも、誰かを自分の力で守ってみたい。
力不足もいい所なのは分かっている、それでもやってみたいのだ。
「嬉しいです、そう思ってくれて。きっとなれますよ、夜見おねーちゃんなら」
「…ありがとう…ございます」
「……それで、寿々花はどんな理由なんだい?」
「!? 全く! 気づいていませんでしたの? どうしても溝を開けられたくない方が居たからですわ!」
暗に貴方のことだと言っているのに対し、真希の答えは……
「たったそれだけのことで? そんなに思われてる相手が羨ましいよ」
「んーーー! 鈍感!」
「アハハハハ! 真希おねーさん面白過ぎ〜!」
(……やはり、人間は面白いな)
(真希先輩ぐらいだよ、こんなに鈍感なの)
その空間は少しづつ、いつもの場所に戻って行った。
完璧に戻る日も、そう遠くないのかもしれない。
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紫の居る潜水艦の一室。
その中で、話し合いが始まった。
紫の傍には親衛隊のメンバーが、朱音の方には可奈美と姫和に加えて累が居る。
「病院で療養中の筈の局長が、武装した潜水艦の中とは」
「医療施設も完備してますから、嘘というわけではないんですよ」
険悪な雰囲気になりそうな物言いの姫和を、朱音が何とか宥める。
可奈美は紫の無事が嬉しいのか、もう一度立ち会いが出来るのではないかとワクワクしているのか、分からない笑みで紫に問いかける。
「紫様はもう荒魂じゃないんですよね」
「衛藤さん…」
「お、お前…」
「可奈美先輩…!?」
「ああ」
「何度も検査しましたが、局長の体からは荒魂はもう検知されませんでした。肉体年齢は17歳で止まったままですが」
紫の言葉を補うかのように、累が補足で継ぎ足す。
肉体年齢が止まったまま、その言葉は百合に響く。
急いで、彼女に連絡をとった。
(ねぇ? 私の体って)
(言いたいことは分かる。心配しなくても、止まりはしない。あなた自信が最高に成長しきるまでは)
彼女の言葉を信じて、会話を聞くことに専念する。
朱音が真希や寿々花や夜見に謝っていたらしい。
百合は申し訳なさそうに謝る朱音に対し、貴方がそんな顔をする必要は無い、と言いたいが言えるわけはない。
「どうやって克服を?」
「克服したのではない。捨てられのだ荒魂に」
「捨てられた?」
「タギツヒメが自らの意思で、局長を排斥したのではないかと」
「あの夜、ですか」
「タギツヒメとの間に何が起こった?」
姫和の口調はあまり良いものではない。
姫和に対してあまり怒りたくない百合も、紫に不敬な態度で迫られるのはあまり気持ちの良いものでは無い。
出来るなら二人には、良い関係を気づいてもらいたい。
「十条、言葉を」
真希も不敬な態度に怒りが湧いたのか、口を出そうとしたが、紫がそれを制止させる。
器の広さと、年の功なのか紫は何を言うまでもなく、話を続けていく。
「あの夜、タギツヒメと同化していた私はお前たちに討たれた。諸共滅びる寸前だったが、奴はこの肉体を捨て隠世へと逃れた。荒魂を撒き散らしたのは、その後の追跡を撹乱するためだ」
「トカゲのしっぽ切りですね?」
「可奈美ちゃーん、もうちょっと言葉を…ね?」
……可奈美はこれを無自覚でやっているのだから、姫和より質が悪い。
「ふふ、そうだな。私は切り捨てられたしっぽだ。だが、そうも言ってられない事態となった」
「三女神、ですね?」
「百合の言う通り。かつてタギツヒメだったものが三つに分裂した」
「各地でノロを奪取していたタギツヒメ。防衛省の手にタキリヒメ。残りのもう一体は…」
真希こ言葉を先読みしたのか、寿々花が最後の一体の名前を出す。
「イチキシマヒメ、宗像三女神ですわね。荒魂が神を名乗るなんて…」
「タギツヒメはタキリヒメを狙っていました。何故同じ一つだったものどうしが争いあっているのでしょうか?」
「それを説明するために、お前たちをここに呼んだのだ」
「そして、貴方たちに会わせたいものが…」
明らかにためを作るような言い方。
そこから、姫和は会わせたいものの正体を言い当てた。
「残りの三体目、イチキシマヒメがここに居るのですね?」
朱音が頷く。
そこに居た者達は、ある場所に向かう。
この部屋とは違う、誰から見ても異様な一室。
近寄り難い空気が流れ出ていた。
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スペクトラム計に反応がないことに驚く姫和に、累が説明をする。
「タギツヒメの目から隠すための潜水艦よ。色々と細工をね?」
そう言って扉を開ける。
開き始めた途端、可奈美は姫和と百合の御刀が共鳴し始めた。
それも束の間、扉の奥に佇む、人の形をした大荒魂・イチキシマヒメ。
全体的に白色の肌と、少し黒と橙色のラインが入った白い服。
特徴的なのは、ガスマスクのようなもので顔の下半分を覆っている所だろう。
ゆっくりと目を開き、顔を百合のたちが居る方向に向ける。
「衛藤可奈美、十条姫和、夢神百合。そうか、我はここで滅ばされるのか。我という個となり短い生涯だったが、致し方ない」
あまりにもネガティブ過ぎる発言に驚くのは、可奈美や姫和、百合だけではない。
他の者も少なからず驚いている。
因みに結芽は念の為に、夜見が監視している。
百合は、結芽がいきなり斬りかかったら、本気で死んでしまう気がしてきたことに余計驚く。
「短い……」
「滅ぼすつもりなら、元より保護などしない」
寿々花達は人型なことに驚いているようで、後ろに居た。
仕方ないだろう。
人型の荒魂など殆ど存在しない。
故にこの反応は必然だ。
紫だけは、げんなりした顔をしていたが……
「此花寿々花、獅童真希、皐月夜見、燕結芽。私は紫と一つだった、お前たちのことも良く分かる」
タキリヒメと雰囲気が少し、いや大分違うイチキシマヒメに困惑の色があまり隠せない可奈美。
ボソボソ声で姫和に話しかけた。
……イチキシマヒメには筒抜けだったが。
「タキリヒメに会ったのか?」
「あっ、はい」
「タキリヒメの所在がタギツヒメにバレて、襲撃を受けた。我々はタキリヒメの防衛に当たる」
紫の言葉を聞いて、今日何度目かの呆気に取られた声が出る。
一日に、こう何度も驚かせるのはどうかと思うが、現状が現状なためしようがない。
「そうか、お前たちはタキリヒメ側に着くのか…。我はまた誰からも求められない」
「我々にとって好ましいのは、このまま三つ別れた現状だ。出来るならこのまま維持したい」
「そうだな、本来はそうあるべきなのだろう。我は元々は奴らに切り捨てられた存在なのだから」
「切り捨てられた…?」
イチキシマヒメの言葉に違和感を覚える真希。
その横から、朱音が言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「タキリヒメは貴方を差し出せと言っています。貴方の力を欲しているのです」
「我を差し出すのか。我を取り込めばタキリヒメの勝利は揺るぎないものになる。タギツヒメを倒しこの戦いにも勝利するだろう」
「いえ、刀剣類管理局は貴方をお守り申し上げます」
話の内容があまり分かっていない可奈美が、朱音に疑問を投げかける。
勿論、可奈美が代表しただけで、他にも分かっていない者は居ただろう。
…百合が思うに、確実に結芽は聞き流していただろう。
「あの〜、良く分かってないんですが。取り込むとか勝利とかってなんですか?」
「それにはまず、彼女たちが三つに別れた理由を説明しなければいけませんね。累さん?」
「はい。ノロのスペクトラム化、ノロ同士は融合することで脳ようなものを形成し、高度な知能を有していきます。その過程で、感情が芽生えて荒魂となる。全ての荒魂が最初に思う感情は喪失感だと言われているわ」
「喪失感……?」
ナニカ、大切なものが抜け落ちていく感情。
それこそが喪失感。
百合も経験したことがある。
前回の世界で結芽を失ったときだ。
「魂鋼という神性を奪われた喪失感。この飢えに似た喪失感を埋めるために、ノロは本当的に結合を求めます」
姫和の持つスペクトラム計がありえないほどの反応を見せている。
真希もその言葉に、自身の実体験で納得した。
「結合を繰り返し知能が増すと、喪失感は怒りに変わります。自分の一部であった魂鋼を奪った人間への怒りです」
「荒魂が人を襲う原因は、根本的にそこにあると考えられています」
「荒魂を鎮めるための唯一の武器が、荒魂を生み出したそもそもの原因なんて、皮肉なお話ですわね」
「人間の醜さ故、なのでしょうか?」
寿々花の言葉も、夜見の言葉も至極真っ当だ。
人間の醜さ故に生み出された存在。
歪みに歪んだ存在なのだ。
「そう、全てはお前たち人が、強欲に我らから神の力を盗みとったのが原因だ」
あの結芽でさえも、何かを言おうとしない。
感覚的に分かっているからだろう。
結芽も自分の欲のために人を振り回していたから、それを知っていた。
「話を戻そう。私と一体化していた大荒魂が三つに別れた理由だが……」
「我の知能は高度に進化し、やがて論理矛盾に陥った」
「論理矛盾?」
「人に対する思考が三つに別れ、それぞれが対立し始めた。怒り、怨嗟と言った原初の感情から生まれたのがタギツヒメ。奴は人への報復を望んでいる。一方、人を支配、管理し導くことを望んでいるのがタキリヒメ。奴はこの世の神として君臨するつもりだ」
相変わらず口調が荒い姫和が、イチキシマヒメに問う。
「お前は?」
「我は、我がこの世界に存在する意味を求めた。我々荒魂はこの世界にとって、不要な存在なのだろうか? 不要なものが存在する意味は? 模索し、やがて見つけた。人と荒魂を融合させる術を。人と言う種を進化させる術を」
「人と荒魂をだと?」
(私たちと変わらないな)
(……多分少し違う。貴方はそもそも荒魂じゃないでしょ?)
脳内に直接語りかけてくる彼女の会話を流しながらも、百合は話にもう一度耳を傾ける。
専念しようと思ったのに、そう思う気持ちには蓋をした。
「そうです。荒魂で人体を強化する技術はイチキシマヒメがも足らせたものです」
「じゃあ、この力はお前が」
「我は見つけた、この世界に存在する意味を」
『…………』
その言葉は悪魔の囁きのよう。
しかし、やっと存在意義を見つけられて喜ぶ姿は、まるで子供。
二面性……そんなものが感じ取れる。
だが、百合は不思議と彼女に不快感や嫌悪感は抱かなかった。
「鎌倉での夜、紫と分離し隠世へと逃れた我は、もう修復不可能なほど深刻化した論理矛盾を解決するため、それぞれの思考を個として分離、独立させた」
「三女神は戦い合い、勝利したものが敗者を取り込み、最終的に隠世にある本体を手に入れる」
「勝者が本体を手に入れ禍神となれば、二十年前の大災厄以上の危機が訪れます」
少しづつ見えてくる真実と最悪の未来。
それを阻止するために、今後は動いていくことになるだろう。
「先ずはタキリヒメの防衛だ。海中にいる限りイチキシマヒメは安全だ」
「戦いが不向きなイチキシマヒメは、早々に紫様に保護を求めてきたの」
「そうだ、我には頼る者が居ない。かと言って自分が戦う気にもなれない」
「戦ったら強いんじゃないの?」
「そこそこ強いが、結果が分かり切った勝負はしない。それより我の側に着く気はないか? ゆくゆくは人類を荒魂と融合させ、種として進化を遂げる」
結芽の質問に答えたものの、その後の言葉は真希の神経を逆撫でするには的確過ぎる言葉だった。
真希が口を開こうとした瞬間、百合が前に出てイチキシマヒメに手を差し出した。
握手を求めているかのようだ。
「貴方のお陰で結芽が助かったんですよね? なら、ありがとうございます。私個人としては、貴方に着いても構わないくらい恩がありますけど、残念ながらそれは出来ません。私は絶対的に少数派ですので」
「そうか、それは残念だな…」
「ですが、貴方を守ることに関しては頼って下さい。これでもそこそこ強いので」
そう言って無理やり、彼女と握手を交わしてその場は終わった。
-----------
一行は移動し、会議室のような場所にて話を再開した。
空気はやけに不気味なものに変わっていたが。
「恐らくですが、タギツヒメは綾小路を拠点に活動を行っていると思われます。…そして、三女神の中で本質的に一番危険なのはイチキシマヒメです。当面の危険度で言えばタギツヒメでしょうけど」
「先ずは防衛省と連携しタキリヒメの防衛に当たる。タギツヒメさえ討ち取れば、残りの二神とは対話による交渉も可能だと考えている」
「現時点でイチキシマヒメ、タキリヒメを個別に撃破し封印すると言う方向は?」
「それはタギツヒメの勝利条件に加担することになるのでは?」
様々な意見が出てくる中、意見は今までの方向で固まった。
そして何故か、可奈美と姫和と百合は、紫に言われるがまま他の場所に移った。
「座れ」
コーヒーが注がれたコップが四人分、テーブルにある。
紫は一口だけコーヒーに口をつけ、三人に座るよう促した。
「今も私が許せないか?」
「い、いいえ」
「はい」
「いいえ」
可奈美と百合がいいえと答え、はいと答えたのは姫和だけ。
「貴方が荒魂に憑依されていた二十年、母は全て自分の所為だと、亡くなるその時までずっと悔やみ続けていた」
「…………十条、衛藤、夢神。済まなかった」
紫は話した、自分の罪を。
為すべきことは為せず、友人を助けられなかったこと。
……自分だけ死に損なったこと。
「でも、ウチのお母さんは死ぬまで幸せそうでしたよ。死ぬまでって、なんか変ですけど。剣術のことをいっぱい教えてくれましたし。刀使の仕事を誇りに思うって言ってました」
「私のお母さんは、きっと紫様のことを恨んだりしてません。勿論私も。……なんとなく分かるんですよ、お母さんはこう言うだろうなって。『いつまでもしょげてると、幸せがどこかに飛んでくよ』って」
紫はその言葉を聞いて救われたのか、一言だけ呟いた。
「そうか…」
その後も話が続き、謎か解けた部分もあった。
本来篝が背負うはずだったものを、美奈都と聖が三等分して受け持った影響で、三人は現世と隠世に同時に存在する、稀な存在となった。
その際、御刀である千鳥と小烏丸、宗三左文字と篭手切江にも同じことが起こった。
時々起こる共鳴も、それ故なのかもしれない。
「夢神、もう少しだけ残ってくれ」
「……はい、分かりました」
二人が部屋を出て数分、周囲に誰もいないことを確認し終わった紫が口を開く。
「お前は、ナニを体に入れている?」
「流石に紫様は気付きますか?」
「前までは感じられなかったが、今は確かに感じる。何故、お前の体の中に荒魂がいる?」
「荒魂じゃありませんよ。ましてやノロでもありません」
謎掛け、そう思わせるほどに言葉を濁す百合。
紫は、思い出すことがあった。
…夢神家の秘密を。
「……夢神家の秘密に関するものか?」
「さぁ、私自身も彼女の存在に気づいたのはつい最近ですから」
百合が彼女の存在に気付き、信じるようになったのは一ヶ月前。
いつものように朝の鍛錬をしていた時に、突然話しかけられ、色々なことを聞いた。
彼女がどう言う存在かも、認識はしている。
だが、周囲に明かそうとはしない。
今の状況で言ってしまえば、余計な混乱を招くだけだ。
それ以上に、結芽が今の自分を受け入れてくれるか不安で仕方ない。
二つの理由があるからこそ、百合は自分の秘密を誰にも打ち明けていない。
「何か困ったことがあったら話せ。出来る限り相談には乗る」
「ありがとうございます。でも、このことは……」
「分かっている、他言はしない」
もしその秘密が明るみになれば、百合は確実に消されるだろう。
政府からも、仲間からも追われる存在になる可能性は零ではない。
次回もお楽しみに!
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